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福家警部補の再訪 [日本の作家 大倉崇裕]

福家警部補の再訪 (創元推理文庫)

福家警部補の再訪 (創元推理文庫)

  • 作者: 大倉 崇裕
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/07/21
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
しがない探偵から転身し上昇気流に乗った警備会社社長、一世一代の大芝居を自作自演する脚本家、天才肌の相棒と袂を分かち再出発を目論む漫才師、フィギュア造型力がもたらす禍福に翻弄される玩具企画会社社長――犯人側から語られる犯行の経緯と実際。対するは、善意の第三者をして「あんなんに狙われたら、犯人もたまらんで」と言わしめる福家警部補。百戦不殆のシリーズ第二集。


「福家警部補の挨拶」 (創元推理文庫)に続く福家警部補シリーズ第2弾です。
手元の記録によれば「福家警部補の挨拶」を読んだのが2010年。ずいぶん間が空いてしまいました。
このシリーズは順調に巻を重ねていまして、このあと
「福家警部補の報告」 (創元推理文庫)
「福家警部補の追及」(創元クライム・クラブ)
「福家警部補の考察」 (創元クライム・クラブ)
とすでに3冊刊行されています。

このシリーズは、あちこちで書かれているように倒叙物のミステリで、刑事コロンボの衣鉢を継ぐものです。
倒叙物。「まず犯人の側から完全と見える犯罪を描き、つぎにそれの暴露される経過を述べたものである(中島河太郎)」
と、神命明の解説で引用されていますが、いっぱい作例はありますね。
倒叙物三大名作というのが、
フランシス・アイルズ「殺意」 (創元推理文庫)
リチャード・ハル「伯母殺人事件」 (創元推理文庫)
F・W・クロフツ「クロイドン発12時30分」 (創元推理文庫)
神命明の解説で指摘されるまで気づいていなかったのですが、「三大名作は明らかに犯人側の行動・心理描写に重点を置いた倒叙形式の犯罪小説である」(374ページ)であって、『倒叙形式で描かれた「本格ミステリ」』(同)ではないですね。謎解きというより、サスペンス寄り。
確かにおっしゃる通りで、謎が解ける経緯を楽しむという感じではありません。
倒叙物の発端は、オースチン・フリーマンのソーンダイク博士物、ですが、こちらは謎が解けていく過程を楽しむものでしたから、「叙述の一形式」であるという倒叙物は応用が広いということでしょう。
三大名作はそれぞれとても面白いですが、でも、ミステリファンとしては、サスペンス寄りの作品も楽しみますが、謎解きを好ましく思ってしまいます。
という流れでいうと、この福家警部補シリーズは、正統派(?) の倒叙本格ミステリです。

この「福家警部補の再訪」には
「マックス号事件」
「失われた灯」
「相棒」
「プロジェクトブルー」
の4編収録。

この種の倒叙作品は、犯人サイドに感情移入(?) していっしょにハラハラするのが楽しいですね。
その意味でも、犯行が露見するきっかけが犯人のミスであることが望ましい。
これは鮎川哲也も指摘していたことですが、万全を期したはずが遺漏あり(犯人が知力を尽くしていれば防げたのに)、そこを福家警部補に突かれる、というのがいいです。偶然や犯人が知り得ないことが起因だと、すこし惜しい感じがします。だって、犯人もそうだと思いますが、「そんなの知らないよー」と読者としても言いたくなるのは残念ですから。
その観点で見てみると、「マックス事件」は明らかな犯人のミスで〇。しかも、あからさまにミスの手がかりが書かれています。
「失われた灯」はちょっと微妙な仕上がり、かな? 明らかに知らなかったことがキーになっていますから。初めてその「物」が出てくるときにあからさまにヒントを撒いておいてもらえればちょっとは印象が変わったかもしれません。
「相棒」は、犯人の知らなかったことが手掛かりとなっていますが、知らなかったとしてもストーリー的に知り得たのではないか、と思える内容で、そしてそれが犯人と相棒の置かれている境遇と密接に結びついているので、よく考えられているなぁ、と思いました。
「プロジェクトブルー」は、犯人の知らなかったことが手掛かりで、かつ、知り得たかどうかも微妙なのですが、その結果が犯人のフィギュア愛を追い詰める段取りになっていていいなあと思いました。

このシリーズは、貴重な正統派の倒叙本格ミステリなので、楽しみに続巻を読んでいきます!



