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ポイントブランク [海外の作家 アンソニー・ホロヴィッツ]

ポイントブランク (集英社文庫)

ポイントブランク (集英社文庫)

  • 作者: アンソニー・ホロヴィッツ
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/08/21
  • メディア: 文庫

<裏表紙あらすじ>
事故死した叔父の後を強引に継がされてM16のスパイとして大活躍してしまった14歳の少年、アレックス・ライダー。スパイなんてこりごりと決めていたのに、またもや任務を押しつけられる。相次ぐ実力者たちの謎の死。その鍵を握る、雪山にたたずむ私立学校『ポイントブランク』。そこに潜入したアレックスは、世にも不思議で恐ろしい計画を目にする……。大好評のシリーズ第2弾。


2020年最初に読んだ本です。
表紙絵が、荒木飛呂彦さんというのがポイント高いこのシリーズ、「ストームブレイカー」 (集英社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続く第2作です。

アメリカ人大富豪ロスコーが暗殺されるところからスタート。
そのあと場面はかわり、主人公であるアレックスが、大立ち回りを演じるシーン。
で、そのせいで警察に目をつけられ、MI6に救われ(!)、結局スパイに世界に逆戻り......
この立ち回りをみると、嫌だとか言いながら、アレックク、スパイ的な仕事やりたいんじゃないの、と思えてきます(笑)。

今回の任務は、フランスとスイスの国境にある、POINT BLANC という名の寄宿学校。
問題児のための学校として知られ、どうやら、ロスコ―の息子も学んでおり、問題のロスコ―の死にもかかわりがあるあやしい学校らしい。

いいではないですか、こういうの。

前作「ストームブレイカー」では、潜入の前にSASの特訓を受けたわけですが、今回は息子になりすますために、大富豪であるデビッド・フレンドのお屋敷へ。
そこで、実際の娘に嫌われ、ひどい目にあいます(笑)。
このエピソード、おもしろいことはおもしろいのですが、それにとどまっていて、あとで何かの伏線として効果をあげればよかったのにな、と思いました。

潜入に当たって、今回も特殊なガジェットをMI6から与えられるのですが、今回は問題児向けということで厳しい学校であることから、かなり限られたものになっています。MI6の武器係スミザーズさんも苦労しますね。
断熱効果が高くて、防弾、ショックの吸収機能もついているスキースーツ。
赤外線の暗視機能がついているゴーグル。
電動ノコギリに早変わりするCDプレーヤー、緊急連絡用ボタンつき。
ピアス型の強力爆弾。
そして麻酔針を撃ちだす「ハリー・ポッターと秘密の部屋」
それぞれどう使うのかな、と考えながら読んで楽しかったですね。

「ストームブレイカー」の悪だくみも相当荒唐無稽感ありましたが、今回のも。空想科学的、とでも言いましょうか。
しかも、狙いどころ、ターゲットが悪いように思いました。これだと、富と権力を思いのまま、とはいかないのではなかろうかと。

<蛇足>
ネタバレなので、以下全部色を変えます。
アレックスが、クローンに対し 「きみのお父さんは、試験管だよ!」 「きみには父親も母親もいないんだ。化けものじゃないか」(283ページ) というシーンがクライマックスにあるのですが、クローンにも人格というものがあるんじゃないかな、と思えました。 悪だくみの首魁である博士のクローンだから人格も歪んでいるので、こういう非難を浴びせてもいいのでしょうか? 宮部みゆきなどの影響からか、ちょっとそんなことを考えました。


原題:Point Blanc
作者:Anthony Horowitz
刊行:2001年
訳者:竜村風也





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2019年を振り返って [折々の報告ほか]

前回の「キアズマ」 (新潮文庫)の感想までが、昨年2019年に読んだ本でした。
ブログでいうと、2019年1月5日に感想を書いた「犯罪は老人のたしなみ」 (創元推理文庫)(ブログへのリンクはこちら)からで、手元の記録だと、読んだ本は総計98作(上下巻など1作で複数冊あるので、冊数だと103冊)でした。
ずいぶん読書量が落ちていますね。歳だな......

