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推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ [日本の作家 か行]

推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ (メディアワークス文庫)

推理作家(僕)が探偵と暮らすわけ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 久住 四季
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/12/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
名探偵は推理作家の助手を好む?
 彼ほど個性的な人間にお目にかかったことはない。同居人の凛堂である。人目を惹く美貌ながら、生活破綻者。極めつけはその仕事で、難事件解決専門の探偵だと嘯くのだ。
 僕は駆け出しの推理作家だが、まさか本物の探偵に出会うとは。行動は自由奔放。奇妙な言動には唖然とさせられる。だがその驚愕の推理ときたら、とびきり最高なのだ。
 これは「事実は小説より奇なり」を地でいく話だ。なにせ小説家の僕が言うのだから間違いない。では僕の書く探偵物語。ご一読いただこう。


久住四季の作品を読むのは、「トリックスターズ」 (メディアワークス文庫)に次いで2作目です。
「トリックスターズ」 の感想は書けていませんが(手元の記録では2016年に読んでいます)、まずまずおもしろかったので、シリーズ外のも読んでみようと思って購入しました。

「ハートに火をつけて」
「折れ曲がった竹のごとく」
の2話収録です。

軽いタッチの作品ですが、いいな、と思ったのは、名探偵である凛堂が折々推理を披露してくれること。
名探偵物の定番といえば定番ですが、語り手との出会いのシーン(43ページくらいから)で、語り手の素性をビシビシ当てていくところなんか、ワクワクしますよね。少々乱暴な部分があってもOKです。
事件についても、細かな手がかりを組み合わせてするすると解いていくかたちとなっていまして、おもしろいですよ。

「ハートに火をつけて」は、僕が焼け出された火災事件の真相を解くもの。
「折れ曲がった竹のごとく」は、脅迫状騒ぎに続き、当の政治家が殺された事件の謎を解くもの。

論理の厳密さ、とか、堅牢な謎、とか、あるいは精緻なつじつま、とかいうレベルでは突っ込みどころ満載というか、ユルいところがどっさりあることはありますが、いいんです、いいんです。
このあたり、栗本薫が江戸川乱歩賞を「ぼくらの時代」 (新風舎文庫)で受賞した際の受賞の言葉を引用したかったのですが、ものが手元になくて引用できず残念です。

シリーズ化する気満々のラストですので(ちょっとあざとすぎる気がしますが)、続きにも期待しましょう!


<蛇足1>
「まあタイミングから鑑みて、今回は二の可能性が濃厚だろう。」(64ページ)
「凛堂の兄--柳一郎氏の影響を鑑みたのだろうか。」(200ページ)
「殺人事件という社会的重大性を鑑みて」(254ページ)
機械的に(!) 毎回あげつらいますが「鑑みて」と「考えて」は違う単語なので、意識してちゃんと使ってほしいです。特に小説家の皆様。殊に本書のようにヤングアダルト向けの叢書から出す作家の場合は。
それにしても、300ページにも満たない本のなかで、3度も出てくるとは......

<蛇足2>
「……私はずっと、先生の生き様に憧れてきました」(211ページ)
これも、気になりますね。
「生き様」というのは最近ではいい意味としても使われることが多くなっては来ておりますが、本来良い意味では使わず、他人について使うことは差し控えるべき表現なので、憧れの対象に使うのは相当程度の激しい誤用かと思います。

<蛇足3>
「松本清張がお好きとのことでしたが、本格の素養も充分おありです」(264ページ)
松本清張は社会派として知られていますから、世間一般の認識はこういう感じなのかな、とも思いますが、松本清張の作品、かなりトリッキーなものが数多くあるように思っています。
たとえば社会派の名作「砂の器」(上) (下) (新潮文庫)にはすごいトリックが投入されていますし、そのトリックは本格派もびっくりのものだったと思います。(むしろバカミスの領域かもしれませんが......)

<蛇足4>
帯に
「推理小説の作り方わかります。」
と書いてあるのですが、推理作家である僕、月瀬純は、実際に遭遇した事件、凛堂星史郎が解決した事件を書いていくパターンとなっていますので、この作品を読んでも推理小説の作り方はわからないと思うのですが。看板に偽りあり、です。
(当然のことながら、帯の問題なので、作者である久住四季のせいではありませんが)



タグ:久住四季
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灰色のパラダイス: 杉原爽香〈45歳の冬〉 [日本の作家 赤川次郎]

灰色のパラダイス: 杉原爽香〈45歳の冬〉 (光文社文庫)

灰色のパラダイス: 杉原爽香〈45歳の冬〉 (光文社文庫)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/09/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大晦日に開かれるクラシック・コンサートの手伝いをすることとなった杉原爽香。準備が着々と進む中、思いがけず誘拐事件の渦中に巻き込まれてしまった。犯罪の片棒を担ぐ者や、愛息を奪われた夫妻。悲劇の当事者たちはさらなる泥沼にはまっていき……。爽香は相次ぐ事件の連鎖を断ち切ることができるか!? 読者と共に登場人物が年齢を重ねる大人気シリーズ第31弾!


この感想を書こうとして初めて気づいたのですが、シリーズ前作「牡丹色のウエストポーチ: 杉原爽香〈44歳の春〉」 (光文社文庫)を読んでいませんでした......我ながらボケが進んでいますね。
しかも、「牡丹色のウエストポーチ: 杉原爽香〈44歳の春〉」、日本において来てしまってロンドンに持ってきていません。しばらく読めない......

