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フレンチ警部最大の事件 [海外の作家 F・W・クロフツ]

フレンチ警部最大の事件 (創元推理文庫)

フレンチ警部最大の事件 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/02
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
宝石商の支配人が殺害され金庫からダイヤモンドと紙幣が消えた。事件当夜、支配人は職場を離れて舞い戻った形跡があり、状況証拠はことごとく彼に不利だが決め手はない。加えてアムステルダム支店の外交員が消息を絶っていると判明、ロンドン警視庁の捜査官を翻弄する。スイス、スペイン、フランス、ポルトガル……真相を求めて欧州を駆ける、記念すべきフレンチ警部初登場作品。


創元推理文庫2018年の復刊フェアの1冊です。
クロフツの作品を読むのは、「フローテ公園の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来2年ぶり。
なんだか意外です。
クリスティ、クイーン、カーと違って、クロフツはもともと未読作品が多い一方で創元推理文庫からは順調に毎年復刊フェアで手に入りやすくなっていることもあって、最近はクロフツをよく読むようになってきているのに2年も読んでいなかったのか......

ちょっと気になったので、2010年以降の創元推理文庫の復刊フェアで対象となったクロフツ作品を調べてみました。
2019 「クロフツ短編集 1」 「クロフツ短編集 2」
2018 「フレンチ警部最大の事件」
2017 「チョールフォント荘の恐怖」
2016 「二つの密室」
2015 「船から消えた男」 (ブログの感想ページへのリンクはこちら
2014 「フローテ公園の殺人」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
2013 「殺人者はへまをする」
2012 「製材所の秘密」 (ブログの感想ページへのリンクはこちら
2011 「サウサンプトンの殺人」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
2010 「フレンチ警部とチェインの謎」 (ブログの感想ページへのリンクはこちら

うち、「殺人者はへまをする」は、なんとなく手を出しそびれているうちに、ふたたび品切れ状態に、「二つの密室」 は読んだけれども感想を書けずじまい、「チョールフォント荘の恐怖」 は購入したものの日本に置いてきてしまってしばらく読めない、という状態です。
また、復刊フェア以外でも創元推理文庫は復刊をやってくれていますね。
たとえば「フレンチ警視最初の事件」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)などはそうですね。

さて、「フレンチ警部最大の事件」 です。
本作品は記念すべき、フレンチ警部初登場作品です。
初登場にして、タイトルが「最大の事件」
クロフツ、かなり気負って書いたのかもしれませんね。

で、事件の内容が、フレンチ警部「最大」というのにふさわしい難解なもの、規模の大きいものだったかというと......そこまでのものには感じられなかったのですが、この事件で特徴的なのはフレンチ警部があちこち駆け巡ることですね。
その意味ではフレンチ警部の活動領域は非常に広範囲で、引用したあらすじにもスイス、スペイン、フランス、ポルトガルとありますが、ほかにもオランダ(アムステルダム)にも行ってしますし、イギリス国内でも、ロンドンだけではなくレディング、サザンプトンにも出張っています。
「フレンチ警部のように、プリマスやニュー・カスルへちょっと足をのばすくらいを大旅行だと思っている出不精な人間には」(94ページ)ある意味 "great" といってもよい事件かも、という気がしました。
この点に関して驚くのは、フレンチ警部の上司がいつもやすやすと出張を承認すること。承認するどころか、渋るフレンチを捜査進展の見込みが薄くてもシャモニーに行けとけしかけるくらいです。(84ページ~)
あと、物語の焦点がそこにないからだと思いますが、フレンチ目線でのコメントはなされるものの、それぞれの土地についての描写はあっさりしていて、少々もったいないですね。

フレンチ警部であれっと思ったことが......
フレンチ警部は、事件の捜査がまったく行きづまったと感じたときは、いつでもその事件の諸状況をあますところなく細君に話して聞かせることにしていた。(116ページ)
フレンチ夫人がアイデアをいう、というシーンがあるのですが(二度も!)、そういう設定だったんですね。後の作品ではあまりそういうシーンに記憶がないのですが。

事件は、最大かどうかはともかくとして、あれこれ細かいアイデアが盛り込まれているように思いました。
「本格小説をかりに“謎をとく”小説だと定義すれば、クロフツのフレンチものはその範疇には入らない。それは、“謎がとける”小説なのである。」と訳者あとがきに書かれていますが、この言説自体には賛成できないものの(フレンチ警部などクロフツの小説の探偵役は、地道な捜査が売りながら、ポンっと飛躍したひらめきをちょくちょく見せるからです)、それらのアイデアが数珠つなぎで解かれていきますので、この「フレンチ警部最大の事件」 に限っては、“謎がとける”と言ってしまってよいように思える仕上がりになっています。
最初はこういう感じでフレンチ警部の設定をしていたのかな? と興味がわきました。

細かなアイデアがそれなりに気が利いていて、楽しく読めました!



<蛇足1>
被害者の近親者側は法的にだれも検屍に立ち会わなかった。(54ページ)
ここの検屍は検屍審問を指すのだとは思いますが、「法的に」というのが謎ですね。

<蛇足2>
こういう神秘的な矛盾もすべてつじつまがあい(55ページ)
検屍審問のあとフレンチが事件について考察をめぐらすシーンに出てくる表現ですが、「神秘的」というのは不思議な表現ですね。神秘的、ではないでしょう。
原語は mysterious なのかな?

<蛇足3>
スホーフスという人物を見たかぎりでは、夫子(ふうし)自身がいまになってようやくこれは大変な陰謀だと気づいたらしいこの事件に、よもや加担しているというようなことはあるまいと警部は思ったが(74ページ)
恥ずかしながら、夫子がわからず、調べてしまいました。
「あなた、彼などと、その当人を指す語。」ということなので、今風にいえば、彼自身が、というところでしょうか。


原題:Inspector French's Greatest Case
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1925年
訳者:田中西二郎


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