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マリアビートル [日本の作家 伊坂幸太郎]


マリアビートル (角川文庫)

マリアビートル (角川文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2013/09/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
幼い息子の仇討ちを企てる、酒びたりの元殺し屋「木村」。優等生面の裏に悪魔のような心を隠し持つ中学生「王子」。闇社会の大物から密命を受けた、腕利き二人組「蜜柑」と「檸檬」。とにかく運が悪く、気弱な殺し屋「天道虫」。疾走する東北新幹線の車内で、狙う者と狙われる者が交錯する──。小説は、ついにここまでやってきた。映画やマンガ、あらゆるジャンルのエンターテイメントを追い抜く、娯楽小説の到達点!


2022年7月に読んだ5冊目の本です。
映画「ブレット・トレイン」(感想ページはこちら)の原作です。
映画を見る前に原作を読まなきゃと思って少々あわてて読みました──永らく積読にしていた自分が悪いのです。

殺し屋シリーズ、と呼ぶのでしょうか?
「グラスホッパー」 (角川文庫)と共通している登場人物たちがいます。
それが殺し屋。
多彩な殺し屋が楽しませてくれます──物騒ですけど。

舞台は東北新幹線。映画では東海道新幹線に改変されていました(と思われます)。
でタイトルは改変して「ブレット・トレイン」(弾丸列車。新幹線のことをこう呼んだりもします)。
小説の方のタイトルはマリアビートル。
直訳すればマリア様の乗り物、という意味で、
「レディバグ、レディビートル、てんとう虫は英語でそう呼ばれている。その、レディとは、マリア様のことだ、と聞いたことがあった。」(539ページ)
と本文でも言及されるように、てんとう虫のことを指しているようです。
登場殺し屋の一人で視点人物の一人である七尾が天道虫とされていますので、彼のことですね。
「業界の中では、七尾のことを、てんとう虫と呼ぶ人間が少なからず、いる。七尾自身は、その昆虫が嫌いではなかった。小さな、赤い身体が可愛らしく、星のような黒い印はそれぞれが小宇宙にも思え、さらには、不運に満ちている七尾からすれば、ラッキーセブン、七つの星はあこがれの模様と言っても良かった。」(74ページ)
あと七尾に指示するのが真莉亜で、七尾が実行役ですので、ある意味比喩的に七尾は真莉亜の乗り物とも言え、この観点でも七尾ですね。

この不運まみれの七尾が狂言回しとして物語を進めていってくれるのですが、これが心地よい。
伊坂幸太郎らしいリズムの文章にどっぷり浸れます。

注目は、王子。
王子慧(さとし)という中学生なんですけど、殺し屋たち以上に邪悪な存在として描かれています。
というか、このシリーズに出てくる殺し屋って、職業が職業なんですが、邪悪って感じじゃないんですよね。
この王子は、作中随一の悪、です。
「僕みたいなガキに、いいようにされて、それでいて何もやり返せない自分たちの無力さを知って、そして絶望してもらいたいんだ。自分が生きてきた人生がいかに無意味だったのかに気づいて、残りの人生を生きる意欲がなくなるくらいに」(333ページ)
なんてさらっと言えてしまうくらい。
折々、その王子の視点でさらっと内面や考えが披露されるところも恐ろしい。
そういえばこの設定は映画版では女子に変更されていて、それはそれでおもしろい改変でしたね。

この王子の造型は、一時期ミステリでよく出てきたいわゆる ”絶対悪” に通ずるものがありますね。
伊坂幸太郎がこれをどう料理するのか、とくとご覧あれ。

割と長めの物語なのですが、いろいろな殺し屋の視点が組み合わされて、あれよあれよという間にという感じで、ラストへ雪崩れ込む。
オフビートなのに、リズミカルに終点まで運ばれていきます。
殺伐とした展開なのに、あちこちでニヤリとできるのも伊坂節。
とっても楽しい読書体験でした。


<蛇足>
「自分が中学生の頃を思い出しても、こういった、誰かが誰かを甚振り、陰湿にはしゃぐことはあった。」(146ページ)
いたぶるって、こういう字を書くんですね。いままで認識していませんでした。






タグ:伊坂幸太郎
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