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動く標的 [海外の作家 ま行]

動く標的【新訳版】 (創元推理文庫)

動く標的【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 作者: ロス・マクドナルド
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2018/03/22
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ある富豪夫人から消えた夫を捜してほしいという依頼を受けた私立探偵のリュー・アーチャー。夫である石油業界の大物はロスアンジェルス空港から、お抱えパイロットをまいて姿を消したのだ! そして、10万ドルを用意せよという本人自筆の書状が届いた。誘拐なのか? ハードボイルド史上不滅の探偵初登場の記念碑的名作。


ロス・マクドナルドに関しては忠実な読者ではなく、これまでに読んだのは、
「さむけ」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
「ウィチャリー家の女」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
の2冊だけです。
もっともほかの作品を読もうと思っても絶版・品切れ状態なので、読めないのですが。
そんななか、この「動く標的」 (創元推理文庫)の新訳が出て(しかも訳者が田口俊樹!)、かつ、この本はリュー・アーチャー初登場というターニングポイントにある作品でもあるので、即購入。
読んでみて、すごくタイトに仕立て上げられた作品だなと感じました。
ハードボイルドというジャンルに属する作品だと思いますが、普通に犯人捜しとしても楽しめるようにできています。
解説で柿沼瑛子が
「この作品を初めて読んだときは、どことなく陰鬱な印象があったのだが、今回あらためて新訳で読むと、閉塞感の中にも、風が吹いているような、前方が開けているようなスピード感がある。」
と指摘していますが、犯人捜しの軸がくるくると回っていくところがスピード感につながっているのかもしれません。

冒頭、リュー・アーチャーがお屋敷に呼ばれます。
場所はサンタテレサのカブリロ渓谷を見下ろす丘の上。そこでは脚を悪くした夫人がいて...
おいおい、浜田省吾(「丘の上の愛」)かよ、と少し思ってしまいましたが、それは余談。
夫が姿を消した、というところから、誘拐を思わせる展開となり、怪しいバーの関係者とか、往年の名女優とか、芽の出ないピアニストとか、翳のある人物がわんさか出てきて、さてさてどこに連れていかれるのかな、と思わされます。

タイトルの「動く標的」というのは、どういう意味だろう、と昔から気になっていたのですが、英語にすると、Moving Target。あら、単純...こんなことに気づかなかったとは。
作中では、
「キャディラックでこの道を時速百五マイルで走ったことがある」
続けて
「退屈なときにやるのよ。何かに出会えるかもしれないって自分に言い聞かせて。何かまったく新しいことにね。道路上にあって、剥き出しで、きらきらしていている、いわば動く標的」(161ページ)
とキーとなる人物の一人、富豪の娘ミランダが言うシーンがあります。
ミランダのこのセリフを受けた形で
「だから私には剥き出しで、きらきらしているようなものが必要なのさ。路上の動く標的みたいなものが」(168ページ)
とリュー・アーチャーが話しますが、リュー・アーチャーが求めているものが動く標的、ということだけではなく、作中人物それぞれが何かを求めている、ということを指しているのでしょうね。


<蛇足1>
「十万ドル分の債権を現金にするように言ってきたのよ」(85ページ)
ここ、原文はどうなっているのでしょうね?
通常、すぐに現金化できる「さいけん」と言えば債券、ですが、債権も現金化する方法がないではありませんので。


<蛇足2>
「この街(サンタテレサ)じゃ金は生きていく上で欠かすことのできない血のようなものだ。ここじゃ金がなければ、半分死んでいるようなものだ」(341ページ)



原題:The Moving Target
作者:Ross McDonald
刊行:1949年
翻訳:田口俊樹




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モモンガの件はおまかせを [日本の作家 似鳥鶏]

モモンガの件はおまかせを (文春文庫)

モモンガの件はおまかせを (文春文庫)

  • 作者: 似鳥 鶏
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2017/05/10
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
フクロモモンガが逃げたと思しき古いアパートの部屋には、ミイラ化した死体が。いったい誰が何の目的で死体のある部屋でモモンガの世話を? 謎の大型生物が山の集落に出現。「怪物」を閉じ込めたという廃屋はもぬけのからだった。おなじみ楓ケ丘動物園の飼育員たちがオールキャストで活躍する人気ミステリーシリーズ第4弾!


