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叫びと祈り [日本の作家 さ行]


叫びと祈り (創元推理文庫)

叫びと祈り (創元推理文庫)

  • 作者: 梓崎 優
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/11/29
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人、スペインの風車の丘で繰り広げられる推理合戦…ひとりの青年が世界各国で遭遇する、数々の異様な謎。選考委員を驚嘆させた第5回ミステリーズ! 新人賞受賞作を巻頭に据え、美しいラストまで突き進む驚異の連作推理。各種年末ミステリ・ランキングの上位を席捲、本屋大賞にノミネートされるなど破格の評価を受けた大型新人のデビュー作。


第5回ミステリーズ! 新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を含む5話収録の連作短編集で、
「このミステリーがすごい! 2011年版」第3位、「2011本格ミステリ・ベスト10」第2位、週刊文春ミステリーベスト10 第2位です。
デビュー作でこれはすごいですねぇ。

基本的構図は、斉木という旅人が異国で経験する謎を描いています。舞台となっているのは、各作品ごとに
「砂漠を走る船の道」サハラ砂漠
「白い巨人(ギガンデ・ブランコ)」マドリッドの郊外の風車の街レエンクエントロ
「凍れるルーシー」モスクワの修道院
「叫び」アマゾン
「祈り」インドネシアのモルッカ諸島にあるゴア・ドアという洞窟寺院、東ティモール
です。

最初の「砂漠を走る船の道」がやはり素晴らしいですね。
ちょっとした仕掛けが施されていて、その部分にはあまり感心しなかったのですが、それを割り引いても傑作だと思いました。
いや、すごい動機ですよね、これ。

「白い巨人(ギガンデ・ブランコ)」の人間消失のトリックは、少々どころか大きな難あり、と言われてしまいそうですが、スペインのあの強烈な日差しの元では十分あり得るような、そんな気がしました。そして、このトリック、スペインの白い風車の立ち並ぶ世界に似合っていると思うのです。この作品にもちょっとした仕掛けが施されていますが、これはまあ、ご愛嬌という感じですね。

ここまでは素直に楽しんだのですが、個人的にはこの後から少々怪しくなってきます。

「凍れるルーシー」は、ウクライナに隣接する南ロシアの丘陵地帯に位置する修道院に眠る不朽体(生前の姿を留める遺体)を扱っていて、これが目くらましになって、殺人事件が切れ味鋭く解決される、と言いたくなるところが、ラストで違う意味でびっくりさせられました。えっ!? 本件、そういう話なの?

「叫び」は、アマゾンでエボラ出血熱かと思われる疫病で集落が全滅しそうなときにおこる殺人事件を扱っています。もう死ぬことがわかっているのに、なぜ殺すのか、というホワイダニットを扱っていますが、これがなかなか印象深い。異形の動機ですが、物語にはふさわしいものになっています。

そして最後の「祈り」。これ、問題作ですよねぇ......
正直、個人的にはこの作品をどう受け止めてよいのかわかりませんでした。
解説に書かれているように、「サナトリウムのような場所で、患者と訪ねてきた友人の間でささやかなゲームが開始される。やがて明かされる事実とは……」という話で、ミステリからはみ出た部分がこの作品の魅力なのだと推察するものの、その部分が個人的には消化不良でして......
もっともっと斉木の物語を読みたいのですが、斉木はどうなってしまうのでしょうか??

「砂漠を走る船の道」と「叫び」で動機に触れましたが、解説で瀧井朝世がポイントをまとめています。
「本作で重要なのは犯人の動機である(事件が起きない話もあるものの)。本書で起きる人殺しの発端にあるのは、個人的な怨恨や憎悪ではない。彼らが人を殺す動機には必ず、その文化に根差した価値観が隠れている。その多くは日本人にとって馴染みのない異文化の論理であり、それこそが推理のポイントだ。ここにこそ、海外を舞台に選んだ意義がある。というのも、本作ではトリックのために都合のよい土地が選ばれたというよりも、その土地の文化的特性から謎の種類が選ばれたという感があるからだ。真相が明らかになるたびに、その国、その文化に生きている人々の切実な想いが浮かび上がる。読者はその者が背負う物語を感知できるのだ。」
この解説、ここ以外にも読みどころの多い素敵な解説です。


<蛇足>
「凍れるルーシー」に以下のような会話が出てきます、
「日本から取材でお越しだということですがーー日本では、キリスト教といえばプロテスタントですか?」
「そうですね。信徒の数はわかりませんが、一般的なイメージだと、やはり」(143ページ)
そうなんですね。知りませんでした。
なんとなく、日本のキリスト教は、イエズス会が最初だったのでカトリック優勢なのかと思っていました。


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