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惑星カロン [日本の作家 初野晴]


惑星カロン (角川文庫)

惑星カロン (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
喧噪の文化祭が終わり三年生が引退、残った一、二年生の新体制を迎えた清水南高校吹奏楽部。上級生となった元気少女の穂村チカと残念美少年の上条ハルタに、またまた新たな難題が? チカが試奏する“呪いのフルート”の正体、あやしい人物からメールで届く音楽暗号、旧校舎で起きた密室の“鍵全開事件”、そして神秘の楽曲「惑星カロン」と人間消失の謎……。笑い、せつなさ、謎もますます増量の青春ミステリ、第5弾!


「退出ゲーム」 (角川文庫) (感想のページへのリンクはこちら
「初恋ソムリエ」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「空想オルガン」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「千年ジュリエット」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くハル・チカシリーズ第5弾。

シリーズ第5弾の本書も、チカのモノローグである「イントロダクション」で幕を開けます。
「チェリーニの祝宴」
「ヴァルプルギスの夜」
「理由(わけ)ありの旧校舎」
「惑星カロン」
の4編収録。

前作「千年ジュリエット」 (角川文庫)を読んでからずいぶん時間が空いてしまいましたが(ほぼ5年ぶりです)、そんなブランクは微塵も感じることなく、すっと世界に入り込めました。

「チェリーニの祝宴」は、チカが一目ぼれした楽器が、呪いの楽器、という流れに笑ってしまいました。
しかしなぁ、この謎解きは反則だと思います。反則、というよりはミステリの自殺行為。
確かにこの謎解きがもっとも合理的なものなのだと思いますが、ミステリの範疇でこれをやられちゃうとなぁ......

「ヴァルプルギスの夜」は、音楽、というか音を利用した暗号です。
そもそも音の数が限られるので、複雑なものは作れないようになっている、というのがミステリ向きですよね。それに加えて、ちょっとおもしろいアイデアが盛り込まれているのが楽しいです。
まさかここでモスキート音が出てくるとはねぇ。(ネタばれにつき、色を変えています) しかも、モスキート音は耳年齢が進行していると歳に関係ない、というのも驚き。
密室殺ハムスター事件(笑)と、それがつながるというのも、ミステリ的に居心地よし、ですね。

「理由(わけ)ありの旧校舎」は、シュールストレミングが中心の謎ですね。これまたネタバレなので色を変えています。
旧校舎の窓という窓がすべてめいっぱい開けられているのはなぜかという、名付けて旧校舎全開事件。
バカバカしいと言えばバカバカしいけれど、こういうのを全力で解くのが学園ミステリの醍醐味だ、なんて思ってしまいました(笑)。
謎解きも、騒動の中身自体も高校生らしくていいですよね。

「惑星カロン」のタイトルになっているカロンとは、冥王星の衛星で、二重惑星と呼ぶにふさわしい存在だったそうです(336ページ~)。
いまでは冥王星ごと惑星から除外されされているようですね。

このシリーズ、学校の枠の外、青春の枠の外で、非道な犯罪が行われていても、あるいは行われそうになっていても、きっちりと学校の枠内、青春の枠内で決着するようになっているところが素晴らしいなぁ、と思います。
現実はそんなに甘くないよ、という声もあろうかとは思いますが、だからこそ一層青春のかけがえのなさが伝わってくるのでは、とそんなことを考えました。
「千年ジュリエット」 (角川文庫)の解説で引用されている作者のインタビューで
「今までの三作とは趣向が変わっていて、高校を舞台に、どこまで外にむかって世界観を拡げられるのかを意識してみた」
と語られているその世界観が、それでも青春を裏打ちするものであることは、とても貴重なことだと思います。


<蛇足1>
(この娘、一家にひとりほしいね。家電量販店で売ってないかな)
(感動的なスペックですよ)
そんなふたりの会話が耳に入らないくらい、頬が火照るのを感じながら店長にたずねる。(45ページ)
チカについて楽器屋の主人とハルタが会話しているのを受けての文章ですが、チカの視点、わたしで描かれている文章なので、「そんなふたりの会話が耳に入らないくらい」という部分が矛盾して、とてもおもしろい効果をあげていますね。こういうの好きです。

<蛇足2>
「若いチカちゃんがうらやましいのよ……」 ー 略 ー
「……唇にも脳みそにも皴がなくて、夢って見るものじゃないよね、かなえるものだよねって、どこかのクソラッパーみたいにいえちゃうんだろ?」(79ページ)
脳みそにも皴がないって......(笑)

<蛇足3>
「二兎を追うものは一兎をも得ずっていうじゃない」
「それはウサギを追おうとするから油断するんだよ。ライオンを追うつもりで必死になればいい」(130ぺージ)
うまいこといいますね! 

<蛇足4>
「普門館常連校があり得ないよ。楽団員のときに経験したけど、職制を無視した行動って、積もれば、組織崩壊のサインだったりするわけだし」(142)ページ
ここで出てくる「職制」という概念難しいですよね。日本の経営学のテーマでもあると思いますが。
調べてもよくわかりません...... 

<蛇足5>
「今回の犯人は凄腕だぞ。『マジック・ボーイ [DVD]』という映画に出てくる天才奇術師ダニー顔負けだ」
「興味があるなら見ておいたほうがいいぞ。キャレブ・デシャネル監督だ。」(235ページ)
なんだかおもしろそうな映画が紹介されています。気になります。

<蛇足6>
床にこぼしたり上履きについた~~(268ページ)

<蛇足7>
学校周辺の森や林を歩く姿は付近の住民から物議をかもした。(278ページ)
物議をかもす、の使いかたなんですが、「から物議をかもした」なのでしょうか??

<蛇足8>
「こういうときにスマートフォンがあれば、地図やナビゲーションの機能が使えるんですが」
「すまない。僕ももっていないんだ。あると便利だよね。もしかしたらいまどき迷子になるひとは、絶滅危惧種かもしれない」(422ページ)
こういう会話が交わされていますが、方向音痴な人は、地図があろうと、ナビゲーションがあろうと、ちゃんと道に迷いますよね。

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