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ロンドンのクリスマス [イギリス・ロンドンの話題]

日本にいる方から、割とよくいただく質問に、
「ロンドンの(あるいはヨーロッパの)クリスマスはロマンティックなんでしょうねぇ」
というものがあります。
日本からの観光ツアーに「ヨーロッパでクリスマス」のようなものもあるのかもしれませんね。

しかしながら、こちらに住んでいるものからしますと、ロンドンは、そしてヨーロッパはクリスマスの旅行先として到底お勧めできない、と思います。
クリスマス前は寒いこと、暗いことを我慢すればOKかと思いますが、クリスマス本チャンは避けたほうがよいでしょう。
キリスト教国のクリスマスは、観光で訪れるところでない、と思うのです。
(以前は、クリスマスイルミネーションも日本やアメリカと比べると極めて地味で、あまりきらびやかでないなぁ、と思っていたのですが、LEDが普及してからだと思うのですが、ロンドンのクリスマスイルミネーションもずいぶん華やかになりました)

イギリスでは12月25日と26日は連休になります。
が、日本と違って、クリスマスは、恋人たちのもの、ではありません。
家族で過ごす日、なんですよね、基本は。
そして、25日、クリスマス当日はレストランもお店もたいがいお休みです。スーパーも当然お休みです。(為念、付け加えておくと、コンビニという代物はありません)
さらに、公共交通機関もSTOPします。地下鉄もバスもそれ以外の鉄道も止まります。
一種のゴーストタウンに近いといってもよいのでは、と思います。
そうですね、観光客だけが街をうろうろする、ということなのではないかと。もっとも、地下鉄もバスも止まってしまうので、観光客も移動には困っているのではないでしょうか。
また、食事をするところもかなり限定的になります。
馬鹿高いのを我慢してホテルのレストランに行くか、キリスト教とは関係ない、あるいは関係なさそうな、アラブ系のお店(ケバブ料理とか)か中華料理に行くか......

当然ながら、観光地といえるところ、アトラクションも休みです。
外からぼーっと眺めるだけ。それだけでも十分楽しめるとは思いますが、物足りない気分になりますよね、きっと。

そういう何もしない日も貴重だし、休みならではの醍醐味だ、と言えるとは思いますが、日本のみなさんが連想される旅行ですること、としてはアウトなのではなかろうとか思うのです。

25日のお昼時に、近場を徒歩でうろうろしてみましたので、ご参考までに写真をアップしておきます。
すごくお天気がよくて(本当にロンドンの冬には珍しい)、お散歩日和でした。

まず、ジャーミン・ストリート。ピカデリーサーカスの少し南ですね。
紳士服屋さん、靴屋さんが多い通りです。
DSC_4054.jpg

リージェント・ストリート。
ピカデリー・サーカス近くで、普通だと車と人で込み合うところです。
DSC_4055.jpg

同じくリージェント・ストリートをオックスフォード・サーカスの方へ北上する途中で振り返って。
DSC_4059.jpg

オックスフォード・サーカス。
こちらも非常に込み合う場所なのですが、この日は異常な少なさ。
上が東向きに、下が西向きに撮影したもの。
ちなみに、南向きで撮影すると、上の写真に近くなります。
DSC_4063.jpg
DSC_4065.jpg

デパート、リバティの前。
ここで人が一人もいない瞬間を撮影できるとは......なんかうれしいです。
DSC_4073.jpg

で、ヴィクトリア駅。閉まっています。
DSC_4100.jpg

DSC_4106.jpg


蛇足として、マークスアンドスペンサー@ヴィクトリア駅の店先。
DSC_4105.jpg
お寿司売ってるんですよね......
中身を気にしなければ(!)、食べられなくはないですよ。食べたいとは思いませんが。
昔のこちらのスーパーで売っていたSUSHIに比べると、格段の進歩ですから。
でも、右側の方に
「100s OF NEW IDEAS EVERY MONTH」
とあって、怒!
毎月何百もの新商品を、ということだと思うんですが、新商品であれこれ試す前に、ちゃんとした基本を押さえてからにしてほしいなぁ、と日本人としては強く強くリクエスト......


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叛徒 [日本の作家 下村敦史]


叛徒 (講談社文庫)

叛徒 (講談社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/01/16
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
通訳捜査官の七崎隆一は、正義感から同職の義父の不正を告発、自殺に追い込んだことで、職場でも家庭でも居場所がない。歌舞伎町での殺人事件の捜査直後、息子の部屋で血まみれの衣服を発見した七崎は、息子が犯人である可能性に戦慄し、孤独な捜査を始めるが……。“正義”のあり方を問う警察ミステリー。


「闇に香る嘘」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で 第60回江戸川乱歩賞を受賞した下村敦史の長編第2作です。
講談社文庫には、長編第3作の「生還者」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)が先に文庫化されていますね。

いままで3作読んだだけですが、下村敦史、もうすっかり安心印の作家になりました。
この「叛徒」 (講談社文庫)でも、まず主人公七崎の設定がおもしろい。
通訳捜査官。
解説の西上心太によると現実に存在する職種とのことですが、とてもリアル感があります。
正義感から同職の義父の不正を告発、自殺に追い込んだことで、職場でも家庭でも居場所がない状況や、事件に自分の息子・健太が関わっているのではないかと苦悩するのも、ありがちな設定といえばありがちな設定ですが、七崎の職業では切実さが伝わってきます。
事件の進展(解決?)に従って、これらの点が収斂していくのも読んでいて気持ちがいい。
事件の背後に、外国人技能実習制度の問題が取り上げられているのも、この問題が知られてからかなり時間が経っているわりにはミステリで取り上げられることが少なかったような気がしますので、いい着眼点ですよね。

ということでとてもおもしろく読んだのですが、どうしても気になる点があります。
七崎が義父を告発するエピソードなのですが、義父がやったことというのが通訳捜査官であるということを利用して窮地に陥っている同期のために、通訳しているふりをして被疑者を騙し、嘘の自白を引き出した、ということです。(92ページ~) 
でも、
①義父はこのようなことをする人物として描かれていない
②一歩譲って、こういうことをするとしても、七崎が立ち会うようなタイミングでやるとは思えない
という問題があると思われます。
また七崎が告発する際、誰が告発したのかばれるのを覚悟のうえで匿名の手紙を出すのですが、正義のためにと迷わず告発したのではなく、実父同然の恩人を売る(102ページ)ことになるので苦悩の末出すのです。
ここも気になります。正義のためとためらわず告発したのならそうは思わないのですが、かなり悩むのです。七崎と義父の性格、関係性からすると、悩むのは当然かと思いますが、であれば、実際に告発の手紙を出す前に、直接対話をもつのではなかろうかと思うのです。
これらの点は、作品のプロットの根幹にかかわる部分なので見過ごすことはできないのではないでしょうか?
それと、これらと比べると程度は軽いものですが、正義を貫いてきた七崎も、今度の事件で息子をかばうため、信念を曲げてわざと偽りの通訳に手を染めるのですが(40ページ~)、そして追い詰められる気持ちは少しはわからないでもないですが(*)、それでもすぐにばれてしまいそうな偽りの通訳はちょっといただけないな、と思いました。

