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ミドル・テンプルの殺人 [海外の作家 は行]

ミドル・テンプルの殺人 (論創海外ミステリ)

ミドル・テンプルの殺人 (論創海外ミステリ)

  • 作者: J.S. フレッチャー
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2017/02/01
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
遠い過去の犯罪が呼び起こす新たな犯罪。深夜の殺人に端を発する難事件に挑む快男児スパルゴの活躍!  謎とスリルとサスペンスが絡み合うミステリ協奏曲。第28代アメリカ合衆国大統領トーマス・ウッドロウ・ウィルソンに絶讃された歴史的名作が新訳で登場!


先日の「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)がおもしろかったので、クラシック・ミステリもいいもんだな、と改めて思い、この「ミドル・テンプルの殺人」 (論創海外ミステリ)を手に取ったのですが、これが大当たり! 
無茶苦茶面白いではないですか。

正統派の謎解きミステリとは言えませんが、様々な事実が次々と明かされ、それにつれて謎が次々と生み出され、スピーディーに物語が展開していく面白さにあふれています。
36章と章の数が多いですが、それぞれにおっと思う新事実や展開が用意されています。連載小説だったのでしょうか?
また行きずりの殺人っぽく見える導入部から、物語が(予想外に)拡がりを見せるところもポイントですね。
そして、探偵役をつとめる新聞記者スパルゴ(若いけれども副編集長です)と法廷弁護士のブレトンが感じよいのもいいですね。

J.S.フレッチャー、初めて読みますが、気に入りました!
「亡者の金」 (論創海外ミステリ)もぜひ読んでみようと思います。


最後に横井司による解説で、小森健太朗の評言として
「英語で読めばけっこう巧妙なミスディレクションが犯人に関して仕掛けられているんですよ。それが日本語の訳では表現できないんですよ」
というのが紹介されていますが、「すでに読了された読者には予想がつくだろうが」とだけ書かれて説明されていません。
うーん、わかりません。
下の蛇足に書いたのですが、原書を買ったので、英語でもいずれ読んでみようかな?


<蛇足1>
「見るからに田舎者の、背の高い小太りの中年男性で、黄色い髪に青い目を市、一張羅のパールグレーのズボンに~」(51ページ)
黄色い髪ってどんなだろう、そんな人いるかな? と思ったのですが、今のイギリス首相・ボリス・ジョンソンをTVで見ると髪の毛、金髪というのとは違う印象で黄色いですね......こんな感じなのでしょうか?

<蛇足2>
「この仕事に関して、あなたと私は共同戦線を張ると考えていいんですよね」(65ページ)
と、スパルゴ(新聞記者)がラスベリー(刑事)に言うシーンがあり、ラスベリーは同意を示すのですが、この当時は警察と民間、しかも新聞社の共同戦線は問題なかったんですね......
まあ、名探偵と警察だって似たような関係ですけど。

<蛇足3>
裁判のシーンで、「大蔵省の顧問を務めるある著名な弁護士」「大蔵省の顧問弁護士」が登場します。
検察官のような役割を果たします。
裁判に大蔵省? と思いましたが、たとえばアメリカのシークレット・サービスが財務省管轄であったりするように、イギリスの歴史的な経緯で大蔵省なのかな、と思いましたが、ネットで調べてもわかりませんでした。
イギリスの昔の裁判制度でいう「王座裁判所」(Court of King's Bench)を所管していたのはどうやら財務省(Exchequer)のようですから、その関係かな、とぼんやり。
あまりに気になったので原書を買ってチェックしてみましたが、「a certain eminent counsel who represented the Treasury」「The Treasury representative」となっています(Treasury を大蔵省と訳すのはかなり違和感がありますが、まあ趣味の問題ですね)。
訳注をつけておいてほしいところです。
ちなみに、この原書amazon で Paperback であることを確認して注文したのですが、届いたのがなんとA4判の大きさ。びっくり。慌ててキャンセル手続きをしてみたら、すぐにキャンセルOKになり、しかも物を返送する必要もなし。結果的に、無料で手に入ってしまいました。どういう仕組みなんだろ!?
ありがたいことではありましたが。

<蛇足4>
「ロンドン一おいしい中国茶の飲める、ちょっと変わった古風な店があるんです」(116ページ)
といってスパルゴがジェシーという女性を誘っていくシーンがあるのですが、そのあと
「話にあった茶房の隅の席に二人は腰を落ち着け」
というのは日本語として困りものですね。「話にあった」という第三者的な用語を使うのはふさわしくないと思われます。「さきほど話した」とか「話に出した」という感じ?

<蛇足5>
「地形学者が言うところの寂れた町さ」(130ページ)
地形学者が、寂れたとか(学術的に)言ったりしないと思います。寂れた、というのは地形ではありませんから。
せっかく原書があるので見てみると、topographers。「地形学者,地誌学者」と辞書では書かれていますね。であれば、ここは地誌学者であるべき、ではないでしょうか?

