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予告殺人 [海外の作家 アガサ・クリスティー]


予告殺人〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

予告殺人〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/05/26
  • メディア: 新書


<カバー裏あらすじ>
その新聞広告が掲載された朝、村は騒然となった。「殺人をお知らせします。10月29日金曜日、午後6時半…」。誰かの悪戯か、ゲームの誘いなのか? 予告の場所に人々が集い、時計が6時半を示したとき、突如闇が落ち、三発の銃声が轟いた! 大胆かつ不可解な事件にミス・マープルが挑む、クリスティーの代表作。


今年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年ということで、早川書房のクリスティー文庫で新訳刊行が6ヶ月連続で企画されています。
その第一弾が5月に出たこの「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)です。

本書はミス・マープル物で、ずいぶん昔に旧訳で読んでいます。
クリスティーの生み出したうち、特に知られている二人の名探偵、エルキュール・ポワロとミス・マープルを比べると、個人的にはポワロ贔屓で、ミス・マープルにはあまり感心してこなかったこともあって、新訳が出るのを機に読み返してみようと思ったのです。
「予告殺人」も、殺人予告が新聞に出る、ということしか覚えていない(!)こともありましたし。

まず、ミス・マープルの本拠地、セント・メアリミード村じゃないのですね、舞台は。
だから、舞台となるチッピング・クレグホーンの人から
「あの老婦人は詮索好きよ。それに、何を考えているのかよくわからなくて不気味だわ。まさにヴィクトリア朝時代の人間ね」(284ページ)
と評されています。うわっ、正しい評だ(笑)。

少なくともこの「予告殺人」では、ミス・マープルは、地味、なんですよね。
事件の中心でしっかり捜査するというのではなく、事件の周辺をうろちょろしている感じ(それでも事件を解決する、というか見通しているのだから大したもの、なんですが)。
そりゃあ、感心しないよなー、と気づきました。
でも、最終章の絵解きの段階でミス・マープルが指摘する数々の手掛かりは、感じがいいんですよね。
こういうのを味わう余裕が、当時のぼくにはなかったということでしょう。もったいない。

犯人当てそのものは、ちょっと単純でしたね。
内容を全くといってもいいほど覚えていないというものの、潜在意識に残っていたのか(大げさな......)、真相は相当早い段階で見当がつきました。
「殺人をお知らせします」という新聞広告というキャッチ―なアイデアに寄りかかっている、というか、逆にそのことが犯人当てでは弱点になっているように思えました。

そして、ネタバレになりかねないので伏字にしておきますが、「予告殺人」を読み終わって、「ゼロ時間へ」 (クリスティー文庫)を読み返したくなりました......




<蛇足1>
訳者の羽田詩津子さんはベテランの翻訳家ですが、この作品で変わった(新しい?)表記、訳し方をされています。
「『すてきなダイニングですね』とか(もちろん、ちがいます。暗くて狭いひどい部屋ですもの)。」(88ページ)
「ヒンチ(ミス・ヒンチクリフのことです)は暖炉の前に男みたいに足を広げて立っていました」(102ページ)
「ダシール・ハメットの物語で知ったんですのよ(甥のレイモンドによれば、ハメットはいわゆるハードボイルドの分野では、三本の指に入る作家だと考えられているそうですね)。」(157ページ)
「でも、ベルがわたしよりも先に亡くなったら(奥さんはとても病弱な人で、長く生きられないだろうと言われていました)、ランドルの全財産を相続すると知ったときは、とても感動したし、誇りに感じました。」(189ページ)
会話文で、括弧()を使うというのは斬新だと思います。普通だと、括弧なしで流して訳すでしょうね。
今回の羽田さんの訳文も、括弧を気にせず、そのまま読み下せるようになっていますーーということは、括弧を使わない、普通の訳し方でもよかった気がしますが......

<蛇足2>
「牧師さんにご返事を書かなくては」(309ページ)
ここを読んで、おっと思いました。
「お返事」ではなく「ご返事」だったからです。
以前このブログのコメント欄で「ご返事」と書いたとき、「お返事」「ご返事」で悩みました。どちらともとれるように「御返事」と書けばよかったと思ったものです。
どちらとも使うので、どちらを用いてもよいようです。

<蛇足3>
「あっという間に、三幕のものすごく滑稽な喜劇を書き上げたんです」
「なんていうタイトルなんだ?」ー略ー「《執事は見た》?」
「まあ、そんなようなものだけど……ええと、《象は忘れる》というんだ。ー略ー」
「象は忘れる」パンチがつぶやいた。「象は忘れないんじゃないかしら?」(450~451ページ)
ちょっとニヤリとしてしまいました。「象は忘れない」 (クリスティー文庫)という作品がクリスティーにあるからです。
まさか、この「予告殺人」の執筆の頃から、「象は忘れない」 の構想を練っていた、ってことはないですよね!?


原題:A Murder is Announced
著者:Agatha Christie
刊行:1950年
訳者:羽田詩津子






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