(*)たとえばこういう家族がらみの理由とかが義父の場合にも盛り込まれていれば、上述の問題点も少しは気にならなかったのではないかと思うのです。そうすれば、立ち会う七崎を巻き込んでしまう理由にもなりますよね。もっとも、そうすると更に七崎が告発しづらくなりますが。



タグ:下村敦史
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江戸川乱歩賞 マイベスト [その他]

先日、
斉藤詠一「到達不能極」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
神護かずみ「ノワールをまとう女」(ブログの感想ページへのリンクはこちら
を続けて読んだ際、受賞作なしのときもあれば、二作同時受賞のときもあるので気になって、巻末に掲げてある受賞リストを数えてみました。

第3回の仁木悦子「猫は知っていた」 (ポプラ文庫ピュアフル)から最新である第64回「ノワールをまとう女」まで、ちょうど50作でした。

切りのいい数字ですね。
せっかくなので(?) 、全部読んでいることもあり、マイベスト10を選んでみようと思いました。
あくまで、マイベストです。偏愛のベスト10ですので、お気をつけて(?).。
また大抵の作品は、面白かったなぁ~という感想になってしまうので、ここでつけた順位もまたすぐに変わってしまうかもしれません......

受賞年順です。
それにしても、書影をつけようと思って今回改めて認識したのですが、乱歩賞受賞作、かなり絶版・品切れなんですね。
講談社から文庫版の江戸川乱歩賞全集が出たので、これで安心できるかな、と思っていたのですが、その全集すら品切......
面白い作品が多いので、もったいないですね。


1. 第8回(1962年)戸川昌子「大いなる幻影」(品切)
江戸川乱歩賞全集(4)大いなる幻影 華やかな死体 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞全集(4)大いなる幻影 華やかな死体 (講談社文庫)

  • 作者: 戸川 昌子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/09/14
  • メディア: 文庫

「孤独な老嬢たちが住む女子アパート。突如始まったアパート移動工事と同時に奇怪な事件が続発。老嬢たちの過去も次第に暴かれていく。」と短い紹介分がAmazonのページには書かれていましたが、これでは魅力が伝わらないですよね。
なんと言ったらいいのでしょうね? 非常に独特の作風で、断章っぽく感じられるエピソードが読者にきっちりつながって絵が見えるようになる仕組みになっていまして、薄い作品なんですが巧みに織り上げられているなぁ、とびっくりします。


2. 第13回(1967年)海渡英祐「伯林-一八八八年」(品切)
江戸川乱歩賞全集(7)伯林-一八八八年 高層の死角 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞全集(7)伯林-一八八八年 高層の死角 (講談社文庫)

  • 作者: 海渡 英祐
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/09/14
  • メディア: 文庫

「ドイツ娘との恋に煩悶する留学中の医学生・森鴎外が伯爵殺害事件に遭遇、究明に乗り出す。事件の背後には鉄血宰相ビスマルクが!?」
若き森鴎外、森林太郎がビスマルクと推理合戦、という趣向がたまらなくて、密室のトリックはつまらないといってもよい仕上がりなのに、何度も読み返した作品です。
犯人の設定も当時斬新だったんだろな、と。子供ごころにとてもびっくりしました。
ラストの余韻も気に入っています。


3. 第16回(1970年)大谷羊太郎「殺意の演奏」(品切)
江戸川乱歩賞全集(8)殺意の演奏 仮面法廷 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞全集(8)殺意の演奏 仮面法廷 (講談社文庫)

  • 作者: 大谷 羊太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1999/09/14
  • メディア: 文庫

「芸能ショーの人気司会者が自室で死体となって発見された。残された暗号日記は遺書なのか、それとも? 芸能界の陰影と密室の謎に挑む。」
これまたAmazonの紹介文では魅力が伝わりませんね。
この作品、なんと解決が二通りあるんです! ちょっと生硬な感じのする文章もトリックも、この趣向のために気になりません。むしろ気負いが感じられて心地よいくらい。
最近では、下村敦史さんが何度も乱歩賞に挑戦しようやく受賞とかいって騒がれていましたが、大谷羊太郎も同様に何度もチャレンジして受賞に至った作家のようです。
密室に意欲を燃やしていた作家で、密室トリックがあれば立派なミステリが書けるという美しい誤解に依拠した作家だったのでは、と今となっては思いますが、初期作は文庫化されたらがんばって読んでいましたね。


4. 第21回(1975年)日下圭介「蝶たちは今……」(品切)
江戸川乱歩賞全集(10)蝶たちは今… 五十万年の死角 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞全集(10)蝶たちは今… 五十万年の死角 (講談社文庫)

  • 作者: 日下 圭介
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2000/09/13
  • メディア: 文庫

「旅先で間違えたバッグの中には1通の手紙が。だが差出人は3年前に死んでおり受取人も故人!? 死者同士で交された手紙の真実とは?──」
独特の雰囲気をたたえた作品で、フレンチ・ミステリー風と評されていたのを覚えています。後年普通の刑事もの、探偵ものを書くようになってしまいましたが、当時の日下圭介の作品はいずれもすこし渇いた感じのする、日常と地続きながらどことなく現実感がずれた感じの魅力がいっぱいでした。
どこか復刊しないかな?
あと、細かいですが、タイトルの三点リーダは2つ重ねるのが正しいはずです。
「蝶たちは今……」であって、「蝶たちは今…」ではない。江戸川乱歩賞全集のものは、「蝶たちは今…」になってしまっていますね。
日下圭介の乱歩賞受賞後長編第1作が「悪夢は三度見る」 (講談社文庫)で、第2作が「折鶴が知った…」 (光文社文庫)。この三点リーダは1つだけなんですね。ここまでタイトルが7文字になるようにされていたのでは? という指摘が新保博久の「世紀末日本推理小説事情」 (ちくまライブラリー)でなされていまして、おもしろいなぁ、と思った記憶があります。


5. 第24回(1978年)栗本薫「ぼくらの時代」(品切)
江戸川乱歩賞全集(12)ぼくらの時代 猿丸幻視行 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞全集(12)ぼくらの時代 猿丸幻視行 (講談社文庫)

  • 作者: 栗本 薫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/09/14
  • メディア: 文庫