<蛇足6>
「喜んで伺わせていただきます」(145ページ)
「喜んでお伺いします」でよいのではないでしょうか?
なんでもかんでも「~させていただきます」というのはよくない傾向だと思います。

<蛇足7>
「被告に不当に圧力をかけるつもりはないが、被告が起訴状の訴因に関してわざと素直に罪を認めるという非常に巧妙な手段を取ったとも考えられるので、正義のために、被告の嘆かわしい不誠実によって引き起こされた背任横領の詳細に関して本法廷で説明する必要性を感じると述べた。」(151ページ)
ここを読んで、すっきりしないなぁ、と思いました。
without any desire to unduly press upon the prisoner, who, he ventured to think, had taken a very wise course in pleading guilty to that particular count in the indictment with which he stood charged, he felt bound, in the interests of justice, to set forth to the Court some particulars of defalcations which had arisen through the prisoner's much lamented dishonesty.
原文から考えると「被告が起訴状の訴因に関してわざと素直に罪を認めるという非常に巧妙な手段を取ったとも考えられる」というのはちょっと違うのではと思います。被告の行状とあまりにもそぐわない訳です。
逆で、「被告が起訴状の訴因に関して賢明にも罪を認めていますことから」でよいのではないでしょうか? 

<蛇足8>
「召還して釈明させるはずだった男が死亡したため」(154ページ)
召喚、ですね?

<蛇足9>
「まったく知らない人です。僕の知るかぎり、これまで一度だって会ったことはない」(21ページ)
会ったことがない、という際に「知るかぎり」とつけるのはおかしいですね。原文は
Don't know him -- don't know him from Adam. Never set eyes on him in my life, that I know of.
これ、「これまで一度だって会ったことはない、それは確かです」という意味なのではないでしょうか?



原:The Middle Temple Murder
作者:J. S. Fletcher
刊行:1919年
訳者:友田葉子



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聴き屋の芸術学部祭 [日本の作家 あ行]


聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

  • 作者: 市井 豊
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2014/12/21
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
生まれついての聴き屋体質の大学生、柏木君が遭遇する四つの難事件。芸術学部祭の最中に作動したスプリンクラーと黒焦げ死体の謎を軽快に描いた表題作、結末のない戯曲の謎の解明を演劇部の主演女優から柏木君が強要される「からくりツィスカの余命」などを収録する。文芸サークル第三部〈ザ・フール〉の愉快な面々が謎を解き明かす快作、ユーモア・ミステリ界に注目の新鋭登場。


「聴き屋の芸術学部祭」
「からくりツィスカの余命」
「濡れ衣トワイライト」
「泥棒たちの挽歌」
の4話収録です。

作者の市井豊は、表題作である「聴き屋の芸術学部祭」で、第5回ミステリーズ!新人賞に佳作入選しデビューした作家です。
市井豊の作品を読むのはこの「聴き屋の芸術学部祭」 (創元推理文庫)が初めてですが、面白かったですね。
とても好感の持てる作風というか、読んでいて心地よいですね。
主人公である聴き屋のぼくや主要登場人物たちのキャラクターに負うところが多いと思います。
作風や作品の方向性は違うのですが、どことなく似鳥鶏の、「理由(わけ)あって冬に出る」 (創元推理文庫)から始まるにわか探偵団シリーズや、「午後からはワニ日和」 (文春文庫)から始まる楓ケ丘動物園シリーズを読んでいる時のような、心地よい読み心地を感じました。
絶対このシリーズ続けて読もうと決意しました。

しかし、この芸術学部、変人の集まりです。
一般に芸大は変人揃いだと言われますが(芸大のみなさん、失礼します)、他学部から隔離され、完全に独立した敷地にある芸術学部は、芸大に準ずるのでしょうか?

冒頭の「聴き屋の芸術学部祭」は、楽しい登場人物たちに翻弄されているうちに、驚きの事件と真相に行き当たるというストーリーですが、ミステリとしては、動機と結果のアンバランスさをどう処理するか、という点が気になるところを(気にしない読者もいらっしゃるとは思いますが)、力技でねじふせてしまうのが見事です。
芸術学部、ということが効果をあげていると思いました(重ね重ね、芸大のみなさん失礼します。

「からくりツィスカの余命」は、作中劇のラストを推理する、というぼくの嫌いなタイプの作品なのですが、この作品の場合はあまり嫌だとは思いませんでした。
登場人物たちの奇矯さにやられてしまったという側面はもちろんありますが、最後に実際の作者と突合して答え合わせをしてくれているからかも、と思いました。

「濡れ衣トワイライト」は小味な日常の謎ですね(もっとも渾身の力作である模型を壊されちゃった側からすると、日常の謎、とあっさり片付けるわけにはいかないかも)。
キーとなる事象、手がかりはミステリでは極めてありふれたものですが、謎の大きさとぴったりかな、と感じました。

「泥棒たちの挽歌」は、文芸サークル第三部〈ザ・フール〉の温泉旅行に行った先で遭遇する殺人事件を扱っています。くるくると転回する推理がポイントですね。

スカイエマによる表紙絵(カバーも、各話の扉イラストも)もいい感じです。

「限られたチャンスの中で持てるすべてを出しておきたい」(単行本あとがき)と思ったから、異なる趣向の作品が並んだ、とのことですが、逆に言えば、それだけ引き出しの多さがあるとも言えるわけで、今後の展開がどうなるかはわかりませんが(作者によると「次回はもう少し方の力を抜き、けれど手は抜かずに」)、楽しみな作家が出てきたな、という印象です。
次作「人魚と金魚鉢」 (創元推理文庫)に大いに期待します!