似鳥鶏の動物園シリーズ第4弾です。
「いつもと違うお散歩コース」
「密室のニャー」
「証人ただいま滑空中」
「愛玩怪物」
と4話収録ですが、ゆるやかにつながっているところがポイントですね。

なかでは「証人ただいま滑空中」がミステリ的に印象に残りました。
ミイラ化した死体、という事件が強烈ですが、ミステリ的には、部屋にいたモモンガが被害者が殺された後もきちんと世話をされていた状況、というのが面白く、犯人はなんだってモモンガの世話を続けたのか、という謎がすっと立ち上がってきて見事です。
動物園シリーズならではの謎、ともいえるかもしれませんね。素晴らしい。

この「モモンガの件はおまかせを」 (文春文庫)通して、ペット放棄問題というのでしょうか、日本のペットをめぐる問題が取り上げられていて、社会派っぽいテーマが設定されています。
語り口や全体のトーンと違って、ざらっとした読後感が残るところがポイントでしょうか。

それにしても最後の「愛玩怪物」で出てくる服部君の自宅がやはり興味深い。鴇先生の過去も少しわかりましたし、こうやって徐々に徐々に、登場人物の全体像が描かれていくのかもしれませんね。


<蛇足1>
「掌に乗りそうなチワワの子犬が ~ 略 ~一所懸命に前足で耳を掻いている」(41ページ)
ちゃんと一懸命だ! 似鳥鶏、素晴らしい。

<蛇足2>
「ばれて周囲にからかわれ、気まずくなるまでが職場恋愛ですよ」(56ページ)
と服部君がいう場面があるのですが、なかなか含蓄深いですねぇ...(笑)

<蛇足3>
「被害者は現在は知りませんが、昨年急性腰痛症をやったそうです。」(143ページ)
とありまして、これ、ぎっくり腰ですよね...こういうちゃんとしたっぽい名前あるんですね、ぎっくり腰に。(当たり前ですけど)

<蛇足4>
「週刊文椿(ぶんちゅん)」(244ページ)というのが出てきます。
この「モモンガの件はおまかせを」 が文芸春秋社から出ているからこの名前にしているんだと思いますが、文椿って、ちょっとかわいい感じがしますね。


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秘密 season 0 4 [コミック 清水玲子]

秘密 season 0 4 (花とゆめCOMICSスペシャル)

秘密 season 0 4 (花とゆめCOMICSスペシャル)

  • 作者: 清水玲子
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2016/08/05
  • メディア: コミック

<裏表紙あらすじ>
2066年、九州第八管区室長の青木は、東京に来てMRI捜査のシンポジウムにてある発表をしていた。それは、「可視光線」以外をとらえる特異な目を持った永江明元死刑囚のMRI映像についてだった。その発表になぜか激高する、桜木刑務部長。桜木は薪の同期で、常に薪をライバル視していて…。


「秘密 season 0」シリーズの第4冊。収録されているのは「可視光線」というお話。
時間設定がいったりきたりしますので、ちょっと最初戸惑いましたが(何度か読み返しました)、非常によく仕組まれた話だと思いました。
乱暴に要約すると、哀しみと祈りの物語、ということになるのかな、と。
犯罪を扱い、犯罪の結果引き起こされる悲しみを描いていても、人を思うことの強さが伝わってくるのがポイントですね。

桜木刑務部長が薪の同期で、薪のことをライバル視しているということで、薪の警察大学校時代のエピソードが描かれるのがシリーズ読者的には注目でしょうか。


前作「秘密 season 0 2」 (花とゆめCOMICSスペシャル)「秘密 season 0 3」 (花とゆめCOMICSスペシャル)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)が、単に新しい事件を描いただけの、スピンオフというよりは続編っぽいものでしたが、この「秘密 season 0 4」 (花とゆめCOMICSスペシャル)は薪たちの過去がかかわってくるのでスピンオフ本来のかたちに戻ったのでしょうか?
「秘密 season 0 5」 (花とゆめCOMICSスペシャル)がどんな話か、楽しみです。




タグ:清水玲子
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上石神井さよならレボリューション [日本の作家 な行]


上石神井さよならレボリューション (集英社文庫)

上石神井さよならレボリューション (集英社文庫)

  • 作者: 長沢 樹
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2016/09/16
  • メディア: 文庫


<裏表紙あらすじ>
成績不振の写真部員・設楽洋輔は、眉目秀麗で天才で変態の岡江和馬の勉強指導と引換えに『フェティシズムの捕獲』を請け負うことに。高校一の美少女で生物部員の愛香の依頼で一緒に野鳥の撮影をしつつチャンスを狙う中、様々な「消失」事件に出会い……。天真瀾漫で運動神経抜群の愛香の突飛な行動、冷静かつ的確な岡江の推理を参考にしながら、設楽は意外な事件の真相に迫る。青春ミステリー!


