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図書館の殺人 [日本の作家 青崎有吾]


図書館の殺人 (創元推理文庫)

図書館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/09/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
期末テスト中の慌ただしい9月、風ヶ丘図書館で死体が発見された。閉館後に侵入した大学生が、山田風太郎の『人間臨終図巻』で撲殺されたらしい。しかも現場には一冊の本と謎のメッセージが残されていた。警察に頼まれ独自の捜査を始めた裏染天馬は、ダイイングメッセージの意味を解き明かせるのか? ロジカルな推理、巧みなプロットで読者を魅了する<裏染シリーズ>第4弾。


「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「水族館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く裏染天馬シリーズ第4弾で、長編としては第3作目です。
「2017本格ミステリ・ベスト10」第2位です。
このミステリーがすごい! と 週刊文春ミステリーベスト10ではランクインしていないんですね。
こんなに面白くて、よくできた作品ではあるけれど、ちょっとひっかかるところがあるからでしょうか?

いつもどおり、残された証拠や状況から、ぐりぐりと推論を重ねていくのが圧巻ではあるのですが、今回注目したのは、現場近くの棚からくる図書館の蔵書をめぐる推理により導き出される結論ですね(興を殺がないように書いたつもりですが、この程度ならネタバレにはなりませんよね?)。
すごく印象に残っています。

なによりすごいのが犯人ですね。
これ、とても意外な犯人を持ってきていまして、こういう設定の犯人を推理(だけ)で導き出すのは大変なことだと思うのですが、見事です。アクロバット。
よく「想像の翼」なんていう表現がありますが、「推理の翼」もどこまでも拡げることができる、ということなのでしょう。素晴らしい。

でも、この犯人が同時にこの作品の欠点でもあるような気がしてなりません。
冒頭でひっかかるところがある、といったのはこの点です。
この犯人、動機がしっくりこないんですよね。
SAKATAMさんの「黄金の羊毛亭」に書かれた感想(実際はリンクを貼った感想ではなく、ネタバレ感想の方です。毎度の勝手リンクですみません)でも触れられていて解釈もしてくださっていますが、そしてその解釈はやはりSAKATAMさん鋭いなぁ、と感動ものなのですが、それでもすっきりしないんですよ、個人的に。
証拠に基づいて犯人を突き止めるのに動機は不要で(たとえばシャーロック・ホームズには動機を扱ったものがほとんどないとか言いますよね)、ロジックが武器の青崎有吾の作品であれば動機の占めるウェイトは低くてよいのですが、もうちょっと読者に親切な動機を(持つ犯人を)設定しておいてほしいように思います。

ついでに、事件の謎を解いた後で、裏染がある人物と交わす会話が謎めいている(というか、意味するところが読者にははっきりと示されない書き方がされている)のですが、そこについてもSAKATAMさんのご指摘は鋭いですね。すごい。SAKATAMさんは断定を避けてかなり控え目な書き方をされているのですが、きっと正解ですね。
ただ、その場合は、「く」ではなく「ク」のような気がしますけれども......実際の意味はともかくとして、ここのセリフは事件のダイイングメッセージ「く」とリンクさせるお遊びでもあるので、「く」がふさわしい別の解釈を作者は用意されているのかもしれませんが。
と思ってパラパラめくっていたら、一日目の章の第7節の見出しが「今日からクのつく犯人探し」になっていました。ひらがなとカタカナをあまり区別して考えておられないのかも。
あっ、でも、この見出しは喬林知「今日からマのつく自由業!」 (角川ビーンズ文庫) を意識したものでしょうから、それに合わせてカタカナにしたのか??

それにしても
「彼はもう、誰かを好きになったり、そういうのはないんじゃないかな」(223ページ)
裏染の過去を知る香織がいうセリフなのですが、裏染には一体どんな過去があるのでしょうね?
ラストでも匂わされていますし、シリーズの今後で明らかになっていくのでしょうか??



<おまけ>
「水族館の殺人」 (創元推理文庫)感想で、
「体育館、水族館ときたら、次はなんでしょうね?
図書館、美術館、博物館、あたりが順当?」
と書いていて、当たりました!
ちょっとうれしいです。

<蛇足1>
所轄の女性刑事梅頭(うめず)が裏染に興味を持って(高校生か中学生がストライクゾーンという年下好き)、袴田に(どんな奴か)聞くシーンがあります。袴田の回答がこちら。
「彼はろくな奴じゃありませんよ。むしろ最悪です。現場を勝手に歩き回るし、態度が悪いし、発言は意味不明だし、学校に住んでるし部屋は汚いし趣味はねじ曲がっているしうちの妹を手籠めにするし、夏祭りのときなんて二人でどこで何をしてたやらああもう思い出しただけで」(156~157ページ)
兄として妹を心配するのはわかりますが、手籠めにはされてなかったですよね!?
ちなみに、この回答に対する梅頭の反応が
「素敵だわ」

<蛇足2>
「明日世界史か、面倒だなぁ……裏染、国を覚える方法とかないか?」
「アホ毛なのがイタリアでオールバックなのがドイツだ」
「なぜ擬人化を」(176ページ)
突然「ヘタリア」ネタが盛り込まれるのはこのシリーズとしては異例ではないのでよいとして、創元推理文庫の読者層に「アホ毛」、注なしでわかりますでしょうか?

<蛇足3>
午後になっても本人が帰宅しなかったので、捜査員数名でアパートの部屋に入ってみた(211ページ)
さらっと書かれていますが、勝手に入っちゃいかんのではないでしょうか? 令状、どうしたのかな?

<蛇足4>
壊れたロボットみたく繰り返しながら袴田はハンドルに頭を打ちつけた。(306ページ)
小説の地の文で「みたく」を見るのははじめてかも......
日本語として定着してきたということなのでしょうか。




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