2014年分以来のことになりますが、ベストを選んでみました。
2014年まではベスト13を選んでいたのですが、総数が減っているのでベスト10にしました。

順位というわけではなくて、読んだ順に並んでいます。
1作家1作品として、また、新訳による再読作品は、除外してあります。
新訳を外さなければ、クリスチアナ・ブランドの「ジェゼベルの死」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)がランクインしないことはあり得ないのですが。


近藤史恵 ダークルーム (角川文庫)
(ブログへのリンク)
ダークルーム (角川文庫)

ピーター・スワンソン 「そしてミランダを殺す」 (創元推理文庫)
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そしてミランダを殺す (創元推理文庫)

松井今朝子 「道絶えずば、また」 (集英社文庫)
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道絶えずば、また (集英社文庫)

米澤穂信  「儚い羊たちの祝宴」 (新潮文庫)
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儚い羊たちの祝宴 (新潮文庫)

マックス・アフォード 「闇と静謐」 (論創海外ミステリ)
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闇と静謐 (論創海外ミステリ)

市井豊 「聴き屋の芸術学部祭」 (創元推理文庫)
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聴き屋の芸術学部祭 (創元推理文庫)

J・S・フレッチャー 「ミドル・テンプルの殺人」 (論創海外ミステリ)
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ミドル・テンプルの殺人 (論創海外ミステリ)

ジャナ・デリオン 「ワニの町へ来たスパイ」 (創元推理文庫)
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ワニの町へ来たスパイ (創元推理文庫)

安生正 「ゼロの激震」 (宝島社文庫)
(ブログへのリンク)
ゼロの激震 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

石持浅海 「届け物はまだ手の中に」 (光文社文庫)
(ブログへのリンク)
届け物はまだ手の中に (光文社文庫)


なかなかバラエティに富んだ(=ふつうは、まとまりのない、と言う!)リストになっているかな、と思います。
今年もおもしろいミステリにいっぱい出会えますように...




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キアズマ [日本の作家 近藤史恵]

キアズマ (新潮文庫)

キアズマ (新潮文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/02/27
  • メディア: 文庫


<カバー裏あらすじ>
ふとしたきっかけでメンバー不足の自転車部に入部した正樹。たちまちロードレースの楽しさに目覚め、頭角を現す。しかし、チームの勝利を意識しはじめ、エース櫻井と衝突、中学時代の辛い記憶が蘇る。二度と誰かを傷つけるスポーツはしたくなかったのに――走る喜びに突き動かされ、祈りをペダルにこめる。自分のため、そして、助けられなかったアイツのために。感動の青春長編。


「サクリファイス」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「エデン」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「サヴァイヴ」 (新潮文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続いて自転車ロードレースを描いた作品です。
シリーズとして捉えてよいのかどうか、ちょっとよくわかりませんが、シリーズに出てくる人物もちょこっと顔を出したりするので、シリーズと言ってしまってよいのでしょうね。

シリーズとして初めて、素人が主人公になっています!

待ってました!
今までの3作は、いずれも自転車競技をすでにやっている、いわばプロが主人公だったんですね。
それでも十二分に伝わってきましたし、とてもおもしろく読んできたのですが、この「キアズマ」 (新潮文庫)の主人公は素人。
より読者である自分に近い視点で物語が進んでいきます。
これがおもしろくないわけがない!!
もう、すっかり自分が主人公正樹であるかのように読み進みました。
(でもね、この主人公正樹はかなりのスーパーマンなんですよ。自転車競技に才能ありあり。この点、自分とは全然違うんですが、登場人物になり切れるというのも小説の醍醐味なので、お許しを)

タイトルの「キアズマ」 ですが、扉に大辞林からの引用がなされています。
「減数分裂の前期後半から中期にかけて、相同染色体が互いに接着する際の数か所の接着点のうち、染色体の交換が起こった部位。 X 字形を示す。」
直接的に作品中でこの単語が触れられることはなかったと思いますが、接点が生まれ、交換がなされ、ということで、人と人をたとえて使われている語かと思いました。
その意味では、正樹が出会うチームの面々との出会いで、新しいものが生まれている、そして正樹も成長していく、ということを象徴しているタイトルなんだろうな、と。

シリーズ次作「スティグマータ」 (新潮文庫)もすでに文庫化されています。
とても楽しみです!


