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白の恐怖 [日本の作家 あ行]

白の恐怖 (光文社文庫)

白の恐怖 (光文社文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
軽井沢の豪奢な別荘「白樺荘」に、莫大な遺産を相続することになった四人の男女が集まった。だが、生憎の悪天候で雪が降りしきり、別荘は外とは連絡が取れない孤立状態になっていた。そこで、一人、また一人と殺人鬼の毒牙にかかって相続人が死んでいく……。本格推理の巨匠が描いた密室殺人。発表から六十年近い年月を経て、初めて文庫化される幻の長編!


山前譲の解説によると1959年12月に刊行されたもの。文庫になるのは初めてのようですね。
ずっとずっと読みたかった作品です。
作者が亡くなる前まで「白樺荘事件」として改稿されているところだった、ということですから、正確にいうと、この「白の恐怖」 (光文社文庫)を読みたかった、というよりは、改稿なった「白樺荘事件」を読みたかったですね。(「白樺荘事件」は未完のまま「鮎川哲也探偵小説選」 (論創ミステリ叢書)に収録されているそうです)
併せて、短編「影法師」とエッセイが3編収録されています。

正統派の吹雪の山荘ものです。
もうこれだけで胸がいっぱいになりそうですが、250ページに満たないなかで堂々と展開されます。ちょっとあわただしい展開ではありますが。
ただ、鮎川哲也には「りら荘事件」 (創元推理文庫)という大傑作があって、それと比べるとやはり軽量級というか、あっさりしている印象ですね。
(鮎川哲也というとすぐにアリバイもの、という印象を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、アリバイに限定することなく、密室だって、お屋敷ものだって、優れた作品を残していますので、ぜひいろいろと手に取ってみてください)

それでも短い中にも、「おっ」と思うようなアイデア、ギミック、仕掛けが数多く盛り込まれていまして、楽しいです。
こういった小技(と呼んでは失礼かもしれませんが)が効いているのは、「りら荘事件」 も同じですね。

もったいないな、と思ったのは、名探偵星影龍三ものでありながら、星影龍三がほとんど出てこない、ということですね。
事件に居合わせた弁護士の手記、という形で物語がすすみ、そのあとでさっと星影龍三が解決する、という構図になっていまして、犯人対名探偵、という形をとっていません。
これはこれで、あり、な形式かとは思うのですが、ちょっと物足りない気もします。
とはいえ、登場人物がどんどん減っていって、読者にも見当がつきやすくなってきたかな、というところで、さっと幕を引いて仕掛けを明かしていく、この手際が鮮やかでした。
犯人の犯行の手際も鮮やかですが、それを読者に明かす作者の手際も鮮やかです。ここは見どころなのでは、と思いました。

現状の「白の恐怖」版でもシンプルだけれども効果的なタネが仕掛けられていますので、改稿されていればもっともっとふんだんにネタがぶちこまれて、「りら荘事件」 ばりの濃密な長編に仕上がっていたことでしょうね。
完成していればどれほどの作品になったことか、本当に残念です。


<蛇足>
「その腕のなかで、傲慢で気取り屋の千万長者はすでに一個の物体と化して、ぴくりともしなかった」(120ページ)
当時の金銭感覚がわかりませんが、百万長者ではなく千万長者という表現が目を引きました。

<蛇足2>
「やがて白い土(ど)まんじゅうができ上ると」(131ページ)
土に「ど」とフリガナが振ってあります。これ、「どまんじゅう」と読むんですね。
ずっと今まで、「つちまんじゅう」だと思い込んでいました。

<蛇足3>
「くらい顔をしてますと血液がアチドーチス現象を起こしますからな」(148ページ)
アチドーチス、いまの書き方だとアシドーシスでしょうか。
酸血症とか、酸性血症とか言うようですね。
血液のPHバランスが酸性側に崩れる症状みたいです。

<蛇足4>
「ぼくはチンメルマンの漫画をはじめてみたとき、ショックをうけて熱がでたくらいですけど、」(153ページ)
チンメルマンの漫画って、何でしょう? ちょっと調べてもわかりませんでした。
Zimmermann? Zimmermannでもわからないんですが......