ということで、前々作「栗色のスカーフ: 杉原爽香(43歳の秋)」 (光文社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来の爽香シリーズです。

今回は、大晦日に開かれるジルベスター・コンサートが設定されており、そこ目がけていろいろな登場人物の思惑や出来事が交錯する、という仕掛けになっています。
こういう手法、赤川次郎お得意のものですので、安定した仕上がりになっていましたね。

今回個人的に強く惹かれてたのは、誘拐事件ですね。
誘拐ミステリは数々あれど、この「灰色のパラダイス: 杉原爽香〈45歳の冬〉」で展開されるアイデアは新機軸なんじゃないかなぁ、と思ったからです。
その後の顛末は馬鹿馬鹿しい次第でしたが......悲劇的ではありますが、あまりにも頭が悪いので少々がっかり。でもそうでないと、物語が転がっていかない??
このアイデア、別の作家がじっくり練り上げたらおもしろいのではないかな、と思えました。


<蛇足>
シリーズの登場人物である荻原里美から、爽香が仲人を頼まれるシーンがあるのですが(179ページ)、仲人を設定する結婚式(披露宴)は最近珍しいな、と思いました。
爽香たちの業界では、今でも仲人を置くのが多数なんでしょうか?
もっとも、爽香たち登場人物は1作ごとに歳を取っていくという特殊な設定になっている(それが売りのシリーズです)ものの、作中の年代が明示されていませんので(と思います)、一見今を舞台にしているように思えても、仲人が一般的だった時代が設定になっているのかもしれませんが......




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はぶらし [日本の作家 近藤史恵]

はぶらし (幻冬舎文庫)

はぶらし (幻冬舎文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2014/10/09
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
脚本家として順調に生活する鈴音(36歳)が、高校時代の友達・水絵に突然呼び出された。子連れの水絵は離婚し、リストラに遭ったことを打ち明け、再就職先を決めるために一週間だけ泊めてほしいと泣きつく。鈴音は戸惑いつつも承諾し、共同生活を始めるが……。人は相手の願いをどこまで受け入れるべきなのか?  揺れ動く心理を描いた傑作サスペンス。


近藤史恵のこの作品、サスペンスフルではありますが、サスペンスというジャンル分けがふさわしいかどうかは甚だ疑問ですね。
また、ミステリ味はありません。

長らく音信不通だった高校時代の友人が子連れで家にやってくる、その顛末を描いた物語です。

友人・水絵の設定が、たとえばサイコパスとか病的、あるいは狂気というレベルではなく、単にずれているというレベルであるように描かれていて、その点が秀逸ですよね。
個人的には、普通と思えるレベルからは大きくはみ出している女性だな、と思いましたが、それでも異常者と言い切るほどのものではないと思いました。程度の差こそあれ、こういう人、結構いるんじゃないかな、なんて。
そして子供が一層問題を複雑にする。

タイトルである「はぶらし」というのは、その象徴的ともいえるエピソードからとられています。
転がり込んできた水絵母子に、歯ブラシを渡した鈴音。
翌日夜、新しいのを買ってきたから、と使った歯ブラシを返してくる水絵。(自分たちは)買ってきた新しいのを使っている、と......
ああ、(個人的には)これは理解を超えているなぁ、耐えられないなぁと思いました。こういう人と一緒にいたくはないですねぇ......
でも、こういう人いるな、とも思いました。
以前、なにかの折にお箸を忘れてきた人に、割り箸が余っているのであげたのですが、その人は、なんと(と思いました)洗ってその割り箸を返してこようとした、ということがあったので。
歯ブラシは、ラストでも、改めて印象的な登場をします。

タイトルはひらがなで「はぶらし」ですが、本文中の表記は「歯ブラシ」なんですよね。
この違いが何を意味するのかはちょっとわからないのですが......
でも、ひらがな表記と漢字+カタカナ表記では、受ける印象が違います。ひらがなの方がやわらかい。ひょっとすると、物語自体が激しい激突の連続ではなく、一つ一つは小さめの積み重ねがじわじわと効いてくることを表しているのかも、などと考えました。

水絵と鈴音の高校時代のエピソードや、水絵の息子・耕太をめぐるエピソードが効果的に配置されています。

ラスト近くで鈴音は大きな決断をするのですが(その内容はミステリでなくても伏せておくのが適当だと思うのでここでは書きません)、最終章でのフォローが見事だな、と思いました。
いろいろな議論、考え方はあると思うのですが、こういう決着があったのなら、鈴音の決断はよかったのかあ、と。


タグ:近藤史恵
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片桐大三郎とXYZの悲劇 [日本の作家 か行]

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

片桐大三郎とXYZの悲劇 (文春文庫)

  • 作者: 倉知 淳
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
元銀幕の大スター・片桐大三郎(現芸能プロ社長)の趣味は、犯罪捜査に首を突っ込むこと。その卓越した推理力と遠慮を知らない行動力、濃すぎる大きな顔面で事件の核心にぐいぐい迫る! 聴力を失った大三郎の耳代わりを務めるのは若き付き人・野々瀬乃枝。この絶妙なコンビが大活躍する最高にコミカルで抱腹絶倒のミステリー!


「2016 本格ミステリ・ベスト10」第2位。
「このミステリーがすごい! 2016年版」第7位。
週刊文春ミステリー・ベスト10 ベスト第6位。

倉知淳の作品の感想を書くのは初めてです。
好きな作家で文庫化されると必ず買ってはいるんですが.....2010年に読んだ「とむらい自動車 (猫丸先輩の空論)」 (創元推理文庫)以来です。僕が読んだのは、リンクを貼ってある創元推理文庫版ではなく、講談社文庫版でしたが。

国民的時代劇スター・片桐大三郎とは、こんな人……というのが、帯にあります。
・犯罪捜査に首を突っ込み、事件を解決したがる。
・歌舞伎の名門の生まれ。18歳から映画界の入り大スターとなるが、
 古希を過ぎて聴力を失い引退。
・大きな顔面で、不適に笑う。他人の迷惑など一切顧みない。
・豪快だが、実は優しいところもある。
・大酒を呑むが、甘い物に目がない(老舗「駿河屋」のたい焼きが好物)。
・特殊捜査課の刑事が、助言を求めて直接やって来る。
・付き人の乃枝に「デカ顔大明神」と陰で言われる。
・「この片桐大三郎、金なんぞじゃ動かねえ」とカッコいいことを言う。

