紙片は告発する [海外の作家 た行]
<裏表紙あらすじ>
周囲から軽んじられているタイピストのルースは、職場で拾った奇妙な紙片のことを警察に話すつもりだと、町政庁舎(タウンホール)の同僚たちに漏らしてしまう。その夜、彼女は何者かに殺害された……!現在の町は、町長選出をめぐって揺れており、少なからぬ数の人間が秘密をかかえている。発覚を恐れ、口を封じたのは誰か? 地方都市で起きた殺人事件とその謎解き、著者真骨頂の犯人当て!
この作品の主な視点人物は、町の副書記官のジェニファー。書記官と不倫関係にあります。
このジェニファーのキャラクターがポイントですね。
父はジェニファーを膝に乗せ、命のはかなさと、別れと痛みを避けることはできないという世の理(ことわり)を話して聞かせた。「頭をあげて」父は言った。「涙はこらえて、おまえは強い子だろう。自分に言い聞かせるんだ。“泣くのは明日にしよう”って……」(295ページ)
これぞまさに、ブリティッシュ、というか、ディック・フランシスの作品を通して培われたイギリス人の気質そのものではありませんか。
本格ミステリなので、ディック・フランシスの作品の主人公のように、肉体的な逆境に陥ったりしませんが、かなりつらい立場に追い込まれます。
そのおかげで、ラストがとても印象的になりました。
とこれだけでも想像がつくかもしれませんが、人物描写がキーとなる作品です。
大がかりなトリック、派手なトリックはないけれど、しっかりとした謎解きを堪能できます。
容疑者となりえるような登場人物が少ないことから、犯人の見当がつきやすくなってしまっている可能性はありますが、十分楽しめる本格ミステリの佳品だと思います。
やっぱり、ディヴァインはおもしろい!
原題:Illegal Tender
著者:D・M・Devine (Dominic Devine)
刊行:1962年
訳者:中村有希
タグ:本格ミステリ D・M・ディヴァイン
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