「消失グラデーション」 (角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら
「夏服パースペクティヴ」 (角川文庫)(感想ページへのリンクはこちら
に続く、長沢樹の第3作です。
「上石神井さよならレボリューション」 (集英社文庫)というタイトル、今どき佐野元春かよ、と独りで突っ込んでしまいました。今の高校生、佐野元春って知ってるんでしょうか?
(為念ですが、中身は佐野元春とは関係ありません。)

前2作とは主人公が違います。作品の趣もまったく違います。
写真部員・設楽洋輔が主人公をつとめ、岡江和馬が探偵役をつとめます。
「落合川トリジン・フライ」
「残堀川サマー・イタシブセ」
「七里ヶ浜ヴァニッシュメント&クライシス」
「恋ヶ窪スワントーン・ラブ」
「上石神井さよならレボリューション」
の5編収録の連作短編集です。

各話のタイトルに地名が冠してありますが、いずれの作品も地元密着というか、局地的というか、ものすごーくローカルな地理的状況がキーとなる作品が集まっています。
なので、各話にその局地状況をわかりやすくするために図版が挿入されています。

「落合川トリジン・フライ」を読んだときには、岡江和馬のいうフェティシズムにちょっとげんなりし、謎解きもちょっと脱力気味で、おやおや~、と思ったのですが、そのうちこの設楽と岡江をめぐる設定にも慣れましたし、被写体である愛香が不思議な魅力を感じるようになりました。まあ、愛香みたいな人物はこの世にいないよなー、と思ってしまいますが、ご愛敬というところでしょうか。もっとも女性がこの作品を読んでどう感じるか、疑問に思ってしまうところを否定できませんが...
脱力気味の謎解きも、そのうちそれを楽しみに思うようになってきました。
いいように作者に操られてしまったかも。

「残堀川サマー・イタシブセ」の謎解きの馬鹿馬鹿しさにそのことは現れているように思います。
不可能状況だと勝手に思い込まされてるだけで、ちっとも不可能じゃなかった、というのはミステリでは王道なんですが、いや、愛香のキャラクターとか、局地的な状況とか、うまく活用してまとまっているように思いました。

「七里ヶ浜ヴァニッシュメント&クライシス」の馬鹿馬鹿しさも堂に入ったもので、これはもう反則と言われても仕方ないくらいのレベル感。
愛香に加えて、和馬の姉という大物登場でにぎやかに盛り上がります。

「恋ヶ窪スワントーン・ラブ」は大学のプロレスサークルを舞台にしていて、この1冊の中ではもっともおとなしめ。

そして最終話「上石神井さよならレボリューション」は、和馬に一泡吹かせたい人物、というのに設楽が協力する、という話で、いままでの話に登場した人物たちも再出演し、オールキャストっぽい感じで楽しい。それぞれの登場人物たちの特性を活かして作戦が実行されていく、という段取りが素晴らしいと思いました。

しかし、鳥の写真って、撮るのが難しそうですね...

<蛇足>
「学校側に報告したり、事を公にする気はない。」(274ページ)
~たり、~たりが崩れていて、ちょっと落ち着きませんでした。




タグ:長沢樹
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パンドラの鳥籠 [日本の作家 高田崇史]

パンドラの鳥籠: 毒草師 (新潮文庫)

パンドラの鳥籠: 毒草師 (新潮文庫)

  • 作者: 高田 崇史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/09/27
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
丹後半島で二年前、生薬学者が姿を消した。地域には三百歳の魔女が棲むといわれる洋館があり、首なし死体も発見されている。編集者・西田真規は、薬学の鬼才にして唯我独尊博覧強記の毒草師・御名形史紋、その助手の神凪百合と共に謎を追う。浦島太郎の「玉手箱」とギリシャ神話「パンドラの箱」がリンクする時、真相に繋がる一筋の道が現れる。知的スリルに満ちた歴史民俗ミステリ。


QEDシリーズのスピンオフ、毒草師シリーズで、
「毒草師 QED Another Story」 (講談社文庫)
「毒草師 白蛇の洗礼」 (朝日文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く第3弾です。

