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変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦 [日本の作家 樋口有介]


変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦 (祥伝社文庫)

変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦 (祥伝社文庫)

  • 作者: 樋口有介
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2019/11/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
元奥州白河藩士の倅・真木倩一郎は、朝顔を育てる優男の風貌とは裏腹に江戸随一の剣客。ある日幼馴染みの天野善次郎が新藩主・松平定信の命で来訪、倩一郎に前藩主のご落胤の噂があるという。定信からは帰参を乞われる中、船宿〈たき川〉の女将で、江戸の目明かしの総元締・米造の娘、お葉を助けたことで運命が一変。倩一郎は幕府も揺るがす暗闘に巻き込まれていく……。


ここから十一月に読んだ本の感想です。

「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 (祥伝社文庫)の新刊案内をみたとき、うわっ、久しぶりのシリーズ続刊だ!と勢い込んで注文しました。
届いた文庫本の巻末を見ると
「本作品は平成十九年八月、筑摩書房から刊行された『船宿たき川捕物暦』を、著者が改稿・修正したものです」
と書いてあって、あれれ、と思いました。
「変わり朝顔」などとタイトルに加わっているので、完全な新刊かと思ったら、改稿・改題だったんですね。
「船宿たき川捕物暦」だったら単行本で買って読んでいます。あーあ、買ってしまって少々勇み足、なんですが、改稿されているということですし、樋口有介の作品ですし、惜しいとは思いません。
面白かった記憶はあるものの、内容はすっかり忘れてしまっていますし、とても楽しく読みました。
(樋口有介の作品なら、なんでもOKなんですけどね)

捕り物帳自体あまり読んできていませんので、新鮮です。
「目明しとは要するに、ミミズという意味でございましてな」
「ミミズとは『目、見えず』から生まれた語とやら。このミミズを清国の文字で書きますと虫に丘、そしてまた虫に引、つづけて蚯蚓と書きます。丘は岡でございますから、岡っ引きとは蚯蚓という意味合い。目明しを地面の下でうごめく『目、見えず』と皮肉りまして、誰やらが手前どもの稼業を蔑んで云いはじめたものが、世間に広まったのでございましょう」(107ページ)
とか
「あっしの家では女房が線香屋、ほかの目明しも瀬戸物屋だの駄菓子屋だのを看板にしておりやすが、そんなものはみんな、建前でござんす。茶碗や駄菓子を売る片手間にお上の御用なんぞ、勤まるはずもござんせん」
「云ってみりゃ歌舞伎役者が成田屋だの音羽屋だの、お上向けに小間物や絵増資を商っているのと同じこと」(136ページ)
とかいうセリフも、しっかり勉強になります。
(時代小説ファン、捕り物帳ファンの方には常識なのかもしれませんが)

帯に
「溢れる江戸情緒
   ×
 巧みな仕掛け
   ×
 魅惑的な語り口」
と、すっきりまとめられている通りです。

特に仕掛け、というか、プロットが複雑なことはポイントとしてぜひ挙げておきたいです。
捕り物帳のイメージは短編なので、もっと単純なプロットが多いと思っており、一方この「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 は長編なので、それなりに複雑なプロットが必要になるのは当然なのですが、長編としても複雑なプロットを内包していますのでそんな印象を強く受けました。

さらに付言しておくと、「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 で物語は着地を見るのですが、もっと広がりを見せようなエンディングになっており、むしろこの「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 は、より広大なストーリーのプロローグなのでは、と思わせるかたちになっています。

続刊である「初めての梅 船宿たき川捕物暦」が出ていますので、楽しみです!

あとがきで
「本作を筑摩書房から単行本で出版したのが二〇〇四年ですから、もう十五年前。マニアックな読者でないかぎり樋口有介が捕り物帳を書いていることすら知らないはずで、今回の復刊は作家冥利に尽きます。」
と書いておられますが、これで晴れて「マニアックな読者」と認定してもらえました。
これからも、ついていきますよ、樋口さん。よろしくお願いします。


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