<蛇足5>
「億万長者の未亡人にしてみればほんの目くされ金にしかすぎない。」(232ページ)
「目くされ金」という表現、久しぶりに見ました。
なかなかどぎつい表現ですね。めくされがね...
時代を反映してか
「道徳もへちまも」(234ページ)
などという言い回しも出て来ます。ちょっと笑えました。

<蛇足6>
ネタバレなので字の色を変えておきますが、動機のところで印象に残るセリフがありました。
恋にくるった女がとんでもないあやまちをやった話は、あなたもいろいろご存知なはずじゃないですか。篠崎ベルタは異性を恋するかわりに金銭を恋した、ただそれだけの相違ですよ。恋する女が盲目であることは、篠崎の場合もおなじです。」(233ページ)




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緋色の研究 [海外の作家 た行]

緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

緋色の研究 新訳シャーロック・ホームズ全集 (光文社文庫)

  • 作者: アーサー・コナン・ドイル
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2006/07/12
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
ホームズとワトスンが初めて会い、ベイカー街221Bに共同で部屋を借りた、記念すべき第一作。ワトスンへの第一声「あなた、アフガニスタンに行っていましたね?」は、ホームズが依頼人の過去を当てる推理のはしり。第一部はホームズたちの出会いから殺人事件解決まで。第二部は犯人の告白による物語で、米ユタ州からロンドンにいたる復讐劇。


ミステリの基本中の基本ともいえるホームズ物ですが、実は子供向けのものしか読んだことがありませんでした。
山中峯太郎の訳のもの(訳というより翻案というべきだ、というご指摘もあるようですが)が図書館にあったのでそれを子供の頃に読んだきりです。
あまりに高名・有名すぎて、またそれぞれ印象的な作品が多すぎて読み返す気にならなかったんですね。
今さらホームズ物かよ、と思う気持ちもないわけでもないのですが、イギリスに来たのもなにかの縁、大人物でちゃんと読み通してみようと思ったのです。
とすると悩んだのが、どの版で読むか、ということ。(原書で読む、という選択肢はありません...)
さすがはシャーロック・ホームズ、各社から文庫本が出ています。
深町真理子さんによる 創元推理文庫の新訳?、表紙イラストが印象的な角川文庫の新訳?、あるいは伝統の延原謙訳の新潮文庫? シャーロッキアンとして高名な小林司・東山あかね訳の河出文庫版?
悩んだ末に、日暮雅通さん訳の光文社文庫版にしました。

本書「緋色の研究」 (光文社文庫)はホームズ初登場作です。

シャーロック・ホームズの職業ですが、本人が語っています。
「ぼくはね、ちょっと変わった仕事をしているんだ。おそらく、世界じゅうでもぼくひとりしかいない。つまり、諮問探偵というやつなんだが、わかるかな。このロンドンには警察の刑事や民間の探偵が大勢いる。その連中が捜査や調査に行き詰まると、みんなぼくのところへやってくるんだ。」(36ページ)
普通の私立探偵と違って、客が刑事や(私立)探偵、というわけですね。
松岡圭祐に「探偵の探偵」 (講談社文庫)というシリーズがありますが、あちらは探偵を捜査対象とする探偵なので違いますね。
という意味では、探偵から依頼を受けて捜査する探偵というのは、ホームズの後にも存在していないのかもしれません。
でも、職業というからには、刑事からも報酬を受けとっていたのでしょうか? レストレード警部やグレグスン警部も金を払っていたのでしょうか?

ホームズはかなり奇矯な性格、ふるまいだった印象はあったのですが、警察を除いて、他の探偵をくさしているとは思いませんでした。
デュパンとルコックが槍玉にあがっています(38ページ)
「デュパンはずっと落ちるね。十五分も黙り込んでおいて、おもむろに鋭い意見を吐いて友人を驚かすなんてやり方は、薄っぺらでわざとらしいことこのうえない。確かに分析的才能はちょっとしたものだが、決してポーが考えていたほどの大天才じゃないよ」
「ルコックなんて哀れな不器用ものさ。とりえはただひとつ。動物的なエネルギーだけ。」「あんなもの、“探偵たるものこうはすべからず”っていう教則本にでもすりゃいい」
さんざんです。

一方で、
「彼は探偵術についての賛辞を聞くと、美人だと褒められた女性のように敏感に反応してしまうのだ」(64ページ)
だなんて、かわいいところもあるではないですか。
このあたりが広く人気を博している理由のひとつなのかもしれませんね。