「バイト先のTV局で起こった女子高校生連続殺人事件の解決に挑む大学生3人組。シラケ世代とミーハー族の心の断面をえぐる青春推理」
世代的には栗本薫は上の人になりますが、それでもこの作品に描かれた若者像には、共感を覚えたことが強く印象に残っています。
また、若い文章で生き生きとえがかれたミステリに夢中になったのを覚えています。
講談社の昔のフェアで、サイン入り文庫本が当たったのも、いい思い出ですね。
この作品も何度読み返したかわかりません。


6. 第26回(1980年)井沢元彦「猿丸幻視行」(品切)
江戸川乱歩賞全集(12)ぼくらの時代 猿丸幻視行 (講談社文庫)

江戸川乱歩賞全集(12)ぼくらの時代 猿丸幻視行 (講談社文庫)

  • 作者: 栗本 薫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2001/09/14
  • メディア: 文庫

「古歌の暗号解読に取り組む若き日の折口信夫。猿丸大夫と柿本人麻呂の関係は? “いろは歌”に隠された秘密とは? 伝記暗号推理の最高傑作。」
まさに偏愛といってもいい作品です。
すごくわくわくして読んだのを覚えています。作者が後から拵えたのではなく、すでに世にある古歌で暗号が出来上がるというすごさに夢中になりました。
おまけのような現実の殺人事件のトリックが、おいおいと言いたくなるような代物ですが、そこも含めて愛しています。
この本のおかげで、子どものころ、百人一首ではかならず「奥山に~」を取るようになりました。というか、全体の勝ち負けには関係なく、この猿丸太夫の札だけとれれば満足でした......
講談社文庫のの乱歩賞受賞作全集、「ぼくらの時代」と「猿丸幻視行」のカップリングなんですね。なんて贅沢な。


7. 第28回(1982年)岡嶋二人「焦茶色のパステル」
焦茶色のパステル 新装版 (講談社文庫)

焦茶色のパステル 新装版 (講談社文庫)

  • 作者: 岡嶋 二人
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2012/08/10
  • メディア: 文庫

「東北の牧場で牧場長と競馬評論家が殺され、サラブレッドの母子も撃たれた。背後に、競馬界を揺るがす陰謀が!?」
この本、単行本が出たばかりのころ、病気で学校を休んで寝込んでいたときに、親がなぜかプレゼントと言って買ってきてくれたのです。うれしかったことと言ったら......(変な子どもだ)
まさにページターナーだな、と思ったことを覚えています。文字通り夢中になって読みました。
とても難解な題材を扱っていると思うのですが、非常にすっきりと説明されていて、衝撃の真相も分かりやすかったですね。
ツイストの効いた名作だと思います。品切になっていないのも素晴らしい!


8. 第31回(1985年)森雅裕「モーツァルトは子守唄を歌わない」(品切)
モーツァルトは子守唄を歌わない (講談社文庫)

モーツァルトは子守唄を歌わない (講談社文庫)

  • 作者: 森 雅裕
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1988/07
  • メディア: 文庫

「モーツァルトの子守唄が世に出た時、“魔笛”作家が幽閉され、楽譜屋は奇怪な死に様をさらす―。その陰に策動するウィーン宮廷、フリーメーソンの脅しにもめげず、ベートーヴェン、チェルニー師弟は子守唄が秘めたメッセージを解読。1791年の楽聖の死にまつわる陰謀は明らかとなるか。」
コミックミステリ、とか言われたりしていましたが、ベートーヴェンがモーツァルトの死の謎を解くというとても斬新でしっかりしたミステリでした。
講談社文庫のカバー絵が魔夜峰央でしたね。
森雅裕さん、すっかり消えてしまっていますが、どこか復刊してくれるといいのにな、と思っています。一時期ある程度復刊がされたのですが、今またなにも手に入らないようになってしまっていますね。


9. 第47回(2001年)高野和明「13階段」
13階段 (講談社文庫)

13階段 (講談社文庫)

  • 作者: 高野 和明
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/08/10
  • メディア: 文庫

「犯行時刻の記憶を失った死刑囚。その冤罪を晴らすべく、刑務官・南郷は、前科を背負った青年・三上と共に調査を始める。だが手掛かりは、死刑囚の脳裏に甦った「階段」の記憶のみ。処刑までに残された時間はわずかしかない。2人は、無実の男の命を救うことができるのか。」
ようやく平成、ようやく21世紀の作品になります。
ミステリの枠にとどまりつつ、エンターテイメントを強く意識した作品だなぁ、と感心したことを思い出します。
どんでん返しへの執念(?) が心地よかったです。
久しぶりに乱歩賞で「(そこそこ、あるいは、普通に)おもしろかったね」というレベルを超える作品に出会えたなあと。


10. 第60回(2014年)下村敦史「闇に香る嘘」
闇に香る嘘 (講談社文庫)

闇に香る嘘 (講談社文庫)

  • 作者: 下村 敦史
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/08/11
  • メディア: 文庫

「孫への腎臓移植を望むも適さないと診断された村上和久は、兄の竜彦を頼る。しかし、移植どころか検査さえ拒絶する竜彦に疑念を抱く。目の前の男は実の兄なのか。27年前、中国残留孤児の兄が永住帰国した際、失明していた和久はその姿を視認できなかったのだ。」
(ブログの感想ページへのリンクはこちら


なんだか、古い作品が多くなってしまいました。
昔読んだ作品の方が印象が強いからでしょうね......刷り込み?


普通乱歩賞で傑作、ベストといったら、こちら ↓ になると思います。

第41回(1996年)藤原伊織「テロリストのパラソル」
テロリストのパラソル (講談社文庫)

テロリストのパラソル (講談社文庫)

  • 作者: 藤原 伊織
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1998/07/15
  • メディア: 文庫

「アル中バーテンダーの島村は、過去を隠し20年以上もひっそりと暮らしてきたが、新宿中央公園の爆弾テロに遭遇してから生活が急転する。ヤクザの浅井、爆発で死んだ昔の恋人の娘・塔子らが次々と店を訪れた。知らぬ間に巻き込まれ犯人を捜すことになった男が見た事実とは……。」
この作品は、さすがの乱歩賞&直木賞W受賞作だけあって、いまでも手に入りますね。
講談社文庫だけでなく、文春文庫でも出ているようです。
テロリストのパラソル (文春文庫)

テロリストのパラソル (文春文庫)

  • 作者: 藤原 伊織
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2014/11/07
  • メディア: 文庫

おもしろく読みましたが、偏愛のベスト10には入らない......
きわめて典型的なハードボイルドで、それ以上でもそれ以下でもない。全共闘世代向けハーレクインロマンスとか言う人もいるようですね(笑)。
世代がずれているので、かえって醒めちゃうからかもしれません。
でも文章の心地よさはすごかったです。


こうやって並べると、変な作品が好きなんですね、と言われそうな......




