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能舞台の赤光 [日本の作家 な行]


能舞台の赤光 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)

能舞台の赤光 多田文治郎推理帖 (幻冬舎文庫)

  • 作者: 嶋神 響一
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2018/06/08
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
「黒田左少将どのの猿楽の催しに貴公をお連れしたいのだが」。公儀目付役・稲生正英の言葉に多田文治郎は耳を疑った。家出娘の相談で稲生邸を訪れたのだが、その話が終わるや否や乞われたのは、大大名の催す祝儀能への同道。幽玄の舞台に胸躍らせる文治郎だったが、晴れの舞台で彼が見たものとはいったい……? 瞠目の時代ミステリ、第二弾!


「猿島六人殺し 多田文治郎推理帖」 (幻冬舎文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く、多田文治郎推理帖第2弾。

「猿島六人殺し 多田文治郎推理帖」は、「そして誰もいなくなった」の変奏曲を時代小説の枠組みで構築したものでしたが、今回は、能の上演中の殺人を扱っています。

派手な舞台設定で、数多くの人が舞台を見に来てはいたのですが、あっさり容疑者の範囲が限定されてしまいます。
早々に、こいつが犯人なんだろうな、と見当がつくように書かれているのですが、そいつが犯人だとすると、どう考えても犯行は不可能、という状況になっています。
おもしろい。

どう処理するのかなぁ、と思いつつ読んでいくと、なるほど、そう来ましたか。
「酒瓶猩々(しゅへいしょうじょう)」という能がキーとなっているのですが、素人にもわかりやすく書かれているので、推理に支障はまったくありません。
似たような作例(前例)を思いつくものの、おもしろいネタで、楽しみました。
でもこれ、プロが見たらわかっちゃうんじゃないかな? と思ったりもしますが、ミステリ的には十二分です。
正直、動機はすこしピンときませんでしたが、全体としていいなと思いましたね。

いまのところシリーズは次の「江戸萬古の瑞雲 多田文治郎推理帖」 (幻冬舎文庫)まで出ているようです。
追いかけていきます。


<蛇足1>
「こちらこそ結構な舞台を拝見させて頂きました」(141ページ)
江戸時代からこんな気持ち悪い表現をしていたとは思えないのですが。
「させて頂いた」だけでもおかしいのに、さらに「拝見」......
「先日、初めて披き物(ひらきもの)を演じさせて頂きました、」(197ページ)
というのも、気に障りました。こちらはぎりぎりかな、とも思うのですが。
ちなみに、「拝見」については
「本日はまことに素晴らしき『楊貴妃』を拝見つかまつりました。」(40ページ)
という表現も見られます。こちらは、すっと読めます。
一方で、
「あれは、日々を一所懸命、修行している好もしい男ですが、」(166ページ)
と、ちゃんと一所懸命が使われています。

<蛇足2>
「されば、時分の花をまことの花と知る心が、真実の花になお遠ざかる心なり。ただ、人ごとに、この時分の花に迷いて、やがて花の失するをも知らず。初心と申すはこのころの事なり」(196ページ)
世阿弥の「風姿花伝」の一説が出てきます。
「新人としての珍しさを本当の人気と思い込むようでは『真実の花』にはほど遠い。すぐに消えてしまうような人気におごり高ぶって、いい気になっていることほど愚かなことはない。そんなときこそ初心を忘れてはならない」(197ページ)
と作中人物により解説されていますが、ちょっと「初心」の解釈が間違っているように思えてなりません。
「初心忘るべからず」の「初心」は、最初のころの、あるいは新人の頃の初々しい気持ち、ではないのですから。




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