暗い越流 [日本の作家 若竹七海]
<カバー裏表紙あらすじ>
凶悪な死刑囚に届いたファンレター。差出人は何者かを調べ始めた「私」だが、その女性は五年前に失踪していた! (表題作) 女探偵の葉村晶は、母親の遺骨を運んでほしいという奇妙な依頼を受ける。悪い予感は当たり……。(「蝿男」) 先の読めない展開と思いがけない結末──短編ミステリの精華を味わえる全五編を収録。表題作で第66回日本推理作家協会賞短編部門受賞。
読了本落穂拾いです。
2016年12月に読んでいます。
「蠅男」
「暗い越流」
「幸せの家」
「狂酔」
「道楽者の金庫」
の5話収録の短編集で、表題作である「暗い越流」は日本推理作家協会賞の短編部門を受賞しています。
最初の「蠅男」と最後の「道楽者の金庫」は葉村晶もので、間の3編はノンシリーズ。
「蠅男」のオープニングは、葉村晶が蠅男に階段から突き落とされるシーン。
悪霊が出るという噂の僻地にある洋館に遺骨を取りに行く、という依頼なのですが、相変わらずひどい目にあっています(笑)。
悪霊と蠅男をこうやって結びつけるのですね。
「暗い越流」は死刑囚へのファンレター、しかも死者から届いたものという魅力的な謎です。
ミステリとしてもかっちり作られているのですが、主人公である編集者が事件の真相をつきとめた後に訪れる悪意(と言ってはいけないのかもしれませんが)がポイントだと思いました──故に、葉村晶シリーズにしてはいけないものですね。
個人的に、この作品には作者の意図を読み切れていない箇所があるので(協会賞の選評で北村薫が指摘していることと同じなのではないかと思います)、いつか読み返さねばと思っています。
ひょっとしたら、日本推理作家協会賞の受賞の言葉で
「わたしの思い描く理想のミステリ短編には、三つの必須条件があります。五十枚から七十枚ほどの長さに最低でも二回のツイスト&ターン、読者にはそれと気づかれないけれども印象的な伏線、そして、世界がひっくり返るほどの強烈なフィニッシング・ストローク。」
と述べられているので、ツイストというだけのことなのかもしれませんが。
「幸せの家」は、女性編集長が消えた謎を編集者が追うという話で、ここに出てくるライターの南治彦は「暗い越流」にも出てきます。
こちらも「暗い越流」同様、事件を解いた後に大きなポイントが待ち受けています。
「狂酔」 は、教会で開かれている集会での独白という形式をとっています。教会が運営している児童養護施設<聖母の庭>にまつわる思い出話という風情が、次第に変わっていき......
ミステリのある古典的なテーマがすっと立ち上がってくるところがポイントですね。
「道楽者の金庫」はふたたび葉村晶もの。
バイト先の書店<MURDER BEAR BOOKSHOP>に遺品整理人から持ち込まれた蔵書査定のお仕事、だったはずが、やはり面倒ごとに巻き込まれる、怪我もする(笑)。
謎めいた金庫に、その鍵となるこけし、という意匠がありそうな、なさそうなというラインを攻めてきていて楽しい。
最後に金庫の中身が明かされて(そしてそれはおそらく大抵の読者の想定通り)終わるのですが、その結果葉村晶がつきとめることにゾクリとします。
「暗い越流」、「幸せの家」 、「道楽者の金庫」といった、物語が一応の決着を見せた後にもう一コマつけ足されている作品群が印象に強く残りました。
いわばつけ足し部分が全体を飲み込んでしまうような、そんな居心地の悪さが味わい深いです。
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