<蛇足>
これまでは位置取りで、いい位置を取ろうとすると睨み付けられた。今はすっと俺のための場所が空けられる。先輩や後輩という順位付けとは違う、強い選手への尊重がそこにある。(298ページ)
これ、本当ですか!?
やっぱり、すごいスポーツですね、自転車。





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ハイエナの微睡 刑事部特別捜査係 [日本の作家 椙本孝思]


ハイエナの微睡 刑事部特別捜査係 (角川文庫)

ハイエナの微睡 刑事部特別捜査係 (角川文庫)

  • 作者: 椙本 孝思
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/07/24
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
宗教都市・深石市で、奇妙なバラバラ死体と、冷蔵庫に圧し潰された変死体が発見された。被害者はともに警官。捜査一課の佐築勝道は、両現場で見つかった不気味な意匠の社章から、ある地元企業の関与を疑う。しかし理不尽な組織の力学と謎の圧力が捜査を阻み、無邪気な女が勝道を悩ませる――サバンナを彷徨うような果てなき猟奇殺人捜査。刑事がたどり着く驚愕の真相とは? ラスト40ページで世界が一変する衝撃の警察小説。


1月4日から休みをとってブラジル旅行に行っておりましたので、更新、間が空いてしまいました(5日7日9日分の更新は、事前に書いておいたものを自動投稿したものです...)。

「魔神館事件 夏と少女とサツリク風景」 (角川文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「天空高事件 放課後探偵とサツジン連鎖」 (角川文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「露壜村事件 生き神少女とザンサツの夜」 (角川文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「幻双城事件 仮面の王子と移動密室」 (角川文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
と読んできた椙山孝思ですが、今回の作品は趣向を変えて警察小説。
正直、警察小説というのを見て、読む気をなくしていたんですよね。巷に溢れかえっていますから。
でも、ugnolさんのHP「Grand U-gnol」で、2018年国内ミステリBEST10 第10位とされていたので、これは読まなければ、と思い手にしました。(いつもながら勝手リンクです。すみません。ついでに「ハイエナの微睡」の感想ページへのリンクはこちら

しばらく読んでみたところは、普通の警察小説だよなぁ、という感じ。
ちょっとした過去があり(ちょっとした、と言ってしまっては本人に申し訳ないですが)、組織で浮いてしまっている主人公。組織内の勢力争い。ちょっと特徴のある現場鑑識係、警察の観点からは到底お勧めできないながら親しくなっていってしまう女......
どれもこれも、どこかで見たような感じ。
事件の方も、あらすじに書いてあるように、地方都市・深石を支配している企業グループの企業が関与していることを示すような社章を中心に、こちらも既視感あり......

ところが、ところが、です。
198ページに
「積み上げてきた常識という名の塔が、音を立てて崩れてゆく。そして墜落した自分は一人、瓦礫の山に取り残されるだろう。もう取り返しようもなかった。」
と主人公佐築勝道が思うシーンがあるのですが、中身は明かされず、この段階でもまだ読者の「常識」は崩れていません。

崩されるのは、残りわずかとなった241ページです。
ここまでくるとかなりびっくりしますよ~。
34章で、“仕掛け”が説明されるのですが、いやぁ、すごいなぁ。なんてことを考えて実際に小説にするんだろう、と感嘆。
続く247ページにもサプライズが仕掛けてあるのですが、241ページのサプライズのお蔭で破壊力が少し弱められているようです。
247ページのサプライズも相当の威力をもつものなんですが、241ページのサプライズの破壊力がそれほどすごいということですね......

個人的には、この“設定”がきちんとワークするのか気になりますね。この設定で、連作をつくって、ワークすることを実証してほしい気がします。
といいながら、いくつかの軋轢はあるだろうけれど、これはこれでうまくワークするのかも、と思ったりもしています。というのも、現在の日本にはありませんが、この“設定”に類似した仕組み=複数のある種の警察機構が存在する(←ネタバレにつき伏字)は、実在するからです。
それでも現実の仕組みとの違いはあるでしょうから、連作には期待します!

なかなかの癖玉ですが、稚気が感じられていいですね。
読む気にさせてくれた、ugnolさんに感謝!です。




タグ:椙本孝思
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閉じられた棺 [海外の作家 は行]


閉じられた棺 (クリスティー文庫)

閉じられた棺 (クリスティー文庫)

  • 作者: ソフィー ハナ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 新書

<カバー裏あらすじ>
招待先のアイルランドの荘厳な子爵邸で、ポアロと盟友キャッチプール刑事は再会を果たす。その夜、ディナーの席で、招待主である著名作家が全財産を余命わずかな秘書に遺すという不可解な発表をした。動揺した人々がようやく眠りについたころ、おぞましい事件が……。〈名探偵ポアロ〉シリーズ公認続篇、第2弾!