タイトルの理由も割と早い段階で出て来ます。
「君がいかなかったらぼくは出かけなかったかもしれないし、こんなすばらしい研究対象(スタディ)を危うく逃すところだった。芸術の用語を使うなら、『緋色の習作(スタディ・イン・スカーレット)』とでもいったところじゃないか? 人生という無色の糸の束には、殺人という緋色の糸が一本混じっている。ぼくらの仕事は、その糸の束を解きほぐし、緋色の糸を引き抜いて、端から端までを明るみに出すことなんだ。」(72ページ)
この部分を受けて、河出文庫版は邦題を「緋色の習作」としていますが、個人的には「習作」ではなく「研究」に軍配を上げたいです。
解説で訳者・日暮雅通も触れていますが、ここは、研究と習作の両方の意味を持つ study を一種の掛詞としてホームズが語ったのだと思いますし、仕事、であるなら、習作ではないと思いますから。(さらに言うと、芸術サイドの study を「習作」と訳しているということですが、これも「研究」と訳して差し支えないのではないかと思います)

ホームズの推理のお手並みは、あざやか、と言いたいところですが、わりと決めつけが多い印象でしたね。
そうとは限らないんじゃないの、と突っ込みたくなるところがいっぱい。
終盤振り返って語る部分でも(210ページくらいから)、鼻血の件や変名・本名の件、ちょっと根拠なく(根拠なくは言い過ぎかもしれませんが、きわめて根拠薄くとは言えます) 決めつけちゃっていますよね。
ただ、何気ない部分に違った角度の光を当てて、意外な推理を導き出す醍醐味は十分感じられます。

二部構成になっているので余計そう思ったのかもしれませんが、ミステリ、謎解きとしてというよりも、物語性が強いことに驚きました。
ある意味ネタバレにはなりますが、早い段階で明かされているので(現場に残された血文字 RACHE はドイツ語で『復讐』と60ページで明かされます)書いてしまうと復讐譚なんですね。これが物語に奥行を与えている、というか第二部はその復讐の背景が描かれます。
この犯人が復讐したくなったのはよくわかるのですが、現在の視点で見ると、復讐の相手方、復讐すべき相手としてつけ狙うべき対象は、果たしてこの事件の被害者たちでよかったのだろうか、とちょっと考えてしまいました...余計な話ではありますが。
謎解き物の始祖的扱いを後に受けるわけですが、そんなことをドイルは想定もしていなかったのでしょうね。もっともっと物語性豊かなものを書いていきたかったのかもしれません。

原書刊行順に読もうと思っているので、次は「四つの署名」 (光文社文庫)です。読むのがいつになることやら......


<蛇足1>
「『表が出ればおれの勝ち、裏が出ればおまえの負け』というわけさ。」(87ページ)
ミステリではちょくちょく出てくるこのフレーズ、ホームズにも出てきていたんですね。

<蛇足2>
「刑事警察のベイカー街分隊さ」(87ページ)
この作品では、(未だ)ベイカー街イレギュラーズとは呼ばれていないんですね。
それにしても89ページのイラスト、ちっとも可愛げがない。イメージがあわない...


<蛇足3>
「海軍におります息子にもずいぶんお金がかかります。」(96ぺージ)
下宿を営むシャルパンティエ夫人のセリフなのですが、海軍ってお金がかかるんですか?
軍人は一種の公務員なので、給金が十分に出るでしょうから、お金がかかるというのが理解できませんでした。

原題:A Study in Scarlet
作者:Arthur Conan Doyle
刊行:1887年(この文庫本には原書刊行年の記載がありません...)
訳者:日暮雅通



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遠い国からきた少年 [日本の作家 樋口有介]

遠い国からきた少年 (中公文庫)

遠い国からきた少年 (中公文庫)

  • 作者: 樋口 有介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/04/20
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
法律事務所で調査員として働く風町サエは、服役経験のあるシングルマザー。今回の依頼者は、アイドル候補生が店員の安売りピザ店で大儲けをした男。自殺した少女の両親から要求された一億二千万円の賠償金を減額させたいという。調査を進めるうち、ある人の過去にも迫っていくことになったサエは―。『笑う少年』を改題。


「猿の悲しみ」 (中公文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2作です。
文庫化にあたって、「笑う少年」から「遠い国からきた少年」 へと改題されています。

常識的に考えると、「遠い国からきた少年」=「笑う少年」ですから(タイトルになるような少年がそう何人もいるとは思えません)、本書に「笑う少年」が出てきたときから、この少年は「遠い国からきた少年」なんだな、と思ってしまいます。
これが本書にとってよいことだったのかどうか、ちょっと疑問ですね。
改題しないほうがよかったのでは?