<蛇足1>
「からくりツィスカの余命」の101ページに
ぼくの先輩が児童文学論のレポートのテーマに選ぶのが
大海赫「ビビを見た!」 (fukkan.com)と、
エドワード・ ゴーリー「ギャシュリークラムのちびっ子たち―または遠出のあとで」(河出書房新社)
で、あまりのセレクションにぼくが
梨木香歩「西の魔女が死んだ」 (新潮文庫)
あたりをおすすめするシーンがあるのですが、いずれも読んでいないのでこのシーンのおもしろさを実感できないのが残念でした。

<蛇足2>
「濡れ衣トワイライト」の150ページに、
「俺の心はカスピ海より広いのだ」
と登場人物が言うシーンがあります。
それと対応するかたちで
「俺の心はサロマ湖より広いのだ」(167ページ)
とも言い、ぼくは
「カスピ海からの著しいスケールダウンだった」(167ページ)と感想を漏らすのですが、このあたり、あずまきよひこの「あずまんが大王」 (少年サンデーコミックススペシャル) (Amazonのリンクは、心を海と比べるのが何巻だったかわからないので1巻目にはっています)を思い出しました。確か、あれは瀬戸内海だったかな??



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ドラマ:密室の刀 [ドラマ ジョナサン・クリーク]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD


「奇術探偵ジョナサン・クリーク」の第5作目「密室の刀」 (The House of Monkeys)です。

日本語タイトルは「密室の刀」ですが、原題は The House of Monkeys。猿の家、です。
被害者であるエリオット・ストレンジ博士の家で多くの種類の猿が飼われています(!)。
冒頭いきなりゴリラが登場してきてびっくり。でもちゃんと人に馴れている設定です。

事件はそのエリオット・ストレンジ博士が頑強な密室内で、日本刀で背後から貫かれて殺される、という事件です。
(被害者の書斎に、日本の鎧兜が置いてある、という設定で、刀はそれと合わせて置いてあります)

この謎解きは、ちょっと残念でしたね。
ある意味、逃げ、なのではないかと思います。
解くための手がかりも、ちょっと不発気味。
いままでの5作のなかでは一番落ちる出来栄えかもしれません。
第1シリーズのラストを飾る作品ですが......

一方で、シリーズ的には、イングリッドにけしかけられて、マデリンがジョナサンに言い寄る(?)、どころか、ジョナサンのベッドに入り込むのが楽しいですね。もっともこのシリーズのこと、だからといって、その先どうなるかは予想通りではありますが。
この二人の関係も、シリーズの注目どころなのでしょうか? あんまりそれを楽しみに観るシリーズとは思えないのですが(笑)


<蛇足>
被害者の妻イングリッドが、ジョナサンの母の知り合いで、定期的にジョナサンの健康診断をしてくれる、という設定になっていました。
この健康診断のことを、MOT と呼んでいます。
MOT というと日本でいう車検なので、人間の健康診断のことも言うのかな? と調べてみましたが載っていませんね。車検からの連想で人間にも使ってみた、ということでしょう。
その健康診断のシーン、聴診器や口腔内を見ることに加えて、触診による直腸検査までしていて笑ってしまいました......


いつも通り「The Jonathan Creek homepage」という英語のHPにリンクを貼っておきます。
第4作「密室の刀」 (The House of Monkeys)のページへのリンクはこちらです。
ただし、こちらのHP、犯人、トリックも含めてストーリーが書いてあるのでご注意を。写真でネタばらしをしていることもあるので、お気をつけください。


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カササギたちの四季 [日本の作家 道尾秀介]

カササギたちの四季 (光文社文庫)

カササギたちの四季 (光文社文庫)

  • 作者: 道尾 秀介
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2014/02/13
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
リサイクルショップ・カササギは今日も賑やかだ。理屈屋の店長・華沙々木(かささぎ)と、いつも売れない品物ばかり引き取ってくる日暮、店に入り浸る中学生の菜美。そんな三人の前で、四季を彩る4つの事件が起こる。「僕が事件を解決しよう」華沙々木が『マーフィーの法則』を片手に探偵役に乗り出すと、いつも話がこんがらがるのだ……。心がほっと温まる連作ミステリー。


「春 鵲(かささぎ)の橋」
「夏 蜩(ひぐらし)の川」
「秋 南の絆」
「冬 橘の寺」
の4編収録の連作短編集です。

最初の「春 鵲の橋」はあっさり読んでしまったのですが、「夏 蜩の川」を読んで、この連作、なんと面倒なことに挑んでいるのだろう、とびっくりしました。
おもしろおかしく書かれているので、ミステリ的な側面が強調されているわけではないのですが、名探偵役の華沙々木がでたらめな推理を繰り広げ、そのボロが出ないように日暮が先回りしていろいろと仕掛ける。先回りするためには、日暮はその段階で本当の真相を見抜いていなければならない。
こんな面倒な縛りがある連作、よく4作も続けましたね。
だって、日暮が推理するでたらめな華沙々木の推理で、他の登場人物を納得させなければならないのですよ(まあ、究極的には菜美だけを納得させればよいのですが)。

