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プリンセス刑事 生前退位と姫の恋 [日本の作家 喜多喜久]


プリンセス刑事 生前退位と姫の恋 (文春文庫 き 46-2)

プリンセス刑事 生前退位と姫の恋 (文春文庫 き 46-2)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
女王統治下の日本で、王位継承権を持つプリンセス・白桜院日奈子は刑事になった。コンビを組む芦原と、テロ事件の解決を目指す日奈子に、時を同じくして王家の問題が降りかかる。健康問題を抱えた現女王が思案する生前退位を巡って王室内は侃々諤々。日奈子たちは事件と問題を解決できるのか。書き下ろしシリーズ第二弾。


2024年6月に読んだ最初の本です。
喜多喜久の「プリンセス刑事 生前退位と姫の恋」 (文春文庫)
「プリンセス刑事」 (文春文庫)(感想ページはこちら
に続くシリーズ第2弾。
第3弾である
「プリンセス刑事 弱き者たちの反逆と姫の決意」 (文春文庫)
まで今のところ出版されています。

タイトルで堂々と謳われていますが、女王の生前退位が扱われます。
ただ、これ作品中ではしばらく伏せられているので、タイトルで明かしてしまったのはどうなのかな、と思わないでもないのですが......一方で、ストーリー的には生前退位は重要な位置を占めますので、タイトルにするにふさわしいとは言えます。

今回取り扱うのは、テロ(と思われる事件)。

北海道と思われる地域が別の国として存在しており、その国の名前がエミシ王国。
日本で起きた王女襲撃事件をきっかけに80年ほど前に日本がそのエミシを攻め込んだことがある、という衝撃の設定になっています──当時日本は軍人主体の政権だった、ということになっていて、エミシとの戦争に勝利したあと、世界から反発を受けて孤立し、クーデターの結果女王による統治が復活した、と。

前作「プリンセス刑事」感想で、
「王族という設定を導入したことで、無理筋な、あるいは斬新な捜査方法をとることができるようにも思えますので、そういう方向でシリーズが展開されるとおもしろいかもしれませんね。」
と書いたのですが、テロ事件とあって、そういう手法がとりやすいかなとも思ったものの、実際には白桜院日奈子の存在を安直に、便利に使っているだけのように感じてしまいました。
──「それならば、私を通してください。王族特権を発動することで、情報開示に掛かる手順を省略できます」(195ページ)などというセリフは象徴的かと。しかし、この日本の体制、どうなっているのでしょうね?
生前退位をめぐる議論についても、いわゆる有識者は出てこずに、もっぱら王族内の会話のみで決せられそうな気配も漂ってきますしね......

本来であれば組織的対応をすべきところをすっ飛ばして、自らに都合よくデータを集めることが多々あるかと思えば、爆発物の分析に当たっては、素人の分析に頼っていて、???となってしまいました。
「爆薬の出処は捜査本部でもまだ特定できていない。もしそれが本当だとすれば、警察にとっては非常に大きな情報になる。ただ、民間人に負けたという屈辱を背負うことにはなるが。」(206ページ)と、この素人が成し遂げる分析が捜査上とても重要な要素となることが書かれていますが、この程度の分析であれば、警察で十分対応できるように思いますし、警察が無理でも軍隊は可能だと思います(現実の日本ではないので、自衛隊のような組織ではなく、本物の(?) 軍隊があるようです)。
このあたり、架空の国の設定があまり生きていないのかな、という気がしました。

同時に、この素人の設定は、日奈子の従姉妹真奈子のクラスメイトの兄ということになっており、王室を巡るストーリーに、側面から彩りを添えるものであり、あながち無駄な設定というわけでもないのが、難しいところ。

王族という設定が、プラスでもあり、マイナスでもあり、というところでしょうか。

架空の日本という設定を掲げているとはいえ、隣国との関係が絡むテロ事件にせよ、タイトルにもなっている生前退位をめぐる問題にせよ、とても扱いづらそうなテーマを取り扱っていてすごいな、と思いました。
最後に持ってきている結末も、(実際のことであったとしたら)相当に激しい議論を呼びそうなもので、これを軽いタッチのエンターテイメントに仕立て上げた作者にびっくりさせられました。


<蛇足1>
「黒井と白河という二人の刑事コンビが事件を解決していく筋立てで、彼らは頻繁に犯人との銃撃戦を演じていた。」(62ページ)
このシリーズでちょくちょくでてくるテレビドラマ『二人は刑事(デカ)』についての下りですが、色のついた名前の刑事といったら、滝田務雄田舎の刑事シリーズではないですか! って、誰も共感してくれないかも(笑)。

<蛇足2>
「直斗が生活しているリビングに入り、『ここがコクピットか』と光紀は言った。『いや、実に面白いね。なんというか、人間のたくましさや生命力を感じるよ』」(112ページ)
直斗が住んでいる十帖のワンルームを訪れた、白桜院日奈子のお兄さま、白桜院光紀のセリフです。
失礼なと思わないでもないですが、宮殿に住んでいるようなお方の感想としては妥当かもしれませんね。
宮殿の中でパーソナルスペースがどれほどあるのか、少々気になったりして。

<蛇足3>
「胡散臭いのは確かだが、こちらのデメリットは少ない。捜査情報の漏洩リスクを背負うくらいだ。」(158ページ)
捜査情報の漏洩のリスクは、デメリットとして少ないとは言えないのでは(笑)?
相手は、おそらく王族に繋がる血筋だろう、という備えはありますれけど......





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