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シャーロック・ホームズの不均衡 [日本の作家 似鳥鶏]


シャーロック・ホームズの不均衡 (講談社タイガ)

シャーロック・ホームズの不均衡 (講談社タイガ)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/11/19
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
両親を殺人事件で亡くした天野直人・七海の兄妹は、養父なる人物に呼ばれ、長野山中のペンションを訪れた。待ち受けていたのは絞殺事件と、関係者全員にアリバイが成立する不可能状況!推理の果てに真実を手にした二人に、諜報機関が迫る。名探偵の遺伝子群を持つ者は、その推理力・問題解決能力から、世界経済の鍵を握る存在として、国際的な争奪戦が行われていたのだ……!


日本に帰ってきて3ヶ月。
5月末に、日本でトランクルームに預けていた荷物を引き取り、次いで今月に入ってロンドンから出した船便が到着しました。
これで持っていた家財道具一式がそろったことになります。
ぼくの場合、同時に大量の本が戻ってきたことを意味します。
ロンドンへ旅立つ前に日本で読了し、感想を書けていなかった本も、大量に戻ってきました。

この「シャーロック・ホームズの不均衡」 (講談社タイガ)もそんな本のうちの一冊です。
手元の記録によると2016年3月に読んでいます。読み返しちゃいました。

第一話 雪の日は日常にさよなら
第二話 シャーロック・ホームズの産卵
第三話 世界は名探偵でできている
第四話 貴きものは頭部を狙う
という四話収録の連絡短編集です。

似鳥鶏の新シリーズ、で、次の「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)まで出ています。

いやあ、面白いことを考えましたねぇ。
本格ミステリについて、犯人が面倒なトリックを使う理由がない、とかいう批判が来ることが多いですが、それを無効化するアイデアです。

世の中には天才がいて、その能力が発揮されているときには
「脳が特殊な状態になっているんだ。周囲の一切の物音その他が気にならなくなり、対応中の問題のことで頭が一杯になる。情報の処理速度が飛躍的に向上し、同時に膨大なエネルギーを消費する。」(143~144ページ)
このような人は、共通してある特定の遺伝子群を持っていて、俗称「ホームズ遺伝子群」(146ページ)
それを見つけるきっかけがSDQUS(エスディー・クース)=「非定形条件下における方策発見型問題」で、一見不可能に見える問題の解決策を見つける、という課題。
この能力(ホームズ遺伝子群の保有者)を見つけ出すため、不可能状況を作って解かせる。すなわち、不可能犯罪が必要、という流れです。

しかも、その才能の持ち主を各国が奪い合う状況で、特にアメリカや中国が、違法なことをしてでも獲得に乗り出している。
日本は政府の対策が遅れたせいで、草刈り場となっており、日本を舞台に本物の不可能(に見える)犯罪を起こし、保有者を見つけ攫っていく活動が行われている。
この騒動?に、主人公たちが巻き込まれていく、というストーリー展開です。

いやあ、不可能犯罪、し放題です。
実際に物語世界の中で殺人が起こっているので、不謹慎というか、非倫理的というか、なんですが、殺す動機、不可能犯罪を起こす動機が不問に付される状況を作り上げてしまっているのは、すごいです。

作中でも
「考えてもみろ。現実に人を殺そうとしていたとして、あんな手の込んだトリックをわざわざ用意するやつがどこにいる?」
「あの手の込んだトリックは手段ではなく目的だ。」(149ページ)
というセリフが出てきますが、不可能犯罪が必要となる理由を考えているうちに、似鳥さんが到達した回答なのかもしれませんね。すごい発想だなぁ。

という設定なので、不可能犯罪ばかり、です。
「雪の日は日常にさよなら」はタイトルから予想がつくと思いますが、一種の雪の密室。
「シャーロック・ホームズの産卵」は密室状況下での彫刻破壊。
「世界は名探偵でできている」は、ぬかるんだ畑での足跡のない殺人。
「貴きものは頭部を狙う」は、元コンビニが舞台で、唯一のガラスの穴が屋内から開けられた状況の密室殺人(為念ですが、どうやって被害者なり犯人が中に入ったのか、という不可能です)。

いいぞ、いいぞ。
わくわくします。
しかも、なかなかの物理トリックばかり。
特に「世界は名探偵でできている」は鮮やかだな、と思いました。
「貴きものは頭部を狙う」のトリックは、この設定ならでは、だと思うので、貴重なのかもしれません。(違うトリックなんですが、筒井康隆「富豪刑事」 (新潮文庫)を連想しました。ネタばれになりかねないので、色を変えておきます)

あとがきによると、作者の”黒革の手帳”には、トリックが150個も書き溜めてあるとのことで、まばゆいトリックの連発に期待したいです。
シリーズは続刊、「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)が出ているだけです。
2冊で終わりなのかな??


<蛇足1>
「僕が殺人鬼だったり盗癖持ちだったらどうするのだ。」(19ページ)
ああ、~たり、~たり、になってない!
この前の18ページでは、ちゃんと
「気味悪がられたり、探ろうとされたりすることはなかった。」
となっているのに...残念。

<蛇足2>
「午前と午後で制服が違うのは昔の英国式メイドの習慣らしいが」(119ページ)
そうなんですね。
いままで知りませんでした。

<蛇足3>
「実はボールペンというのは、左利きの人には使いにくい代物なのである。ボールペンは先端部のボールを押し込みながら転がすことによってインクを出すのだが、日本語の場合、ほとんどの字は左から右へ書く。そのため左利きの人は字を書く際、常にペン先を押す方向で力を入れることになってしまい、ボールペンの先端にうまく力がかからなかったり、かかりすぎたりするのだ。」(220ページ)
これまた、知りませんでした。





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