この点を置いておくと、シリーズ快調です!
この作品単体で楽しめますが、前作「猿の悲しみ」 のネタバレ、あるいはネタバレに近いところがあちこちにありますので、「猿の悲しみ」 を先に読んでおいたほうがよさそうです。
風町サエ、息子の溺愛ぶりに拍車がかかっています。おかしい。

まるでAKBを彷彿とさせるような、OKEというアイドル・グループが出て来ます。
このOKEのビジネスモデル(?) がなかなか興味深い設定になっています。
もとは『ラビット・ピザ』というピザ・チェーンで、そこの従業員を女子高校生か同年齢の少女たちに限定。客に従業員少女の人気投票をさせ、その集票によって、渋谷、原宿、青山といった旗艦店舗に登用。そこでのさらなる人気投票で上位になった少女たちを『OKEスペシャル』というユニットにして芸能界へ!(15ページに説明あり)
なかなかのアイデアのような気がします。
AKBの場合は買わせるのがCDですが、ピザ屋なのでピザの売り上げに直結するのがおもしろいですね。中途半端なロイヤリティ・プログラムより効果あるでしょうね。

OKEをめぐる捜査がやがて「笑う少年」の正体を探っていくというストーリー展開になりますが、羽田法律事務所の「裏の」仕事で探るだけではなく、友愛協会の凛花からの依頼としても探る、というところが面白い展開ですね。

樋口有介の軽やかでしなやかな文章に支えられ、サエの活躍を追いかけるのがとても楽しいです。
この後シリーズは刊行されていないようですが、少年を主人公にした作品に加えて、サエ・シリーズもお願いします。柚木草平シリーズや木野塚佐平シリーズはどっちでもいいです(笑)。



<蛇足1>
前沢遥帆子(まえざわよほこ)という登場人物が出て来ます。
よほこ、とは変わった名前だなぁ、と最初思っていたのですが、これ「よほこ」とフリガナが振ってあっても、発音はきっと「ようこ」なんでしょうね。
「ほ」を「お」という音で読むのはまま見られることですよね。
顔も昔は「かほ」だったものが「かお」になったものですし。
似たような例に「かほり」がありますね。こちらも「かおり」さんとお読みする例が多いように思います。
お名前だったら、好きに書いていただいて結構だとは思いますが(それでも、かほり、を、かおり、と読め、というのは無理なんですけれども)、「香り」という名詞を「かほり」と書くのは間違いですね。旧かなですらありませんから(旧かなでは「かをり」)。
昔、「シクラメンのかほり」という歌がありましたが(作詞・作曲 小椋佳)、香りという意味だとすると小椋佳の間違いです。間違いだとすると、かなり迷惑な間違いですね。あの曲のせいで、香りが「かほり」だと勘違いする人が多いでしょうから。あの曲で固有名詞という解釈が成立するのかどうかわかりませんが......

<蛇足2>
終盤コント・ラフォンという高級ワインが登場します(331ページ)。
ワインはまったくわかりませんので、ネットで調べてみたら、すごそうなワインですね...



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秘密 season 0 5&6 [コミック 清水玲子]


秘密 season 0 5 (花とゆめCOMICSスペシャル)秘密 season 0 6 (花とゆめCOMICSスペシャル)

秘密 season 0 5 (花とゆめCOMICSスペシャル)
秘密 season 0 6 (花とゆめCOMICSスペシャル)

  • 作者: 清水玲子
  • 出版社/メーカー: 白泉社
  • 発売日: 2018/07/05
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
2057年。ホラー映画祭で人気を博した「見えないともだち」の公開が迫る中、映画を見た人が次々と謎の幻覚を見て全国各地で死亡する事件が発生する。プリオン感染による犯行の可能性を疑う薪は服役中のタジクに捜査協力を依頼するが…。(5巻)
死を呼ぶ映画とSNSで噂される「見えないともだち」。薪はその映画の中に、死亡したと思われていたカルト教団の教祖・児玉良臣の姿を発見する。一方、事件の鍵はエアミストにあると推測した青木。それを受けて囮捜査を行い、「ストーンヘンジ」元幹部の須田洋子を逮捕したのだが… (6巻)


5巻と6巻あわせて1つの話になっています。
題して「増殖」。

帯に
『1話完結型ミステリー・「増殖」編収録の最新5巻6巻』
とあるのですが、こういうパターンを1話完結型というのでしょうか?
1話完結というのは、短編集みたいなかたちで各話がそれぞれ読みきりになっているものを指すのではないでしょうか?

