SSブログ

がん消滅の罠 完全寛解の謎 [日本の作家 あ行]

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

  • 作者: 岩木 一麻
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後も生存、病巣も消え去っているという。同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。連続する奇妙ながん消失の謎。がん治療の世界で何が起こっているのだろうか――。


第15回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作です。
『このミステリーがすごい!』大賞の感想を書くのは極めて久しぶりです。
第14回大賞受賞作である 
一色さゆり「神の値段」 (宝島社文庫)
城山真一「天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス」 (宝島社文庫)
は未読(日本に置いてきてしまいました)、
第13回受賞作である
降田天「女王はかえらない」 (宝島社文庫)
第12回受賞作である 
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
の3作は既読ですが感想を書いていません。
なので『このミステリーがすごい!』大賞の感想を書くのは、第11回の
安生正「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
以来でほぼ5年ぶりとなります......


がんがどうやって消えたか、というのがメインの謎になるということで、あらすじを読んだ段階で、そういう医学的な話をされてもわからないんじゃないだろうか、と不安に思っていたのですが、とてもわかりやすかったですね。まったくの素人でも絶対大丈夫。

医学ミステリというのは、そもそも例が少ないのですが、この作品のように、病気そのものが謎の対象となる作品は極めて珍しいと思います(ひょっとしたら世界初?)。このことだけでも大拍手!
しかもその謎が、素人にもわかるかたちで、何段階にも複層化されているのが素晴らしい。

それでも、いつもの(悪い)癖でいくつか難点を挙げておきます。
おそらくいろんな人物の思惑が絡み合った結果だからとは思うのですが、犯人の目指したところがあまりクリアではない点。
目的と手段のバランスも今一つですよね。

次に犯人サイドの描写がアンフェアではないかな、と思える箇所が散見される点。
登場人物の感想がいろいろと書きこまれていて、それはとても面白かったのですが、真相を知ってから見返すと、こういうポジションの人はこういう感想は抱かないのでは? と思えるところがあるのです。

またミステリとして、謎解きが犯人サイドの回想によって読者にもたらされるという構造自体も難点に挙げておきたいと思います。最後に犯人の自白ですべてを明かすタイプのミステリは、安直で評価を下げる元です。
この作品の場合、すべてを探偵サイドが解き明かすのは難しいのかもしれませんが、それでももうひとふんばりしてほしかったところです。

そして最後に......
「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったことをです。」(47ページ)
主人公である夏目と羽島の恩師西條が大学を去る際に残した言葉です。
この言葉、この作品のキーとなる言葉のはずなんですが、最後まで読んでも、ああ、そういうことか、と膝を打つような感じにはならず、もやもやしたままです。
352ページであらためてこの言葉が繰り返され、一定の説明がなされているのですが、西條のしたこと、果たして「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」でしょうか?

と、不満もあげましたが、引き込まれて読める医学ミステリ、一気読みしました!


<蛇足1>
「実は昆虫やエビ、カニを含む節足動物というのはがんになりにくいみたいなんだ。」(126ページ)
と書いてあります。そうなんですね。
そのすぐ後に
「海綿ってわかるか?」
「保健体育の授業で習ったけど」
「それは海綿体。」(127ページ)
さらっと下ネタですね(笑)。

<蛇足2>
「昔はその辺に溢れていた『大丈夫。きっとよくなりますよ』という言葉は医者の間では今や絶滅危惧種だよね。これは正確な情報を患者に伝えるという社会的コンセンサスの下では必然的に起こってくる問題で、別に医者が悪いわけじゃない。」(227ページ)
そういえば、『大丈夫。きっとよくなりますよ』やそれに近い言葉、聞かなくなりましたね......

<蛇足3>
パンドラは慌てて箱を閉めたので、箱の中には『エルピス』だけが残った。
「羽島はパンドラの箱に残されたエルピスというのは何だと思う?」夏目は羽島に訊ねた。-略-
「希望か予兆のどちらかということだね?」-略-
パンドラの箱に残されたとされるエルピスについては様々な解釈が存在するが、有力なのはそれが希望であるという説と、未来を見通す力であるという説だ。(227~228ページ)
パンドラの箱、よく使われる言葉ですが、希望というのしかしりませんでした。未来を見通す力という考えもあるんですね。




nice!(17)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 17

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。