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紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿 [日本の作家 ま行]


陸の孤島の司法書士事件簿 紙一重 (双葉文庫)

陸の孤島の司法書士事件簿 紙一重 (双葉文庫)

  • 作者: 深山 亮
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2018/02/14
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
日本一の過疎の村へ訳あって落ちてきた司法書士の久我原。村唯一の法律家となった彼のもとを、遺産相続や家庭問題を抱えた依頼人が訪れる。ところが田舎ならではの因習や濃密な人間関係に翻弄され―はたして人々の苦悩を解決できるのか!?人情味あふれる連作ミステリー。


同じ作者の「読めない遺言書」 (双葉文庫)が評判よさそうだったので読んでみようかな、と思ったら品切(絶版)。
代わりにこちらを。
(しかし、帯に好評既刊と「読めない遺言書」を紹介しておいて、絶版にするなんて! この「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」が文庫化された2018年2月にはまだ残っていたのかもしれませんが、絶版にするようなら紹介しなけりゃいいのに)
作者の深山亮は、本書「紙一重 陸の孤島の司法書士事件簿」に収録されている「遠田の蛙」で第32回小説推理新人賞を受賞してデビューしています。本書の主人公同様、司法書士をされているようですね。
個人的な印象ですが、小説推理新人賞という賞は、”推理”の部分よりも”小説”の部分に重きをおいた作品が受賞してきているような感じがしています。
帯に「人情ミステリーの傑作」と書いてあるように、本書も、ミステリとしての切れ味で勝負するのではなく、”人情”に比重をおいて勝負する作品です。

第一章、第二章と章立てになっていますが、
「遠田の蛙」
「深淵」
「マドンナの後ろ髪」
「孤島の港」
「境界」
「紙一重」
の6編収録の短編集です。

単行本の時のタイトルは「ゼロワン 陸の孤島の司法書士事件簿」で、ゼロワンというタイトルの作品はありませんが、
「法律家が一人もいないか、いても一人だけの司法過疎地を『ゼロワン地域』と呼んだりする」(12ページ)
と書かれているところからきています。
「この場合の『法律家』に司法書士が含まれるかどうかは微妙なところだ」
と続けて書かれているあたりに、司法書士の置かれている状況がうかがわれます。

しかし、どういう事情があったのか詳しくはわかりませんが、要するに町の事務所で疲れてしまった、という感じで、司法書士はここまでの過疎地には来ないでしょうねぇ。収入が途絶えてしまいますから。
ましてや連作にするほどの事件が起こるとは...いくら因習の田舎といってもねぇ...(もっとも第一話を新人賞に応募した段階ではシリーズにしようとは思っていなかったでしょうけれど)
過疎地に司法書士ということなので、なにか事務所の義理があって、とか特段の事情があって主人公の久我原流されてきたのか、とあらすじを読んで思っていたのですが、そうではなく自分で選んでということだったので、読みだした段階で、あまりの非現実的な設定に正直ちょっと期待がしぼんでしまったんですよね。

小説推理新人賞受賞作である第一話「遠田の蛙」を読み終わっての感想は、ミステリとしては期待通りしょぼい(失礼)。一方、人情話としては、まずまずなのかな、と思いました。
ミステリ的にはあまりにも手垢のついた真相に嫌気がさしてもおかしくないところですが、一方で、こういう事件(?) はかなり決着をつけるのが難しい題材なのに、見事な着地といってもいいところにたどり着きます。
言ってみれば、今までのミステリが置き去りにしていたところに光をあてているとも言えますね。なかなか狙いはおもしろい。

第二話(目次に従えば第二章)「深淵」は、あまりにも世知辛くてどっきりしますが、よくある話といえばよくある話ですし、人情の裏には(横には?)こういう世界がある、ということですよね。

第三話「マドンナの後ろ髪」は、さすがに過疎地舞台を続けるのは無理があったのか、主人公が切り替わり、町の話となります。
この話がいちばんお気に入りですね、本書の中では。
群馬司法書士青年会に所属する女性司法書士の視点で、彼女自身の事件ともいえる題材です。

第四話「孤島の港」は、久我山に視点が戻って、過疎の村・南鹿村に道の港ができることになり、土地買収で久我山のところに仕事が。
陸の孤島である過疎の村に道の港ができるので「孤島の港」というタイトルなんですが、いや、それは「道の駅」でしょ。無理してつけたタイトルには感心できないなぁ...
久我山の幼少期の記憶を重ねて工夫はしてありますが、ううん、回想の殺人としてはやはり平凡と言わないといけないのでしょうねぇ。

