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シャーロック・ホームズの十字架 [日本の作家 似鳥鶏]


シャーロック・ホームズの十字架 (講談社タイガ)

シャーロック・ホームズの十字架 (講談社タイガ)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/11/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界経済の鍵を握るホームズ遺伝子群。在野に潜む遺伝子保有者を選別・拉致するため、不可能犯罪を創作する国際組織――「機関」。保有者である妹・七海と、天野直人は彼らが仕掛けた謎と対峙する! 強酸性の湖に立てられた十字架の謎。密室灯台の中で転落死した男。500mの距離を一瞬でゼロにしたのは、犯人か被害者か……。本格ミステリの旗手が挑む、クイーン問題&驚天動地のトリック!


2021年9月に読んだ本ラストを飾るのは似鳥鶏「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)
「シャーロック・ホームズの不均衡」 (講談社タイガ)に続く作品で、
第一話 強酸性湖で泳ぐ
第二話 争奪戦の島
第三話 象になる罪
という三話収録の連絡短編集です。
特殊な能力を発揮するホームズ遺伝子群の保有者という設定を生かして、不可能犯罪に淫する素敵なシリーズの第2弾。

第一話である「強酸性湖で泳ぐ」で、語り手が天野直人でないことにおやおやと思いますが、事件はいつも通り(?) 不可能犯罪です。強酸性湖に建てられた十字架。その十字架にくくりつけられた死体。
トリックも強烈でしたね。おまえは泡坂妻夫かっ、とひとりで突っ込んでいました。

第二話「争奪戦の島」は、密室状態の灯台の内部で発見された墜落死体。
このトリックはある海外作品のバリエーションでしょうか?(Amazon のページにリンクを貼っているので、リンクをたどる場合はネタバレ覚悟でお願いします)

第三話「象になる罪」のトリックも豪快です。ちょっと犯行現場を見てみたい(←悪趣味)。

ここでふと気になったのは......
このシリーズ、不可能犯罪を仕掛けるのが ”機関” なわけです。しかも国家レベルの。
となると、資金も人員も技術も制限なし。使い放題。
だからこそ、というトリックもいくつかこれまで描かれてきました。
通常のミステリ的思考であれば断念、放棄するようなアイデア、トリックも実現させてしまえる。
これは少々危険な状況ですよね。
似鳥鶏のこと、そこはうまくバランスを取ってくれるとは思いますが、逆の閉塞感をもたらさないか気がかりではあります。

一方で、物語の展開が、個々の事件の真相を暴くというものから、もっと大きな ”機関” をめぐるものに移行していくということでもあります。
第三話のタイトルは
「二頭の象が争う時、傷つくのは草だ」(321ページ)
というアフリカのことわざを踏まえています。
同時に
「名探偵がいるから殺人事件が起こる。そして名探偵が動き回ることで、死者が増えている。もしも世界から名探偵が消えたなら、どれだけの人が死なずに済むのだろうか。」(320ページ)
というテーマとも結びついていて、
「自分たちがやらなければ経済の均衡が崩れ、将来的にもっと多くの犠牲者が出る。だから辰海さんたちは、象となって草を踏み潰す罪を自ら引き受けている。
 その人たちが横にいるのに、一番下っ端で、背負う傷も十字架も軽い僕が勝手に、陽菜ちゃんに対して謝ることはできなかった。」(321ページ)
という感慨につながり、この第2巻のタイトル「シャーロック・ホームズの十字架」 (講談社タイガ)につながります。

だから、巻中に出てくる、
バス事故を辛くも逃れた親子が「バスを降りなければよかった」といった理由
というシチュエーションパズルに、一般的な答とは別の答を直人が導き出すシーン(335ページ)はなかなか感慨深いです。

あとがきによると、「このシリーズはまだまだ続きます」とのことですが、2016年11月にこの「シャーロック・ホームズの十字架」が出た以降続きは出ていません。心配。


<蛇足>
「二度とやるな。一度あった幸運をもう一度期待するのは、最もありふれた破滅のパターンの一つだ」
「はい」
 最近気付いたことだが、辰海さんは真剣になった時ほど喋り方が翻訳調になる傾向がある。(198ページ)
「最も〇〇の一つ」という収まりの悪い表現がしっかりフォローされていますね。さすが似鳥鶏




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