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スマイリーと仲間たち [海外の作家 ら行]


スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))

スマイリーと仲間たち (ハヤカワ文庫 NV (439))

  • 作者: ジョン・ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/04/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
将軍と呼ばれる老亡命者が殺された。将軍は英国情報部の工作員だった。醜聞を恐れる情報部は、彼の工作指揮官だったスマイリーを引退生活から呼び戻し、後始末を依頼する。将軍は死の直前に、ある重要なことをスマイリーに伝えようとしていた。彼の足どりをたどるスマイリーは、やがて事件の背後に潜むカーラの驚くべき秘密を知る! 英ソ情報部の両雄が、積年の対決に決着をつける。三部作の掉尾を飾る本格スパイ小説。


言わずと知れた(?)スパイ小説の金字塔、三部作の最終話です。
映画「裏切りのサーカス」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)を観たのを機にヨタヨタと読みだしたシリーズです。
(当時)新訳なった「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕」 (ハヤカワ文庫NV)を、わりと映画を観た後すぐ読んで、次の「スクールボーイ閣下」〈上〉〈下〉 (ハヤカワ文庫NV) (ブログの感想ページへのリンクはこちら)を読んだのが1年後。
そして最後を飾る本作「スマイリーと仲間たち」 (ハヤカワ文庫NV)を読んだのが今回、実に6年半ぶりです。

「スクールボーイ閣下」〈上〉〈下〉 感想)で、スマイリー三部作って、第1作の「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」 でやられて、第2作の「スクールボーイ閣下」〈上〉〈下〉 で反撃の糸口をつかんで、第3作であるこの「スマイリーと仲間たち」 でやっつける、と書きましたが、その通り、やっつける番が回ってきました! ようやく。

ところが、話がスタートしても、なかなか、なかなか、反撃! という感じにならないんですよね。
反撃どころか、カーラはいずこに、という感じ。
あらすじにも書いてありますが、殺された将軍をめぐるエピソードが中心になっていまして、将軍はソ連からの亡命者で、最後に何か重要なことをスマイリーに伝えようとしていた、という背景。
でもね、そこはジョン・ル・カレですから、派手に大反撃だ~、という感じではなく、地味~に、あくまでも地味~に展開します。
500ページもあるのに、いつ反撃するんだ~。
ようやく反撃しそうになっても、ドーンというのではなく、これまた地味~。
筆致が抑えられているので余計そう感じるのでしょうね。いくらでも派手にできそうなのに、でも、これがル・カレ流ということでしょう。

実際のスパイが映画や小説のようにドンパチ、派手派手しくやってしまったら、世間の余計な注目を集めてしまうので、だめなんでしょう。
これこそ、王道のスパイ、ということなのかも。

といいつつ、引退したスマイリーが担ぎ出され、これまた引退したスマイリーの仲間たちを行脚していくあたりは、現実にはあり得ないでしょうし、そこがフィクションとしての根幹になっているのだと思いますが、それでもそれ以外のところは、リアルに、あくまでリアルに。

ということで、地味な作品ですが、ただ、以前おそれていたような、ル・カレは退屈だ、ということは全くありませんでした。
渋いなー、とは思ったものの、じっくり楽しめる作品でした!


<蛇足1>
いつのまにかヴィクトリア・エンバンクメントに出て、ノーサンバーランド・アヴェニューのとあるパブにきていた。たぶん<ザ・シャーロック・ホームズ>だったのだろう。(191ページ)
スマイリーが、パブ「ザ・シャーロック・ホームズ」(写真はこちらの記事に)に行っています!

<蛇足2>
顔立ちにラテン系の、というより、レヴァント人風のといってもいいはしこさがあり(203ページ)
レヴァント人が、ぴんと来なくて調べました。Wikipediaによると「東部地中海沿岸地方の歴史的な名称。厳密な定義はないが、広義にはトルコ、シリア、レバノン、イスラエル、エジプトを含む地域。現代ではやや狭く、シリア、レバノン、ヨルダン、イスラエル(およびパレスチナ自治区)を含む地域(歴史的シリア)を指すことが多い。」らしいです。

<蛇足3>
中央の松材のテーブルには、トーストとマルミットの食べさしが散らかり(254ページ)
マルミットって、なんだろな? と。
「フランス語で「鍋」のことを意味し、具だくさんなスープポトフをアレンジしたような洋風鍋料理のこと。」らしいですね。赤坂にマルミットというお店があるようです。検索するとそのお店のページの紹介がほとんどでした......ちょっと行ってみたくなったかも。

<蛇足4>
ぐうたらで、どうしようもないヴァガボンド(349ページ)
ヴァガボンド? 
放浪者、漂流者、あるいは、ごろつき、やくざ者、無頼漢といった意味でした。

<蛇足5>
彼女は他の下宿人たちに、あの人には不幸があったことがわかるといった。ベーコンをのこすのもそのせいだし、外出が多く、でもかならずひとりで出かけるのもそのせい、明かりをつけっぱなしで寝るのもそのせい、であった。(388ページ)
ほかの部分はともかく、ベーコンの位置づけがよくわかりません(笑)。

<蛇足6>
エレベーターを降りて真っ先に目にはいったのは、福祉厚生部の掲示板で(391ページ)
これ、福利厚生部の間違いでしょうか??

<蛇足7>
その夜十一時すぎ、彼は書類をしまい、机のまわりをかたづけ、メモ類を機密反故(ほご)容器にいれたあと(393ページ)
そこに入れておけば機密を保った状態で破棄してもらえる(焼却処分にでもするのでしょうね)容器のことを、機密反故容器というんですね。ぼくの会社にもありますが、呼び方を意識したことはありませんでした。

<蛇足8>
ロンドン用の靴で水たまりのあいだを踏み、水たまりにだけ注意を集めて進んだ(394ページ)
ロンドン用の靴、なんかあるんですね......
田舎を歩く靴と都会を歩く靴を区別しているということでしょうね、きっと。

<蛇足9>
それとも地下の穴蔵のどこかに、蜂蜜室でもあるのだろうか。なにしろ銃器室があり、釣り具室があり、荷物室があるのだ。もしかしたら、愛欲室もあるかもしれない。(395ページ)
邸宅の描写ですが、愛欲室ですか......すごいですねぇ。
でもきっと、愛欲室があるとしても、地下ではないような気がしますね。
原語がどういう単語なのかも気になります......