そして、この枠組み自体が、華沙々木、日暮、菜美の関係性を規定するものであることがすごいですね。
そしてそれが、最後の「冬 橘の寺」で、違う顔を見せる。
なんてステキな仕掛けなのでしょうか。
道尾秀介の技巧派ぶりが遺憾なく発揮されている良い作品だと思いました。
作者が繰り返し言う、「ミステリの手法は人間を描くための手段であって、目的ではない」という言葉が綺麗に反映された作品ですね。

道尾秀介の作品は積読率が高いのですが、もっと読むペースを速めてもいいな、と思わせてくれた作品でした。


<蛇足>
「手ずれのした表紙には金文字で “Murphy's Low” とある。」(10ページ)
とあって、あれれ? マーフィーの法則、なら Low ではなく Law ですから。
と思っていたら、「蜩の川」では
「読み込まれて手擦れのした表紙には “Murphy's Law” とある。」(73ページ)
とちゃんと Law になっています。単なる誤植だったのですね。
しかし、この Law だけではなく、手ずれ、手擦れと同じ語の表記が揺れているのも感心はしませんね。
光文社文庫、ちゃんと校正しているのでしょうか?
(為念、手元にあるのは、2014年2月20日 初版第1刷 です)



タグ:道尾秀介
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憂国のモリアーティ 6 [コミック 三好輝]

憂国のモリアーティ 6 (ジャンプコミックス)

憂国のモリアーティ 6 (ジャンプコミックス)

  • 作者: 三好 輝
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/07/04
  • メディア: コミック

<裏表紙あらすじ>
密会は、絢爛たる仮面舞踏会の陰で──
アルバートがアイリーンとの交渉の舞台として用意したのは、バッキンガム宮殿での仮面舞踏会。そこで明かされる“禁秘”の文書の内容と、アイリーンの真の“望み”とは…!? 犯罪卿と名探偵、美貌の悪女。奇妙な三角関係が、大英帝国の醜聞を終わりへと導く──!!


シリーズ第6巻。
表紙は、アイリーン・アドラーです。

#20、21、22、23 大英帝国の醜聞 第四幕、第五幕、第六幕、第七幕(A Scandal in British Empire Act 4, Act5, Act6, Act7)
を収録。「大英帝国の醜聞」完結です。

第5巻(ブログの感想ページへのリンクはこちら)もほとんどがこの「大英帝国の醜聞」でしたから、ほぼ2巻使っての物語です。

このエピソード、雑なところがありますが、結構いいです。お気に入り。
やはり、アイリーン・アドラーはいいですよねぇ。物語の核として圧倒的な存在感を示したように思います。
大英帝国を揺るがすようなスキャンダルを知ってしまったアイリーン・アドラーの行く末というものがとても気になるわけですが、作者は用意周到ですね。
こういう風に処理しますか。なるほどねー。
政府(ホームズの兄が長官、ですね。陸軍省レベルだと大臣でしょうから、陸軍省情報部の長官でしょうか?)、モリアーティ(モリアーティたちが設立したMI6は政府機関であってもこちらですね)、ホームズたちと、思惑が入り乱れての着地がうまく決まっているように思ったのですが。

またアルバートたちモリアーティ兄弟のミドルネームであるジェームズがこういう形で活用されるとは思っていませんでした。

モリアーティ兄弟の野望も他者に(誰に明かしたかはコミックを読んでお確かめください)明らかにされていますし、こうなると、ますます今後の展開が楽しみになってきますね。




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闇と静謐 [海外の作家 あ行]

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

  • 作者: マックス アフォード
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/06
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
ミステリドラマの生放送、現実に殺人事件が……。ラジオ局で発生した停電中の密室殺人に始まる不可思議な事件の数々にジェフリー・ブラックバーンが挑む! シリーズ最高傑作と評される第3作"The Dead Are Blind"が、原著刊行から79年の時を経て遂に邦訳!


単行本です。「2017 本格ミステリ・ベスト10」第9位。
論創海外ミステリ172。
この叢書、あらすじがないんですよね。
上の論創社HPからの引用も、あらすじと呼ぶには足りないですね.....
ということで、訳者あとがきから引用します。

物語は一九三二年五月十五日、英国放送協会(BBC)の新社屋、ブロードキャスティング・ハウスの完成を祝し、各界の有名人を招いた記念式典に、我らがジェフリー・ブラックバーンと、スコットランドヤードのジェイミソン・リード主席警部が招待されるところから始まります。式絵tンに続いて行われたラジオドラマ『暗闇にご用心』の生放送中、新進女優のメアリ・マーロウが突然亡くなるという大ハプニングが発生。当初は心疾患による病死との診断が下されたのですが、死因に不審な点が多いのが気になったジェフリーは他殺を疑い、独自の捜査に乗り出します。放送中のスタジオは内側から鍵が掛かっており、外部からの侵入は不可能。検視にあたったコンロイ医師のもと、新たな事実が明らかになります。その後事態は二転三転し、ジェフリーがたどり着いた真相とは……。


