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一千兆円の身代金 [日本の作家 か行]

一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

一千兆円の身代金 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 八木 圭一
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
第12回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞受賞作。元副総理の孫が誘拐された。日本政府に突きつけられた犯人からの要求は、財政赤字とほぼ同額の1085兆円の支払いか、巨額の財政赤字を招いた責任を公式に謝罪し、具体的再建案を示すかの二択だった――。警視庁は捜査一課特殊犯係を直ちに全国に派遣し、国家の威信をかけた大捜査網を展開させる。やがて捜査陣は、あるブログを見つけるが……。


読了本落穂拾い、続けます。
「二万パーセントのアリバイ」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
「泥棒だって謎を解く」 (宝島社文庫)(感想ページはこちら
2冊の2014年『このミステリーがすごい!』大賞隠し玉に続いては、いよいよ(?)第12回大賞受賞作、
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
です。

まずは、「一千兆円の身代金」から。

タイトルがキャッチ―ですね。
なにしろ一千兆円。
身代金、というからには、誘拐ミステリなのでしょう。
誘拐ミステリというと数多の名作があります。それらに伍す作品となっているでしょうか?

ところがですね、冒頭を読んで拍子抜け。
誘拐されたのも元総理の孫の小学五年生の子ども一人。
20ページに早くも脅迫状が出てきます。
あらすじにもありますが......
要求先は日本政府。身代金は1085兆円!
これは日本の(当時の)財政赤字と同額に設定されています。
超巨額の身代金のように見えますが、この要求が受け入れられない場合は、財政危機を招いた責任を謙虚に反省し、国民に対して公式謝罪。

うーん、こうなると、巨額の身代金を奪取する、という話ではないのですね。
誘拐ミステリの面白さの一つに、身代金の授受を巡る駆け引きがありますが、これは最初から放棄されている。
誘拐犯の目的は最初から、謝罪、のほうなんですね。
しかも、犯人の設定が極悪という感じになっていませんので、誘拐された人質の身の上もあまり心配しなくてよい。

正直、なんだかなぁ、と思いました。
「一千兆円の身代金」というタイトルは、偽りではありませんが、ミステリファンに訴求するポイントでは全くない。

誘拐の捜査も、人質の動向も、新味はなく、誘拐ものとしたの興趣はほぼありません。
新聞にも出ているし、あちこちで繰り返し指摘されている問題(日本の財政赤字)を、新しい情報もなくただただ書かれても、興味はわきません。社会派として捉えても、レベルは低い。
ミステリとして評価はできない気がします。

茶木則雄の解説によると、財政問題は著者が長年ノンフィクションとして挑んできたテーマらしく、広く訴える手段としてミステリーを選択されたようです。
であれば、ミステリーの力を信じていただいたという点でミステリーとしては光栄だと捉えるべきなのかもしれませんが、迷惑ですねぇ......
ミステリーとしての出来は置いておくとしても、そもそも財政赤字問題そのものについても突っ込み不足で、通り一遍ですけれども。

第2作である「警察庁最重要案件指定 靖國爆破を阻止せよ」 (宝島社文庫)がどうなっているのか、逆に興味が出てきましたよ。


<蛇足>
この作品で興味を持てたのは、
「海外旅行は人並みにしてきたが、未訪のマチュピチュやフィンランドのオーロラあたりは見たかった。あと、ギリシャにあるクティマ・アナスタシア・アパートメンツというホテルやスペインにあるエル・クラブ・アジャルドってレストランにも行ってみたい。」(343ページ)
という部分でした。
クティマ・アナスタシア・アパートメンツとエル・クラブ・アジャルドは、知らなかったので。



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