原題:Smiley’s People
作者:John le Carre
刊行:1979年
翻訳:村上博基






ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ジョン ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2012/03/31
  • メディア: 文庫

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)
スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

  • 作者: ジョン ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/01/31
  • メディア: 文庫





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がん消滅の罠 完全寛解の謎 [日本の作家 あ行]

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

がん消滅の罠 完全寛解の謎 (宝島社文庫 「このミス」大賞シリーズ)

  • 作者: 岩木 一麻
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2018/01/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
呼吸器内科の夏目医師は生命保険会社勤務の友人からある指摘を受ける。夏目が余命半年の宣告をした肺腺がん患者が、リビングニーズ特約で生前給付金を受け取った後も生存、病巣も消え去っているという。同様の保険金支払いが続けて起きており、今回で四例目。不審に感じた夏目は同僚の羽島と調査を始める。連続する奇妙ながん消失の謎。がん治療の世界で何が起こっているのだろうか――。


第15回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作です。
『このミステリーがすごい!』大賞の感想を書くのは極めて久しぶりです。
第14回大賞受賞作である 
一色さゆり「神の値段」 (宝島社文庫)
城山真一「天才株トレーダー・二礼茜 ブラック・ヴィーナス」 (宝島社文庫)
は未読(日本に置いてきてしまいました)、
第13回受賞作である
降田天「女王はかえらない」 (宝島社文庫)
第12回受賞作である 
八木圭一「一千兆円の身代金」 (宝島社文庫)
梶永正史「警視庁捜査二課・郷間彩香 特命指揮官」 (宝島社文庫)
の3作は既読ですが感想を書いていません。
なので『このミステリーがすごい!』大賞の感想を書くのは、第11回の
安生正「生存者ゼロ」 (宝島社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
以来でほぼ5年ぶりとなります......


がんがどうやって消えたか、というのがメインの謎になるということで、あらすじを読んだ段階で、そういう医学的な話をされてもわからないんじゃないだろうか、と不安に思っていたのですが、とてもわかりやすかったですね。まったくの素人でも絶対大丈夫。

医学ミステリというのは、そもそも例が少ないのですが、この作品のように、病気そのものが謎の対象となる作品は極めて珍しいと思います(ひょっとしたら世界初?)。このことだけでも大拍手!
しかもその謎が、素人にもわかるかたちで、何段階にも複層化されているのが素晴らしい。

それでも、いつもの(悪い)癖でいくつか難点を挙げておきます。
おそらくいろんな人物の思惑が絡み合った結果だからとは思うのですが、犯人の目指したところがあまりクリアではない点。
目的と手段のバランスも今一つですよね。

次に犯人サイドの描写がアンフェアではないかな、と思える箇所が散見される点。
登場人物の感想がいろいろと書きこまれていて、それはとても面白かったのですが、真相を知ってから見返すと、こういうポジションの人はこういう感想は抱かないのでは? と思えるところがあるのです。

またミステリとして、謎解きが犯人サイドの回想によって読者にもたらされるという構造自体も難点に挙げておきたいと思います。最後に犯人の自白ですべてを明かすタイプのミステリは、安直で評価を下げる元です。
この作品の場合、すべてを探偵サイドが解き明かすのは難しいのかもしれませんが、それでももうひとふんばりしてほしかったところです。

そして最後に......
「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったことをです。」(47ページ)
主人公である夏目と羽島の恩師西條が大学を去る際に残した言葉です。
この言葉、この作品のキーとなる言葉のはずなんですが、最後まで読んでも、ああ、そういうことか、と膝を打つような感じにはならず、もやもやしたままです。
352ページであらためてこの言葉が繰り返され、一定の説明がなされているのですが、西條のしたこと、果たして「医師にはできず、医師でなければできず、そしてどんな医師にも成し遂げられなかったこと」でしょうか?

と、不満もあげましたが、引き込まれて読める医学ミステリ、一気読みしました!


<蛇足1>
「実は昆虫やエビ、カニを含む節足動物というのはがんになりにくいみたいなんだ。」(126ページ)
と書いてあります。そうなんですね。
そのすぐ後に
「海綿ってわかるか?」
「保健体育の授業で習ったけど」
「それは海綿体。」(127ページ)
さらっと下ネタですね(笑)。

<蛇足2>
「昔はその辺に溢れていた『大丈夫。きっとよくなりますよ』という言葉は医者の間では今や絶滅危惧種だよね。これは正確な情報を患者に伝えるという社会的コンセンサスの下では必然的に起こってくる問題で、別に医者が悪いわけじゃない。」(227ページ)
そういえば、『大丈夫。きっとよくなりますよ』やそれに近い言葉、聞かなくなりましたね......

<蛇足3>
パンドラは慌てて箱を閉めたので、箱の中には『エルピス』だけが残った。
「羽島はパンドラの箱に残されたエルピスというのは何だと思う?」夏目は羽島に訊ねた。-略-
「希望か予兆のどちらかということだね?」-略-
パンドラの箱に残されたとされるエルピスについては様々な解釈が存在するが、有力なのはそれが希望であるという説と、未来を見通す力であるという説だ。(227~228ページ)
パンドラの箱、よく使われる言葉ですが、希望というのしかしりませんでした。未来を見通す力という考えもあるんですね。




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ソウル・コレクター [海外の作家 ジェフリー・ディーヴァー]

ソウル・コレクター 上 (文春文庫)ソウル・コレクター 下 (文春文庫)ソウル・コレクター 下 (文春文庫)
  • 作者: ジェフリー ディーヴァー
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2012/10/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
リンカーン・ライムのいとこアーサーが殺人容疑で逮捕された。アーサーは一貫して無実を主張するも、犯行現場や自宅から多数の証拠がみつかり有罪は確定的にみえた。だがライムは不審に思う――証拠が揃い過ぎている。アーサーは濡れ衣を着せられたのでは?そう睨んだライムは、サックスらとともに独自の捜査を開始する! <上巻>
殺人容疑で逮捕されたいとこを無実とみたライムは、冤罪と思しき同様の事件の発生を突き止める。共通の手掛りが示したのは、膨大な情報を操る犯人像。真相を究明すべく、ライムのチームは世界最大のデータマイニング会社に乗り込むが――。データ社会がもたらす闇と戦慄を描く傑作! 巻末に著者と児玉清氏の対談を特別収録。<下巻>

リンカーン・ライムシリーズ第8作です。
「このミステリーがすごい! 2010年版」 第5位、かつ、週刊文春ミステリーベスト10 第3位。

今回の敵は、コンピューター社会、データ社会を突いた犯人です。
「千兆(ペタ)バイトの闇にひそむもっとも卑劣な殺人鬼」
「盗まれる個人情報 改竄されるデータ 知らぬ間に、罪を着せられる――恐怖」
と文庫本上下巻それぞれの帯に書かれています。
SSD(ストラテジック・システムズ・データコープ)社というニューヨーク市周辺に本社を置くデーターマイナーがキーとなって登場します。

本当にこのレベルまで個人情報が集められてしまっているでしょうか?
ちょっと非現実的な気もしますが、一方で、アップルやグーグルなどならやっていてもおかしくないかな、とも思ったりもするところがポイントなのかもしれませんね。
原題は「The Broken Window」で、いわゆる割れ窓理論に基づいたものですが、SSD社の(創業者の)理念と結びついているわけですね。
(タイトルといえば、訳者あとがきに、日本のタイトルも、ディーヴァーが候補をくれた、と書いてあったのですが、おもしろい、というか不思議でしたね。)