マックス・アフォードの本を読むのは「魔法人形 世界探偵小説全集 4」(国書刊行会)以来ですね。
「百年祭の殺人」 (論創海外ミステリ)は購入してあるものの未読ですので。
「魔法人形」はもうすっかり忘れてしまっていまして、おもしろかったかどうかすら定かではありません。
でも、この「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)はとてもおもしろかったですね。

タイトルの意味は冒頭いきなり出て来ます。
『ジェフリーが今後、どのような事件に遭遇する運命にあろうとも、かの「暗闇と静謐の驚くべき事件」は、その記憶に今もなお鮮やかに刻まれているのは、彼をよく知る立場である私が何よりわかっている」(9ページ)
ーーここ、なぜ闇と静謐と訳さなかったのでしょうね? あるいは邦題を暗闇と静謐にしなかったのでしょうね? それと、この文章ちょっと日本語としておさまりが悪いですよね...
まあ、これを見ても何のことかよくわからないわけですが、BBCのラジオドラマ上演収録時に起こった殺人事件ということを考え合わせると、わかったような、わからないような......

ミステリとしての建付けは、ネタバレを含みつつ、大山誠一郎が「オーストラリアのクイーンズランド」と題した解説で詳細に書かれていまして、もうそれ以上素人が付け加えようもありません。

訳者あとがきにもある通り、二転三転する事件の様相が読み応えたっぷりでした。
また、これも受け売りですが(法月綸太郎の評論からの孫引きになるかも)、鍵のかかったドアを中心に空間を切り分けて事件の様相を考察すると、とてもおもしろい構図になっていたんですね。
(そういえばこの解説で名の挙がっているエラリー・クイーンの「スペイン岬の謎」 (創元推理文庫)のことが大好きだったのを思い出しました。新訳が出るのがとても楽しみになってきました)

殺人の方法が、いままで読んだことのない感じの殺し方で、びっくりしました。ちょっと大げさかもしれませんが。
ただ、この殺し方、「実に見事な手口と言うべきだな」(154ページ)と監察医がいうのですが、うまくいくかなぁ、と心配になりました(犯人を心配する必要はないですが)。
「物音ひとつ出さず、傷もつけず、血も流さずに人を殺す。検視ではどんな医者もお手上げの兆候を見せる死にざま。」(155ページ)
と続けて監察医が解説しているものの、血は流れるんじゃないかと素人考えですが思います。
とはいえ、この殺し方はミステリとしてのキーポイントではありません。血が流れて、あからさまな殺人であっても、ミステリとしての傷にはならない構成になっています。
安心してお読みください(?)。

「百年祭の殺人」を読むのはもちろん、「魔法人形」も読み返してみなければ、と強く思いました。


<蛇足1>
「教育の行き届いたポーターがゲストを休憩室(ホワイエ)へと誘導する」(28ページ)
ホワイエに休憩室と訳語がついていますが、違和感がありますね。日本語の感覚では、ホワイエはどちらかというと、ロビーに近いのではないかと思うのですが。

<蛇足2>
「『暗闇にご用心』の舞台は、田舎屋敷のダイニングルームです」(40ページ)
田舎屋敷...... 原語はおそらくcountry house で、逐語訳すればたしかに田舎屋敷ですが、これまた... 今やカントリーハウス、でよいのではないかと思うのですが。

<蛇足3>
「今夜、君の下着の中ではアリがはい回っているのかね?」(118ページ)
落ち着かないジェフリー・ブラックバーンにリード警部がいうセリフなのですが、おもしろい言い回しですね。
同じページに「肩を丸め」という表現も出てきます。これもおもしろい表現だと思いました。肩ってどうやって丸めるのでしょうね? 背中を丸めるはわかるのですが......似たような状況を指すのでしょうか?

<蛇足4>
リード警部とジェフリー・ブラックバーンが住んでいる場所のことを、この本では、アパートと呼んだり(たとえば11ページ)、フラットと呼んだり(たとえば184ページ)しています。どうして統一しないのでしょうね??

