SSブログ

泥棒だって謎を解く [日本の作家 か行]

泥棒だって謎を解く (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

泥棒だって謎を解く (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 影山 匙
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/08/06
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
中高生時代に親友だった四人の男。桜庭(サク)と清水(おりん)は長じて刑事に、久間と兵衛(ヒョエ)は泥棒となった。ところが、故郷の鷺ノ下市でこの二組が再会した翌日、事件が起きた。サクの恋人が遺体で見つかったのだ。物盗りの犯行――、しかも窃盗常習犯によるものとされたが……。やがて事件は思わぬ展開を見せる! 話題作が続々、『このミステリーがすごい!』大賞の“隠し玉”作品がついに登場。


読了本落穂拾い、続けます。
2014年『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉で先日感想を書いた「二万パーセントのアリバイ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら)と同時刊行でした。

ちなみに、このときの大賞は
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
です。

「二万パーセントのアリバイ」 (宝島社文庫)は見掛け倒し、誇大広告、タイトル負けしている作品でしたが......
こちらはタイトルがまずい。
「泥棒だって謎を解く」なんて、洒落たつもりかもしれませんが、泥棒が探偵役をつとめることなんて、アルセーヌ・ルパンをはじめとして、ミステリではごくごく当たり前。
正直、何のセールスポイントにもなりません。
応募時点のタイトルは「正邪の獄(ひとや)」だったらしく、こちらもあまりすっきりとはしないタイトルですが......
ミキワカコさんのカバーイラストでなかったら、なかなか読む気にならなかったかも。

冒頭、キーとなる四人の再会シーンです。
香山二三郎の解説では
「中高生時代に親友だった四人の男がファミレスに集って自分たちの仕事――泥棒と刑事であることを互いに明かすプロローグでは脱力したものの」
「ふたりの男が泥棒と刑事になって再会するのはありだろうけど、二対二はちょっとあり得ないと思った。」
と書かれていますが、まったく気になりませんでした。
このことを最後まで隠していてラストで明かしていたらとんでもないと思ったかもしれませんが、物語の前提として冒頭で明かすのであれば問題ないと思います。
一種のシチュエーション・コメディなのかな、と思いました。
すぐにわかるのですが「その文体、語りも抜け抜けとしたというか、終始飄々としている」とその解説でも書かれているように、語り口も大きなプラスポイントです。

この優れた語り口に乗せられて、すいすい読める、楽しいだけの作品なのかな(楽しいだけの作品も貴重なので大事にしたいのですが)、と思っていたら、とんでもない。
100ページを超えたところで、物語は大きく転回します。
ここにまずびっくり。
刑事(桜庭)の恋人が殺されるという展開だけでもびっくりだったのですが、まさか、まさか。

このあとも、四人が再会した鷺ノ下市を舞台に、予想外の展開が続きます。
帯に「二転三転! 予測不可能! 意外性の連打!」と書いてありますが、まさにその通り。
小気味よく作者に引っ張りまわしてもらいました。
楽しい。
(余談ですが、解説に「本文二七〇ページで明かされるある言葉にご注目! そこで披露されるアイデアは爆笑必至だが、と同時にトリックメイカーとしても著者が柔軟な発想の持ち主であることを明かしていよう。」と書いてあるところで、ぼくも爆笑しました。
ただページは269ページだと思います。解説を書かれた時のゲラからページがずれたんでしょうね。このあたりは編集者がきちんとフォローするべきかと。)

タイトルの印象を大きく覆す快作でした。
語り口がよいので、ほかのアイデアの作品でも楽しめるはず。
残念なことにこの「泥棒だって謎を解く」のあと出版されていないようです。
新作、期待します。


<蛇足1>
「桜庭が簡単な食事会の場所と時間をセッティングした。三人はすぐに参加の意思を示してくれた。」(10ページ)
今では普通になってきていますが、こういう場合の「いし」は「意思」ではなく「意志」と書くべきだと思います。
「意思」は本来法律用語ではなかろうかと。

<蛇足2>
「犯人は土地勘のある人間だ。」(148ページ)
この表記もよく見られますが、「土地勘」ではなく「土地鑑」が正しいと思います。
意味からしても、勘は間違いだと。





nice!(15)  コメント(0) 
共通テーマ:

nice! 15

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。