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九つの解決 [海外の作家 か行]


九つの解決 (論創海外ミステリ)

九つの解決 (論創海外ミステリ)

  • 作者: J.J. コニントン
  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2016/07
  • メディア: 単行本

単行本です。
論創海外ミステリ176。
「2017本格ミステリ・ベスト10」 第8位。

先日感想を書いた「オシリスの眼」 (ちくま文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で、渕上痩平による訳者あとがきから、
「犯人が誰かという答えを単に当てることではなく、なぜその人物が犯人なのかをプロセスとしてきちんと論証してみせることを重視した作家だった。」
というくだりを引用しましたが、この「九つの解決」 (論創海外ミステリ)の作家J・J・コニントンも同様のようですね。

タイトルの「九つの解決」。
てっきり多重解決ものなのかな、ととても期待していたんですよね。
でも、違いました。
物語のキーとなる二つの死について、それぞれ自殺、事故、他殺の3通りが考えられるので、組み合わせとして3×3の 9通りが考えられる、ということで、探偵役であるクリントン卿とフランボロー警部がすべての可能性について検討し、一つずつ潰していくことから来ています。(94ページにリストが9通りを表にしたものが出て来ます。また、カバーにもこの9通りのリストが描かれています)
ここを読んだときには、正直、がっかりしましたし、馬鹿馬鹿しいな、と思いました。
いくらそのあとのフランボロー警部たちの検討が示唆に富むものであってもね...
土台、これでは、solution (解決) とは呼べないじゃん......

ということで、タイトルだけで変な期待をした分がっかりしたのですが、作品そのものはとてもしっかりした、おもしろいものでした。
(解説によると、ダシール・ハメットが「きわめて慣習的で、エキサイティングな要素は皆無だが、しかし、まことに面白く読める探偵小説」で、解決は「完全に満足のいくものである」と賞賛していたそうです。ハメットの作風からすると意外感があるので、この点もおもしろいですね)

本書の一番のポイントは、最終章である「第一九章 クリントン卿のノートからの抜粋」ですね。
ここでは、折々にクリントン卿が事件をどう考えていたのか、どのような証拠をどう解釈していたのか、がクリントン卿自身のメモという形で提示されます。
メモなので、そっけない感じになってしまっていますが、本格ミステリ好きにはたまらないプレゼントなのではないでしょうか。
一番おもろいな、と思った点は、折々の名探偵の推理過程が明らかになること、です。
詳細な解決編が用意されているミステリであっても、最後に一気呵成に推理が披露されることがほとんどで、本書のように節目節目の名探偵(クリントン卿)の考えがトレースできることは滅多にないですから。これはものすごく優れた点として注目だと思います。

ということでお分かりいただけるかと思うのですが、節目の名探偵の推理を披露できる、ということは、すなわちそれだけ複雑な分岐をもつプロットを事件に仕込んである、ということでもあります。
化学研究所の若い職員ハッセンディーンが自宅で殺されているのが発見される。
化学研究所の研究者シルヴァーデイルが住んでいる隣家では女中が殺されていた。
さらに、少し離れたバンガローでシルヴァーデイル夫人が殺されているのが発見される。シルヴァーデイル夫人はハッセンディーンと非常に懇意であった。バンガローは密会場所だったと思われる。
更には事件の鍵を握っていると思われるホエイリーという前科者も殺されてしまう。
と合計4つも殺人が起こるわけですが、非常によく練られていると思いました。


<蛇足1>
「だから、いくら君に土地勘があっても、さして役に立つとは思えない。」(9ページ)
昔、佐野洋の「推理日記」(巻数がわからないので、第1作目にリンクを貼っています)だったかと思うのですが、土地勘ではなく土地鑑と書くのが正しいと書いてあったのを思い出しました。

<蛇足2>
「クリントン卿は、再び四冊の浩瀚な冊子をあからさまに嫌そうな目で見つめた」(129ページ)
浩瀚、意味が分からず調べました。
「書物の分量が多いこと。書物が大部であること。」

<蛇足3>
「義弟は債権や株式で持っていた財産の一部を妹に名義替えしたんです。」(183ページ)
原文は確認しておりませんが、ここは債権ではなく、債券ではないでしょうか? よくある話ではありますが。

<蛇足4>
カバー裏にある作者紹介のところで、
「<読者への挑戦状>が作中に挿入される趣向を、エラリー・クイーンに先駆けて自作に取り入れた。」
と書かれているのですが、本書には読者への挑戦はありません......


原題:The Case with Nine Solutions
作者:J. J. Connington
刊行:1928年
訳者:渕上痩平




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