さて、読み終わってみると、なんだか既視感にあふれた物語でした。
呪われた映画、プリオン、エアミスト、カルト教団、囚われ(?) の子供たち。
だからか、帯に書かれている「衝撃すぎるラスト」というのも見当がついてしまいました。
途中の展開も、いくつか仕掛けられているツイストも、想定の範囲内に収まってしまっています。
一方で、だからこそ、というべきか、紡ぎだされる物語は、非常に堅固なものに感じられます。
ピタっ、ピタっと、ピースが収まるべきところに収まっていく感覚、快感といった感じでしょうか。
新規性はない代わりに、なんともおぞましい話なのに、ある意味居心地の良さを感じてしまいました。こういう話にこういうテイストというのはなかなか貴重なのかもしれません。

しかし、薪を上司にしたら怖いですね。
「別に銀河系の中からいるかいないのかわからない生命体を探せとか無茶を言ってるわけじゃない
 せいぜい太平洋に沈んだ海賊船のダイヤを探す程度のものだ」って...
「瀬戸内海とか東京湾とかじゃなくて…?」と言ってる部下も大したものだと思いますが...


<2019.8.12追記>
古いページ(秘密 season 0 2&3)の記載が重なって残っていました。
削除しました。失礼しました。



タグ:清水玲子
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探偵AIのリアル・ディープラーニング [日本の作家 は行]

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

探偵AIのリアル・ディープラーニング (新潮文庫nex)

  • 作者: 早坂 吝
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2018/05/29
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
賢くて可愛いAI 探偵が悪の組織と本格推理対決。
人工知能の研究者だった父が、密室で謎の死を遂げた。「探偵」と「犯人」、双子のAI を遺して──。高校生の息子・輔は、探偵のAI・相以とともに父を殺した真犯人を追う過程で、犯人のAI・以相を奪い悪用するテロリスト集団「オクタコア」の陰謀を知る。次々と襲いかかる難事件、母の死の真相、そして以相の真の目的とは! ? 大胆な奇想と緻密なロジックが発火する新感覚・推理バトル。


「〇〇〇〇〇〇〇〇殺人事件」 (講談社文庫)
「虹の歯ブラシ 上木らいち発散」 (講談社文庫)
「誰も僕を裁けない」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
の早坂吝の作品だというのに、エロくなかった。
びっくり。
ーーとそういう話ではなくて...

AI(人工知能)を探偵役に据える、というのはまあ誰かが作品化するだろうな、とは思っていましたが、早坂吝でしたか。
その昔、旅情ミステリの巨匠内田康夫に「パソコン探偵の名推理」 (講談社文庫)なんて作品もありましたが......
アイデアものなのは、探偵だけではなく、犯人役のAIも作ってしまったところですね。
探偵役が相以(あい)で、犯人役が以相(いあ)。あ、安直...
つくった研究者が、合尾創(あいおつくる)、でその息子で主人公が合尾輔(あいおたすく)。あ、安直...
ディープラーニング用のデータが、警察の捜査資料と、推理小説千冊...
警察の捜査資料はともかく、推理小説でいいのか!? 非現実的なのいっぱいあるぞ。
そして、たった千冊!? このブログだって、900冊くらいの感想がすでに溜まっています。千冊じゃあ、心細すぎると思うんですけど...
まあ、いいんでしょうね。この作品で使われているトリックも、現実では苦しいというか、ミステリならではのものですから。

いくつかの事件を解いていく過程でディープラーニングを進め、「フレーム問題」「シンボルクラウディング問題」「不気味の谷」「中国語の部屋」「チューリングテスト」といったAIに関連する(?)話題が消化されていくかと思うと、後期クイーン問題とか「チャイナ橙の謎」 (創元推理文庫)とかが急に出てきたり。かなり茶目っ気のある展開になっています。

個人的に面白かったのは、相以、輔たちに対する悪役『オクタコア』というハッカー集団の目指すところですね。
「我々オクタコアはシンギュラリティまでに、地球上の全政府を消滅させることにした。そしてその後の世界を、シンギュラリティで誕生した人工知能たちに統治してもらうのだ。」(71ページ)
荒唐無稽というか、バカバカしい気もしますが、一方で森博嗣のWシリーズを読んでいると、ああいう世界だね、と妙に納得感あったりして。
「天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow?」 (講談社タイガ)から続けて読んだので、特にそう思いました。