冬の章 ぎゅうぎゅう詰めの殺意
春の章 極めて陽気で呑気な凶器
夏の章 途切れ途切れの誘拐
秋の章 片桐大三郎最後の季節
と章立てになっていまして、長編らしい仕立てですが、連作短編集ですね。

「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」を読むと、満員電車での毒殺、ということで、エラリー・クイーンの「Xの悲劇」 (創元推理文庫)を思わせる内容。
ちょっとミステリ的には難あり、と思われます。殺害方法とその後の偽装方法。特にコートの取り扱い(「被害者のコートとスーツの上着、ワイシャツにも、ほぼ一直線上の位置に注射針が貫通した痕跡が残っていました」42ページ)には大きな疑問を感じざるを得ません。
また、乃枝が片桐大三郎に命じられて、満員電車に乗り込んでカメラでビデオ撮影するところがあるのですが(94ページ)、満員電車でビデオ撮影なんて可能なんでしょうか? いろいろと無理がある気がします。
と、ミステリ的には難あり、の作品のように思いましたが、まずは紹介編でしょうから、楽しく読めたので〇。

「ぎゅうぎゅう詰めの殺意」がエラリー・クイーンの「Xの悲劇」 (創元推理文庫)を思わせる内容で、通しタイトルが「片桐大三郎とXYZの悲劇」(文春文庫)
しかも探偵役片桐大三郎は、耳が聞こえない。
おやおや。

続く「極めて陽気で呑気な凶器」は、凶器がなんとウクレレ!
おあつらえ向きに(?) 子どもも登場します(「Yの悲劇」 (創元推理文庫)のことを考えて伏字にしています)。
ウクレレで殺した理由がものすごく単純ながら納得感あり、その点ではマンダリンを凶器にするのに苦労して(?) 仕掛けを施していた「Yの悲劇」よりすっきりしていますね。

「Zの悲劇」 (創元推理文庫)をよく覚えていないので、「途切れ途切れの誘拐」がどの程度「Zの悲劇」を想起させるものになっているのかわからないのですが、「Zの悲劇」は監獄が舞台だったし、誘拐ものではなかったと思いますので......あるいは、ペイシェンスが活躍したように、たとえば乃枝が活躍するのか、とも思いましたが、そういうわけでもないみたい。
ベビーシッターが殺され、赤ん坊が誘拐されるという卑劣な犯罪を扱っているのですが、真相は震撼ものです。
身代金三億円なのですが、
「まず、現金で三億円を用意してください。それを運びやすいバッグ一個にまとめてください。運び役は、貴島さん、あなたの奥さんにやってもらいます」(371ページ)
と誘拐犯に指示されます。
ここは計算違いな気がしました。 
三億円って現金で用意するとかなりの嵩になります。
日本銀行のホームページでみると、1億円の大きさは、よこ38cm、たて32cm、高さ約10cmで、重さは約10kgとのことです。
入れようとしたらバッグ一個とはいかないのでは? それに入るような大きなバッグが用意できたとしても、かなりの重さですからそう簡単には運べません。奥さんが運び役というのは大変だと思います。また見事奪取に成功しても、そのあと犯人もどうやって運ぶのか、かなり難しい。
犯人サイドのことは考えられているのかな、と思えたのですが、それまでの行程はちょっと不用意な感じがぬぐえませんね。
片桐大三郎の目の付け処の鋭さはミステリ的にステキでしたが。

そして最後の「片桐大三郎最後の季節」。
「レーン最後の事件」 (創元推理文庫)がああいう話なので、当然読者はそういう話を想定して読みますよね。
扱われる事件は、区民文化振興会館の施錠されたキャビネットから消えた幻のシナリオ。
この「片桐大三郎最後の季節」に至って、「片桐大三郎とXYZの悲劇」が単なる短編集ではなく、連作短編として非常に周到に紡ぎあげられていることがわかり、ミステリ的に満足できるはずです。
ああ、これが作者はやりたかったんですね。
ある意味、「片桐大三郎とXYZの悲劇」というタイトルも、
エラリー・クイーンのドルリー・レーン四部作を意識したように書かれているそれぞれの短編も、各話で繰り返される片桐大三郎のエピソードも、みーんな、「片桐大三郎最後の季節」のためのミスディレクション、壮大な伏線ということなのかも。

ひさしぶりの倉知淳、たっぷり楽しみました。


<蛇足1>
「それやこれやのメリットを鑑みて、Xは咄嗟に」(143ページ)
と片桐大三郎が言っていまして、ちょっとがっかり。
歌舞伎名門生まれで、時代劇(映画、テレビ)で名を馳せた国民的スターが、こういうことば遣いなんですね......
かと思えば、
「私の経験から鑑みますに、恐らく~」(269ページ)
なんて、運転手の熊谷さんまで!

