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英国諜報員 アシェンデン [海外の作家 ま行]

英国諜報員アシェンデン (新潮文庫)

英国諜報員アシェンデン (新潮文庫)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2017/06/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
時はロシア革命と第一次大戦の最中。英国のスパイであるアシェンデンは上司Rからの密命を帯び、中立国スイスを拠点としてヨーロッパ各国を渡り歩いている。一癖も二癖もあるメキシコやギリシア、インドなどの諜報員や工作員と接触しつつアシェンデンが目撃した、愛と裏切りと革命の日々。そしてその果てにある人間の真実――。諜報員として活躍したモームによるスパイ小説の先駆にして金字塔。


クラシックつながり、というわけではありませんが、「四つの署名」 (光文社文庫) に続いて読んだのが、このサマセット・モーム「英国諜報員 アシェンデン」 (新潮文庫)

この作品、大昔に子供のころ、子供向けに訳されたものを読んだのが最初かと思います。
その後、大人になってから(ミステリの)教養のうちとして、大人向けの翻訳「秘密諜報部員」 (創元推理文庫)を読んでいるはずですが、実は両方とも印象が薄いです。
正直、楽しんで読んだ記憶がない。
いわずとしれたスパイ小説の古典。しかも、サマセット・モームという高名な文学者の手によるもの。おもしろくないのであれば、こんなに広く受け入れられているはずはない、ということで、金原瑞人の新訳を機会に再読にチャレンジすることに。

サマセット・モームは実際にスパイだったということで、実体験も反映されているもの、と思われますが、いや、地味なのです。
スパイ小説というと、それだけで派手派手しいものを想像してしまいますが、まったくそんなことはありません。
地味なんですが、つまらなかったかというと、逆でとてもおもしろかったです。

目次を見ると第一章、第二章となっているので長編のスタイルをとっていますが、実態は連作短編のようで、いくつかのエピソードが語られます。
で、それぞれの登場人物がとてもおもしろいのです。
あ、おもしろい、というのは語弊があるかもしれません。生き生きしている、魅力的だ、というべきでした。

金原瑞人による訳者あとがきでも、阿刀田高による解説でもこのことはしっかり書いてあります。

物語の筋を追って楽しむ、というよりは、人物だったり、描写だったり、会話だったり、そういうのを楽しむ作品なんです。
それが、こう、じわじわと効いてくる。
さすがは文学者の作品、ということなのかもしれませんが、大人の読み物、という気がします。
そりゃ、これ、こども心に楽しめなかったはずです。
(楽しめるお子様もいらっしゃるのでしょうが、ぼくはそうでなかった)

その意味では、ミステリやスパイ小説、ととらえるのは危険かもしれません。
(もちろん、それだけミステリやスパイ小説の幅は広いのだ、ととらえることも可能です)

あの人にも、この人にも、また会ってみたいな、と思える登場人物が満載のステキな小説でした。

<蛇足1>
「マカロニといってもいろいろありますからね」(中略)「そのマカロニというのは、スパゲティ、タリアテッレ、リガトーニ、バーミセリ、フェットチーネ、トゥッフォリ、ファルファッレ、普通のマカロニ、どれのことです」(82ページ)
ここでの「マカロニ」という語はパスタ全体を指す語として使われているようですね。そういう使い方もあるんだな、と思いました。

<蛇足2>
「石畳の道を音を立てて歩行者通路(ガレリア)までもどった。」(131ページ)
ナポリのシーンです。
ガレリアに歩行者通路という語が当ててありますが、普通の感覚だとアーケードですね。
ナポリのウンベルト1世のガレリアは、観光名所でもありますが、これのことかな?

<蛇足3>
ブラックタイというからには、内輪の会食だろう。(中略)華やかな晩餐会ではないはずだ。(302ページ)
ドレスコードがブラックタイ(タキシード)で、内輪の会、とはすごいですね。
貴族階級(この場合はウィザースプーン卿となっていまして、英語でいうとどのくらいの爵位かちょっとわからないのですが)ともなると、ちょっと食事をご一緒というだけで大変だったのですね......

<蛇足4>
「わたしはいつも食事のまえにはシェリーを飲むことにしているのだが、きみがカクテルなどという野蛮な飲み物に淫していることも考えて、ドライ・マティーニとかいう代物も作れるようにしておいた」(304ページ)
カクテルは野蛮ですか......当時の貴族の嗜好がわかりますね。

<蛇足5>
「きみの好きなところならどこでもいいよ。ただしバス付きにしてほしい」
(略)
「英国人ね。一週間くらい、お風呂なしでもいいじゃない。」(398ページ)
イギリス人がお風呂好き、という印象は全くないのですが、ヨーロッパではそう目されている(あるいは、目されていた)のでしょうか? ちなみにこれはパリでのホテル選びに際しての会話です。



原題:Ashenden or the British Agent
作者:William Somerset Maugham
刊行:1928年(原書刊行年はどこにも見当たらなかったので、Wikipediaから)
訳者:金原瑞人






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