<蛇足5>
「ジェフリーとリードは、味はいいが、どこがいいのかさっぱりわからない昼食をともにしながら」(185ページ)
意味がわかりません......原文を確認したくなりますね。
(こういうときはまず間違いなく誤訳ですから)

<蛇足6>
「きっと役に立つ手がかりがふくまれているかもしれません」(188ページ)
きっと~かもしれません、というつながり方は珍しいですね。呼応していないと思います。

<蛇足7>
「昨日の午後、ロンドン郵便局本局(GPO)の、EC1管轄区から投函されたということしかわからなかった。」(188ページ)
EC1管轄区という訳語を見て、なるほどなぁ、と思いました。
EC1というのは、イギリスのPOST CODE、日本でいう郵便番号にあたります。地域をある程度特定できるわけですね。管轄区という呼称は正しくないかもしれませんが、雰囲気をよく伝えていると思います。

<蛇足8>
「殺人事件の九十パーセントは状況証拠で有罪が宣告されているじゃないですか。」(205ページ)
なかなか衝撃的なセリフですね。
さらにこのあたりのセリフ、結構支離滅裂なんで要注目です。
「謎解きなら、やめたまえ」というリード警部の直前のセリフも文脈からして意味不明ですし(謎を解くサイドではなく、謎を提出するサイドならわかります)。



原題:The Dead are Blind
作者:Max Afford
刊行:1937年
訳者:安達眞弓





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サクソンの司教冠 [海外の作家 た行]

サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/03/11
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
フィデルマはローマにいた。幸い、ウィトビアの事件を共に解決したエイダルフが加わっている、カンタベリー大司教指名者(デジグネイト)の一行と同行することができた。ところが、肝心の大司教指名者がローマで殺されてしまったのだ。犯人はどうやらアイルランド人修道士らしい。フィデルマとエイダルフは再び事件の調査にあたるのだが……。美貌の修道女フィデルマが縺れた謎を解く。長編第二作。


「死をもちて赦されん」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2作です。
司教冠には、ミトラ、とフリガナが振ってあります。

今回は舞台がローマです。
新たなカンタベリーの大司教に指名されたウィガード司教が殺されるという大事件が起こります。
フィデルマとエイダルフは首尾よく(?) ローマのゲルシウス司教(教皇の伝送官[ノメンクラートル])から捜査を依頼され、自由に思うように進める権限を得ます。
この場面でもそうですが、「死をもちて赦されん」 感想でも書いた通り、フィデルマ、我を通すというか(それがいかに合理的なものであっても)、嫌な女です。
筋を通すというと聞こえはいいですが、もうちょっとやりよう、いいようはあるのでは、と思ってしまいます。
エイダルフが緩衝材になっている、ということでしょうが、それにしてもねぇ、と思えてなりません。
ひょっとしたらフィデルマは、厭味ったらしい名探偵の正統派の後継者なのかもしれませんね。

怪しげなアイルランド人修道士が犯人と目されているという状況は常套的ながら手堅い印象です。
非常にゆったりと謎解きは進みますが(なかなか進まない、というべきかもしれませんが)、解説で若竹七海が書いているように
「例によって多少くどすぎたり長すぎたりする箇所がないわけではないが、地下通路で迷いかけたり、死体を発見し謎のアラビア人の会話を立ち聞きし、挙げ句の果てに頭を殴られて気絶したり、売春宿におしかけて大女の女将を投げ飛ばしたり、聞き込みの合間にアクションも盛りだくさんとサービス精神旺盛な娯楽大作になってい」ます。
事件の背景にある、犯人をはじめとする登場人物たちの流転の物語が興味深く、大部な作品ですが面白く読み終わることができました。

おもしろかったのは、冒頭ミスをしてしまうラテラーノ宮殿衛兵隊の小隊長(テツセラリウス)のリキニウスですね。冒頭のこのチョイ役なのかな、と思っていたら、フィデルマ、エイダルフとともに捜査に加わります。
でね、
「フィデルマの部屋の戸口に、宮殿衛兵(クストーデス)の正式制服を着用した、若い美男の士官の姿が現れた。」(66ページ)
「好感のもてる容貌、というのが、フィデルマの第一印象だった。」(108ページ)
とあるように、ハンサムという設定なんですよ。
ちょっと、おやおや、と思うではないですか。
でもね、
「気がつくとフィデルマは、考え込みながらサクソン人修道士をじっと見つめていた。二人の意見は、自分たちの性格の違い、文化の違いのせいで、奇妙にも絶えず衝突していた。それにもかかわらず、フィデルマは彼と共にいる時には、常に温かさ、楽しさ、心地よさを、感じるのだった。これは、どういうことなのかと、フィデルマはその理由を見出したかった。」(434ページ)
なんてフィデルマが考えるくらいですから、リキニウスは到底エイダルフの敵ではありませんね。若い、若いと連発されていますから、年齢的にもフィデルマとは釣り合わないのでしょう(愛があれば歳の差なんて、といいますが...)。


<蛇足1>
「アイルランドの法律は、全ての女性を庇護しています。もし男性が相手の意に反して接吻をすれば、あるいは少々体に触れただけでさえ〈フェナハス法〉によって、銀貨二百四十スクラバルの罰金を科せられます」(206ページ)
アイルランドには古代(「サクソンの司教冠」の時代設定は 664年の夏です)からこんな進んだ法律があったんですねぇ。
でも、そうでないと、フィデルマのような性格の女性は生まれ得なかった(存在しえなかった)ようにも思えますが(笑)。

<蛇足2>
「フィデルマは、セッピのあからさまなパトック批判に、驚かされた。」(235ページ)
というところ、その前のセッピのセリフは確かにパトックを批判を意図するセリフではあるのですが、別の当事者に話が流れたかたちにもなっており、さほど「あからさまな」パトック批判とは言い難いものだと読んだのですが、誤読なのでしょうね...