<蛇足2>
「先生は一ヶ月ほど前に起きた白銀台(しろがねだい)の画家殺害事件をご記憶でしょうか?」(172ページ)
白銀台とあって、あれっと思いました。
白金台の間違いかな? と一瞬思ったものの、それだったらルビは「しろねだい」。
倉知淳が架空の地名をつけたということですね。

<蛇足3>
「乃枝はもう慣れっこになっているけれど、そりゃまあ驚くわなあ、と思う。」(227ページ)
片桐大三郎に会う人物がびっくりしていることに対する乃枝の感想で、内容的にはそうだろうなと思うものの、おどろくわなあという表現に笑ってしまいました。大卒、入社2年目の若手の女性が、こんな言い方しないでしょう(笑)。

<蛇足4>
「季節によってはそこで弁当を使うサラリーマンや、子供を日光浴がてら遊ばせたりする母親がいたりします」(401ページ)
年配の刑事のセリフですが、弁当を使う、と由緒正しい表現を使っています。
弁当って、もともとは「使う」もので「食べる」ものではないらしいですね。




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ナイン・ドラゴンズ [海外の作家 マイクル・コナリー]

ナイン・ドラゴンズ(上) (講談社文庫)ナイン・ドラゴンズ(下) (講談社文庫)ナイン・ドラゴンズ(下) (講談社文庫)
  • 作者: マイクル・コナリー
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/03/14
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
かつて暴動が起きたエリアで酒店を営む中国人が銃殺された。ロス市警本部殺人事件特捜班のボッシュは、事件の背後に中国系犯罪組織・三合会(トライアッド)が存在することをつきとめる。報復を恐れず追うボッシュの前に現れる強力な容疑者。その身柄を拘束した直後、香港に住むボッシュの娘が監禁されている映像が届く。<上巻>
娘を助け出すべく香港に飛んだボッシュは、前妻と彼女の同僚の力を借りて街中を血眼で探し回る。監禁映像の背景にあったのは九龍(カオルン)半島の繁華街、尖沙咀(チム・サー・チヨイ)であることが判明。しかしボッシュの人生最大にして、最悪の悲劇が起こる。娘は救えるのか?裏で糸を引いているのは誰だ。コナリー作品、成熟の極み!<下巻>


前作「スケアクロウ」(上) (下) (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)は新聞記者であるジャック・マカヴォイを主人公にした作品でしたが、マイクル・コナリー21作目のこの「ナイン・ドラゴンズ」(上) (下) (講談社文庫)は、看板シリーズであるハリー・ボッシュものです。

タイトルからして、香港が舞台になるのだな、と思い、あれれ? ハリー・ボッシュ香港に行くのか、休暇でも取るのかな? でもハリー・ボッシュが休暇を取るなんて考えられないな、と思っていたら、香港が舞台というのは当たっていましたが、それ以外は大外れでしたね。
あらすじに書いてしまってあるので明かしてしまいますが、ボッシュの娘が香港にいて誘拐されるのですね。
(なお、ボッシュは以前にも休みをとって娘に会いに香港にも行っていたようですね......子煩悩?)

『ナイン・ドラゴンズ』は形にするまで長い時間がかかった。ハリー・ボッシュの人生という旅において極めて重要な物語である。わたしにしてはいつもよりアクション多めの本であるだけでなく、(中略)人物造形に大きく重点を置いた物語でもある。
--マイクル・コナリー(「わたしが『ナイン・ドラゴンズ』を書いた理由(わけ)」より)
と帯に書かれているように、ハリー・ボッシュシリーズとしてはかなり大きなポイントとなる作品となっています。
ハリーを襲う運命の過酷さにも震える思いです。
また、確かにアクションも多く、いろいろと楽しみどころ、読みどころの多い作品です。

でもね、と否定的なことを書いてしまいますが、ミステリとして見た場合、ちょっとどうかな、と思いました。

まず、物語の根底に横たわる大きな大きな偶然の要素。
かなり致命的な偶然ではなかろうかと思います。
また、肝心の(?) 香港での捜索行があまりにもラッキー。さほど苦労せずに(強烈なアクションシーンはありますが)見つかります。
元FBI捜査官の妻やその恋人の用心棒が手伝ってくれるので徒手空拳ではありませんが、三十九時間という限られた時間で見つかってしまうというのは少々運が良すぎる、というものでしょう。

香港での捜索行は写真を手がかりに娘の居所を探し出すというものですが、遠い昔に読んだ草野唯雄の「見知らぬ顔の女」 (角川文庫)と同じ趣向だなぁ、と思いながら読んでいました(脱線しますが、「見知らぬ顔の女」は最初に発表された時のタイトルが「大東京午前二時」というらしく、なかなかかっこいいいな、改題しなけりゃよかったのにな、なんて思いました)。
おもしろい趣向なのですが、同時にこの部分、ものすごくボッシュ達が幸運にみえるところでもあります......ラボで分析するところはかなりわくわくしたんですが......香港に行ってからがねぇ。

ボッシュ達が運がいいといえば、ラストの犯人をおいつめる取り調べのシーンもそうです。

マイクル・コナリーの作品らしいジェットコースター・サスペンスで、ドキドキワクワクして読み進むことができ、とてもおもしろかったのですが、ミステリとしてはちょっとボッシュに運が味方をしすぎているのでちょっと残念です。


<蛇足1>
「なぜ百八ドルなんだ? 守料に税金を乗せているのか?」(上巻68ページ)
守料(もりりょう)がわかりませんでした。みかじめ料のことなんですね。

<蛇足2>
空港の入国審査のシーンで、係官を「審査員」(202ページ)と訳してありました。
確かに入国審査というのですから、係官は審査員でおかしくないのでしょうが、なんとなく違和感がありました。
日本での呼称を調べてみたら入国審査官と書いてありますから、員と官で印象が違う気もしますが、審査員で正しいのですね。


原題:The Scarecrow
作者:Michael Connelly
刊行:2009年
訳者:古沢嘉通



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海馬が耳から駆けてゆく 3 [その他 菅野彰]

海馬が耳から駆けてゆく〈3〉 (ウィングス文庫)

海馬が耳から駆けてゆく〈3〉 (ウィングス文庫)

  • 作者: 菅野 彰
  • 出版社/メーカー: 新書館
  • 発売日: 2004/07/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「交際許可届け」を知っていますか?
菅野 彰のペンネームの由来は……?

