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コージー作家の秘密の原稿 [海外の作家 ま行]


コージー作家の秘密の原稿 (創元推理文庫)

コージー作家の秘密の原稿 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/10/08
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
裕福で年老いた大人気コージー作家のエイドリアンが、子どもたちに結婚式の招待状を送りつけてきた。この結婚でまた遺言書が変わるのかと当惑する子どもたち。屋敷に集まった彼らに父親が予想外の事実を告げた翌朝、相続人候補がひとり減ることに。だれもがあやしい殺人事件に挑むセント・ジャスト警部の推理の行方は? 皮肉の効いた筆致が光る、アガサ賞受賞のシリーズ第一作。


2022年7月に読んだ6冊目の本です。
タイトルに「コージー」と入っていますが、この作品は流行りのコージー・ミステリという感じは受けませんでした。
一族の主が性格の曲がったミステリ作家で、急に結婚すると言い出して......というお屋敷を舞台に、一族の中で殺人が起こる、伝統的なミステリです。
サーの称号が与えられていますから、まあまあ立派な作家のようですね。
こういう設定は常套的でありふれているのですが、やはりわくわくしてしまいますね。
アガサ賞最優秀処女長篇賞受賞作なので、コージーと分類されているのでしょうか?

その結婚相手が、殺人を疑われたという過去を持つという爆弾つき。
癖のある登場人物たちで、当然ながら、ひと悶着もふた悶着も(自分で書いておいてなんですが、こんな表現あるのでしょうか?)。
そして長子が殺されて。

過去の出来事が尾を引くというのはミステリとして常道ですが、非常に入り組んだプロットがさらっと忍ばされています。
登場人物も多く混乱しそうですが、書き分けがなされているので、それほど混乱しません。
ポイントが高いなと思ったのは、巻頭の登場人物表。説明が特徴を捉えてユニークです。

個人的に興味をひかれたのは、
「伝統的にウェールズの子どもは両親と違う名前を持つことがある。」(379ページ)
などさらっと書いてありますが、名前についていろいろと注目しているところ。
日本人にはわかりづらいところではあるのですが、こういうところは海外の作品を読むの愉しみの一つですよね。

派手なトリックはありませんが、古き良きミステリを引き継いだウェルメイドなミステリだなと思いました。(登場人物の性格は悪いけれど)
続刊も訳されていたのですが、もう品切れ状態です。買っておけばよかった。


<蛇足1>
「合点承知之助でございますよ」とさらなる返答。(39ページ)
合点承知之助ですか。なかなか楽しい訳語です。
原文はどうなっているのでしょうね?

<蛇足2>
「猫も杓子もクリスマスにはミス・ランプリングの新作をほしがるんだ──皮肉なことだよ、そう、おれたちはだれよりもよく知っているが、そのとおりなんだよ。つまり善意の季節には親父のあの凶悪な本が飛ぶように売れるんだ」(77ページ)
クリスマスにあわせて新刊が出る! クリスティみたいですね。

<蛇足3>
「ミス・ランプリングお得意のわかりにくい言い方を借りれば、こういうことだ。“ひとたびありえないことがすべてのぞかれたら、ありえなくないことが真実に違いないよ”」(78ページ)
シャーロック・ホームズの有名なセリフをアレンジしていますが、本当にわかりにくこと。

<蛇足4>
「とはいえ、イギリスでの最初の五月の週──イギリスだけが作り出せるあの一片の雲もないすばらしい数週間のうちのひとつ──のおかげで、この国に永遠に残るべきだという決断はしていた。」(125ページ)
ミネソタ出身のアメリカ人秘書が抱く感慨ですが、まさに!
イギリスの初夏はすばらしい。おすすめです。

<蛇足5>
「おそらく彼らが息子を殺す申し合わせをしたんだな。どう思うかね?」
「だれがです?」
「むろん、家の者全員だよ。そいつはわしが『十二時四十分マンチェスター発』で使ったなかなか革新的なトリックの一つでな。出版されたのは──そう、十年ほど前だ」
 ー略ー
「ですが、サー・エイドリアン……確か最初にそれを考えついたのは、あの高名な作家では」
「そりゃあ、考えついただけのことだ。わしの本のほうが面白い」(166ページ)
サー・エイドリアンは架空の作家ですが、あれより面白いのなら、ぜひ読んでみたいですね!

<蛇足6>
「伝統的な絵画の代わりに暖炉の上に立てられた大きな日本の屏風以外、部屋にはほかに目にとめるようなものがほとんどない。」(206ページ)
屏風は平面というよりは立体的に飾られるものだと思うので、暖炉の上に置くのは大変そうです。

<蛇足7>
「“血のみが歴史を前進させる”か。だが、実際にムッソリーニが考えていたのは、血統じゃないだろうな」(357ページ)
こういうところにひょいとムッソリーニの言葉なんかを持ち出してくるところ、セント・ジャストはなかなか曲者ですね。


原題:Death of a Cosy Writer : A St. Just Mystery
作者:G. M. Malliet
刊行:2008年
翻訳:吉澤康子





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