第五話「境界」は文庫化にあたって新規収録されたようですが、視点がまた久我山を離れて、町の司法書士会の重鎮(元群馬司法書士会会長)の視点となります。息子の葬式で幕を開けます。
息子・賢二は15年かけても司法書士試験に合格できておらず、自殺で人生を閉じた。息子の机にあった、19723という数字。
司法書士ならではの事件の方は、まさに司法書士ならではの解決のきっかけを経て、面白く感じました。一方で、19723という数字がそれに絡むのはすごいなぁ、と思ったものの、あまりすっきりした感じはしませんでしたね...このようなケースで、19723と書きますかねぇ...書かないとは言い切れませんが。
ただ、これまた人情話としては難しそうなところを親子関係と夫婦関係を交差させ、うまく処理していて感心しました。

最後の「紙一重」では、久我山は法律相談のために町までやってきています!
なるほどなぁ、と感心できるトリックがつかわれていますが、地味なトリックなので小説にするのがすごく難しそうです。さすが司法書士、という仕上がりですね。
第三話「マドンナの後ろ髪」に出てきた印象的な司法書士さんが出てくるのも〇です。

全体として、やはり地味、ですねぇ。司法書士だから、というわけではないでしょうが...
だから「読めない遺言書」も絶版になっちゃったのでしょうか。
この作品自体ではミステリとして取り立てていうほどの部分はないように思われますが、それでもおやっと思えるところは何か所もあり、人情話に落とし込む手腕は優れていますので、ミステリの比重を大きくしてくれると、すごく楽しみな作家になるような気がするのですが...
でも、こういう作家は、さらっと時代小説とか、普通の小説に行ってしまったりするんですよね...



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モノグラム殺人事件 [海外の作家 は行]


モノグラム殺人事件 (クリスティー文庫)

モノグラム殺人事件 (クリスティー文庫)

  • 作者: ソフィー ハナ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 新書


<裏表紙あらすじ>
ポアロが夕べを過ごしていた珈琲館に、半狂乱の女が駆け込んできた。誰かに追われている様子。事情を聞くと、女は自分は殺される予定なのだと震えながら答える。同じ頃、近くのホテルでは三つの死体が発見されていた。それぞれの口には同じカフスボタンが入れられていて……。〈名探偵ポアロ〉シリーズ、公認続篇。


ポアロ(個人的にはポワロと書きたい...)の公認続編。なんという魅力的な 
遅れ馳せながら、読みました(奥付によると文庫化は2016年9月です)。

まあ、しかし、なんだか読みにくかったですね。
作者が悪いのか、訳者が悪いのか、わかりませんが。
文章があまりこなれていないので、訳のせいという部分もかなりありそうに感じましたが。
語り手が刑事、というのもいただけないなぁ、と感じました。解説の数藤康雄によれば年代的にヘイスティングス大尉は使えなかったようですが、やはりヘイスティングスに出てきてほしかったですね。ヘイスティングスでなくても刑事は避けたほうがよかったのではないでしょうか? クリスティの世界なら。しかも、刑事のトラウマみたいなのが繰り返し出てくるのはやりすぎというものです。不要です。
また、お話そのものの方も、本家クリスティーに似たテイストを求めちゃいかんのでしょうが、期待外れでした。
なによりもクリスティにしては、プロットが複雑すぎます。
複雑にしすぎたせいで、あいまいになっちゃっている点もあったような。
たとえば、あらすじでも触れられているカフスボタン。被害者の口の中で置かれていた位置が一人だけ違うのはなぜか、とポアロがしつこく、しつこく拘って(まさに字義通り拘って)取り上げたのに、解決ではさほど...あれ? どうなったのかな? こんなに強調したのなら、少なくともミステリ的にはおおっと思わせるような、あるいはニヤリとさせるような解釈を用意しておいてくれないと、がっかりします。
ここまで複雑に入り組ませてわかりにくくしなくても、クリスティならどーんと背負い投げを食らわせてくれたはず。真相を読者に掴ませないように、せっせせっせと複雑に複雑にしてしまったんでしょうねぇ。
そういう郷愁(?)を求めるのは間違いなんでしょうけどね。でもやはり公認続編なんていうと、期待してしまうではないですか。
(ちなみに、あまりパスティーシュのないポアロ物が公認という形で今頃出てきた背景が数藤康雄の解説に書かれていますが、なんか切ないですねぇ。泉下のクリスティ、まったく喜んでないのではないでしょうか。)

