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ヴェルサイユ宮の聖殺人 [日本の作家 ま行]


ヴェルサイユ宮の聖殺人

ヴェルサイユ宮の聖殺人

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/01/21
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
1782年5月──ブルボン朝フランス王国が黄昏を迎えつつある頃、国王ルイ16世のいとこにして王妃マリー=アントワネットの元総女官長マリー=アメリーは、ヴェルサイユ宮殿の施錠された自室で刺殺体に遭遇する。殺されていたのは、パリ・オペラ座の演出家を務めるブリュネル。遺体は聖書をつかみ、カラヴァッジョ「聖マタイと天使」に血文字を残していた。そして、傍らに意識を失くして横たわっていたのは、戦場帰りの陸軍大尉ボーフランシュだった──。マリー=アメリーは集った官憲たちに向けて、高らかに告げる。「この方の身柄を預けて下さいませんこと? 私のアパルトマンで起きた事件です。こちらで捜査しますわ。無論、国王陛下の許可はお取りしますからご安心下さい」「俺は助けて欲しいと一言も言ってない! 」かくして、奇妙な縁で結ばれた、才女気取りのやんごとなき貴婦人と第一容疑者のボーフランシュ大尉は、謎多き殺人事件に挑む。


2022年9月に読んだ11冊目です。
単行本で読みました。
第10回アガサ・クリスティ―賞の優秀賞。
このときの受賞作はそえだ信の「掃除機探偵の推理と冒険」 (ハヤカワ文庫JA)(感想ページはこちら


18世紀、フランス革命前夜の王族、貴族階級を舞台にした歴史ミステリです。

国王のいとこであるマリー=アメリーが、殺人現場にいた陸軍大尉ボーフランシュの身柄を預かる、という冒頭の展開に驚いてしまいますが、次第にマリー=アメリーならやりかねないと納得できてしまいます。
マリー=アメリーとボーフランシュ二人が組んで事件の真相を追っていくのですが、この二人のやり取りがおもしろい。

この場面でも明らかなように、マリー=アメリーが現代風の性格をしている点を興ざめに思う方もいらっしゃるのではと思いますが、このように現代風の意匠が盛り込まれているのも、犯人がパターン通りで見え見えであるのも、この物語の中ではかえって趣深いように感じました。
犯人がパターン通りで見え見えといっても、さまざまな手がかりちりばめられていて好印象です。
デビュー作にありがちなことですが、要素盛り込みすぎ、という感もなくはないですが、舞台背景が豪華絢爛なので、これくらいでよいのかもしれません。
なにより堂々とした筆運びが素晴らしい。

応募時のタイトルは「ミゼレーレ・メイ・デウス」
Miserere mei, Deus。「神よ、我を憐れみたまえ」(262ページ)
システィーナ礼拝堂の歌手アッレーグリが作曲、歌詞は詩編第五十篇をそのまま用いているそうです。カストラートが歌い上げるシーンもありますが、クライマックスでの使われ方が印象的です。

次はどういう作品を読ませてくれるのか、とても気になる作家です。


<蛇足>
「凝った刺繍が施された上着とジレから、かなりの洒落者と見受けられたが、穏やかな笑みを湛えた端正な顔立ちに反し、有無を言わせない威圧感を放っている。」(64ページ)
恥ずかしながら、ジレがわかりませんでした。

<蛇足2>
「二人は熱いワイン(ヴァン・ショー)で身体を温めることにした。」(162ページ)
ヴァン・ショーという語が当てられている ”熱いワイン” は日本ではホットワインと言われることが多いように思います。
フランスが舞台ですので、ホットワインという言い方を避けられたのでしょうね。

<蛇足3>
「一度嫁した王族は、たとえ親や兄弟が今際の際であろうとも、二度と故郷の土を踏むことは許されない。離縁されるか、嫁いだ国が無くなるか。不名誉な理由以外には。」(162ページ)
こういう掟があったのですね。
やはり王族・貴族というのはかなり不自由そうです。

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