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書物法廷 [日本の作家 あ行]


書物法廷 (講談社文庫)

書物法廷 (講談社文庫)

  • 作者: 赤城 毅
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界の米海軍基地を標的にした同時多発テロを未然に防ぎ、冷戦時代に行方不明となった水爆のありかを示す。一冊の書物が持つ恐るべき力を知り尽くし、いかなる困難な依頼をも達成してきた書物狩人(ル・シャスール)ユーイチ・ナカライ。だが、無敵を誇るル・シャスールの前に、ついに強大な宿敵が現れる。シリーズ第3弾!


「書物狩人」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら
「書物迷宮」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら
に続くシリーズ第3弾。しかし、前作の感想を書いたのが2015年7月ですから、もうあれから4年以上たつのですね...
主人公である、書物狩人というのは、「書物狩人」 のあらすじから引用すると、
「世に出れば世界を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法を問わずあらゆる手段を用いて入手する『書物狩人』」
ということになります。

この第3作は、
「クイナのいない浜辺」
「銀の川(ラ・プラタ)」
「奥津城に眠れ」
「笑うチャーチル」
の4話を収録しています。

冒頭の「クイナのいない浜辺」は、ル・シャスールがあまりにも神がかった洞察力を見せます。興醒め、と思う方もいるでしょうねぇ。
タイトルにもなっているクイナのいる浜辺の幸せな光景が印象的です。

「銀の川(ラ・プラタ)」は、かなり滅茶苦茶なストーリーですね。
いかに貴重なもの(本)とはいえ、それを手に入れるためだけにアルゼンチンの刑務所に入るなどということはちょっと理解を超えていますね。
手に入れた本も、ちょっとどうかな、と思う代物でしたが、ラストで手を打ってあって、なるほどな、と感心しました。

「奥津城に眠れ」で扱われるのはポオ。
シリーズとして興味深い点は以下のセリフに凝縮されていますね。
「たしかに、書物狩人が扱うのは、歴史を書き換えたり、国家や経済を揺るがすような秘密を隠した本……。けれども、わたくし個人にかぎっていえば、美意識で動くこともあります。」(257ページ)

「笑うチャーチル」は、コヴェントリー空襲の真相を秘めたチャーチルの書き込みつきの書物を扱っています。
シリーズとして、書物偽造師であるミスター・クラウンと対決姿勢が明確になったことがポイントでしょうか。

歴史が(虚実はともかく)、書物を通して滲み出してくるこのシリーズ、楽しいです。
この「書物法廷」 のあとも
「書物幻戯」 (講談社ノベルス)
「書物輪舞」 (講談社ノベルス)
「書物審問」 (講談社ノベルス)
「書物奏鳴」 (講談社ノベルス)
「書物紗幕」 (講談社ノベルス)
と快調に巻を重ねてはいるのですが、文庫化は止まってしまっているようですね。
楽しみにしているので、文庫化を順次よろしくお願いします。


<蛇足1>
つまらないのとでも言いたげに、あたりにネズミ鳴きの合唱があがる。(10ページ)
まず、ネズミ鳴き? ねず鳴きではないのかな? と思ったのですが、ネズミ鳴きとも言うんですね。
で、これ、浜辺に集っているクイナの鳴いているところの描写なのですが、ねず鳴き(ネズミ鳴き)というのはふさわしい表現ではないような気がしました。
ねず鳴き(ネズミ鳴き)といえば枕草子ですが、ネズミの鳴きまねをすることですよね。
クイナは鳴きまねをするわけではないのに......??

<蛇足2>
「書物狩人」「書物迷宮」がどうだったか覚えていないのですが、ル・シャスールが使う二人称が「あなたさま」というのにひっかかりました。
20ページに最初に出てきてから、出てくる二人称、ことごとく「あなたさま」。
正直、気に障りました......

<蛇足3>
ポオのアナヴェル・リィを唱和するシーンが「奥津城に眠れ」185ページに出て来ます。
唱和のところでは「海のほとりの奥津城(おくつき)に」と、「おくつき」というルビが、その後の未亡人との会話では「水底を奥津城(セパルカア)に選びました」と「セパルカア」というルビが振ってあります。
使い分けの意図がわかりませんでしたが(殊に、我々は日本語で書かれた小説として読んでいますが、実際の会話は英語で行われているはずだということを考えると余計にわからない)、こういう小技は興味深いですね。

<蛇足4>
第4話「笑うチャーチル」にデイヴィッド・アーヴィングの名前が出て来ます。
この人、映画「否定と偏見」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で題材になっている人ですね!







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