ふたりのノア [日本の作家 あ行]
<カバー裏あらすじ>
心理学者の立原健人は、自らの心の内に巣くう「モンスター」の欲望が命ずるまま、次々と若い女性を殺していく。周到に計算された「完全犯罪」──。だが、警察の捜査が彼のもとへと迫り来る。逮捕に怯える理性と、次なる獲物を求めてやまない狂気・・・・・。追い詰められた健人が迎えた驚愕の結末とは? ネット犯罪を背景に、現代社会の病巣を鋭く抉る心理サスペンス。
2024年10月に読んだ最初の本です。
新井政彦の「ふたりのノア」 (光文社文庫)。
「ユグノーの呪い」 (光文社文庫)で第8回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞を受賞した著者の第2作。
「ユグノーの呪い」 がかなり毛色の変わった独特の作品で、割と楽しく読めたので、第2作である「ふたりのノア」 (光文社文庫)も文庫化されてすぐ購入したものの(単行本のときのタイトルは「ノアの徴」)、例によって積読まみれに埋れさせてしまいました。
連続殺人犯の視点というのは意外と珍しい視点かと思いますが、その立原健人が心理学者というのがポイントですね。
妻の木綿子は、前夫・加瀬孝明とともに<イノセント・セラピー>という画期的な心理療法を理論化し、技法化した高名な心理学者、というのも重要。
<イノセント・セラピー>とは、家族や人間関係や性の問題で悩む現代人に、子供時代の自分と対話させることで、心の深いところでの癒しと再生を体験させようというもの、と説明されています。
ノアの方舟のノアは神の預言を聞くことができたが、それはノアの心が無垢だったからだ、というのを敷衍し、「自分の心の奥に隠されているイノセント・チャイルドの声を聞くときも、これと全く同じである。現在の自分を形成しているものをすべて取り払い、そうなる前の自分を探しもとめて時のトンネルを歩いていく。心の奥へ、ひたすら奥へ歩いていくと、今まで聞き取ることができなかった声が聞こえはじめる。見えなかったものが見えはじめる。」という説のようです。
健人が治療(?)に当たっている前島弘樹は二重人格で、ノアという人格を内在させていた。弘樹は十年前の三歳のとき、父親から児童虐待を受けており、当時、木綿子と加瀬孝明の面談を受けていた。
健人は、”ノアとは、弘樹の潜在記憶のなかの加瀬孝明である。”という仮説を立て、自らの犯罪の目くらましにノアの存在を利用しようとする。
慎重に犯行を進めていく様子が興味深い。
叙述の順番がおそらく恣意的に設定されていて混乱するのですが、ライブチャットを利用して被害者を求めるところはスリリングです。(ただ、この種の物語の場合やむを得ないのかもしれませんが、性的なところに焦点が当たりすぎているように思われ、個人的には、執拗に感じてしまいました。)
警察の捜査の環がどんどん健人に向けて絞られていっているのが感じられるなか、どうしても逃すことのできないターゲットとして、義理の娘である明美目指して、健人の計画が進んでいく。
クライマックスシーンは、健人が思うほど意外ではなかったですし、健人宛に送られてくる謎のメールの発信人の正体も意外感はありません。
それでも、それらを受けてのエピローグは、さまざまな要素がまとめ上げられていて、なるほどなあ、と思えました。<イノセント・セラピー>などの心理学的なパートも、エピローグにしっかりと活かされています。
性的な要素をもっと抑え気味にしてほしかったな、とは思うものの、変な作品(念のため、褒め言葉のつもりです)を読む楽しみを感じた読書体験でした。
タグ:新井政彦
2024-11-02 18:37
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