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雲をつかむ死 [海外の作家 アガサ・クリスティー]


雲をつかむ死〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

雲をつかむ死〔新訳版〕 (クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/06/18
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
パリからロンドンに向かう飛行機のなかで、金貸し業を営む女性が変死体で発見された。その首には蜂に刺されたような傷があったが、偶然乗り合わせたポアロは、床から人工の毒針を拾い上げる。衆人環視の客室内で、誰がいつ、どうやって犯行に及んだのか? 大空の密室を舞台とした不可解な事件にポアロが挑む。


今年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年を記念した早川書房のクリスティー文庫の6ヶ月連続新訳刊行第2弾です。
「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)に続くのは、この「雲をつかむ死〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)

この作品は、子供向けに訳されたもので読んだのが最初でした。
そのあと、大人向けのものを、創元推理文庫で読みました。その邦題は「大空の死」

今回新訳なった「雲をつかむ死」を読んで、驚きの連続でした。
いやあ、もう、あきれるくらい覚えていない。

飛行中の飛行機の中で殺される。
これは覚えていました。
蜂が飛んでいる。
これも覚えていました。
しかし、それ以外は、まったく......
飛行機の中で推理するんじゃないかとまで思っていたのです。全然違う。
さらに、覚えていないどころか、間違った記憶まで抱いていた......アナフィラキシーショックを扱った作品だと思い込んでいました。なぜだろう?

なのですごく新鮮に楽しめました。
また、ポワロ(クリスティー文庫の表記ではポアロですが、個人的趣味でポワロと書きます)もののなかではつまらないほうだ、と思い込んでいたのですが、いやいや、ちゃんと読みどころの多い作品ではないですか。
再読してよかったぁ。

飛行機の中で金貸しが死ぬ。
蜂が刺したのかと思われたが、毒針が発見される。さらに吹屋筒まで見つかって......
その後35ページの段階で、乗客はみんな飛行機を降ります(笑)。
ジャップ警部がやってきて、ポワロと組んで捜査にあたります。またフランス警察のフルニエ警部も捜査に加わります。
そうなんです。イギリス、フランス両国にまたがる捜査となります。
尋問、尋問で展開が単調になってしまうのを防ぐ効果があります。

単調になるのを防ぐといえば、美容院助手ジェーンのロマンスっぽい話も盛り込まれています。
またポワロはジェーンの相手役とおぼしき歯科医のノーマンに捜査の手伝いまでさせます。

真犯人が突き止められると、クリスティーが巧妙に犯人を隠していたことがわかります。
(解説で阿津川辰海がネタバレしつつ、技巧を解説しています)
たしかに、綺羅星のような傑作群と比べると分が悪いかもしれませんが、十分立派な作品だなあと思いました。
やっぱり、クリスティーはおもしろい!


<蛇足1>
「探偵小説家ってやつは、いつも警察を小ばかにしてるし……警察の仕組みがまるでわかってない。そうさ、連中が書くものに出てくるような調子で上役にものを言ったりしたら、明日にも警察からたたき出されてしまうでしょうよ。」(60ページ)
ミステリに対する割とよくある批判をジャップ警部が言うのですが、「白魔」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)を思い出してしまいました。

<蛇足2>
水着姿(だったと思います)の写真を見てたじろぐ老人にポワロがいうシーンがあります。
「それは、最近、太陽には肌のためになる作用があるということが発見されたせいですよ。これは、たいへんに都合がいいことだ。」(172ページ)
都合がいい、というところには苦笑ですが、いまでは太陽は避ける人が多いので、時代を感じさせますね。

<蛇足3>
作中の探偵小説家のセリフです。
「わたしにはわたしの推理方法があるからだよ、ワトソンくん。ワトソンくんなんて呼んでも気にしないでください。悪気はないんです。ところで、間抜けな友人を使うというテクニックがいつまでもすたれないのはおもしろい。個人的には、わたしはシャーロック・ホームズの物語はかなり過大評価されてると思うんです。あの作品のなかには、誤った論理が、じつにおどろくほどのたくさんの誤った論理がでているんだから」(245ページ)
なかなか大胆なコメントですね。
クリスティーの本音でしょうか?

<蛇足4>
「秩序と方法をもってひとつの問題にせまるなら、それを解決するのに困難などあるはずがないのです--絶対にね」(260ページ)
ポワロのセリフですが、ちょっと意味がつかみにくいですね。
「方法」は「ちゃんとした」方法くらいに語を補わないとわかりにくいですよね。

<蛇足5>
「ある事件をしらべたときに、全員がうそをついていたことがありますよ!」(314ページ)
ポワロのセリフです。
おもわず作品の発表年を調べてしまいました。
そうです。あれ、です、あれ。あれの方が「雲をつかむ死」より先に発表されていますね。


原題:Death in the Clouds
著者:Agatha Christie
刊行:1935年
訳者:田中一江





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センニン

ご訪問 & nice! ありがとうございました。
また遊びに来ます。
by センニン (2020-11-21 09:59) 

31

センニンさん
ご訪問 & nice! ありがとうございます!
by 31 (2020-11-21 18:16) 

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