とはいえ、複雑すぎて損をしていますが、意外と(失礼)謎解きにクリスティらしさを盛り込もうとした痕跡はあるんですよね。
そういう面での長所を挙げておくと、まずなにより、謎解きの根幹となる部分が、クリスティのように人間関係の逆転(ネタバレに限りなく近いので色を変えて伏字にしています)をキーにしているところ。
これには満足! ちょっと現代風にどぎつくなっているのは気になりましたが、こういうリスペクトはいいですね!
また小技ですが、あらすじにも引用されている珈琲館での冒頭のシーンでも、クリスティならでは、というか、クリスティが得意としたひねり(小技)が加えられていて、冒頭のシーン(16ページ)でも堂々と、また途中(272ページ)にもはっきりとあからさまにヒントが出されているのですが、333ページでさらっと説明されると、やはりにやりとできました。

ということで、我ながらネガティブなコメントが勝っているように思いますが、ポアロ物だと思わなければ(まあ、名前がポアロで何度も出てくるんでそう思わないのもなかなか骨が折れるんですが)、謎解きミステリとしては面白かったと思います。
クリスティらしさを期待して読むと欠点だと感じてしまう複雑なプロットも、現代の謎解きとしてはそれなりに味わい深いです。



<蛇足1>
ここは翻訳するのが非常に難しいところだと思うので、本書の翻訳がまずい例として挙げるわけではないのですが、
「あなたの目は……頭の良さ以上のものを見せています。賢さです。」(245ページ)
というのはなんとかならなかったのか、と思いますね。
原文をあたっていないのにこんなことを言うのはいけないのかもしれませんが、「頭の良さ」と「賢さ」という訳語の対比ではまったく伝わらないのでは?

<蛇足2>
途中章題にもなっている「ノックせよ、誰が戸口に現れるか」。
ポアロのセリフで、『「ノックせよ、誰が戸口に現れるか」というゲーム』とされていますが、ひょっとすると、これ、ノックノック・ジョークのことではないでしょうか?
英語圏では非常によく知られたもので、wikipedia にリンクを貼ったのでそちらの説明をご覧いただければ詳しいですが、
Knock! Knock!
Knock Who?
に続けて、英語の駄洒落をいうもので、最初の Knock Knockは、ノックせよ、という命令文というより、むしろ日本語ではコン、コンと叩くノックの音=擬音語なんじゃないかという気がします。
高校の英語の教科書に出てきました...

<蛇足3>
「冷めた紅茶! 考えられません(デギュラス)」(109ページ)
というポアロのセリフににやりとしてしまいました。
ポアロの発言なのでこれはベルギー人のセリフということになりますが、イギリス人はいまでもこういうことを言う人多いです。アイス・ティーもいまやふんだんに売ってはいますが。
対する冷めた紅茶を飲むのは、イギリス人の刑事さん。ほんの20年ほど前にはアイスティーなどほとんど存在しない国だったことを考えると、舞台となっている年代的にはかなりの変わり者、ということになりますね。


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キネマの天使 レンズの奥の殺人者 [日本の作家 赤川次郎]


キネマの天使 レンズの奥の殺人者

キネマの天使 レンズの奥の殺人者

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2017/12/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


<裏表紙帯あらすじ>
Q.スクリプターとは?
A.映画の撮影現場で、フィルムを繋ぐときに矛盾が出ないように、役者の動き・衣装など映像に写るすべてを記録&管理する係。
スクリプター・東風亜矢子。ベテランの多い映画業界ではまだまだ若手。人気映画監督が率いるチーム〈正木組〉で、現場全体を冷静に眺めることができるスクリプターゆえに、トラブル解決に奔走する日々だ。カメラマン、録音技師、照明……職人気質のスタッフたちと、強烈な個性をもった役者たちと共に取り組む新作撮影もこれからが佳境――という最中、アクションシーンに欠かせないスタントマンが刺殺されてしまう。一体誰が、何のために!?
ニューヒロインにして名探偵は、
映画について何でも知ってるスクリプター!


単行本です。航空便で持ってきた本です。
帯に周防監督が
「物語と登場人物を知り尽くすスクリプター。
気をよく見るが、森を忘れない――
細部に目を配りながら、俯瞰も怠らない。
なるほど、探偵にピッタリだ!
とコメントを寄せられていて、読んでみるとスクリプターは確かに探偵役にはうってつけのポジションだなぁ、と思いました。

映画界、芸能界、というのは赤川次郎でおなじみの世界ですし、テンポ早く次々と起こる出来事、大勢の登場人物を手際よく捌いていくところは、安心して浸れる世界でした。
肝心のスクリプターの仕事が、言葉でいちいち説明されるのではなく、亜矢子の行動などを通して浮かび上がってくるあたりはさすがベテラン作家。

