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人間の顔は食べづらい [日本の作家 さ行]


人間の顔は食べづらい (角川文庫)

人間の顔は食べづらい (角川文庫)

  • 作者: 白井 智之
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「お客さんに届くのは『首なし死体』ってわけ」。安全な食料の確保のため、“食用クローン人間” が育てられている日本。クローン施設で働く和志は、育てた人間の首を切り落として発送する業務に就いていた。ある日、首なしで出荷したはずのクローン人間の商品ケースから、生首が発見される事件が起きて――。異形の世界で展開される、ロジカルな推理劇の行方は!?横溝賞史上最大の“問題作”、禁断の文庫化!


第34回(2014年)横溝正史ミステリ大賞候補作。
佳作でも優秀作でもなく、候補作で出版されるというのは稀ですよね。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞のHPによると、第23回(2004年)の「夕暮れ密室」 (角川文庫)(感想ページはこちら)以来。それ以前には、「ヴィーナスの命題」 (角川文庫)しか例がないようです。
それくらい、選考委員の中に推す人がいて、独自性が認められた、ということですよね。

余談ですが、横溝正史賞→横溝正史ミステリ大賞→横溝正史ミステリ&ホラー大賞と名前が変遷していく賞って珍しいですよね......

あらすじだけでもお分かりいただける通り、特殊な世界を設定して、そのフィールドでミステリを展開するという作風です。
その特殊な世界というのが、食べるために自分のクローンを作らせる日本。
いやあ、強烈な世界を設定しましたですね。
そのおかげで、タイトルも相当強烈なものになっていますが......
食用のクローン、というだけでおぞましいですが、それを飼育するプラナリアセンターなどのおぞましさは凄まじい。読むのが嫌になる人もいるでしょうね。

ただ、この設定(食用クローン)、倫理面は仕方ないので置いておくとしても、突っ込みどころ満載でして......
成長促進剤を投与し、太らせるため食事(というか餌)を与え続ける。
成長促進剤の効果がどの程度なのかわからないのですが、「口を開くだけで顎の贅肉がぶよぶよと揺れる」(47ページ)ということでは、贅肉、つまり、脂肪がついている状態なわけで、決して肉=筋肉が多くなっているわけではないような気がします。
食べる、ということを考えると、脂肪ではなく、筋肉を増やさないといけないのではないかと思うのですが、この飼育方法でよいのでしょうか? 閉じ込めていてはだめで、健康的に適度な運動もさせてやらないと、食用としてはあまり意味がないのでは、と思います。
また、食用クローンには人権が認められず、教育も施さない(本当は自我=人格を形成させないのがベストでしょうね)、という設定になっていますが、その割にはクローンたち知能が発達しています。
人間は動物の中では成長がかなり遅いので、食用にするには時間、コストがかかりすぎると思います。これなら、無菌状態で牛とか豚を飼育する方を選びますよね。
どうも、強烈な世界設定を支えるだけの十分な検証をしないまま、作品世界を構築してしまっているように思えます。

また真相も、無理がありすぎて笑えるほど、です。
難点を挙げだしたらきりがない。
特に大きい難点は、プラナリアセンター爆破事件かと思います。この犯人なら、こんな事件絶対に起こさないと思います。動機に無理がある。
(奥歯に物が挟まったような言い方で恐縮ですが、大事の前の小事として軽視したとも思えないんですよね)

とまあ、欠点ばかりあげつらってしまいましたが、個人的にこの作品ダメかというとまったく逆です。
こういう作風の作品は、世界設定が謎解きに直結するように仕組まれていることが重要になってきますが、その点はしっかりできています。
個人的には、この設定だけで当然想定しなければいけないことを簡単に見逃してしまっていまして、真相でとても悔しい思いをしました。作中に堂々と触れられているというのに想定しなかった、というのはミステリ読者としてかなり至らない......反省。
この1点で、ぼくはこの作品、許せちゃいます。
こういう作品を褒めると、人格を疑われそうですけど。
倫理面は別にしても、世界設定にも、謎解きにも、人物設定にも、有り余るほどの無理がある作品で、正直、いかがなものか、と思わないでもないですが、それでも、許しちゃいます。
自分の、ミステリ読者としての未熟さを、再認識させてくれましたから。

この作品が候補作ながら世に出たのは、選考委員だった道尾秀介(解説を書いています)と有栖川有栖の強い推輓があったかららしいです。
この作品が読めて、道尾秀介と有栖川有栖に感謝します。よく、こんなの褒めましたね......

ちなみに、このときの受賞作が藤崎翔の「神様の裏の顔」 (角川文庫)(感想ページはこちら)。納得です(笑)。

<蛇足1>
「亡くなったのが現役政治家となれば、捜査上のミスは許されない。」(6ページ)
プロローグにある記載で、ちょっと嫌になりかけました。
うーん、被害者の属性により捜査上のミスが許されるということはないはずですよね。
政治家が非常に重要視される世界という設定になっていることを示すのだ、と理解して読み進めることにしました。

<蛇足2>
「今からさかのぼること七年目の秋、あらゆる哺乳類、鳥類、魚類に感染する新型コロナウイルスが流行を起こした。」(40ページ)
本書が出たのは2014年ですから、今のCOVID-19 騒ぎの前です。この段階で、コロナウイルスに注目されていたのですね。
今流行しているCOVID-19 を受けて、食人法ができたりしませんように......







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