今回の歴史上(?)の謎は、ベースが浦島太郎なんですが、そこから七夕や羽衣伝説というおとぎ話系に加えて、日本史に潜む大きな秘密が暴かれる、という展開になります。
現在まで残されている古代の髪の毛や亀の甲羅について、指紋が残っているかも、あるいはDNA鑑定できる、と考えるのは面白いですねぇ。(359ページ)
御名形に導かれて、あれもこれも結びつき、なんだか壮大な歴史絵巻が展開した気分。
これこそが高田崇史の作品を読む醍醐味ですよねぇ...と一人で満足してしまいました。

主たる舞台は丹後なんですが、あまり行ったこともないんですよね。
天の橋立とか、舟屋で有名な伊根の方とか、いったことあるはずなんですがあんまり覚えていません。
浦島太郎といえば、丹後、のようです。
まず室町時代に成立した「御伽草子」に出てくる(77ページ)もので、その舞台が丹後国。
でも物語の基になったお話は、「古事記」や「日本書紀」にも、そして「丹後国風土記」にも載っている!(81ページ)
浦島太郎のほかにも、「羽衣」「徐福」「蓬莱山」と丹後国は伝説の宝庫(117ページ)です。
丹後国一の宮・籠(この)神社くらい、ちゃんと意識して行ってもよいかもしれないと思いました。

ミステリらしい事件の方は、怪しい廃屋で繰り広げられる妖しい事件、なわけですが、こちらは毒草師ならでは(?) の毒物・薬物を使ったもの(と書くとネタバレには違いないのですが、このシリーズでこの辺は書いてしまってよいでしょう、きっと)で、真偽というか、こういうことが起こりうるのかどうかぼくにはわからないのですが、前作「毒草師 白蛇の洗礼」ほどの荒技ではなく、そうかもな、と納得できます。

しかし、古からのものを守る、守っていく家って、哀しいですねぇ...とそんな感想を抱いた作品でした。


<蛇足1>
『丹後半島北東部の間人(たいざ)には、聖徳太子の母である間人(はしうど)皇后が、戦火を避けるために一時期住んでいた。この、とても普通に読めない地名は、皇后がこの地を「退座」された際に「間人」を読み替えたのだという。』(146ページ)
という説明があって、なるほどー、と思いました。
昔こういういわれを聞いていたかもしれませんが、記憶にはすっかり残っておらず、ちょっとうれしくなりました。

<蛇足2>
「関裕二も、彼らの風貌や年齢などを鑑みると、塩土老翁と武内宿禰は、同一人物と考えて差し支えないだろうという説を唱えている。」(334ページ)
というせりふを御名形史紋が言うシーンがあります。
博覧強記で、古い文献もがんがん読んでいる御名形史紋であっても、「~を鑑みる」って言うんですねぇ... ひょっとしたらここは、「~を鑑みる」という語も含めて関裕二の引用、ということなのかもしれませんが...

<蛇足3>
「もっとも、神社や和歌に関しては、ぼくよりもっと詳しい暇人もいますが」(232ページ)
とあっさり御名形がいうシーンがあるのですが、これって、タタルのことですよね!!

<蛇足4>
かなり謎解きシーンも進んできたところで、御名形史紋が
「だがこの話は、まだまだ長くなるから、今日のところは止めておこう」(362ページ)
なんて言います。いずれ、なにかの作品で披露されることになるのでしょうか?
七夕伝説と浦島太郎のつながり、というお話なんですが....

<蛇足5>
解説を西上心太が書いているのですが、
「QED 六歌仙の暗号」 (講談社文庫)が「六歌仙の暗合」になってしまっています。残念。
個人的に「QED 六歌仙の暗号」のことをミステリ的に見て大傑作だと思っているので一層残念です...



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河原町ルヴォワール [日本の作家 円居挽]

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

河原町ルヴォワール (講談社文庫)

  • 作者: 円居 挽
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/09/15
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
賀茂川と高野川が合流する鴨川デルタ。瓶賀流(みかがみつる)が目撃したのは濁流に呑み込まれる友人、龍樹落花(たつきらっか)の姿だった。その夜、下流で発見された紛れもない落花の遺体。撫子は姉の死を信じることができずにいたが、犯人として名前が挙がったのは音信不通の兄、大和だった。京都の歴史を覆す私的裁判・双龍会(そうりゅうえ)が始まる。


「丸太町ルヴォワール」 (講談社文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「烏丸ルヴォワール」 (講談社文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「今出川ルヴォワール」 (講談社文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4弾にして、最終作。
2017年1月に前作「今出川ルヴォワール」 感想)に、「今年中に読みたい」と書いていたものの、結局2018年も暮れになってしまいました。