「あなたが胸だと思っているこれ……、これは」
------------「本当は天使なの」。

菅野 彰の秘密がいっぱい……?
そしてやってきた1999年、運命の年……。
でも、恐怖の大王はやって来ませんでした……。

笑いと笑いに満ち溢れる菅野 彰の愛すべき日常!!


「海馬が耳から駆けてゆく」 (2) (ウィングス文庫)の感想(リンクはこちら)で、この3巻をロンドンに持ってきそびれたような趣旨のことを書いたのですが、ありました! 荷物の中にありました!
見つけてどれだけ喜んだか、書き表せないくらいうれしかったですね。

ご家族も友人も相変わらず絶好調です。
菅野さんの周りってどうしてこんなに面白い人ばかりなんでしょうか......
目次を見ても、その通り「家族を売る話」とダイレクトな回もあり、期待が高まりますよね。

今始めないと時間が(締め切りまでに)足りなくなるよ、と教えてくれる小人がいたら......と妄想しつつも、もしそんな小人がいたら
『「……うるさいなあ、わかってるって今やるよ!」
  クシャッ、と。
  掌で潰してしまうだろう。』(49ページ)
と言ってしまう菅野さんも、相当イケてます。

お母さんも調子をキープされていて重畳です。
「そういえばうちの母は、家にいる文筆業の人がどういう生き物なのかよく知っている。あるとき、私の同業者の友人が母のつてで見合いをするかもしれんということになった。
『好物件だよ。二十六歳、某有名私大卒、いいお嬢さんで、かわいいし』
 母も知っている彼女の経歴を、私は言えと言われたので挙げ連ねた。
『そうね、いい物件ね』
 大学の先生の妻を探してくれと言われている母は、目を輝かせて言った。
『でもその……漫画家っていうところだけ、伏せておくわけにはいかないかしら?』
 いやお母さんそこが一番肝心なポイント」(106ページ)
あっ、これはお母さんの問題じゃないか......

弟さんも素晴らしいままです。
『弟は子どものころ、
「おじさんになると、どうしてみんなオヤジギャグを言うようになってしまうのだろうか……」
などと馬鹿なことを真剣に悩んでいたl
「だって今はこんなに言いたくないのに、きっとあの人たちだって子どものころは言いたくなかったハズだ。でもいつからか言うようになるなんて何かの呪いのようだ……」』(257ページ)
うん、これは正しい悩みですね。
考えたことなかったけど、おっしゃる通り、謎です。

スペイン旅行の話もいいですね。
すごく共感したのは
「ヨーロッパの男はレディー・ファーストの呪いにかかっている」(172ページ)
という部分。
日本では、レディー・ファーストが徹底されているヨーロッパなどのことに触れて、女性が大事にされている、とか、ヨーロッパの男性の意識が高い、とか言われることが多いですが、実際にこちらで接してみると、レディー・ファーストと女性を大切に思うこととは違うのではと思ってしまいます。
あれは単にそういう「しつけ」を小さい頃から受けている結果の習慣の賜物というだけな気がします。言ってみれば、犬に「お手」というと前足を挙げるようなもの......

そうそう菅野さんたちがフランス語が母国の青年と英語がなかなか通じなかった際、イギリス人のおじいに
「言語が一つしかないのか日本には!?」(173ページ)
と言われた、というエピソードが紹介されていますが、このイギリス人のおじいは特殊なイギリス人なのではないかと思います。
おしなべてイギリス人は外国語を話せません。
まあ、英語がしゃべれれば十分で、その特権的な地位に胡坐をかいています。というか、そういう認識もなく、ただただ英語だけを話します。
そして同時にこの地球上に英語を話せないという人類が存在するということを認識していない気がします。まあ、これは言い過ぎでしょうが、それでも人類たるもの基本的には英語を話せると心の底で思っている疑いがあります。英語を話せなければ人にあらず......

スペインでは「コロニア・グエル教会」にも行かれていますね。
残念ながら中には入れなかったようですが。
この教会、個人的には二度訪れていまして、一度目は菅野さんのように外側だけから眺めました。
連載されていたタイミングからして、一度目は菅野さんがいかれたときとそれほど時期的には違わないように思います。
二度目に行ったのは今年の4月で、その時はしっかり中まで入りました。
20年ほど経ってからの再訪だったので、町の様子もかなり変わっていました。
バルセロナ周辺のガウディの設計した建築物の中ではとびぬけて辺鄙なところにあるので、比較的(比較的、です。あくまで)すいています。おもしろい形をした教会なので(外も中も)、ぜひ。
本書でも、現地の人たちがガウディを、いかれてる、とかどうかしていると評していると紹介されています(196~197ページ)が、それくらいぶっとんだ建物ですので、ぜひ。

文庫版後書きまでしっかり笑えます!
今回最後に大笑いしたのが、その後書きにある、菅野さんたちの友人・ユカリさんの旦那さんのエピソード。
ユカリさんというのが酒乱で、周りに大迷惑をかけている。それでもこの旦那さん、とってもよい人のようで、菅野さんいわく
「酒も飲まず、飲み会にもあまり顔を出さず、しかしユカリの膨大なもはや訳のわからない友人たちとも愛想よく付き合い、最後にはユカリを回収に来る。彼が怒ったところを見た人はいない……」(271ページ)
その旦那さんに対するコメントが
「多分前世でユカリを惨殺したのであろう」(271ページ)
この発想がステキです!

そうそう、あらすじに書いてある菅野さんのペンネームの由来。
(高校の)「化学室に置いてあった化学の新書の棚を見て、隣り合っている本の作家の名字と名前をくっつけた」(52ページ)
そうです。
ひょっとして、今年ノーベル賞を受賞された吉野彰さんだったりしませんかね!?