ポアロ(個人的にはポワロと書きたい...)の公認続編シリーズ、「モノグラム殺人事件」 (クリスティー文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に続く第2弾です。

感想を結論から申し上げると、とてもおもしろく読みました!
すごく充実した本格ミステリだと思いました。
この「閉じられた棺」 (クリスティー文庫)は、紛れもなく現代本格ミステリの秀作だと思います。
問題があるとすれば、ポアロものらしくないこと、でしょうか......

お屋敷に集められた登場人物、奇妙な遺言状、そして発生する殺人事件。
うん、道具立てばっちり。
ただ、哀しいかな、クリスティの作品のようにすっきりしていないんですよ。
現代風に、いろいろな要素が絡み合って、複雑に仕上がっている。
被害者が殴られているところを見たという目撃証人がいるにもかかわらず、目撃された当人には犯行が不可能だった、という謎。これも興味深い謎ですよね。
この解決(444ページからポアロが説明します)がある意味肩透かしである点も含めて、きわめて現代本格らしい。

タイトルの「閉じられた棺」というのもそうですね。
誰が話していたのかわからない、立ち聞きされた謎めいた会話に出てくる言葉「棺は開かれているべきだ」。
「彼は死ななければならない。仕方がないのだ。」「絶対に棺は開かれているべきだ。」
おやっと思うじゃないですか。
これに対応して「閉じられた棺」となっているのですね。
でも、これ、謎解きシーンに来ると、がっかりしちゃうと思います。
非常に理に落ちる謎解きになっていまして、これまた現代っぽい。

なによりいいなと思ったのは、犯人が
「人が罰せられずに逃れられる罪は、解決できないと証明された犯罪に限られます。ですから、その罪は絶対に、そして完全に、うまく逃げられるものでなければなりません。真犯人を誰にも--負けを知らないエルキュール・ポアロにさえも--疑われない人物でなければならない。殺人者が有罪の可能性のある容疑者のリストからすぐに除外され、それ以降は疑われたり、罪を咎められたりすることはないような。」(460ページ)
と回想するのですが、その心意気やよし、というところですね。
ミステリの犯人はすべからくかくあるべし、です。
もっともポアロに見抜かれちゃっただけでなく、この犯人の計画では、ちっとも容疑者から除外されたようには思えないところはご愛嬌ですけれども。

かように、隅々までよく考えられているなぁ、と思いました。
「モノグラム殺人事件」 (クリスティー文庫)もそうだったのですが、ポアロものの続編とは考えずに読むのが吉、かと。
ソフィー・ハナの、ポアロものではない作品も翻訳してくれないかな......興味あります。


<蛇足1>
この「閉じられた棺」では120ページに出てくるのを筆頭に繰り返し取り上げられているので、蛇足として扱うと失礼にあたる気もしますが、シェイクスピアの「ジョン王」が使われています。
この作品、知りませんでした......教養のなさが露呈しました。

<蛇足2>
ハットンにとって、どの寝室をだれが使っているかということを私に告げなければならないという試練ほど、彼を苦しめるものはなかったようだった。(133ページ)
なんだかおさまりの悪い文章ですね......
日本語として、「ハットン」と「彼」が同じ人物であるからおさまりが悪いんですよね、きっと。

<蛇足3>
デブの人たちって、食べ物にがつがつするのと同じぐらいお金に対する欲が深いんです。(206ページ)
ソフィー・ハナ、デブになにか恨みでもあるんでしょうか? 笑ってしまいましたが.....


原題:Closed Casket
作者:Sophie Hannah
刊行:2016年
翻訳:山本博・遠藤靖子

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惑星カロン [日本の作家 初野晴]


惑星カロン (角川文庫)

惑星カロン (角川文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/01/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
喧噪の文化祭が終わり三年生が引退、残った一、二年生の新体制を迎えた清水南高校吹奏楽部。上級生となった元気少女の穂村チカと残念美少年の上条ハルタに、またまた新たな難題が? チカが試奏する“呪いのフルート”の正体、あやしい人物からメールで届く音楽暗号、旧校舎で起きた密室の“鍵全開事件”、そして神秘の楽曲「惑星カロン」と人間消失の謎……。笑い、せつなさ、謎もますます増量の青春ミステリ、第5弾!


