SSブログ

黒い駱駝 [海外の作家 は行]


黒い駱駝 (論創海外ミステリ)

黒い駱駝 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2021/02/01
  • メディア: 単行本




単行本です。論創海外ミステリ106。
この前E・D・ビガーズを読んだのは、「鍵のない家」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)以来で、5年以上前ですね。

横溝正史絶賛と帯にあり、注目していました。

また、「黒い駱駝」というタイトルも、いわくありげでいいな、と思っていました。
ところがこのタイトル、
「『死は、すべての家の門前にうずくまる、招かれざる黒い駱駝だ』っていう古い東洋の格言を聞いたことがあるでしょう」(65ページ)
と書いてあって、別にこの作品固有のものじゃないことが早々にわかってちょっとがっかり(笑)。
当時は、中国人探偵という設定に加えて、このタイトルもエキゾチックだと感じられたのでしょうね。

「未開人種ね」チャーリーは重い口調で繰り返した。「未開人種たちは、グレート・ブリテン島の紳士の方々が釘を植えたこん棒で互いの頭を殴り合っているときに、印刷術の発明に大わらわだった。歴史を持ち出してすまなかった。」(96ページ)
中国人コックのことを述べる証人が中国人を未開人種と嘲ったのを受けてチャーリーが言うセリフです。言ってやった感があっておもしろいですが、こういう異文化をめぐるやり取りが底流に流れているのがよかったのでしょう。

事件は、南太平洋の環礁での撮影を終えて、カリフォルニアに行く途中にハワイに立ち寄った女優たちの一団で起こる殺人事件です。
被害者は、元大スター、今は落ち目になってきているものの、未だ現役で活躍している大女優シェラー。
シェラーは、三年くらい前にロサンゼルスで起きたダニー・マヨ殺人事件の現場に居合わせていたが、関連はあるのか?

推理方法は、廣澤吉泰の解説にもある通りで、容疑者Aを調べて可能性をつぶし、容疑者Bを調べてまたつぶし、次はC、と順々に可能性をつぶしていく感じなので、堅実といえば堅実、まだるっこしといえばまだるっこしいというやり方です。
でも、意外と退屈とは感じませんでした。
シェラーに結婚を申し込んでいたイギリス人のダイヤモンド鉱山主とか、怪しげな占い師とか、ハワイのビーチで暮らしている乞食とか、いろいろな人物が物語に彩を添えているのも一因でしょう。
チャーリー・チャンの人柄とか、異国情緒とか、異文化衝突とか、ふんだんに盛り込まれた枝葉の部分が支えている作品だなと感じます。

その中では、これまた解説にあることですが、横溝正史が「コノ辺ノウマサ感動ノ至リナリ」絶賛したと思しき場面=事件当時の座席位置再現のくだりは、確かに気が利いているなと思いましたし、そのあと、急転直下真相が突き止められるのも、心地よい展開。
クラシック・ミステリらしい作品で楽しめました。


<蛇足>
「〈威厳ければ地位もなし〉とはよく言ったものだ」(95ページ)
「威厳なければ」でしょうね。手書きだった昔と違い、PC等の日本語入力が一般的になった現在では珍しいミスである気がします。




原題:The Black Camel
作者:E.D. Biggers
刊行:1929年
翻訳:林たみお




nice!(16)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 16

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。