あらすじにもありますが、冒頭いきなり龍樹落花が死んじゃうんですよね。しかも大和と対決して。
シリーズ読者にはかなり衝撃的なオープニング。
落花の跡を継いだ撫子が渋る中、ようよう始まった双龍会。お膳立てはばっちり。
この双龍会の丁々発止といってもよいやりとりがこのシリーズの醍醐味ですね。おもしろい。
敵と味方が入り乱れ、逆転につぐ逆転。
龍樹家、青蓮院、城坂家、そして、黄昏卿。これまでシリーズを通して培われてきた京都の歴史の奥が暴かれ、ひっくり返される。
いやあ、おもしろかった。

おもしろかったんですが、なんでもありの双龍会とはいえ、ちょっと今回のはアンフェアに思えてなりません。
非常に気を使った書き方がされていることはわかるんですが、それでもなお、アンフェアだな、と感じてしまいました。
一方で「フェアがなんぼのもんじゃい」というような仕掛けに感じ入ったのも事実です。
ここまで仕組んでくれたら、まあ、アンフェアでもよしとしましょうか、とも思えるほど。

楽しいシリーズでした。


<蛇足1>
「ある病院の催事場でちょっとしたパーティがありまして」(64ページ)
私立病院なので、好きなように設計すればよいわけですが、催事場のある病院って...!?

<蛇足2>
「ただ、ばんたび断るのが面倒なのは確かだ」(97ページ)
文脈から意味は分かるんですが、「ばんたび」ってなんだ??
ネットでもあまり出てきませんね。
Weblio辞書によると
=番度=毎度、毎回 ・「ばんたび 許すと思ったら大間違いだ」
ということだそうです。甲州弁、あがつま語ということなので、方言、でしょうか。

<蛇足3>
「もしかして天邪鬼に天邪鬼呼ばわりされるぼくはまともな人間なのでは?」
「異常の反対は別の異常だよ。お互いまともじゃないからこんなところに吹き溜まるんだ」(124ページ)
ああ、こういう切り返し、いいですね。


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イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 [日本の作家 篠田真由美]

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 (角川ホラー文庫)

イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館 (角川ホラー文庫)

  • 作者: 篠田 真由美
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2016/05/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
奇妙な外観の埃及(エジプト)屋敷に、心霊科学実験のため集まった4人の男女。戦時中、密かに持ち込まれたエジプト遺物がひしめく地下で、館の主は首無し死体で発見されたという。本人たち曰く“腐れ縁”で結ばれたトリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴は、館に渦巻く不穏な空気と、不可思議な現象に立ち向かう。だがそれは忌まわしい悲劇の始まりにすぎなかった……謎と恐怖が織りなす美麗な館ミステリ・ホラー。


篠田真由美の2016年に始まった新シリーズの第1作。
といいながら、この「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)の次の「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)しか出ていませんが...
うーん、シリーズ第1作ということで、小出しにされているのだろうと思いますが、ちょっと中途半端なイメージを抱きましたね。新しさ、というのもあまり感じません。

まず舞台設定です。
冒頭に、「災厄の年、ノストラダムス・イヤーと俗称される西暦一九九九年から頻発する地震と火山噴火、各地で相継いだ原子力発電所の事故によって、本州の大半が居住不適地域と化した現在の日本」(23ページ)と書かれています。
でも、こういう異世界を舞台にする意味が、少なくともこの「イヴルズ・ゲート 睡蓮のまどろむ館」 (角川ホラー文庫)を読んだだけではわからないんですよね。

トリノのエジプト博物館学芸員のルカと、比較宗教学者の御子柴の関係性も、はっきりしていません。あらすじには「心霊科学実験のため集まった4人」と書かれていますが、御子柴は招待されてもいないのに、ルカについてきた(!) だけ、という特殊ぶり。ついでに言っておくと、あらすじではいかにもこの2人が主役という書き方で、確かにそれはそうなのだと思いますが、視点人物の中心はこの2人ではなく、衿という、子供の頃超能力少女としてTVをにぎわせていた女性なんですよね。
この衿のキャラクターは母に支配される娘、という典型をフォローするものではあるものの、おもしろいと思いましたね。当時TVに一緒に出ていた鏡子との関係もなんだかリアルです。
登場するルカとともにいる犬が、常ならぬものという設定のようですが、いい感じです。

