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十日間の不思議 [海外の作家 エラリー・クイーン]


十日間の不思議〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

十日間の不思議〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2021/02/17
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ぼくを見張ってほしい──たびたび記憶喪失に襲われ、その間自分が何をしているのか怯えるハワード。 探偵エラリイは旧友の懇願を聞き入れて、ハワードの故郷であるライツヴィルに三たび赴くが、そこである秘密を打ち明けられ、異常な脅迫事件の渦中へと足を踏み入れることになる。連続する奇怪な出来事と論理の迷宮の果てに、恐るべき真実へと至った名探偵は……巨匠クイーンの円熟期の白眉にして本格推理小説の極北、新訳で登場。


2024年3月に読んだ7冊目の本です。
エラリー・クイーンの「十日間の不思議」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「災厄の町」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら
「フォックス家の殺人」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(感想ページはこちら
に続くライツヴィルものの第3弾。新訳です。

旧訳版を読んだのは確か中学生の頃。ダルく、つまらないな、という感想だったという記憶。
今般新訳で読み直して、印象が大幅に変わりました。
ライツヴィルものはみんなこんな感じですね。面目ない。
とても面白く読みました。

この作品はいわゆる「後期クイーン問題」の象徴的作品です。
ミステリの構造としての問題は難しいのでおいておくとして(←こらっ)、苦悩する名探偵というのは、解説でも触れられているように「ギリシャ棺の謎」 (創元推理文庫)(感想ページはこちら)でも扱われていましたが、とても印象的です。
なにしろこの作品では、エラリー・クイーンは探偵廃業宣言をするのですから。

と、面白く読めるようになったのですが、未だに不満も残ります。
それは、やはり犯人の計画がバカバカしく思えてしまうこと。
この犯人、あるプランに沿うように(沿うように見えるように)まわりを自在にあやつり、あまつさえエラリー・クイーンまで手玉に取って犯行を進めていく、という非常に奸智に長けた設定になっています。
このプランがねぇ......ミステリ的には ”あり” だとは思いますし、こういう稚気は好きなんですけど、やはりねぇ......
また他人をあやつるという性質上、かなり危なっかしい犯行の連続です。特にエラリー・クイーンが絡むところは相当危なっかしい。451ページで絵解きされる場面など、そんなにうまくいかないだろうな、と思ってしまう。
好意的に捉えると、エラリー・クイーン向けのプランだとはいえると思いますし、エラリー・クイーンがそのプランに箔付けしてしまうというのも皮肉が効いていていいです──だからこその廃業宣言ですから。
それでも、初期国名シリーズのように謎解きに特化したような作風だと受け入れやすかったのかもしれませんが、このライツヴィルものはもっと人間よりな作風になっているので、ちょっと困りましたね。
(といいながら、この犯人の稚気に乗っかって、「十日間の不思議」というタイトルにしたエラリー・クイーンの稚気はもう好ましいことこの上なしです)

ライツヴィルものとして面白いなと思ったのは、
前作、前々作の「災厄の町」「フォックス家の殺人」は、エラリー・クイーンは成功を収めるのだけれど、真相を伏せたが為に世間的には失敗と見られる事件であったのに対し、この「十日間の不思議」は逆に、世間的には大々的な成功として持てはやされるような状況になったのに、(最終的には犯人を突き止めたとはいえ)実際には犯人の手玉に取られて失敗を喫していること、ですね──ラストシーンのあと、エラリー・クイーンが真相を世間に暴露するということもありえなくはないですが、作中でその可能性を退けるセリフがありますので、世間的には成功のままとなっていると思われます。
ひょっとしたらこの構図を作るために、「後期クイーン問題」は産み出されたのかも、と考えるのも楽しい。
こう考えると、バカバカしいと思ったプランも、エラリイ・クイーンを陥れるための(犯人ではなく)作者の企みの反映なのかもしれません。

”問題作” として不朽の名作だな、と感じました。


<蛇足1>
「きみはぼくを心腹の友だと思っている。」(31ページ)
”心腹の友” あまり見ない表現ですね。
知らなくても見ただけでぱっと意味がわかる表現です。

<蛇足2>
「どうにも落ち着かないのは、ヘイトとフォックスの事件を首尾よく解決したのに、事件の性質上、どちらも真相を伏せるしかなく、そのためエラリイのライツヴィルでの活躍は世間からはなはだしい失敗と見なされていることだった。」(53ページ)
「災厄の町」「フォックス家の殺人」を振り返ってのコメントですが、この「十日間の不思議」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)も含め、ライツヴィルものはエラリイ・クイーンの(表面上)失敗の記録なのかもしれませんね。
エラリー・クイーン、損な役回りですね。かわいそうかも。自業自得!?



原題:Ten Day's Wonder
作者:Ellery Queen
刊行:1948年
訳者:越前敏弥





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