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ノワールをまとう女 [日本の作家 さ行]


ノワールをまとう女

ノワールをまとう女

  • 作者: 神護 かずみ
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/09/19
  • メディア: 単行本

講談社HPから>
日本有数の医薬品メーカー美国堂は、傘下に入れた韓国企業の社長による過去の反日発言の映像がネットに流れ、「美国堂を糺す会」が発足して糾弾される事態に。
かつて美国堂がトラブルに巻き込まれた際に事態を収束させた西澤奈美は、コーポレートコミュニケーション部次長の市川から相談を持ちかけられる。新社長の意向を受け、総会屋から転身して企業の危機管理、トラブル処理を請け負っている奈美のボスの原田哲を排除しようとしていたものの、デモの鎮静化のためにやむを得ず原田に仕事を依頼する。
早速、林田佳子という偽名で糺す会に潜り込んだ奈美は「エルチェ」というハンドルネームのリーダーに近づくと、ナミという名前の同志を紹介される。彼女は児童養護施設でともに育ち、二年前に再会して恋人となった姫野雪江だった。雪江の思いがけない登場に動揺しつつも取り繕った奈美は、ナンバー2の男の不正を暴いて、糺す会の勢いをくじく。
その後、エルチェは美国堂を攻撃する起死回生の爆弾をナミから手に入れたというが、ナミ(=雪江)は奈美と約束した日に現れず、連絡も取れなくなった。起死回生の爆弾とは何なのか?


単行本です。
先日の「到達不能極」(講談社)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続いて江戸川乱歩賞受賞作です。

女性が主人公のハードボイルドタッチの作品ということで、乱歩賞の系譜的には
第39回桐野夏生「顔に降りかかる雨」 (講談社文庫)
第42回渡辺容子「左手に告げるなかれ 」(講談社文庫)
につながるかたちでしょうか。
とすると、23年ぶりですか......
ハードボイルドタッチということを取り払って、女性が主人公というだけで考えても同じ結果になるんですよね......乱歩賞は女性作家が受賞することも少ないですから、仕方がないのでしょうか?

服装が黒ずくめ、まさに「ノワールをまとう女」である西澤奈美が主人公です。
選評でも触れられていますが、奈美の職業の設定がおもしろいですよね。
「企業の炎上案件を解決する裏稼業」(湊かなえの選評)。
きわめて現代的で、それでいてあまり日頃目にしない職業。
実際に非合法なことにまで手を染めるこういう職業があるのかどうかはわかりませんが、コンサルタントとかアドバイザーとかいう形で、合法の範囲内で対応する職業はあるのでしょうね。
総会屋が形を変えたものという設定で作中には登場しますが、もしこの職業自体が作者神護かずみの創作だったとしたら、それだけでもすごいことですね。
「同性パートナー、AI、排外主義、企業コンプライアンスなど今日的な題材を随所に鏤めて」(京極夏彦の選評)ありまして、このあたりの題材の選び方もセンスあり、ではないでしょうか?

一方で、書き方はハードボイルドタッチといいましたが、「見方によってはステレオタイプとも受け取れてしま」うもので(貫井徳郎の選評)、「流行りのJ-POPを演歌歌手が歌っているような作品」という湊かなえの評言には笑ってしまいましたが、まったくその通り。
でも、新奇な題材(というほどのものではないかもしれませんが)をたくさん盛り込んでいるので、この主人公の設定だと、自然とハードボイルドタッチになるのかもしれませんが、安定感漂う書き方というしっかりした土台の上に物語が築かれるという安心感があります。「古い器に新しい食材を盛る手つきは堂に入って」いると京極夏彦がいう通りですね。

ミステリとしてのラストが定型通りといえば定型通りなのですが、ハードボイルドタッチならでは、とも思いますし、「様式美って感じで楽しかった」という新井素子の選評に1票(笑)。

手堅く纏められた佳品なのでは、と感じます。

ところで、巻末の選評で湊かなえが強く、強く推している箕輪尊文さんの「歌舞伎町 ON THE RUN」という作品ぜひ読んでみたいですね。

<蛇足>
月村了衛が選評で「言わば<暗黒面>-それとリアリティ-が決定的に足りないのは私には致命的に思えました。」と否定的な立場をとっていますが、そしてそれは正しいとも思いましたが、この人間の暗黒面の軽さが、かえって現代的な感じがするんじゃないかな、という気もしております。




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