安心の爆笑印のエッセイ、「海馬が耳から駆けてゆく〈4〉」 (新書館ウィングス文庫)は日本に置いて来てしまっているので、次は「海馬が耳から駆けてゆく (5) 」(ウィングス文庫)です!
ああ、楽しみ!!


<蛇足1>
「昔鎌倉の鶴岡八幡宮で鳩をかまっていたら友人に頭から鳩のえさをかけられてた。後はもう筆舌に尽くしがたい大惨事であった。それ以来鳩は怖い」(153ページ)
これ、怖いですね。
傍から見るだけでも、笑うというよりは恐怖なのではと......

<蛇足2>
「私も従妹も付け下げを新調させられた(留袖を着る権利がないからさ……)」(249ページ)
とあって、「付け下げ」を知らなかったので、ネットで調べてしまいました。お恥ずかしい。
でも調べると奥深いというか、訪問着と付け下げ、とか、いろいろ出てきて、時間をいっぱい使ってしまいました。


タグ:菅野彰
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デクスター 夜の観察者 [海外の作家 ら行]

デクスター 夜の観察者 (ヴィレッジブックス)

デクスター 夜の観察者 (ヴィレッジブックス)

  • 作者: ジェフ ・リンジー
  • 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス
  • 発売日: 2010/10/20
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
マイアミ大学の構内で首なし死体が見つかった。被害者の女子学生2人は全身を焼かれ、頭部のかわりに陶器の雄牛の頭が置かれていた。不気味ながら興をそそられる手口……のはずが、事件に関わってからというものデクスターは何者かに執拗にストーキングされ、頼みの“殺人鬼の勘”も今回は捜査に役立ってくれない。そんななか新たな首なし死体が発見され、デクスターの身近な人物にも魔手が伸び始める。手がかりは現場に残された謎の文字。だがそれは想像を超える闇への招待状にすぎなかった!昼は好青年の鑑識官、夜は冷血無情な連続殺人鬼――強烈なダークヒーローの活躍を描く絶賛シリーズ第3弾。


「デクスター 幼き者への挽歌」(ヴィレッジブックス)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「デクスター 闇に笑う月」 (ヴィレッジブックス)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第三作です。

三作目にして異色作、と申しましょうか、これまでデクスターといつも一緒にいた〈闇の乗客〉に注目です。

まず、不思議な断章が冒頭はじめあちこちにあり、それが次第に〈闇の乗客〉の正体(?) に関連しそうだな、とわかってきます。
すると、〈闇の乗客〉って、デクスターの二重人格的なもの、とばかり思っていたのですが、違ったんですね!? 解説で関口苑生が書いているように、それこそ悪魔のようなものだったんですね!?
「デクスター 闇に笑う月」 感想で、「ひょっとして宇宙人とかSF的設定なのかな、なんて勘ぐりながら読みましたが」なんて書きましたが、ある意味その通りだったのか......
とすると、この「デクスター 夜の観察者」にも
「十四歳として生きるのは、たとえ人造人間にとっても決して楽ではなかった。」(208ページ)
なんてくだりがありますが、あながち誇張じゃない!? あっ、でも、人造人間ではないですね。

そしてその〈闇の乗客〉、本書ではデクスターのもとから(中から?)姿を消してしまいます。(180ページ)
「馬鹿げているのは百も承知だが、とにかくわたしは夜間にまったくひとりになった経験がなく、そのため自分がとことん無防備に思えてならなかった。〈闇の乗客〉なかりせば、わたしは鼻が鈍くなって牙をすっかり抜かれた虎にすぎなくなる。自分がのろまの愚図になった気分だったし、背中の皮膚がぞっとぞわぞわしっぱなしだった。」(263ページ)
とデクスターが言う通り、すっかり調子が狂ってしまいます。

それでも余裕のあるいつもの語り口を100%とは言いませんが、維持しているのは立派ですね。よかった。
さて、〈闇の乗客〉はデクスターのもとに戻ってくるのか......

それと同時に本書で注目なのは、リサ(デクスターの婚約者!)の子供たちをどうやって指導していくか、というところですね。
これがとてもおもしろい。
536ページのコーディのセリフには、もう拍手喝采ですよ。

追う側から追われる側になったデクスター、〈闇の乗客〉が不在のデクスターとかなりの変わり種でずいぶん楽しませてくれましたが、これでいろいろと出揃った感があるので、これからが楽しみだなぁ、と思っても、もう翻訳はストップしているんですよね。
Wikipediaで調べたら、
Darkly Dreaming Dexter (2004) 「デクスター 幼き者への挽歌」
Dearly Devoted Dexter (2005) 「デクスター 闇に笑う月」
Dexter in the Dark (2007)  「デクスター 夜の観察者」
のあと、
Dexter by Design (2009)
Dexter Is Delicious (2010)
Double Dexter (2011)
Dexter's Final Cut (2013)
Dexter is Dead (2015)
と、シリーズは8作目まで出ているようです。
ぜひ、ぜひ、翻訳してください!



<蛇足1>
パステリートというお菓子が登場します(104ページ)。
知らなかったのですが、アルゼンチンのお菓子のようです。
ネットで調べてみると「甘いジャムやサツマイモを薄いパイ生地で包んでこんがり揚げ、粉砂糖をまぶしたもの」や「パイ生地でできた甘い揚げパンで、 中にはメンブリージョというカリンのジャムが入っています」と書かれていますね。
中米の方にも同じ名前の食べ物があるようですが、それはお菓子ではなくて、挽肉を詰めた揚げ餃子のようなもの、とされています。
(勝手にリンクを貼っています)

<蛇足2>
アレスター・クロウリーの名前が132ページに出て来ます。
これまた知らなかったのですが、イギリスのオカルティストで、その世界では有名なんですね...

