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海妖丸事件 [日本の作家 岡田秀文]


海妖丸事件 (光文社文庫)

海妖丸事件 (光文社文庫)

  • 作者: 岡田 秀文
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/02/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
杉山潤之助の上海出張に、新婚旅行へ出向くという旧知の探偵・月輪龍太郎が同道することになった。彼らの乗る豪華客船・海妖丸が出発する直前の横浜港で、船客の政商らに宛てて奇妙な予告状が届く。絢爛な船旅の途上、仮面舞踏会や沙翁(シェークスピア)劇の最中に起こる殺人、そしてまた殺人。息を潜める犯人を見つけ出せるか。本格ミステリの醍醐味を堪能できる、傑作推理小説。


「伊藤博文邸の怪事件」 (光文社文庫)
「黒龍荘の惨劇」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く、岡田秀文の月輪龍太郎シリーズ第3作です。

上海行の豪華客船で起こる殺人事件を扱っています。おお、クローズド・サークルですね。
船上の事件というのは、ミステリでは定番で、解説で宇田川拓也が数多くのタイトルを挙げています。
いわく、
アガサ・クリスティー「ナイルに死す」 (ハヤカワ クリスティー文庫)
ジョン・ディクスン・カー「盲目の理髪師」 (創元推理文庫)
C・デイリー・キング「海のオベリスト」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
ボリス・アクーニン「リヴァイアサン号殺人事件」岩波書店)
ピーター・ラヴゼイ「偽のデュー警部」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
マックス・アラン・コリンズ「タイタニック号の殺人」 (扶桑社ミステリー)
若竹七海「海神の晩餐」 (光文社文庫)
内田康夫「貴賓室の怪人 「飛鳥」編」 (講談社文庫)
山口芳宏「豪華客船エリス号の大冒険」 (創元推理文庫)
柳広司「パラダイス・ロスト」 (角川文庫)収録の短編「暗号名ケルベロス」
豪華絢爛、と言いたいところですが、海外と日本でだいぶ落差があるような......作例が足りなかったのか、短編まで担ぎ出していますしね(苦笑)
さて、この「海妖丸事件」 (光文社文庫)はギャップを埋める作品となりますかどうか......

結論から言うと、海外の諸作と肩を並べるレベルとは言えません。敢闘賞といったところでしょうか。←なんだよ、お前、偉そうに。
昔ながらのクローズド・サークルものの、きわめてオーソドックスな展開を見せるんですよね。
だから、というわけではないのかもしれませんが、中だるみするんです。
ミステリの趣向としてもぜいたくに殺人予告、密室殺人、宝石盗難事件、衆人環視の中の毒殺、アリバイと盛りだくさんですし、作者も意識しておられるのでしょう、仮面舞踏会や素人劇、さらには月輪夫妻の夫婦喧嘩(!) まで取り入れて工夫を凝らしておられるのですが、なんだか平板な印象になってしまいました。

一方で申し上げたように、ミステリとしての趣向はかなりいろいろと盛り込まれています。
そして、おそらく本作のいちばんのポイントとなる真犯人をめぐるトリックは(解説では「シリーズならではの大胆不敵な大技」と書かれています)、印象的です。
これ、無理なんじゃないかなぁ、と思ったりもしますが(物理的に、という懸念もありますが、同時に犯人の心理的に無理じゃないかなぁ、と)、ミステリとしてはぎりぎり、あり、と思いました。
このトリック、海外のある作品の裏返しなのではないかな、と思ったりもしたのですが......

前作「黒龍荘の惨劇」感想にも書きましたが、登場人物が「内面を欠いたゲームの駒みたいに描かれ」るので、もったいないな、と思えました。
ここを書き込んでいれば、全体の印象もずいぶん違ってくるのでは? と。
そのほうがこのトリックが映えるようにも思います。

ところで、豪華客船である「海妖丸」。「妖」という文字を使うものなのでしょうか?

シリーズはこのあと短編集の「月輪先生の犯罪捜査学教室」 (光文社文庫)が出ているだけで、長編は書かれていないようです。
いろいろケチをつけてしまいましたが、たくらみの多い本格ミステリシリーズとして期待しますので、ぜひまた長編も書いてください。

<蛇足1>
「これも主への供養だと思って一生懸命努めますよ。」(237ページ)
明治時代の人が、一生懸命......
このシリーズは杉山潤之助の手記を現代口語文に訳したもの、という体裁を取っていますので、作者が代えたのだという説明も可能ですが、一生懸命はないですよねぇ......
まさか一生懸命という誤用は明治時代からあったのでしょうか!?

<蛇足2>
「父は~略~、私が高等商業学校の予科に通っている時に亡くなりました。」(271ページ)
いつも迷うのですが、「亡くなる」という表現、身内に使ってよいものでしょうか?
「お亡くなりになる」という敬語表現があるので、「亡くなる」は敬語表現ではなく普通に身内にも使ってよいような気もしますし、一方でなんとなく「亡くなる」自体に敬意入っている気もしますし......




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