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死の扉 [海外の作家 は行]

死の扉 (創元推理文庫)

死の扉 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/01/27
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
英国のとある小間物屋で深夜、二重殺人が発生。店主のエミリーと、巡回中のスラッパー巡査が犠牲となった。町にあるパブリック・スクールで歴史教師をするキャロラスは、生意気な教え子プリグリーに焚きつけられて、事件を調べることに。嫌われ者だったエミリーのせいで容疑者には事欠かないが……素人探偵の推理やいかに? イギリス屈指の名探偵、キャロラス・ディーン初登場作。


今年7月に読んだ本の感想に戻ります。
平石貴樹「松谷警部と三鷹の石」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)に続いて読んだのは、レオ・ブルース「死の扉」 (創元推理文庫)
素人探偵キャロラス・ディーン初登場作です。

典型的な本格ミステリの流れ(事件→尋問→尋問→尋問......)に則っていますので退屈するかたもいるかもしれませんが、歴史教師キャロラス・ディーンとその助手を勝手につとめる生徒のルーパートとのやりとりが面白かったり、登場人物が変わっていたりして、飽きることなく読み進むことができました。
探偵小説ファン・農場主のリンブリック氏が出てくるところではニヤリ。
アガサ・クリスティ、グラディス・ミッチェル、ロラック、ジョン・ロードの名前が出てきます。
「一流のアメリカ探偵作家も何人かはいます。アクションが不可欠だと思い込んでいるふしがありますな、確かに。」(177ページ)
なんてぼかさずに、はっきり名前を挙げてくれればいいのに。
ひとり、パンションという作家は訳注も付されていますが、未訳のようで気になりました。
後半252ページでは、いくつかのネタばらしがあるので要注意。
ばらされているのはコナン・ドイルとチェスタトンです。あっ、どさくさで(?)ドロシー・セイヤーズのあの作品もネタばらしされています。
チェスタトンの評はおもしろいですね。
「わしにもとうてい信じられないようなことを書く作家はただ一人、それも巨匠の一人--チェスタトンですよ」
「チェスタトンはやりすぎです。山をも動かせるという自分の信念を読者にも要求するんです」(252ページ)

強欲ババアと巻き添えを食ったと思しき巡査という二重殺人の謎が鮮やかに解かれます。
今となっては見慣れた構図ですが、ひょっとしたらこの作品が最初だったのかもしれませんね。
非常に印象的な解決です。

タイトル「死の扉」は
「ニューミンスター病院ではキャロラスがいわゆる”死の扉”の入り口で(瀕死の状態でという意味)過ごした最初の二十四時間が過ぎようとしていた。」(273ページ)
というところから来ているのだと思いますが、今一つ意味合いがピンと来ません。
なにかありそうな感じは、ミステリにはふさわしいですけれど。

レオ・ブルースの作品でいうと、ビーフ巡査部長シリーズに比べて、キャロラス・ディーンものは翻訳があまりすすんでいないようです。
とてもおもしろいので今後に期待します!


<蛇足1>
「いつの日が、ほんのお飾りの容疑者が真犯人だったと判明して、探偵小説のお約束をひっくり返すかもしれない。」(66ページ)
なかなか愉快なセリフですね。
メタ趣向を意図したものではないとは思いますが。

<蛇足2>
「マーシャは女性の通例として、ナンセンスな冗談は通じず、きょとんとして二人を交互に見た。」(67ページ)
現在だと、性差別的だと言われてしまうのでしょうか?



原題:At Death's Door
作者:Leo Bruce
刊行:1955年
訳者:小林晋



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