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キッド・ピストルズの冒瀆 [日本の作家 山口雅也]


キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)

キッド・ピストルズの冒瀆 パンク=マザーグースの事件簿 (光文社文庫)

  • 作者: 山口 雅也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/09/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
五十年間、家から一歩も出なかった老婆はいかにして毒殺された? 動物園園長が残した死に際の伝言の意味は? 他にも有栖川有栖氏絶賛のシリーズ中の白眉「曲がった犯罪」、レゲエ・バンドの見立て殺人「パンキー・レゲエ殺人」を収録。名探偵が実在するパラレル英国を舞台に、パンク刑事キッド・ピストルズの推理が冴える第一短編集が改訂新版で登場!


2022年9月に読んだ8冊目の本です。
「キッド・ピストルズの冒瀆」 (光文社文庫)
「キッド・ピストルズの妄想」 (光文社文庫)
「キッド・ピストルズの慢心」 (光文社文庫)
「キッド・ピストルズの醜態」 (光文社文庫)
「キッド・ピストルズの最低の帰還」 (光文社文庫)
と続いているシリーズの第一作。共通して「パンク=マザーグースの事件簿」という副題がついています。
単行本が出版されたときに買って読んでいますが、シリーズを通して読んでみようと再読。

「序に代えて──パラレル英国概説」で舞台の説明があったあとに、
『「むしゃむしゃごくごく」殺人事件』
「カバは忘れない」
「曲がった犯罪」
「パンキー・レゲエ殺人」
の4編収録

これはじめて読んだときも勘違いし、今回もわかっていたはずなのに勘違いして読み始めました。
それは、「生ける屍の死」(上) (下) (光文社文庫)(感想ページはこちら)と世界が共通しているという勘違い。
「生ける屍の死」がパンク青年グリンが主人公で、このキッド・ピストルズはパンク刑事と、共通点は ”パンク” だけ(笑)。
あれ? 死者は蘇らないんだ、なんて感想を二度も抱いたなんて恥ずかしい。

とはいえ、このシリーズはパラレルワールドの英国であり、いまわれわれが住んでいるのとは違う世界。探偵士が警察とは別に存在し、警察は《探偵士協会》の下部組織、という世界観。
死者は蘇らなくとも、これはこれで趣深い世界が築き上げられています。

『「むしゃむしゃごくごく」殺人事件』は、世捨て人のように人を寄せ付けず家に閉じこもっていた巨食症(ってあるのでしょうか?)の元美貌の女優が毒殺された事件。マザーグースから別のモチーフがすっと浮かび上がるところが見事です。
おみくじクッキーが出てきますが、これAKB48のおかげで、フォーチュン・クッキーという名称が定着しましたね。
探偵士はシャーロック・ホームズ・ジュニア。

「カバは忘れない」は、動物園の延長がカバとともに殺された事件。ザイールからきたという秘書と連れてこられた呪術師が花を添えます(?)。ダイイング・メッセージにひねりが加えられているのがミソ。これは史上初の使い方ではないでしょうか?

「曲がった犯罪」は、「曲がった男がおりまして」で始まるマザー・グースをモチーフに、現代アート(と呼んでいいのでしょうか? 前衛というのか、尖りすぎて一般人の理解を超えているものです)の芸術論を背景にした殺人事件が描かれます。歌に則った一連の手がかり(猫やコイン)がすごい。
S・S・フォン・ダークというペンネームで『《にやにや笑い(グリン)》殺人事件』とか『蔵相殺人事件』を書いたという美術評論家ウィラード・カールトン・ライトが笑わせてくれます。

「パンキー・レゲエ殺人」は、「そして誰もいなくなった」 (クリスティー文庫)のあのマザー・グースが使われています。この使い方がナイス!
探偵士は、シャーロック・ホームズ・ジュニアに代わって、ヘンリー・ブル博士。密室講義もしてくれます。ラストの決着のつけ方も、フェル博士の案件に似たようなのがあった気がするのですが、思い出せません。(ポワロにもあった気がしますが)

少々凝りすぎの感もある作品集ですが、ミステリで凝りすぎというのは欠点ではなく美点。
とても楽しいシリーズです。


<蛇足1>
「あたしが子供の頃、セント・メアリ・ミードのおばあちゃんから聞いたマザーグースの唄。」(128ページ)
セント・メアリ・ミード!
このシリーズにいつかミス・マープル風の人物が出てくるのでしょうか?

<蛇足2>
「三人で動物がいっぱいいる中で見張ってて、狩りをしてるみたいでしょ。」
「夜どおしひと晩 狩をして」(どちらも128ページ)
どちらも名詞ですが、かたや「狩り」かたや「狩」。
2番目の方は童謡の歌詞ということなので、字配りが違うのかもしれまえんね。

<蛇足3>
「ルネサンス以降、いや、遠く古(いにしえ)のギリシアの頃からつい最近まで、ヨーロッパの人体彫刻は等身大を避けてきた。なぜなら、カソリックの考え方でいけば、神が人間を創ったわけで、その人間が人間そっくりなものを創るというのは、創造主に対する冒瀆になってしまうからだ。」(227ページ)
なるほど。そうだったのですね。

<蛇足4>
「パリ警察の著名な捜査官がある犯罪捜査のためにこの国へ渡ってきて、こんな言葉を残している──『犯人は創造的な芸術家だが、探偵は批評家にすぎぬ」とね」
「その科白、ギュスターヴ・フローベールからのいただきじゃないのか?」と、ライトが批評家らしく注釈を加えた。「フローベール曰く──人は芸術家になれなかったときに批評家になる。兵士になれなかった者が密告者になるように」(254ページ)
作中でも触れられていますが、一つ目のセリフは、ブラウン神父の中に出てくるセリフですね。(一つ目のところの二重括弧が通常のカギ括弧で閉じられているのは誤植でしょうね)
フローベール起源説については注釈も付け加えられています。おもしろい。




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