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クロイドン発12時30分 [海外の作家 F・W・クロフツ]


クロイドン発12時30分【新訳版】 (創元推理文庫)

クロイドン発12時30分【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2019/02/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
九月七日十二時三十分クロイドン発フランス行き。十歳のローズ・モーリーは初めて飛行機に乗った。父と祖父、祖父の世話係が一緒だ。パリで交通事故に遭った母の許へ急ぐ旅であることも一時忘れるくらいわくわくする。あれ、お祖父ちゃんたら寝ちゃってる。―いや、祖父アンドルー・クラウザーはこときれていた。自然死ではなく、チャールズ・スウィンバーンに殺されたのである。


創元推理文庫が創刊60周年を記念して、2019年に行った名作ミステリ新訳プロジェクトの1冊です。
毎年の復刊フェアで必ず取り上げられるクロフツからは、この「クロイドン発12時30分」(創元推理文庫)が選ばれました。

「クロイドン発12時30分」といえば、「樽」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)と双璧をなすクロフツの傑作で、かつ、フランシス・アイルズ「殺意」 (創元推理文庫)、リチャード・ハル「伯母殺人事件」 (創元推理文庫)と並んで、倒叙ミステリの世界三大名作の一つです。

当然?旧訳も読んでいます。
読んでいるんですが、「樽」と同じように、良さをまったく理解できていませんでした。
長くて、退屈だった。それが印象でした。
例によって、まったく読めていませんね。昔の自分に猛省を促します。
しかも、倒叙ものだった、ということ以外全く覚えていませんでした。
なにより「クロイドン発12時30分」が、飛行機だなんて。列車だと思い込んでいました(笑)。

本書の解説で神命明が「倒叙ミステリとして」「警察小説として」「リアリズム・ミステリとして」「経済・企業ミステリとして」「心理スリラーとして」「法廷ミステリとして」最後にまとめて「傑作ミステリとして」と、さまざまな見方を提示されていますが、その通り、盛り沢山の名作です。
よくこれだけの長さに、盛り込めたな、と感心します。
ジャンルミックスの先駆けだったのかもしれません。

倒叙ものですから、視点人物である殺人犯チャールズの立場で物語は語られます。
チャールズの視点で一喜一憂するわけです。
ここでご留意頂いた方がよいのは、たとえばコロンボ刑事もののように、思いがけない失敗があって暴かれてしまう、というのとはちょっと違う、ということです。
捜査側であるフレンチ警部が慧眼だ、というのはその通りなのですが、ちょっとした矛盾を突いて、とかいう感じではありません。
その意味では、いつものフレンチ警部ものと同じ捜査をしているのだろうな、と思えます。

とはいえ、だからといって、本書の価値を損なうものではないでしょうし、倒叙ミステリの世界三大名作は、いずれもコロンボ刑事のような狙いは持っていません。
最近は、倒叙ものというと、ついコロンボ刑事ものを連想してしまうと思うので、あえて付言しておきます。

物語の最後で、フレンチ警部は首席警部に昇格します。
めでたし、めでたし、ですね。


<蛇足1>
「チャールズは川堤を歩いて木立を抜け、教会まで来ると、手入れの行き届いた敷地を曲がってマルへ出た。」
「マルにはチャールズ・スウィンバーンの目指す場所ーーコールドピッカビー・クラブがあった。」(いずれも41ページ)
突然出てくるマルですが、固有名詞なんでしょうか? 突然出てきて戸惑いました。
イギリスでマルといえば、バッキンガム宮殿前の通りですが、並木通りを指すこともあるようです(バッキンガム宮殿前のザ・マルは、まさに並木通りです)。また、日本でいうところの(ショッピング)モールもマルですね。

<蛇足2>
「このささやかな地所一番の華は天然の池である」(67ページ)
池と沼の違いについて、池は人工、と聞いたことがあるのですが、とすると天然の池とは??
まあ、実際には池と沼に違いはないのかもしれませんが。

<蛇足3>
「ある製造業者団体の四半期ごとの夕食会がニューカースルで行われる」(270ページ)
比較的大きな町である New Castle ですが、日本語表記は通例ニューキャッスルとアメリカ英語風に書かれているかと思います。
ここでは、イギリス正統派というか、現地発音に近い、ニューカースル、と表記されていますね。おもしろいです。

<蛇足4>
「そういえば、今までに読んだ推理小説では、どの犯罪者も完璧な計画を立てながら、ことごとく失敗に終わる。オースチン・フリーマンによる二部構成の諸作品がまさにそれだ。」(278ページ)
倒叙ミステリの先達に敬意を表しているかのようです。

<蛇足5>
本文ではなく、解説から、なので、蛇足中の蛇足ですが......
「特筆すべきは、倒叙形式を採った必然として、裁判の結果が読み手には自明だということです。有罪であることが確実な裁判の行方をこれだけサスペンスフルに描けるのですから、クロフツ作品は退屈だという一部の見方が的外れであることは自明でしょう。」(391ページ)
うーん、どうでしょうね? クロフツ作品は退屈ではないという論旨には賛同しますが、倒叙形式だから裁判で有罪になる、とは限らない気がしますが......
特に、338ページあたりの検察側の弁論は、作者は上首尾と思っているようですが、なんだか危なっかしいのですが。


原題:The 12:30 From Croydon
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1934年
訳者:霜島義明




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