映画への思い入れも感じられます。
『でも、ハリウッドのように、巨大なマシンのような「CG映画自動製造機」になってしまうのもいやだ』(139ページ)
という記述があります。主人公亜矢子の感慨なのですが、作者:赤川次郎の主張でもありますね。
「CG映画自動製造機」ですか。なかなか痛烈なコメントですね。ただ「CG映画自動製造機」であったとしても、ハリウッド映画にはハリウッドの映画のよさがあると思うので、ハリウッド映画好きとしてはちょっと複雑な気分ですが、こういうところはもっと出てきてもいいのかもしれません。

また、
「業界の言葉で『笑う』とは、邪魔なものを片付ける、という意味である」(167ページ)
と業界ならではの知識をヒントにするところがありますが、せっかくこういう舞台と探偵役・登場人物なので、こういう部分をもっともっと盛り込んでくれると面白いのに、と思いました。

ただ、ミステリとしては、うーん、この動機はいくら映画界、芸能界が狂気の世界(失礼)といっても、納得できるレベルを超えちゃってる感がありますね。
<ちなみに、帯の中江有里さん(女優・作家)のコメントに「映画という美しき夢と狂気の世界。」というのがあります>
この動機を前提にするなら、犯人の人物像をもっと途中でも色濃く出しておく必要があったのではないでしょうか?

最後に...
本そのものではなくて、折り込みのチラシ(講談社2017年12月の新刊案内)に、
「クランクアップまでに謎を解け
ニューヒロインはスクリプター(記録係) 新シリーズ堂々開幕!」
と書いてあって、びっくりしました。
あれ? 「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」に続いてまたまた新シリーズですか... なんと執筆意欲旺盛なこと。それはそれでファンとしては喜ばしいのですが...
ただでさえ赤川次郎はシリーズが多いのに、また...
「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」感想にも書きましたが、いつもの赤川次郎節、といいたい感じの話でして、正直新シリーズとして打ち出す必然性があまり感じられません。このシリーズならでは特色をどう出していくかが問われていくので、このシリーズについても、そのあたりを気にしながら読み進めていけたらと思います、というところです。

<蛇足1>
「よし、今度このラーメンチェーンのCMに使ってやる」(152ページ)
と若いタレントを気に入った社長(?) が言うシーンがあるのですが、あまりラーメンチェーンのCMって見ないですよね...知らないだけで、ラーメン屋さんもCMばんばんやっていますか?

<蛇足2>
「私も一流のスクリプターです」(166ページ)
と亜矢子が言うシーンがあるのですが、亜矢子の性格からして自分で一流って、言うかなぁ、とちょっと不思議な感じがしました。

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蕃東国年代記 [日本の作家 な行]


蕃東国年代記 (創元推理文庫)

蕃東国年代記 (創元推理文庫)

  • 作者: 西崎 憲
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/02/28
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
東の海に浮かぶ麗しき小国〈蕃東(ばんどん)〉に暮らす、宮廷の知識や儀礼を司る貴族の家に生まれた青年・宇内(うない)と、その従者を務める十七歳の藍佐(らんざ)。彼らが出合った驚異、あるいは目にすることのなかった神秘が、古典の風格を湛えた瑞々しい(みずみず)筆致で描かれる。幸田露伴、澁澤龍彦らの系譜に連なり、古今東西の物語に通じる稀代の語り手による、繊細な細工物のような五篇の綺譚。


ロンドン勤務にかかる会社の福利厚生策の一つに、日本の本を一定限度で送料会社負担で買える制度があり、それを使って買いました! 海外まで送ってもらうのですが、注文してすぐに届きました。すごい!

ミステリではなく、ファンタジーですね。
創元推理文庫恒例で扉のあらすじも引用します。
これぞ綺譚のなかの綺譚!--唐と倭国の間に浮かぶ麗しき小国〈蕃東(ばんどん)〉。これは蕃東第一の都景京(けいきょう)の、臨光帝の御代に属する物語である。宮廷の知識や儀礼を司る貴族の家に生まれ、気ままに日々を過ごす青年宇内と従者を務める十七歳の藍佐。彼らが出合った驚異、あるいは目にすることのなかった神秘を、怪奇幻想分野の第一人者である翻訳家にしてアンソロジストが鮮やかに描く、天に昇って雨を降らせる竜、海辺の遊興都市で語られる奇談、三つの宝玉を探索する若き日の宇内の旅路ーー繊細な細工物のような五編を収めた、空想世界の御伽草子。

