SSブログ

夏への扉 [海外の作家 は行]

夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)

夏への扉 [新版] (ハヤカワ文庫SF)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/12/03
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
ぼくの飼い猫のピートは、冬になるときまって「夏への扉」を探しはじめる。家にあるドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。そして1970年12月、ぼくもまた「夏への扉」を探していた。親友と恋人に裏切られ、技術者の命である発明までだましとられてしまったからだ。さらに、冷凍睡眠で30年後の2000年へと送りこまれたぼくは、失ったものを取り戻すことができるのか──新版でおくる、永遠の名作。


ここから、今年7月に読んだ本の感想となります。
言わずと知れたSFの名作。引用したあらすじに「永遠の名作」とあるのも納得の傑作。
個人的にも、SFはそんなに読んでいませんが、ベストを選ぶ際には絶対に漏らすことのできない作品です。

今年、山崎賢人主演で映画化されたので、それにあわせて昨年末に新版がでたので購入しました。(旧版は実家にあるはずですが、もうどこにあるのか発掘を断念)
文庫本につけられた帯によると、もともとは2月19日公開予定だったようですが、このご時世のこと、6月25日公開へと変更されたようです。
映画館で映画を観る前に読もうと、7月読書の最初の1冊として取り上げました。
(映画観たのですが、例によって、感想を書けていません)

最初に読んだ時の印象があまりに鮮やかで、かえって再読せずにここまで来ました。
ン十年ぶりの再読です。

旧版のカバーイラストも印象深いのですが、今度のもかわいらしいですね。
旧版のイラスト、引用しておきましょう。

夏への扉 (ハヤカワ文庫SF)








いやあ、懐かしい。
細かいところはすっかり忘れていましたけれど、読み進むうちに、物語の手触りがよみがえってきて、世界の虜に。
1970年と2000年、2001年を舞台とした1957年に書かれた作品で、その時期はとっくに過ぎた2021年に読んでいるので、現実との違いは明らかになってしまっていますが、そんなのは小さいことです。
テクノロジーの発達に違いはあっても、ここにはまぎれもない未来感があふれています。

主人公をエンジニアに設定しているのも効いていますね。
「大部分規格部品を用い、しかも新しい原理をまったく用いないものでなければならない」などという制約下で、画期的な家事ロボット(と呼んでいいと思います)を作り上げてしまう、もともとかなり優秀なエンジニアです。
それが、騙されてすべてを奪われ、未来へと。

この作品のストーリーの勘所は、訳者あとがきで要領よくまとめられていて、そっくり書き写したくなりますが、さすがに自粛。
ハインライン一流の稠密な小説構成と書かれていますが、伏線が回収されて物語がどんどん引き締まっていく後半にどっぷり浸ることに幸せがあります。

今回気になったのは、リッキーの年齢設定。
ですが、まあ、それは小さなこと。
昔、感銘を受けた作品を数十年後に改めて読んで、再び感銘を受けることができました。
幸せです。


<蛇足1>
「ミュチュアル生命保険会社の受付嬢は、機能美の好見本ともいえる姿をしていた。マッハ四の超高速流線形はしていないが、そのかわり、前突型のレーダー・ハウジングをはじめとする女性の基本的任務に必要ないっさいを具備している。」(25ページ)
この描写? いいんでしょうかね? 前突型のレーダー・ハウジング......
かと思えば
「女性のハンドバッグの中のような、想像を絶する混沌さを加えていたのだった。」(196ページ)
なんて表現もあります。
女性を家事から解放するという高邁な思想を持ったぼくがこれで、いいのかな? 

<蛇足2>
「ただいま、顧客担当の重役がお目にかかれますかどうか、きいてみます。」(25ページ)
アメリカの会社、特に金融関係は、だいたい顧客担当者の肩書はインフレ傾向にありますので、「重役」といっても、本当の重役ではなく、担当者だったのでしょうね。
たとえば、米系の投資銀行など、Vice President は副社長ではなく、末端担当者だったりします。

<蛇足3>
「それでおまえは本官になにをしてほしいというのだ?」(200ページ)
判事がぼくに問うシーンですが、判事の一人称が「本官」なんですね。



原題:The Door into Summer
作者:Robert A. Heinlein
刊行:1957年
訳者:福島正実





nice!(14)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 14

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。