<蛇足3>
「この若き怪物にさえあてはまっていた思春期の無上命令のひとつに、“二十歳以上の大人はなにもわかっていない”というものがあった。」(208ページ)
そうそう思春期ってそうだよね、と思いながら、無上命令という難しい語が突然出てきてびっくりしました......調べちゃいましたよ......

<蛇足4>
「アラム語はヘブライ語と同様に母音文字をもたない。」(274ページ)
「レイダース 失われたアーク(聖櫃)」を引き合いに出しながら、アラム語が出て来ます。
アラム語もヘブライ語も母音文字を持たないんですか......なんだか、すごそうな言語ですね。

<蛇足5>
「デリカテッセンでランチを注文するときにキールバーサという単語を口にすることはできても、あいにくポーランド語はわたしが通暁している言語ではない。」(325ページ)
またもや知らない語が出て来ました。
キールバーサ。kielbasa 東欧のソーセージ(風のもの)のことらしいです。




原題:Dexter in the Dark
作者:Jeff Lindsay
刊行:2007年
訳者:白石朗



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ワニの町へ来たスパイ [海外の作家 た行]

ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)

ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)

  • 作者: ジャナ・デリオン
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/12/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
潜入任務で暴れすぎたために、敵から狙われる身となった超凄腕CIA秘密工作員のわたし。ルイジアナの小さな町で、自分と正反対の女性になりすまし潜伏するつもりが、到着するなり保安官助手に目をつけられ、住む家の裏の川で人骨を発見してしまう。そのうえ町を仕切る老婦人たちに焚きつけられ、しかたなく人骨事件の真相を追うことに……。型破りなミステリ・シリーズ第一弾。


いやあ、いいです、この本
馬鹿馬鹿しくて、実にいい。

ジャネット イヴァノヴィッチの「私が愛したリボルバー」 (扶桑社ミステリー)から始まるバウンティハンター、ステファニー・プラム・シリーズを思い出しましたが、あちらよりもミステリ濃度は濃い目な気がしましたが、ステファニー・プラム・シリーズを読んだのはずいぶん前なので定かではありません。

主人公が秘密工作でヘマをして身を隠さなければならなくなって、CIA長官の指示で長官の姪になりまし、ルイジアナのちっぽけな田舎町シンフルで蟄居することに......
という冒頭の展開からして、真面目に読む作品ではないことが明らかなわけですが(それ以前に、冒頭から繰り広げられるレディングの語り口からして真面目な作品ではないことがわかります)、その通り、リラックスして気軽に読むのにちょうどよい、ドタバタ展開の作品です。

この種の作品でポイントとなるのは、型破りで、かつ、愛すべき登場人物たち、となりますが、主人公であるレディングもいかれていれば(褒め言葉です、念のため)、町を牛耳るおばあ様たちもいかれています(しつこいですが、褒め言葉です)。
「このふたりのおばあさんたちのことは好きにならずにいられない。」(299ページ)
とレディングも言っていますが、同感。
レディングに目をつける(目の敵にする?)保安官助手・ルブランクもいい感じですね。将来的にシリーズが進めば、レディングといい感じになるのかな? ならないだろうな?

ミステリとしては(いやミステリとして、ではないか......)人骨事件の真相と同時に、町のありようが明かされるのがポイントかと思うのですが、こう書くとネタバレというよりは、ミスリーディングですね。

いやあ、満足しました!
続編「ミスコン女王が殺された」 (創元推理文庫)がすでに翻訳されていて楽しみです。


<蛇足>
「アイスクリームを浮かべたルートビアは完全無欠の飲み物と言っていい。」(167ページ)
げっ、と思いました。ルートビアって、おそろしくまずかったような......それにアイスクリームをON......
しかもこのシーン、アルコール飲料がないことを嘆いて、ルートビアを注文するシーンなんですが、アルコールが欲しかったのにアイスクリームを足すなんて!?





原題:Louisiana Longshot
作者:Jana DeLeon
刊行:2012年
訳者:島村浩子




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女は帯も謎もとく [日本の作家 か行]

女は帯も謎もとく (光文社文庫)

女は帯も謎もとく (光文社文庫)

  • 作者: 小泉 喜美子
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/04/12
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
粋で艶やかな新橋芸者の“まり勇”は、ハードボイルドなどの海外ミステリーが大好き。少女時代はメイヴィス・セドリッツやハニー・ウエストのような女探偵を夢見ていた。忙しいお座敷の合間に起きるミステリアスな事件に胸を躍らせ、恋しい刑事と謎を推理。聖ルカ病院、魚市場、歌舞伎座に本願寺――なんでも一級品の揃う築地を舞台にした都会派連作ミステリー!


1982年2月にトクマ・ノベルズから出た作品の文庫化です。
このところ小泉喜美子の作品が復権している一環でしょう。
「さらば、愛しきゲイシャよ」
「小さな白い三角の謎」
「握りしめたオレンジの謎」
「藤棚のある料理店の謎」
「流刑人の島の謎」
の5編を収録した短編集です。

しかし、このタイトル「女は帯も謎もとく」 、よくないですね。
主人公が芸者で、このタイトルだと、どうしても、そういう話、あるいはそういうシーンがあると連想させてしまいますよね。
でもそういうシーンはありません。

「殺さずにはいられない - 小泉喜美子傑作短篇集」 (中公文庫)の感想(リンクはこちら)にも書きましたが、やはり時代色を楽しんで読む必要がありますね。
「あたしはまだジーン・パンツのふだん着姿」(67ページ)----ジーンズのことですよね?
「U・S海兵隊員、鬼をもひしぐJ・G・オズボーン軍曹」(38ページ)----ひしぐ、を辞書で調べてしまいました。
そしてまた「一所懸命」(250ページ)ときちんと書かれています。これも時代なのでしょうねぇ......
語り手で探偵役でもあるまり勇が、新橋芸者であるので、そのあたりの職業話が繰り広げられる点、そして日本の古典芸能の話が出てくる点、今読んでもおもしろいと思います。