作者の西崎憲は扉のあらすじで「怪奇幻想分野の第一人者である翻訳家にしてアンソロジスト」と書かれていますが、「世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) 」(創元SF文庫)で第14回日本ファンタジーノベル大賞を受賞している、作家でもあります。

世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) (創元SF文庫)

世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) (創元SF文庫)

  • 作者: 西崎 憲
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/04/26
  • メディア: 文庫

「世界の果ての庭 (ショート・ストーリーズ) 」は、新潮社から出ていた単行本で昔読みましたが、細かな断章が連なった作品で、ちゃんと理解できてないというか、わからないことが多いものの、なんだか楽しい読み心地が味わえたので、久しぶりに文庫化されたこの「蕃東国年代記」も読んでみたくなって買うことにしました。

扉のあらすじが要領よく設定を紹介していますが、唐が618年 - 907年であること、日本が倭国とされていることからも、中身の雰囲気的にも、時代背景は日本でいうと平安時代くらいでしょうか? 舞台となっている蕃東は、位置的には、なんとなく沖縄か台湾あたりのような気もしますが、文化的あるいは気候的な雰囲気は大きく異なっているようで、日本が近い感じですね。
「雨竜見物」
「霧と煙」
「海林にて」
「有明中将」
「気獣と宝玉」
の5つの物語が語られます。

冒頭の「雨竜見物」で、蕃東の典雅な貴族生活が垣間見れます。話の最後でさらっと明かされる妖怪(?) 河蜘蛛をめぐる宇内の行動にはびっくりしました。昔を舞台にしたファンタジーで雰囲気だけ味わえればいいか、と思っていたら、こんなのが仕込まれていたとは。
ところが「霧と煙」には、宇内も藍佐も出てきません。貴族らしい遊び舟合わせの後遭難(?)、漂流した舟を舞台にしています。4人の登場人物は、大事なものをくれれば助けてやる、と言われるのですが、平民と呼ばれる人物への「お前、何も持たないことをくれるか、お前、何も持たないことをくれたら助けてやるぞ」という問いかけが意味深で、しかも、他の三人は同意したのに平民は同意しないまま助かるのです! どういうことだろう、と狐につままれたよう。
「海林にて」は藍佐の物語で、公務で訪れた海林の都の遊園・七空楼で居合わせた二人の男と披露しあう面白い話、という設定です。これも最後で予想外の方向のオチがついてびっくりしました。
続く「有明中将」は類い希な美しさを持ってこの世に生まれた有明中将を愛したふたり、志波と東乃の物語。印象に残りましたが、それ以上に、この二人以外にも有明中将のために犠牲になった人はいっぱいいたのだろうな、と思って切ない物語がいっそう強く感じられました。
最後の「気獣と宝玉」は、本の半分ほどを占める長さの中編ですが、かぐや姫(竹取物語)を思わせる婿取譚の枠組みで、宇内が三玉という宝物を探索に行く物語。こういう物語には一定のパターンがあり、この「気獣と宝玉」もパターンに沿って進んでいくのですが、次第にずれていくところが面白かったですね。

こういうファンタジーは、ミステリよりは結構が難しいのでいい解説が欲しくなるところ、この「蕃東国年代記」には米澤穂信の解説がついていて満足できました。


タグ:西崎憲
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女性参政権100周年記念パレード [イギリス・ロンドンの話題]

読書を離れまして...

本日6月10日、女性参政権100周年を記念するパレード(Procession という語がつかわれていますね。ニュースでは March という語も使われていました。日本だとデモと呼ぶかもしれませんね)が、イギリスの4ヶ所で行われました。ロンドンのほか、ベルファスト、カーディフ、エディンバラです。
ロンドンのパレードのゴール地点が家の近くだったので見に行きました。

イギリスでは、1918年2月6日、財産などで一定の条件を満たした30歳以上の女性に選挙権を認める法律が成立したことで女性参政権がスタートしたようです。
(なので、なぜ今日がパレードなのか、ちょっとわかりません...気候がよくなるのを待っていたのでしょうか??)
参政権運動の指導者だったミリセント・フォーセットの銅像も4月24日にパーラメント・スクエア(国会議事堂の前の広場)に設置されました。

DSC_0022.jpg

パレードやデモといっても、堅苦しい感じではなく、女性が集まって行進していくというだけの(だけ、というと失礼な感じがしますが、言いたいことを感じ取っていただければ)、どことなくのどかな感じ。きっちり統制のとれたものでもなく、自由な感じがしました。

先頭がゴール地点に来たところ
MOV_0039_Moment.jpg

楽隊(?) は行進せずに、パーラメント・スクエア近くで演奏していました。
こちらも女性のみ。
画面右側の方の、ホワイト・ホールという通りを行進しています。
DSC_0047.jpg