物語は、北軽井沢の洋館(?) 埃及屋敷が舞台。戦前・戦中のエジプト学者呉日向(くれひゅうが)が、「エジプト政府の許可を得ないまま、大量の発掘品を日本に持ち帰って」(9ページ)、コレクションを収蔵するために作った住居兼私設博物館。アル・アシュムーナインの祭祀遺跡(このアル・アシュムーナインというのも、由緒ある怪しげな地名のようですね)から、崖に彫られた岩窟神殿の岩をすべて切り取って持ち帰った、というのですから豪儀です。

ここまででお分かりいただけると思いますが、すべてが思わせぶり、なのです。
そしてこうした思わせぶりな登場人物、舞台設定で、まさにいかにもなホラーが展開します。
様式美、ということでしょうか。
館で起こる怪異(とひとくくりに言ってしまいますが)も、お馴染み(?) のものばかりですね。ホラー、あるいはゴシック・ロマンという観点からいうと新しいものが盛り込まれているのかもしれませんが、そちらのジャンルには明るくないのでよく見分けがつきません...
ちょっと初心者には地味な作品に仕上がってしまっているのかもしれません。

シリーズ続編である「イヴルズ・ゲート 黒き堕天使の城」 (角川ホラー文庫)でどう展開するのか、確かめてみたいです。



<蛇足>
「まあ。そんな、いきなり悪魔なんてものを、ここでいきなり持ち出さなくても」(231ページ)
校正してないんでしょうか?
会話なので、そんなにうるさく言う必要はないのかもしれませんが、いきなりが重なって少々...見苦しいです。



<蛇足2>
PCの動作がおかしくなるシーンがあるのですが、電源ボタンを押しても変わらないので、
「デスク下の電源コードの束を荒っぽく掴んで引き抜く。ブチッと鈍い音とともにディスプレイがブラックアウトした。」(325ページ)
というシーンがありますが、電源と切り離してもすぐにはブラックアウトしないんじゃないかな、と思ったり...



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dele [日本の作家 本多孝好]

dele (角川文庫)

dele (角川文庫)

  • 作者: 本多 孝好
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/05/25
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除する」。それが『dele.LIFE』(ディーリー・ドット・ライフ)の仕事だ。淡々と依頼をこなす圭司に対し、新入りの祐太郎はどこか疑問を感じていた。詐欺の証拠、謎の写真、隠し金――。依頼人の秘密のデータを覗いてしまった2人は、思わぬ真相や事件に直面してゆく。死にゆく者が依頼に込めた想い。遺された者の胸に残る記憶。生と死、記録と記憶をめぐる、心震わすミステリ。


本多孝好の本を読むのは、「ストレイヤーズ・クロニクル」 ACT-1 ACT-2 ACT-3 (集英社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来です。実に5年ぶり。
この「dele」 (角川文庫)は山田孝之、菅田将暉出演でドラマ化されたようですね。好評のようで、続編「dele2」 (角川文庫)も今年の6月に出ています。
ドラマ化された、という表現は正確ではないですね。詳細はドラマの方のHPで、金城一紀、本多孝好に山田プロデューサーの3人の対談(鼎談?)を見ていただくとして、アイデアの元を本多孝好が出して同時にドラマ化、小説化したみたいですね。
『本多孝好による小説版「dele」 「dele2」  ドラマとは異なるオリジナルストーリー』とも書かれています。
文庫本 の帯には「ドラマの原案・脚本を手掛けた著者自らによるオリジナル小説!」と。
おもしろい試みだと思います。

「ファースト・ハグ」
「シークレット・ガーデン」
「ストーカー・ブルース」
「ドールズ・ドリーム」
「ロスト・メモリーズ」
の5編収録の連作短編集です。

「死後、誰にも見られたくないデータを、その人に代わってデジタルデバイスから削除する」という仕事、確かにニーズありそうですよね。デジタル遺品、という語も割と目にするようになりましたし。
この作品集で気になったのは、いずれの話もわりとあっさりと、依頼人が見られたくないはずのデータを主人公たちが見てしまうことでしょうか。祐太郎(や圭司の姉)に引きずられて圭司も仕方なく、という流れには一応なっていますが、それにしてもさらっと見てしまいすぎな気がします。
もっともそうでないと、個人の想いに届くことがかなり難しくなるので、ストーリー要請上やむを得ないのだとは承知しても、気になるポイントですね。
ドラマは観ていませんが、この点どう処理していたのでしょうか?

