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インソムニア [日本の作家 た行]

インソムニア

インソムニア

  • 作者: 寛之, 辻
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/02/03
  • メディア: 単行本

<裏表紙側帯あらすじ>
PKO部隊の陸上自衛官七名。一人は現地で死亡、一人は帰国後自殺。現地で起きたことについて、残された五名の証言はすべて食い違っていた―。


単行本です。
第22回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

日本ミステリー文学大賞新人賞は、第21回の「沸点桜(ボイルドフラワー)」(光文社)を未読のまま日本に置いてきてしまったので、第20回の「木足の猿」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来となります。

PKOに派遣された自衛隊が舞台で、日本に帰ってきてから、自殺者が出て、現地で何が起こったかを探る......

PKO、自衛隊がらみというと、実際の国会で日誌がどうだ、大臣の答弁がどうだ、と騒がれていた(結果、防衛大臣が辞任したんでしたか?)ことを思い出しますが、この小説はPKOの実態を扱っています。制服組と背広組の対立や政治家との関係性なども描かれています。
そして、帯には選考委員のコメントが載っていて、いずれもいわゆる絶賛コメントになっています。

面白く読み終わりましたし、一気に読んだんですが、考えてみると、気になるところがいっぱいある、そんな作品でした。

まずPKOの実態。
なんだかこれまですでに報道などで既知の情報の組み合わせみたいです。
戦闘シーン(日本の法では戦闘と呼んではいけないそうですが)。
これまでの映画で見たものをなぞったみたいです。
自衛隊員の暮らしぶり(?)。
ここは良かったですね。
現地での生活も、日本での生活もすごく自衛隊の方々を身近に感じることができました。
日本の自衛隊をめぐる諸問題。
小説の中ではありますが、実例をもって問題点が示されるので、わかりやすかったですね。
自衛隊の置かれている難しい状況が、自衛隊の側から描かれていて、あらためて自衛隊の方々に敬意を感じました。

そして真相。
これ、何段重ねにもなっていて感心しました。
感心したんですが、それぞれの真相が(ミステリ的には)ありきたりに思えました。
女性自衛隊員が戦闘に加わっていて、敵兵に囲まれる、となって、大方の読者が想定する事態になっています。
また周囲から隔絶された山間部の村にたどり着いて、そこで村のしきたりに従った行動をして、となっていて、これまた大方の読者が想定する事態が起こっています。
軍隊が(自衛隊ですが、ここでは軍隊と呼んでおきます)母国に帰ってきて、後遺症に苛まされる、自殺者が出る、人に言えない......この前提で、現地で何があったのか、何が起こったのか、読者は(殊にミステリ読者は)ある種の予想を立てて読むと思うのですが、その範囲内です。
これは大きな欠点ではないかな、と。
また、タイトルにもなっているインソムニアのきっかけが何だったのか、科学的な説明がないのも気になります。仮説が示されるのですが作中で否定されていますし、結局うやむやになっていたような......そしてラストで超科学的な匂わせがある。これでいいんしょうか?
そしてこの種のミステリの場合、設定からして致し方ないのですが、証拠らしい証拠はなく、各人の証言のみが拠り処になってしまいます。つまり、恣意的にくるくると証言を変えることが可能で、物語の複雑さ、重層構造には貢献しても、作者に都合よく進めてるなぁ、という感想を読者に抱かせがちです。なにか小さい物でもよいので物的証拠があって、一旦なされた証言がその証拠を根拠に覆される、という風に流れていけばもっとよかったと思いました。

帯に「社会派と本格ミステリーを見事に融合した傑作!」という煽り文句が書かれているのですが、これ、本格ミステリーではないですね。
また、現実の問題を抉る狙いがある場合、超科学的な要素を導入してしまうと、ちぐはぐな印象を与えてしまいますね。
その点でも、せっかくの複層的な物語の構造がマイナスに作用しているのでは、と余計な心配をしてしまいます。

と、こう考えて気づきました。
日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作だからミステリーと思うのは仕方ないのですが、この作品の場合、ミステリーと思わずに読んだほうがよいのでは? と。
上にあげた気になる点は、すべてミステリーとして見るから気になる点、なんですよね。

面白かったですし、力のある作者ではないかと思いましたので、これからお読みになる方は、ミステリと思わずに読まれることをお勧めします! そうそうたるメンバー(綾辻行人、篠田節子、朱川湊人、若竹七海)が選考委員をされているミステリーの賞の受賞作なので、こういってしまうのは畏れ多いですが。





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