そしてそのデータを犯人に悪用されてしまう。
文字通り、人生を滅茶苦茶にされてしまう整形外科医とか出てきて、哀れでなりません。殺されはしないのですが。
おもしろいなと思ったのは、犯人の設定ですね。ちょっぴり無理筋な設定に思えるのですが。
とはいえ、犯人が繰り出してくる攻撃は迫力十分で、ハラハラ、ドキドキ。

気になったのは、ライムがイギリスの当局と協調して行っている殺し屋捕獲のエピソード。
これ、いらなくないですか??
シリーズとして追いかけていきたい、ということなのでしょうけれども、物語のモメンタムを削いでしまっているような気がしてなりません。

最後に、児玉清さんとディーヴァーの対談が収録されているのもポイント高いですね。
ミステリの目利きでもいらっしゃった児玉さんが、引き出し多くいろいろと聞き出されているのがおもしろい、というか、すごい、ですね。

<蛇足1>
「彼らはのんきなアンテロープみたいに」(上巻82ページ)
アンテロープ? 調べると、レイヨウ(羚羊)のことなんですね。今ではレイヨウと言わずに、アンテロープと言うのでしょうか?

<蛇足2>
「通りを歩きながら、周囲のシックスティーンたちを観察する」(上巻134ページ)
何の説明もなく、いきなりシックスティーンと出てきて戸惑いました。
シックスティーン? 16?
16歳の人たちを指しているのではなさそうだし、普通の一般の人たちを指しているようなのだけれど......と思っていたら、
「シックスティーン……人間を指してそう呼ぶのは、もちろん、私だけではない。ほかにも大勢いる。この業界では一般的な用語だ。」(上巻134ページ)
という説明が出て来ます。
「十六桁の番号は、名前よりもよほど明快で効率的だ。」(上巻135ページ)
なるほど。アメリカですから、ソーシャル・セキュリティ・ナンバーのことでしょうね。

<蛇足3>
囚われたライムのいとこが、刑務所?の中で交わす会話で言われるセリフが光っていました。
「あんた、ものを買ったんだろ。万引きすりゃよかったんだよ。そしてら、何買ったか、ばれようがねえじゃん。」(上巻377ページ)
確かに。完璧な答えです......(監視カメラがとらえているかもしれませんが)

<蛇足4>
「アメリア・サックスはマンハッタンに戻っていた。やかましいわりにレスポンスの悪い日本製エンジンに、いらいらが募る。
 まるで製氷機みたい音だ。ついでに馬力も製氷機程度しかない。」(下巻246ページ)
ジェフリー・ディーヴァー、日本に何か恨みがあるのでしょうか?

<蛇足5>
犯人の視点のシーンで、
「私は縁起の悪いナンバー3だった」(下巻275ページ)
というのがあります。3って縁起が悪いのですか?
犯人特有のジンクスのようなものがあって、読んだのに忘れてしまっているのかな?



原題:The Broken Window
作者:Jeffery Deaver
刊行:2008年
翻訳:池田真紀子

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風ヶ丘五十円玉祭りの謎 [日本の作家 青崎有吾]


風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

風ヶ丘五十円玉祭りの謎 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/07/20
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
夏祭りにやって来た、裏染天馬と袴田柚乃たち風ヶ丘高の面々。たこ焼き、かき氷、水ヨーヨー、どの屋台で買い物しても、お釣りが五十円玉ばかりだったのはなぜ? 学食や教室、放課後や夏休みを舞台に、不思議に満ちた学園生活と裏染兄妹の鮮やかな推理を描く全五編。『体育館の殺人』『 水族館の殺人』に続き、“若き平成のエラリー・クイーン”が贈るシリーズ第三弾は、連作短編集。


上のあらすじにも書いてありますが、
「体育館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「水族館の殺人」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く裏染天馬シリーズ第3弾で、今回は短編集ですね。
解説で、「本書が刊行されたので、もはや《館シリーズ》とは呼べなくなった」と村上貴史が書いていますが、短編集にまで「館」とつける縛りを課さなくてもよいような気がします。
シリーズは次の「図書館の殺人」 (創元推理文庫)も文庫化されています。

「もう一色選べる丼」
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
「針宮理恵子のサードインパクト」
「天使たちの残暑見舞い」
「その花瓶にご注意を」
の5編に「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」が収録されています。

裏側の帯に各話の謎が簡潔に紹介されています。
なぜ学食の脇に食べ残しのどんぶりが放置されたのか 「もう一色選べる丼」
なんと『競作五十円玉二十枚の謎』に挑戦 「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」
どうして吹奏楽部の男子はいつも練習場から閉め出されるのか 「針宮理恵子のサードインパクト」
どうやって少女すたりは教室から忽然と消えたのか 「天使たちの残暑見舞い」
誰が廊下の花瓶を粉々に割ったのか 「その花瓶にご注意を」

「もう一色選べる丼」は、裏染天馬自らが「どんぶりで掬ったみたいな大雑把な推理だ。どんぶり勘定ならぬどんぶり推理だな」(50ページ)と自嘲(?) していますが、学校でならこういうこと起こるんでしょうか? 初々しい感じがして好感は持てましたが。(そうなんです。柚乃のように「けしからん!」とは思いませんでした)
「風ヶ丘五十円玉祭りの謎」は、無理だなぁ、この答、と思いました。面白い謎だな、と思ったのですが、解答は犯人像から考えても、ギリギリセーフではなく、ギリギリアウトなんじゃないかな、と。余談ですが、「祭り」なんですね、「祭」ではなく。
「針宮理恵子のサードインパクト」も、こういうことになるかなぁ、と不思議に思いました。犯人と同じ属性の人に(ネタバレを避けるため、こう書きます)、こんな感じですか? と聞いてみたいです。個人的には、この設定、登場人物たちだったら、男子を閉め出すのではなく......ともっと大胆なことを考えてしまいましたが......この点も犯人と同じ属性の人のご意見を乞いたいですね。
「天使たちの残暑見舞い」は、解決が鮮やかだと思いはしましたが、これも無理でしょうねぇ......「深く眠り込んで」いたとしても、さすがに気づくでしょう。
「その花瓶にご注意を」は、天馬ではなく、天馬の妹の鏡華が探偵役を努めます。この謎解きは集中で一番納得感ありますね。情景を想像すると笑えてくるところもいいです。
「おまけ 世界一居心地の悪いサウナ」は、名前は出ていませんが、天馬と思しき少年がサウナで嫌な人物と遭遇する、というエピソード。

短編でもしっかり楽しめましたが、でもやっぱり長編が読みたくなりましたね。
「図書館の殺人」 (創元推理文庫)に期待がいよいよ高まっています!