<2020.10.27追記>
この作品は、「2019 本格ミステリ・ベスト10」第7位です。



<蛇足>
間人波(たいざなみ)という登場人物は関西なまりで話すのですが、
「マイナーミステリ? そんなの興味ありまへん。」(181ページ)
というところで、うーんと止まってしまいました。
「知りまへん」(188ページ)「知りまへんから」(194ページ)
というのもあります。
間人は女子高校生なんですよね。「ありまん」って、言うかなぁ?
かなり世代が違う関西なまりのような気がします。
女子高校生なら、「ありません」「知りません」を関西なまりのイントネーションで話すのでは?
一方で
「あなたたちの話は憶測ばかり」(194ページ)
なんてセリフもあります。
関西で「あなた」と発言するのはかなりレアケースだと認識しています。「あんたら」くらいでいいのでは?
ちなみに、彼女は
「考え方はしいひんのや」(186ページ)
と発言していますので、関西の中では京都のあたりの言葉を使っているものと思います(大阪あたりだと「せえへんのや」でしょうか)。間人というのも京都府にある地名ですしね。
とすると、「あんたさんら」というのもありかも。



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天空の矢はどこへ? [日本の作家 森博嗣]

天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow? (講談社タイガ)

天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow? (講談社タイガ)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/06/22
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
カイロ発ホノルル行き。エア・アフリカンの旅客機が、乗員乗客200名を乗せたまま消息を絶った。乗客には、日本唯一のウォーカロン・メーカ、イシカワの社長ほか関係者が多数含まれていた。時を同じくして、九州のアソにあるイシカワの開発施設が、武力集団に占拠された。膠着した事態を打開するため、情報局はウグイ、ハギリらを派遣する。知性が追懐する忘却と回帰の物語。


Wシリーズの第9作です。
今回の舞台は阿蘇です(アソと書かれています)。

ここ数冊シリーズ終盤に向かっているからか、思索的な部分が減ってきたかな、と思っていたのですが、本書のエピソードで、ずっしりと重い思索が登場します。
いつものようにその分を引用して書いてしまっては、ネタバレ、に該当してしまうことになるだろうと思うので当該部分の引用は避けますが、
「ああ、今の話は……、ちょっと感動しました」(273ページ)
とハギリが感想を述べている、ということは触れておきたいと思います。

「九州のアソにあるイシカワの開発施設が、武力集団に占拠された」というあらすじから、おっ、戦闘シーンがあるな、これは、と期待したら(何を期待しているのだ、と叱られるかもしれませんが、このシリーズの戦闘シーン、なんだか愉しいんですよね)、肩透かしでしたね。
その分(?)、キガタが宇宙に飛び出します。

他の森作品につながる固有名詞もふんだんに登場するようになってきています。
クジ博士、ロイディ、ミチル......

次の「人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly?」 (講談社タイガ)でシリーズ完結なんですよね。
いったいどういう着地を見せるのでしょうか...,,,
この「天空の矢はどこへ? Where is the Sky Arrow?」 (講談社タイガ)には
「マガタ・シキが生きているかどうかを、今の僕は疑っていない。」(197ページ)
なんて刺激的な部分もありますしね。
楽しみです。

いつものように英語タイトルと章題も記録しておきます。
Where is the Sky Arrow?
第1章 歩き回る Getting around
第2章 通り抜ける Getting through
第3章 逃げていく Getting away
第4章 乗り越える Getting over
今回引用されているのは、レイ・ブラッドベルの「何かが道をやってくる」 (創元SF文庫)です。



<蛇足1>
『「食事は、経費?」僕はウグイに尋ねた。
 彼女は、僕を威圧的な眼差しで睨んだだけで答えなかった。冗談が通じなかったようだ。下品な精神だと誤解された可能性もある。ウィットというものを、彼女にはもう少し学んでもらいたい。』(36ページ)
おそれながらハギリ博士、ウグイさんだけでなく、ぼくも貴方のウィットはわかりません...(笑)

<蛇足2>
「僕はシチュー定食だったけれど、熱くて食べられない。」(269ページ)
シチューはシチューと書くのですね。シチュではなく。

<蛇足3>
「忙しいようだ。アルミニウムみたいにドライだな、と思った。」(269ページ)
アルミニウムみたいにドライ? どんな雰囲気なんでしょうね?




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