ちょっと列を遡って、途中を撮影。
DSC_0050.jpg

ちなみに最後尾はこんな感じです。行進の途中でも、気にせず抜け出す人がいっぱいいました。
ラフな感じが伝わればよいのですが。
DSC_0051.jpg

ミリセント・フォーセットの銅像のところも、列から離れた人たち(ゴール後の人もいれば、途中で抜け出した人もいますね、きっと)が集まっていました。
DSC_0046.jpg


<おまけ1>
最近映画にもなったチャーチルの像もパーラメント・スクエアにあるので、撮っておきました。
MOV_0027_Moment.jpg

<おまけ2>
パーラメント・スクエアといえば、国会議事堂=ビッグベンなんですが、現在修理中です。
パーラメント・スクエアから見たらこんな感じ。
DSC_0023.JPG
ウェストミンスター・ブリッジから見るとこうなります。だいぶ、興ざめですね...
DSC_0030.JPG

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奇跡の男 [日本の作家 あ行]


奇跡の男 (徳間文庫)

奇跡の男 (徳間文庫)

  • 作者: 泡坂 妻夫
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2018/05/02
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
バスの転落事故で一人だけ生き残った男が、今度は袋くじの特賞に大当たり。そんな強運、あり!? (奇跡の男) 小さな飲み屋「糀屋」の客が死に、なぜか警察に被害者の香典が送られてきて……(狐の香典)。“卯の花健康法”や“健脳法”など、珍妙なことばかり思いつくナチ先生が殺された。雪に残された足跡が唯一の手掛かり? (ナチ式健脳法)など、ユーモラスで奇想天外な極上ミステリ短篇集。


泡坂妻夫の短編集というので再編集ものかな、と思ったら、再文庫化なんですね。
本の最後のところに「本書は1991年2月光文社文庫として刊行されました」とあります。
ということは、きっと読んでいるはず、なんですが、中身覚えていませんし、イギリスに持参する本として購入しました。
帯には(こんなに大きいともはや帯といい難いですが...)
生者と死者 しあわせの書
 乱れからくり 湖底のまつり
 煙の殺意 妖盗S79号
 夢裡庵シリーズ 亜愛一郎シリーズ
 読んでしまった皆様!
 奇跡の男 は読みました?」
と書いてあって、「読んだはずだけどなぁ」と自分に言いながら読みました。

読み終わっても、旧版で読んだかどうかまったく思い出せない始末で、困ったものです。でも、泡坂妻夫の文庫本だったら絶対即買っているはずなので、読んでいるはずであることは間違いないのですが。
さて、読み終わった感想は、さすがに帯に列挙してある綺羅星のような傑作群と比べるのはあれですが、たっぷり泡坂妻夫の世界は楽しめました。
ロンドンに持ってきてよかった!

「奇跡の男」
「狐の香典」
「密会の岩」
「ナチ式健脳法」
「妖異蛸男」
の5編収録です。

「奇跡の男」は、途中亜愛一郎シリーズの1編を思い出してにやにや。こんなこと考えるやつはいないよなと思えるのに、妙に納得がいくような気もしてくるという不思議な感じですね。
「狐の香典」も香典を送る動機が秀逸です。まさかね。
「密会の岩」はのぞき男(と言っては可哀そうでしょうか)が目撃者となるストーリーですが、なるほどねー。こういうことはわりと普通に会話に上ってくるようなネタですが、ミステリーに組み込むとは見事です。
「ナチ式健脳法」は、どっちから思いついたんでしょうね。トリックからか、健脳法か。これもばかばかしいんですけど、泡坂妻夫にかかるとさらっと作品に仕立て上げられてしまいます。
最後の「妖異蛸男」は、密室殺人事件が取り上げられています。蛸男って印象深いフレーズですが、なかなかイメージ喚起力のあるトリックに仕上がっていますね。

<蛇足>
「妖異蛸男」に「標本としてモントレーの博物館にある」(225ページ)とあります。
うわー、モントレー、懐かしい。行ったことあります!
博物館と書いてありますが、普通は「モントレー ベイ水族館」Monterey Bay Aquarium と訳しているところのことですよね、きっと。
モントレーは湾になっていて、この水族館と17マイルドライブというドライブロードが有名ですね。
ゴルフ好きな方は、ペブルビーチの近く、といえば場所の見当がつくかもしれませんね。



タグ:泡坂妻夫
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涙香迷宮 [日本の作家 た行]


涙香迷宮 (講談社文庫)