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ドラマ:30秒のトリック [ドラマ ジョナサン・クリーク]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

Jonathan Creek: The Complete Colletion [Region 2]

  • 出版社/メーカー:
  • メディア: DVD


「奇術探偵ジョナサン・クリーク」の、シーズン2 第3作目「30秒のトリック」 (The Scented Room)です。


今回は絵画盗難事件。
一度に四、五人しか入れないくらいの部屋に展示されている絵画エル・グレコの「ユダの接吻」。150万ポンド、と劇中で言っていたような......約2億円ですか......
ガイドが女子生徒を見学させ、一旦退出しドアを閉め、次のメンバーと共に入ったら絵が消えていた。
当然ながら、出入りは不可能な状況。窓は嵌め殺しの天窓しかなく、そこは到底届かない。壁にも不審な点はなく......
いいではないですか、この謎。

謎解きは常識的、と言いたいところですが、うーん、どうでしょうねぇ。
このやり方だと絵がだめになったりしないでしょうか?
(額縁から外すときに切り取っているので、その破損は別にしても)

また女子生徒を入れ替える際にも、ガイドも含めて全員が一度に外に出る必要はなく、ガイドは部屋に残ったまま女子生徒たちだけを入れ替えさせることも充分あり得るわけで、そうするとこの事件は成立しないことになってしまいます。

あと、館の主が強盗(?) に殴られた様子もありまして、書斎(図書室?)の怪しげな足跡とかの手がかりもあるのですが、こちら、いかにもとってつけたようなもので、あまりにも軽い扱い。
偽の手がかりでは、というのがあからさますぎて、ちょっと不思議な感じです。

ヒントが欲しいというマデリンに、ジョナサンが「コンビーフのサンドイッチ」のことを考えろ、というシーンがあり、解決編のくだりで、その意味が明かされるのですが、このヒントで真相にたどり着けというのは無理だよ、ジョナサン。マデリン、ちょっとかわいそう。

シリーズ的には、というか、ジョナサン、マデリンの仲としては、マデリンの隠された(いままでのシリーズで匂わされてさえいませんでしたね!)トラウマ的事態が明かされ、かつ、一応の決着をみます。そしてそこにジョナサンがきっちり居合わせる、と。
うん、うん、進展しそうな感じが漂ってきますね。



いつも通り「The Jonathan Creek homepage」という英語のHPにリンクを貼っておきます。
「30秒のトリック」 (The Scented Room)のページへのリンクはこちらです。
ただし、こちらのHP、犯人、トリックも含めてストーリーが書いてあるのでご注意を。写真でネタばらしをしていることもあるので、お気をつけください。


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ノワールをまとう女 [日本の作家 さ行]


ノワールをまとう女

ノワールをまとう女

  • 作者: 神護 かずみ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/19
  • メディア: 単行本

講談社HPから>
日本有数の医薬品メーカー美国堂は、傘下に入れた韓国企業の社長による過去の反日発言の映像がネットに流れ、「美国堂を糺す会」が発足して糾弾される事態に。
かつて美国堂がトラブルに巻き込まれた際に事態を収束させた西澤奈美は、コーポレートコミュニケーション部次長の市川から相談を持ちかけられる。新社長の意向を受け、総会屋から転身して企業の危機管理、トラブル処理を請け負っている奈美のボスの原田哲を排除しようとしていたものの、デモの鎮静化のためにやむを得ず原田に仕事を依頼する。
早速、林田佳子という偽名で糺す会に潜り込んだ奈美は「エルチェ」というハンドルネームのリーダーに近づくと、ナミという名前の同志を紹介される。彼女は児童養護施設でともに育ち、二年前に再会して恋人となった姫野雪江だった。雪江の思いがけない登場に動揺しつつも取り繕った奈美は、ナンバー2の男の不正を暴いて、糺す会の勢いをくじく。
その後、エルチェは美国堂を攻撃する起死回生の爆弾をナミから手に入れたというが、ナミ(=雪江)は奈美と約束した日に現れず、連絡も取れなくなった。起死回生の爆弾とは何なのか?


単行本です。
先日の「到達不能極」(講談社)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続いて江戸川乱歩賞受賞作です。

女性が主人公のハードボイルドタッチの作品ということで、乱歩賞の系譜的には
第39回桐野夏生「顔に降りかかる雨」 (講談社文庫)
第42回渡辺容子「左手に告げるなかれ 」(講談社文庫)
につながるかたちでしょうか。
とすると、23年ぶりですか......
ハードボイルドタッチということを取り払って、女性が主人公というだけで考えても同じ結果になるんですよね......乱歩賞は女性作家が受賞することも少ないですから、仕方がないのでしょうか?

服装が黒ずくめ、まさに「ノワールをまとう女」である西澤奈美が主人公です。
選評でも触れられていますが、奈美の職業の設定がおもしろいですよね。
「企業の炎上案件を解決する裏稼業」(湊かなえの選評)。
きわめて現代的で、それでいてあまり日頃目にしない職業。
実際に非合法なことにまで手を染めるこういう職業があるのかどうかはわかりませんが、コンサルタントとかアドバイザーとかいう形で、合法の範囲内で対応する職業はあるのでしょうね。
総会屋が形を変えたものという設定で作中には登場しますが、もしこの職業自体が作者神護かずみの創作だったとしたら、それだけでもすごいことですね。
「同性パートナー、AI、排外主義、企業コンプライアンスなど今日的な題材を随所に鏤めて」(京極夏彦の選評)ありまして、このあたりの題材の選び方もセンスあり、ではないでしょうか?

一方で、書き方はハードボイルドタッチといいましたが、「見方によってはステレオタイプとも受け取れてしま」うもので(貫井徳郎の選評)、「流行りのJ-POPを演歌歌手が歌っているような作品」という湊かなえの評言には笑ってしまいましたが、まったくその通り。
でも、新奇な題材(というほどのものではないかもしれませんが)をたくさん盛り込んでいるので、この主人公の設定だと、自然とハードボイルドタッチになるのかもしれませんが、安定感漂う書き方というしっかりした土台の上に物語が築かれるという安心感があります。「古い器に新しい食材を盛る手つきは堂に入って」いると京極夏彦がいう通りですね。

ミステリとしてのラストが定型通りといえば定型通りなのですが、ハードボイルドタッチならでは、とも思いますし、「様式美って感じで楽しかった」という新井素子の選評に1票(笑)。