<蛇足3>
「この傲慢な女性に一分間でも対応しようものなら、彼女はいつもの自制心を忘れて、感情を爆発させてしまうこと必定であろうから。」(258ページ)
フィデルマさん、いつもあなたやりたい放題に近いじゃないですか。いつもの自制心って、あなた、そんなに自制心のあるタイプではないでしょうに......

<蛇足4>
物語の最後の方、フィデルマが故郷に向かう道中のシーンがあり、当時の風景をアイルランドと対比させつつ描くシーンがあって印象深いです。
「その銀緑色は、彼女がなじんできた母国アイルランドの濃緑とは違うことに、フィデルマは気づいた。」(509ページ)
こういうの楽しいですよね。
ところで、濃緑に「こみどり」とルビが振ってあって、おやっと思いました。
普通に読むと「のうりょく」かな、と思うのですが、「こみどり」も辞書にはあるようですね。
ひょっとしたら少し特色ある原語が使ってあったのかな、と想像して楽しくなりました。




原題:Shroud for the Archibishop
作者:Peter Tremayne
刊行:1995年
翻訳:甲斐萬里江


ここにこれまで邦訳されている長編の書影を、ぼく自身の備忘のためにふたたび順に掲げておきます。
死をもちて赦されん (創元推理文庫)

死をもちて赦されん (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2011/01/26
  • メディア: 文庫

サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

サクソンの司教冠 (創元推理文庫)

  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2012/03/10
  • メディア: 文庫

幼き子らよ、我がもとへ〈上〉 (創元推理文庫)幼き子らよ、我がもとへ〈下〉 (創元推理文庫)幼き子らよ、我がもとへ〈下〉 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2007/09/28
  • メディア: 文庫

蛇、もっとも禍し上 (創元推理文庫)蛇、もっとも禍し下 (創元推理文庫)蛇、もっとも禍し下 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: 文庫

蜘蛛の巣 上 (創元推理文庫)蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)蜘蛛の巣 下 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2006/10/24
  • メディア: 文庫

翳深き谷 上 (創元推理文庫)翳深き谷 下 (創元推理文庫)翳深き谷 下 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2013/12/21
  • メディア: 文庫


消えた修道士〈上〉 (創元推理文庫)消えた修道士〈下〉 (創元推理文庫)消えた修道士〈下〉 (創元推理文庫)
  • 作者: ピーター・トレメイン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/11/21
  • メディア: 文庫






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ドラマ:消えた訪問者 [ドラマ ジョナサン・クリーク]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD


「奇術探偵ジョナサン・クリーク」の第4作目「消えた訪問者」( No Trace of Tracy )です。
今回の謎はちょっと(ミステリとしては)平凡でしょうか。

自宅に監禁された元ミュージシャン(英語の字幕を付けてみたとはいえ劇中の英語がよくわからないところだらけなので、ミュージシャンではなく現役だったのかもしれません)、ロイ・ピルグリム。
同じ日、誘われてそのロイの自宅を訪れようとしていた女性・トレイシー。家に入るところを学生たちに目撃されている。
ところがロイはトレイシーは来ていない、トレイシーを見ていない、と言い......

というものなのですが、こういう謎、割とよくある謎ですよね。
そしてこのパターンの謎の場合、考えられる解決は大きく分けて2通りあり、さてこの「消えた訪問者」はどうかな、と思っていると、その予想通りの着地へ向かっていく......

で、トリック・解決が平凡だからつまらないか、というと決してそうではなく、解決に至る手がかりに工夫があっておもしろかったですね。
あと、動機が極めて現実的である点も好印象ではないかと思いました。
しかし、カエルを舐めさせられた警官役の役者さん、お気の毒です......

シリーズ的には、マデリンがジョナサンに嫉妬するラストシーンが印象的、と言っておかねばなりませんね。

いつも通り「The Jonathan Creek homepage」という英語のHPにリンクを貼っておきます。
第4作「消えた訪問者」( No Trace of Tracy )のページへのリンクはこちらです。
ただし、こちらのHP、犯人、トリックも含めてストーリーが書いてあるのでご注意を。写真でネタばらしをしていることもあるので、お気をつけください。


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御子柴くんと遠距離バディ [日本の作家 若竹七海]

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)

御子柴くんと遠距離バディ (中公文庫)

  • 作者: 若竹 七海
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/12/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
長野県警から警視庁へ出向中の御子柴刑事。おおむね平穏な生活を送っていたものの、暮れも押し詰まってから次々と事件が発生。さらには凶刃に襲われて! 相棒の竹花刑事は異変を察知し、御子柴のもとに駆けつけるが……。御子柴くんの身に危険と大きな変化がおとずれる、スイーツ&ビターなミステリー第二弾。


「御子柴くんの甘味と捜査」 (中公文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続くシリーズ第2弾です。
前作感想に、
「これでシリーズ終わらせるのもったいないと思うので、ぜひ、続編書いてください。」
と書いた願いが叶いました!

