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風景を見る犬 [日本の作家 樋口有介]


風景を見る犬 (中公文庫)

風景を見る犬 (中公文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
那覇市大道の栄町にある売春宿の息子・香太郎は、高校最後の夏休みに近所のゲストハウスでバイトをする。悠々自適なマスター、個性的な美女たちに囲まれ、それなりに充実した毎日を過ごしていた。そんな中、栄町界隈で殺人事件が発生。当初、金の絡む単純な構図に思えた事件は、十八年前のある秘密が引き起こした悲劇だった――。


樋口有介のノン・シリーズものです。
この「風景を見る犬」単行本を買っていたのに積読で時が経過し、文庫本を買ってしまったという......なんとも。

舞台は沖縄、時は夏、そして主人公は高校生男子。
樋口有介お得意のパターンで、実にいい。
作品の魅力すべては語り手であるこの主人公にあり、と言いたくなるような青年ですが、彼のキャラクターはすぐに心地よく伝わってきます。
ぼくなんか生まれたときから周りは大人だらけで、死んだ祖母さんを筆頭に、みんな冗談のついでに生きているような人たちだった。「冗談で片付けなかったら、人生が辛いさあ」というのが祖母さんの口癖(344ページ)
と自ら語っていますが、こういう青年は同級生から見るとかなり浮くでしょうね。

美女に囲まれている日常、といううらやましいことこの上ない状況ではありますが、これはこの香太郎だからこそやっていけるので、ぼくだったら到底つとまりませんね。
余談ですが、香太郎のお袋、36歳という設定なんですが、しゃべり方のせいなのか、それとも職業柄なのか、もっと歳上のイメージで読んでいました。

ミステリ的側面の謎解きが頼りない、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、この軽妙な語り口に乗せられて、また沖縄の醸す雰囲気に包まれてはいますが、きわめて正統派のハードボイルド的な謎解きになっていまして、少々詰めの甘いところはありますが、王道だと思います。
素晴らしい。

つまりは、樋口有介を読む楽しみが詰まっている作品というわけですが、先日、2021年10月23日にお亡くなりになったのですね。
再開した船宿たき川シリーズの決着もついてしないし、まだまだ樋口節を楽しませてもらいたかった。
残り少ない未読作品を、大切に読んでいきたいです。


<蛇足1>
この作品、沖縄が舞台で、さらっと豆知識(?) が盛り込まれています。
「沖縄の蝉は午前中の短い時間だけ狂ったように鳴いて、午後は休む。その理由は、たぶん、暑いから。」(28ページ)
本当ですか!?
「泡盛も水やコーヒーで割るのは一年ものの新酒、三年以上寝かした古酒はストレートで飲むのが通だという。」(178ページ)
なるほど、なるほど。語り手が高校生でもこういう知識が忍ばせてあります(笑)
「那覇の語源は魚場(なば)だからその種類も量も豊富なはずだし、沖縄人(ウチナンチュー)からも不満は聞かない。」(239ページ)
これも知りませんでした。

<蛇足2>
「しかし世の中には、冗談受容遺伝子欠損症みたいな人間が、たぶん、いる。」(344ページ)
うまいこと言いますね。
この言い回し、使ってみようかな。



タグ:樋口有介
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