涙香迷宮 (講談社文庫)

  • 作者: 竹本 健治
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
囲碁界では有名な老舗旅館で発生した怪死事件。IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久は謎を追いかけるうちに明治の傑物・黒岩涙香が愛し、朽ち果て廃墟になった茨城県の山荘に辿りつく。そこに残された最高難度の暗号=日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」48首は天才から天才への挑戦状だった。


前回の「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」(KADOKAWA)までが5月に読んだ本で(わずか3冊...)、この「涙香迷宮」 (講談社文庫)から今月(6月)に読んだ本になります。
日本から運んできた本3冊目、です。
これを読んでいる最中に、本を濡らしてしまって(*)、航空便で後から届いた「三世代探偵団 次の扉に棲む死神」を先に読みました。

「このミステリーがすごい! 2017年版」第1位、「2017本格ミステリ・ベスト10」第4位、2016年「週刊文春ミステリーベスト10」第3位で、第17回「本格ミステリ大賞」小説部門受賞作です。
いやあ、なんというか、すごいですね。執念?
いろは48文字を一度ずつすべて使って作る「いろは歌」を48個も作る...(いや、もっとたくさん出てきます) しかも、旧仮名遣いで。すべて竹本健治の自作...
しかもそれが暗号になっている...
一体、何がどうなっているのか。作者の頭をのぞき込んでみたい。
作者はあとがきで、
「作りはじめて分かったことだが、ただ漫然となりゆきに任せるよりも、あらかじめテーマや縛りを決めておいたほうがはるかに作りやすい。そこでいろんな趣向を盛りこんだりして、なるべくバラエティに富ませるように心がけた。」(453ページ)
と記していますが、圧倒されます。
もうこのすごい熱量を前にしては、普通のミステリ部分などの雑さ(失礼)なんか吹っ飛ぶんでしょうねぇ...

個人的には、暗号ミステリは嫌いではないんですが、暗号を解読しようなんってちっとも思わない不良読者で、さーっと読み飛ばすことが多いので、一つ一つのいろは歌の詳細は、さらっと読み飛ばしてしまいました。
この種の暗号は、作者と同等の知識や蘊蓄がないと解けないので、考えても無駄...

これに涙香と連珠の蘊蓄がわんさか盛り込まれるわけです。
あとそれとパズルとシチュエーションパズル。
この作品の場合、暗号や蘊蓄がストーリーに溶け込んでいる、というよりは、暗号や蘊蓄そのものが作品の狙いだと思われるので、正々堂々、蘊蓄のための蘊蓄です。
したがって、暗号や蘊蓄を読み飛ばしてしまうと... はい、普通のミステリ部分などの雑さがぐっときます。
せっかくなので、蘊蓄を犯人の動機の補強材料にでもしてしまえばよかったのに...うまく使えば説得力が増したような気がするんですけど。ただ、やりすぎると犯人がすぐにわかっちゃいますかね?

おもしろいな、と思ったのは探偵役である牧場智久が暗号解読にのめりこむ理由を用意しているところ。
「犯人を炙り出すには、そんな犯人の過度の怯えをさらに強く煽るしかない。そのために僕は暗号いろはの解読に全力を傾けることにしたんです。」(414ページ)(ネタバレにはならないと思いますが、念のため一部色を変え伏字にしました)

ということですので、すごいなぁ、と感心はしましたが、おもしろいっ! おすすめっ! となるかというとためらってしまいますね。
超絶技巧の労作、だと思いますが、傑作や名作という感じではなさそうな...
「本格ミステリ大賞」受賞や、「このミス」第1位はちょっと意外です。

<蛇足>
ミステリ同好会の会員に対し
「そうした浮き世離れした趣味に生きていることが若さを保持させているのだろうか。」(149ページ)
という記載があります。ミステリ好きって「浮き世離れ」なんですね...ぎくっ。

<蛇足2>
と↑と思っていたら、毒物を持っていないかどうか、という持ち物検査をすることになったところで
「今から隠す暇を与えないよう、今このままの状態でだ。各人下着も脱いで素裸になり、衣類を隅から隅まで調べる」(346ページ)
「ほかの人たちはお互いに怪しい素振りがないか見張っていてくださいね」(347ページ)
うわぁ、みんなの見ている前で全裸になるのかぁ...すごい。最終的には広間で男6人が全裸...
まあ、命がかかっているから、ということかもしれませんが、こういうことをやってのけるのも「浮き世離れ」かもしれませんねぇ...