あらすじに出てくるメイヴィス・セドリッツやハニー・ウエスト、(当然)本文「小さな白い三角の謎」でも出て来ます。
「その頃のあたしの夢は、非常に魅力的な、非常に腕のいい(非常に頭のいい、とは言わないわ)女探偵になることだったのよ。たとえば、いささかおつむの弱い、でもかわいいメイヴィス・セドリッツ、少し色っぽすぎるきらいのあるハニー・ウエスト、鉄火と呼ぶには恐ろしいイモジェーヌ、小粋なモデスティ・ブレーズ」(73ページ) 
いずれの登場する作品も読んだことがない気がします。どれもこれも、今は手に入らないですね。
メイヴス・セドリックの出てくる、
カーター・ブラウンの「乾杯、女探偵!」 (ハヤカワ・ミステリ文庫) や
シャルル・エクスブライヤの「イモジェーヌに不可能なし」 (Hayakawa pocket mystery books)
あたりは読んでみたい気がしますが......

「さらば、愛しきゲイシャよ」は、ユーモア・ミステリーと銘打たれていますが、ミステリではないですね。
こちらの品性が下劣なので、クライマックスのシーンで、地下の病室から見えたものについてかなりおかしな想像をしてしまいましたが、まさかね......

それ以降の作品は、全般的に軽い謎解きになっていまして、読み心地は悪くないですね。
捻りが抑え気味なのがちょっと残念ではありますが。
こちらが妄想した「さらば、愛しきゲイシャよ」を除くと(この妄想のおかげで強く印象に残っています)、探偵役である(?)まり勇が、ひとりで妄想を膨らませてしまう「藤棚のある料理店の謎」をおもしろく感じましたね。


<蛇足1>
「おまえのその石の顔と体温計を拝ませられら」(34ページ)
というセリフがあり、石の顔には「ストーンフエース」とルビが振ってあります。
無表情くらいの意味ですが、この本が出版された当時、石の顔、あるいはストーンフェースといってピンと来たのでしょうか? 不思議です。

<蛇足2>
藤の花の柄の着物に対して、風流を解さない(?)人が、蛸の足かと思ったというシーンがあって(202ページ)、笑ってしまいました。蛸の足柄の着物、見てみたい気もします。

<蛇足3>
アラン・ドロンと並びたつ(?)俳優として、ディドロ・ジェレミーというのが「流刑人の島の謎」に出てくるのですが、これは架空の俳優のようですね。




タグ:小泉喜美子
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禁断の魔術 [日本の作家 東野圭吾]

禁断の魔術 (文春文庫)

禁断の魔術 (文春文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/06/10
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
高校の物理研究会で湯川の後輩にあたる古芝伸吾は、育ての親だった姉が亡くなって帝都大を中退し町工場で働いていた。ある日、フリーライターが殺された。彼は代議士の大賀を追っており、また大賀の担当の新聞記者が伸吾の姉だったことが判明する。伸吾が失踪し、湯川は伸吾のある“企み”に気づくが…。シリーズ最高傑作!


ガリレオ・シリーズ第8弾。
短編集だった単行本の
「禁断の魔術 ガリレオ8」
から「猛射つ」を長編化して文庫版の「禁断の魔術」 (文春文庫)にしたということです。

タイトルの「禁断の魔術」は湯川のセリフからとられています。
「科学を発展させた最大の原動力は、人の死、すなわち戦争ではなかったのか」という、事件関与が疑われている青年・古芝君からの問いに対する答えです。
「もちろん科学技術には常にそういう側面がある。良い事だけに使われるだけではない。要は扱う人間の心次第。邪悪な人間の手にかかれば禁断の魔術となる。科学者は常にそのことを忘れてはならない」(178ページ)

古芝君が高校生のときに、湯川の指導を受けながら作り、新入生歓迎会で披露したというデモンストレーションがすごそうです。
この装置、レールガンなのですが(伏字にしておきます)具体的にどういうものかは明かされるのは物語の終盤です。

古芝君に対して湯川が、草薙がどういう行動を取るか、ということが物語の焦点となっていくわけですが、薄めの長編だからでしょうか、わりとまっすぐなストーリー展開になっています。
最後のシーンは緊迫感あふれてドキドキしますが、賛否わかれるでしょうねぇ......
そのときの湯川の心情を後で勝手に推測するシーンがありますが、内海の説が当たっている気がします。

それより気になったのは、最後の湯川のメールで
「急遽、ニューヨークに行くことになった。しばらく戻らない。」(!!)
シリーズ、これで打ち止めなのかな、と。
しかし、シリーズは続刊「沈黙のパレード」(文藝春秋)が出ているのを確認して安心しました。



<蛇足>
『「じゃなくて、ここへ来たんです」石塚が答えた。
「来た? 古芝君が?」
 はい、と石塚。先輩だから、いらっしゃった、という敬語を使うべきだったことには気づいていない様子だ。』(152ページ)
高校生と草薙との会話なのですが、ちょっと考え込んでしまいました。
物理研究会の先輩にあたる古芝のことを話すので敬語を使うべきだった、という指摘がされているのですが、この場合、敬語ではないほうが正しいのではないかと思ったからです。
自分と同じ部活動に所属していた古芝のことを、完全に外部の人間(で、しかもかなり年上の)草薙に説明する際、この種の会話において敬意を表されるのは聞き手であって、会話の対象人物ではないから、です。
新人社員などは外部からの問い合わせに対しては、上司であっても敬語を使わないよう教えられます。
「課長はいらっしゃいません」
などと敬語で答えたら、強烈なダメ出しを食らうことでしょう。
これと同じようなシチュエーションではないか、と思われます。
敬語は難しくて悩んでしまいます。正解はどうなんでしょうね?? 



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