各話それぞれ、本多孝好らしい話が展開しますが、一番の好みは「ドールズ・ドリーム」。
依頼人の家族が巻き起こす騒動(?) も取り入れてうまくストーリーが組み立てられていますし、データを祐太郎・圭司が覗き見たときのシーンも印象に残ります。依頼人の願いが浮かび上がってくるラストは、依頼人がするささやかな勘違い(?) も含めて納得感があります。連作的には、デジタル遺品の枠を拡げる作品、とも捉えることができるかもしれません。

ラストの「ロスト・メモリーズ」は、もっともミステリに近づいた作品だと思われますが、ミステリ定番のストーリーのその後を本多孝好テイストで描くものとして捉えることができ、なかなか興味深いです。


<蛇足1>
タイトルのdele。
英単語の delete から派生したものですね。
delete の発音を、どちらかというと「デリート」(「デュリート」に近いですが、日本語っぽく書くと「デリート」)という感じで覚えていたので、dele に「ディーリー」とふってあって「あれっ」と思ったりもしましたが、発音記号的には弱母音なのでデだろうと、デュだろうと、ディだろうと、どうとでも聞こえますね。多数派はディーリー(あるいはディリー)。今後気をつけるようにします!

<蛇足2>
「大手ゼネコンの大堂建設で取締役。その後、相談役まで務めた人だ。」(79ページ)
とあります。取締役、となっていますが、常務や専務までいったとすると常務取締役、専務取締役というでしょうから、平取止まりだったということでしょう。
これも会社によって違うかもしれませんが、平取が相談役になるって、通例なんでしょうか? 感覚的に相談役ってもっと偉くならないと就けないポジションではないかと思うんですが...



タグ:dele 本多孝好
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映画:アレックス・ライダー [映画・DVD]

アレックスライダー [DVD]

アレックスライダー [DVD]

  • 出版社/メーカー: アミューズソフトエンタテインメント
  • メディア: DVD

「ストームブレイカー」 (集英社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)を読んだときに、映画化されているのに気づいて、気になっていたのでDVDを購入してみました。

映画だとよく引用しているシネマトゥデイから、ここでも引用します。
見どころ:イギリスでシリーズがベストセラーとなった「アレックス・ライダー」の映画化。英国諜報機関MI6にスカウトされた少年が、IT実業家の陰謀を明かすためのミッションを遂行するスパイアクション。少年スパイ役でいきなり主演デビューを果たしたアレックス・ペティファーは、日本でもファンが増えそうなルックスの美少年。アクション監督・ドニー・イェンの指導の下で挑戦した、本格的なアクションは必見。

あらすじ:両親を亡くしたアレックス・ライダー(アレックス・ペティファー)は、一緒に住んでいた叔父(ユアン・マクレガー)の交通事故死をきっかけに、叔父は銀行員ではなくMI6の諜報員で自分がスパイになるべく、武道や語学を仕込まれていたと知る。MI6にスカウトされたアレックスは、叔父の追っていたミッションを引き継ぐことになり……。

引用してケチをつけるのもあれですが、見どころ、で原作のタイトル間違っていますね。「アレックス・ライダー」というのは映画の邦題で、原作タイトルは「ストームブレイカー」。映画の原題も「ストームブレイカー」です。

主役をつとめるアレックス・ペティファーは、14歳に見えるかどうか、微妙かもしれませんが、まあぎりぎりセーフでしょうか。原作でもかなり大人びた、というか大人をしのぎそうな設定でしたしね。
原作は薄い本でしたが、それでも映画にするには刈り込んでいますね。いろいろとすっ飛ばして物語を進めていきます。
原作にないエピソードも楽しいですし(たとえば、馬でロンドンの中心街を駆け抜ける? ところとか)、原作で登場する小道具たちが映像で目に見えるかたちで登場するのも楽しいですね。
ちょっと失礼な言いかたになりますが、これは拾い物でしたね。
わりとおもしろいではないですか。
ただ、原作はシリーズが続いていきましたが、映画は続編が作られていないようですね。興行収入が大したことなかったのでしょう。惜しい気がします。

<蛇足>
エンディングで出てくるアレックスの学校登校シーン。
住んでいるところのすぐ近くがロケ地だったので、なんとなく得した気分になりました。
チャンネル4(テレビ局)が映ったのですぐにわかりました!


原 題:Stormbreaker
製作年:2006年
製作国:ドイツ・アメリカ・イギリス


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