手堅く纏められた佳品なのでは、と感じます。

ところで、巻末の選評で湊かなえが強く、強く推している箕輪尊文さんの「歌舞伎町 ON THE RUN」という作品ぜひ読んでみたいですね。

<蛇足>
月村了衛が選評で「言わば<暗黒面>-それとリアリティ-が決定的に足りないのは私には致命的に思えました。」と否定的な立場をとっていますが、そしてそれは正しいとも思いましたが、この人間の暗黒面の軽さが、かえって現代的な感じがするんじゃないかな、という気もしております。




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到達不能極 [日本の作家 さ行]


到達不能極

到達不能極

  • 作者: 斉藤 詠一
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/20
  • メディア: 単行本

<裏側帯あらすじ>
二〇一八年、遊覧飛行中のチャーター機が突如システムダウンを起こし、南極へ不時着してしまう。
ツアーコンダクターの望月拓海と乗客のランディ・ベイカーは物資を求め、今は使用されていない「到達不能極」基地を目指す。
一九四五年、ペナン島の日本海軍基地。訓練生の星野信之は、ドイツから来た博士とその娘・ロッテを、南極にあるナチス・ドイツの秘密基地へと送り届ける任務を言い渡される。
現在と過去、二つの物語が交錯するとき、極寒の地に隠された“災厄”と“秘密”が目を覚ます!


単行本です。
第64回江戸川乱歩賞受賞作。
乱歩賞は、第62回の「QJKJQ」 (講談社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)の次の第63回が受賞作なしでしたので、2年ぶりですね。
帯に「衝撃の“受賞作”なしから1年ーー。」
と書いてあって笑ってしまいました。別に衝撃ってことはないだろうと。
でも、巻末に江戸川乱歩賞の受賞リストがあるのですが、それを見ると、受賞作なしは過去3回あって、第63回が4度目なのですね。確かに、昭和46年の第17回以来、受賞作なしはなく、低調だろうとなんだろうと必ず受賞作は出ていたので、46年ぶりの受賞作なし、ですか......衝撃といってもいいのかもしれませんね。

この「到達不能極」、読むのがどんどん後回しになってしまっているうちに、もう次の第65回の受賞作「ノワールをまとう女」 (講談社)が出版されていますね......

さて、その“衝撃”の受賞作なしという事態を受けての待望の受賞作ですが、ミステリーという語をかなり広義に捉えた上でのミステリー、ですね。
SF風味の冒険小説風、といったところでしょうか。
ミステリーを推理小説だと考えると、謎らしい謎もなく(そう感じました)、伏線もなく(あったとしても、かなり見え見えであってミステリーとしての伏線とは到底いえない)、特段のサプライズもない。失格の烙印を押されても文句は言えないような感じです。
サスペンスも、それほどありませんねぇ。
また、SF風味、と書いたのは、作中に出てくる技術がどう考えても眉唾であるうえ、時代設定からしても無理があるから、SFと言い切るとSFに失礼な気がするからです。
と、こう書くと、SFとしてもミステリとしても不十分な作品でつまらないのかな、と思われるかもしれませんが、個人的にはとても楽しく読み終わりました。
過去と現在を交錯させるプロットも平凡ですが、ワクワクできました。

まず南極を舞台に物語が繰り広げられるのが楽しい。
一度行ってみたいですよね、南極。寒いのは嫌なんですが(笑)。
荒唐無稽な物語が、南極やペナンあたりだとなんとなくおさまりがいいように思えます。
ナチがやはり悪者、というのも抜群の安定感ですし。

荒唐無稽で行くなら、とことん荒唐無稽なほうがよいので、SFに失礼といった技術なんかも、いかにも二流(三流?)な安っぽさが、かえって心地よい。
むしろ、実際の科学的にはおかしなものであっても、そういうことが起こる世界というフィクションをしっかり構築したほうがよかったのかもしれませんね。現実に近いせいで、むしろ粗が目立ってしまっていますので。
(話はそれますが、ちょっと福井晴敏の「終戦のローレライ」を思い出してしまいました。福井晴敏ファンの方からは、一緒にするな、と叱られそうですけれど。)

ということで、楽しく読み終わりましたが、江戸川乱歩賞という観点で見ると、ちょっと感慨深いですね。
今までのところ全作読んでいますが、長い乱歩賞の歴史の中で、この「到達不能極」のように、ここまで意外性を狙っていない作品が受賞したのは初めてだと思うからです。
なので、この「到達不能極」の受賞が、江戸川乱歩賞の今後にどう影響するのかも気になるところですが、規定上の原稿の枚数が限られているので、意外性を放棄してしまうと、読者に印象付ける手段が、それこそプロットだったり、人物だったり、書き方だったり、と熟練の技的なものが中心になることに加え、ある程度の枚数(長さ)がないと実現しにくいものになってしまうので、新人賞という性格の乱歩賞のことですから、あまり影響ないのかもしれませんね。




<蛇足>
この作品に限らないのですが、戦争中を舞台にした小説や映画で、現代的な考え方を持った人物が登場すると違和感を覚えることが多いです。
たとえば、反戦思想を持った人。
確かに、強い反戦思想を持った人は当時にもいたでしょうし、一般的にも戦争反対と言う人が多かったのだろうと思いますが、こと日本が実際にかかわった戦争に関しては、情報操作というのかプロパガンダというのか、その結果支持している国民が圧倒的多数だったのではないかと思うのです。
現代的な視点のため、そういう人物を登場させるのは必須なのかもしれませんが、それを不自然に思われないように、そういう考えに至った経緯を丁寧に物語に組み込む必要があるのではないかと思います。
本書では戦時中の主人公である若い信之が、同盟国であるドイツの反ユダヤ政策(たとえばユダヤ人を劣等人種とすること)に怒りを覚えている設定になっています。
「信之は、基本的に押し付けることも押し付けられることも苦手ではあるのだが、本人にはどうしようもない生まれや人種に関して、偏った思想を押しつけられることに耐えられなかった。そうした考え方を持ち合わせてはいないのだった。」(81ページ)
と説明されていますが、当時の教育環境でこのような考えを持つことが自然でしょうか? 日本自体が貴族制度のある差別・区別前提の社会だったというのに。
両親が進歩的な教師だったから、と簡単に説明されていますが、納得感は少ないですね。
むしろ思いを寄せている少女ロッテがユダヤ人であることをきっかけに、そういう思いを強めていく過程をしっかり書き込んでもらったほうが納得感もあり、自然なのではないかと思うのです。
(と言いながら、乱歩賞の規定の枚数では書ききれないのかも、とも思ったりしますが)
このような思想的な面だけではなく、戦況を見通しているという設定にも違和感を覚えます。
信之は二等飛行兵曹で、学生に毛の生えたようなものなのですが、それでも一九四五年一月の段階で
「最終的な勝者となるのが自らの祖国とは、信之にはどうしても思えなかった」(162ページ)というほどの戦況把握をしているのです。
軍上層部などはともかくとして、一般には、連戦連勝という嘘を徹底していたのでは? と。





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