オープニングの「御子柴くんの災難」がいきなり衝撃的です。
あとがきで作者も
「どうやらわたしには、自分の生み出したキャラクターを千尋の谷に突き落とす癖があるらしい。」
なんて書いていますが、それにしてもこれは......
御子柴くん、すごくいい人なのに......

で、次の「杏の里に来た男」を読んで安心。
あ~よかった、生きてた。
シリーズものなので、死んでしまうはずないんですけど、いやあ、心配しました。
警視庁での三年間の勤務期間が終わり、長野県警に戻っています。
異動先は、千曲川署に新設された〈地域生活安全情報センター〉のセンター長。一見偉くなっていますが、やや微妙な異動です。
それでも御子柴くんはちゃんといい人のままです!

このあと
「火の国から来た男」
「御子柴くんと春の訪れ」
「被害者を探しにきた男」
「遠距離バディ」
と続く、合計6作収録の短編集となっています。

各話ともに、警視庁時代の相方である竹花一樹と御子柴くんとの話がほぼ交互に語られ、連携していきます。
このシリーズの醍醐味の一つに、一見関係なさそうなエピソードがすっと結びついていくところにありますが、東京と長野と結びつけるのが難しそうな設定をものともせず、さすがは若竹七海。
竹花の方も、いいキャラクターで、この二人の活躍を読むのはとても楽しいですね。

小林警部補が定年を迎えて引退し、悠々自適な(と思われる)生活を送っている(17ページ~)こともわかりました。
なので、すっかり出番は少なくなってしまいましたが、ゲスト出演という感じでちらっと出てくると、おおっ、と思いうれしくなりますね。

最後の「遠距離バディ」で、御子柴くん、さらに異動が決まっていて、シリーズの続刊に期待が高まります。
また名産品の数々が登場すると楽しいですね。
期待大です!

<蛇足1>
こちらの勝手な勘違いではありましたが、御子柴くんの年齢に冒頭からびっくりしました。
「三十代も後半戦に入りかけ、自分も上の世代に甘えていられる歳ではなくなった。」(18ページ)
えっ、そんな高めの年齢設定だったんだ...
勝手にもっと若いんだと思い込んでずっと読んでいました。

<蛇足2>
「どっちにしても、ますます、ずくがなくなるな。」(195ページ)
ここに出てくる「ずく」、長野の方言のようです。
「惜しまず働く力」だと goo の方言辞典には書いてありますが、なかなか奥の深い言葉のようです。
「やる気」と言い換えると上のセリフは意味が通りますね。




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吸血鬼と生きている肖像画 [日本の作家 赤川次郎]

吸血鬼と生きている肖像画 (集英社文庫)

吸血鬼と生きている肖像画 (集英社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/06/21
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
評判の画家に描かせた肖像画が届いた直後、大企業の社長が自殺した。社長室のある八階から飛び下りたのだ。疑惑の肖像画を見たクロロックは、かすかに漂う怪しい匂いをかぎつけた。しかも現場に来た刑事によると、この画家が描いた人間は次々と亡くなっているといい――!? 正義の吸血鬼父娘が、事件に潜む闇を斬る!! 表題作のほか『吸血鬼とお茶を』『鏡を愛した吸血鬼』の2編を収録。


「吸血鬼はお年ごろ」シリーズ 第21弾。
先日感想を書いた最新作「吸血鬼と伝説の名舞台」 (集英社オレンジ文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)が第36弾でしたから、ずいぶん前の作品です。
今回読んだのは今年の6月に出た集英社文庫版で、もともとはコバルト文庫から2003年に出ていたものです。
どうして今頃こんな古い作品を読んだかというと、この作品を2003年当時買い忘れていたのです。
買い忘れていたことに気づいたときにはすでに品切れ状態で、もう読めないかなと思っていたら、集英社文庫からシリーズが2009年から次々と再刊されるようになったので、「吸血鬼と生きている肖像画」の番が来るのを待ち望んでいました。

「吸血鬼とお茶を」
「吸血鬼と生きている肖像画」
「鏡を愛した吸血鬼」
の3編収録の短編集です。

昔の作品なので、きちんと(?) 怪異が描かれていますね。

「吸血鬼とお茶を」に出てくる怪異、ちょっと怪しいですね。
ネタバレをしてはいけないのではっきりかけないですが、作中に書かれているような仕掛け(?) だけでは到底数多くの人を騙せないような気がします。もっともこの世ならぬものが関与していた、ということならOKかもしれませんが。

気になったのは表題作「吸血鬼と生きている肖像画」のラスト。
事態を引き起こした張本人が前向きになった幕を閉じる、というのはどうなんでしょうね。そのせいで人も死んでいるというのに...

「鏡を愛した吸血鬼」は、吸血鬼が鏡を愛す? とちょっと興味を惹くタイトルになっていますが、実際には鏡をめぐる怪異ではあっても吸血鬼が出てくるわけではありません(クロロックとエリカを除いで)。
要するところ、
「鏡には人の思いが込められている。――姿だけではなく、心も映し出すのだ」(212ページ)
ということですね(と要約してしまっては小説を読む意味がありませんが...)


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