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珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで [日本の作家 岡崎琢磨]


珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

珈琲店タレーランの事件簿 4 ブレイクは五種類のフレーバーで (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 岡崎 琢磨
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/02/05
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「主人公はレモンが書店で爆発する場面を想像して、辛気くさい思いを晴らしたんやったな」――五年前に失意の美星を救ったのは、いまは亡き大叔母が仕掛けた小さな“謎”だった――。京都にひっそりとたたずむ珈琲店《タレーラン》の庭に植えられたレモンの樹の秘密を描いた「純喫茶タレーランの庭で」をはじめ、五つの事件と書き下ろしショート・ショートを特別収録したミステリー短編集。


読了本落穂拾いです。

「珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 2 彼女はカフェオレの夢を見る」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 3 ~心を乱すブレンドは」 (宝島社文庫)
に続くタレーラン四冊目。

「午後三時までの退屈な風景」
「パリェッタの恋」
「消えたプレゼント・ダーツ」
「可視化するアール・ブリュット」
「純喫茶タレーランの庭で」
の5話に、
特別書き下ろし掌編「リリース/リリーフ」
を加えた短編集です。

シリーズ最初こそ、三上延「ビブリア古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~」 (メディアワークス文庫)の真似か、と軽く見ていましたが、その後着実に巻を重ねていくうちに、独自色も強く感じられるようになり、楽しめるシリーズになりました。

4冊目となる今回は純然たる短編集です。
(今までも、日常の謎を扱った短編が集まってはいたのですが、第一章、第二章という扱いになっていて、長編として読まれることを企図されていたようです)

読んだのは2017年11月ということで、今回感想を書くのにほぼ読み返しました。

第一話「午後三時までの退屈な風景」を読み返して、探偵役である切間美星のことを、いやな女だなぁ、と感じてしまいました。頼まれていない謎解き、というのはもともと出しゃばりでありますが、それにしてもこの作品の美星はやりすぎでしょう。
もっとも、この点は本作品に仕掛けられたちょっとしたお遊び(と呼んでよいと思います)の効果とも考えられます。
ミステリとしては、喫茶店の砂糖壺をめぐる謎なんですが、ミステリ・ファンにとって砂糖壺ときたら、チェスタトンであり北村薫だと思うんですね。どうしてもこれらの諸作と比べてしまう。相手にしては手強すぎる。
砂糖壺の使い方としては平凡な使い方を見せる「午後三時までの退屈な風景」は、ミステリとしては残念な仕上がりでした。

「パリェッタの恋」のタイトルに使われているパリェッタは人名で、フランシスコ・パリェッタ。「ブラジルにコーヒーノキを持ち込んだとして著名な人物」(107ページ)とのことです。
また、銀ブラについて
「銀ブラとは本来、日本の民衆にコーヒーが普及するきっかけのひとつとなった銀座のカフェーで、文化人らに愛好されたブラジルコーヒーを飲むことを意味した、という説があります」(107ページ)
ということが知れて、楽しかったです。
ミステリ的には、日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞を受賞した日本の某有名作品(ネタばれにつき伏せます。amazon にリンクをはっています)のバリエーション。
ちょっと最後の解釈は強引だな、と思わないでもないですが、パリェッタのエピソードが現在のエピソードと響きあるところはいいな、と思えました。

「消えたプレゼント・ダーツ」は苦しいな、と思いましたが、アオヤマくんの奮闘ぶりがほほえましい。

「可視化するアール・ブリュット」は美術大学生の話。
クロッキーに現れた小人の絵の謎というのはおもしろいですし、使われているトリックが極めて印象的なのですが、こんなにうまくいくかなぁ、という思いがぬぐえません。
「じゃあさ、凜はオレの肖像画を描ける?」(201ページ)
というセリフともに、記憶に残ると思います。

「純喫茶タレーランの庭で」は、梶井基次郎「檸檬」 (新潮文庫)を念頭に置いた作品ですが、このトリックも無理がありますねぇ。
「目立たないように細工されてはいる」(240ページ)とありますが、最初から外見でわかっちゃうと思いますよ。
また、「どれだけの時間と労力がかかったのか」(247ページ)なんてさらっと書いてありますが、いや、無理です。
とはいえ、美星をめぐるエピソードとして、寄り添ったものになっているので、さほど不満は覚えませんが。

なんだかケチばかりつけたので誤解されそうですが、楽しく読んだということははっきり書いておきたいと思います。

シリーズはこのあと、
「珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように」 (宝島社文庫)
「珈琲店タレーランの事件簿 6 コーヒーカップいっぱいの愛」 (宝島社文庫)
と出ていましす。
ゆっくりとではありますが、フォローしていきます。


<蛇足>
「急用ができてどうしても一、二時間抜けなあかんくなった言うから」(26ページ)
これ、おじいさんのセリフなんですよね。
お年寄りなら「あかんくなった」とは言わないでしょうね。関西の風味を出すなら、「あかんようになった」でしょうか?
「何や胸騒ぎがする思って来てみたら」(106ページ)
というのも、できたら「思て」と促音便はやめてもらいたかったところです。
一方で、
「こんなところで何してんの、風邪引くえ!」(106ページ)
「お店に行くからはよ仕度しよし」(230ページ)
というセリフは、いかにも京都らしくていいですね。
(ただ、あまり男性が言うのを聞かない言い回しではありますが)





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