<蛇足3>
あとがきで、
「涙香といえば連珠だから、そちら方面をふくらませればゲーム・シリーズの延長上の『連珠殺人事件』にあたる作品もできる。」(453ページ)
とさらっと書いてありますが、タイトルをどうして「連珠殺人事件」にしなかったんでしょうね?
そうすれば「囲碁殺人事件」(講談社文庫)「将棋殺人事件」(講談社文庫)「トランプ殺人事件」 (講談社文庫)と並んで、それはそれでかっこよかったのに、と思いました。

<蛇足4>
ところで、作中に出てくるシチュエーションパズルの回答が書かれず仕舞いなんですが、447ページで牧場智久が、よく知られた問題のアレンジだ、と指摘していることからすると、しゃっくりを止めるため、ですか?


(*)余談ですが、本(紙)って濡らすとごわごわになってしまって、いただけない感じがしますよね。以前どこかで(TV だったか、You Tube だったか忘れました)海外の図書館で本が濡れた場合の対処法というのをやっていてそれを見たのを思い出してやってみました。
1)まず、タオルなどで各ページの水分を押し当てるようにして拭く(こすらない)
2)次に濡れているページとページの間それぞれにティッシュペーパーを挟む(折りたたんだものを2~3枚ずつ挟んだので結構分厚くなりました)
3)本を閉じて、硬い板状のもので挟み(木製のランチョンマットを使いました)、重しを載せる(今回は重しどころか、ベッドの脚の下に置いてみました! ランチョンマットは裏を外側にして使いました)
4)乾くのを待ち、ティッシュを外しておしまい
素人が適当にやっているので完璧には程遠いですが、濡らしたまま放置しているいつもと比べると格段の仕上がりに満足しました。幸い、今回は水(厳密にはお湯)で、コーヒーとかお茶とか色がついていないものだったのもよかったですね。
今後もやってみようと思いました。(いや、それより先に、濡らさないようにしろ!)


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三世代探偵団 次の扉に棲む死神 [日本の作家 赤川次郎]


三世代探偵団 次の扉に棲む死神

三世代探偵団 次の扉に棲む死神

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/10/21
  • メディア: 単行本


<裏表紙帯あらすじ>
天才画家の祖母と、生活力皆無な女優の母と暮らす女子高生、天本有里。母の所属する演劇に出演中、目の前で母の代役の女優が殺された。次いで劇団の別の女優が狙われ、有里は次第に一連の事件に巻き込まれることに。さらに、有里の通う高校では、事務長に何やら秘密がありそうで……。
皆が皆、怪しすぎ!
信じられるのは三人だけ。かしまし女三世代が“絆”を武器に真犯人を追う!?


<2018.6.3訂正>
このブログのタイトルが間違っていたので訂正しました。
コピペで作ったので、古いままでした。失礼しました。

ロンドンに来て、航空便が到着しました。大きめの段ボール2箱だけですが、うれしい...
ロンドン3冊目の本として自分で持ち込んだ本を読んでいたのですが、途中で事故(笑。濡らしてしまったのです)があったので乾くまで置いておくとして、航空便でやってきた(航空便で本など送るな! と言われそうですが)本から先に。
単行本です。
赤川次郎です。手元のカウントでは赤川次郎605冊目の本。
帯に
「著者の真骨頂 痛快ミステリ新シリーズ開幕!」
とあってびっくり。
新シリーズ、ですか。著書600冊を超えて、なお新シリーズ。
「鼠、影を断つ」の感想でも書いていますが、赤川次郎にはシリーズがいっぱいあって、さらに始める新シリーズとなると、これは意気込みも入っているんだろうな、と思って読みました。

読んでみると、いつもの赤川次郎節、といいたい感じの話でして、正直新シリーズとして打ち出す必然性があまり感じられませんでした。
祖母:日本を代表するような高名な画家、母親:(劇団に所属する)女優、娘:高校生
この組み合わせでなければ解決できない事件でもないし、解決にさほどそれぞれの特徴を活かすわけでもない。
副題の「次の扉に棲む死神」というのも、あんまりぴんと来ませんでしたね。

それでも、いつも通り楽しく読める内容になっているのは、さすがです。
舞台が、劇団、高校、ホストクラブとバラエティに富んでいますし、登場人物も、探偵役の三世代がご紹介したように画家、女優、女子高生で、刑事、先生、学校の職員、犯罪組織、殺し屋、だらしない男(これが赤川次郎らしいですね!)、とさまざま。
これらの群像が、結構複雑に絡み合って展開していくのですが、まったく混乱することはありません。

このシリーズならでは特色をどう出していくかが問われていくので、そのあたりを気にしながらシリーズを読み進めていけたらと思います。






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