「退出ゲーム」 (角川文庫) (感想のページへのリンクはこちら
「初恋ソムリエ」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「空想オルガン」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
「千年ジュリエット」 (角川文庫)(感想のページへのリンクはこちら
に続くハル・チカシリーズ第5弾。

シリーズ第5弾の本書も、チカのモノローグである「イントロダクション」で幕を開けます。
「チェリーニの祝宴」
「ヴァルプルギスの夜」
「理由(わけ)ありの旧校舎」
「惑星カロン」
の4編収録。

前作「千年ジュリエット」 (角川文庫)を読んでからずいぶん時間が空いてしまいましたが(ほぼ5年ぶりです)、そんなブランクは微塵も感じることなく、すっと世界に入り込めました。

「チェリーニの祝宴」は、チカが一目ぼれした楽器が、呪いの楽器、という流れに笑ってしまいました。
しかしなぁ、この謎解きは反則だと思います。反則、というよりはミステリの自殺行為。
確かにこの謎解きがもっとも合理的なものなのだと思いますが、ミステリの範疇でこれをやられちゃうとなぁ......

「ヴァルプルギスの夜」は、音楽、というか音を利用した暗号です。
そもそも音の数が限られるので、複雑なものは作れないようになっている、というのがミステリ向きですよね。それに加えて、ちょっとおもしろいアイデアが盛り込まれているのが楽しいです。
まさかここでモスキート音が出てくるとはねぇ。(ネタばれにつき、色を変えています) しかも、モスキート音は耳年齢が進行していると歳に関係ない、というのも驚き。
密室殺ハムスター事件(笑)と、それがつながるというのも、ミステリ的に居心地よし、ですね。

「理由(わけ)ありの旧校舎」は、シュールストレミングが中心の謎ですね。これまたネタバレなので色を変えています。
旧校舎の窓という窓がすべてめいっぱい開けられているのはなぜかという、名付けて旧校舎全開事件。
バカバカしいと言えばバカバカしいけれど、こういうのを全力で解くのが学園ミステリの醍醐味だ、なんて思ってしまいました(笑)。
謎解きも、騒動の中身自体も高校生らしくていいですよね。

「惑星カロン」のタイトルになっているカロンとは、冥王星の衛星で、二重惑星と呼ぶにふさわしい存在だったそうです(336ページ~)。
いまでは冥王星ごと惑星から除外されされているようですね。

このシリーズ、学校の枠の外、青春の枠の外で、非道な犯罪が行われていても、あるいは行われそうになっていても、きっちりと学校の枠内、青春の枠内で決着するようになっているところが素晴らしいなぁ、と思います。
現実はそんなに甘くないよ、という声もあろうかとは思いますが、だからこそ一層青春のかけがえのなさが伝わってくるのでは、とそんなことを考えました。
「千年ジュリエット」 (角川文庫)の解説で引用されている作者のインタビューで
「今までの三作とは趣向が変わっていて、高校を舞台に、どこまで外にむかって世界観を拡げられるのかを意識してみた」
と語られているその世界観が、それでも青春を裏打ちするものであることは、とても貴重なことだと思います。


<蛇足1>
(この娘、一家にひとりほしいね。家電量販店で売ってないかな)
(感動的なスペックですよ)
そんなふたりの会話が耳に入らないくらい、頬が火照るのを感じながら店長にたずねる。(45ページ)
チカについて楽器屋の主人とハルタが会話しているのを受けての文章ですが、チカの視点、わたしで描かれている文章なので、「そんなふたりの会話が耳に入らないくらい」という部分が矛盾して、とてもおもしろい効果をあげていますね。こういうの好きです。

<蛇足2>
「若いチカちゃんがうらやましいのよ……」 ー 略 ー
「……唇にも脳みそにも皴がなくて、夢って見るものじゃないよね、かなえるものだよねって、どこかのクソラッパーみたいにいえちゃうんだろ?」(79ページ)
脳みそにも皴がないって......(笑)

<蛇足3>
「二兎を追うものは一兎をも得ずっていうじゃない」
「それはウサギを追おうとするから油断するんだよ。ライオンを追うつもりで必死になればいい」(130ぺージ)
うまいこといいますね! 

<蛇足4>
「普門館常連校があり得ないよ。楽団員のときに経験したけど、職制を無視した行動って、積もれば、組織崩壊のサインだったりするわけだし」(142)ページ
ここで出てくる「職制」という概念難しいですよね。日本の経営学のテーマでもあると思いますが。
調べてもよくわかりません...... 

<蛇足5>
「今回の犯人は凄腕だぞ。『マジック・ボーイ [DVD]』という映画に出てくる天才奇術師ダニー顔負けだ」
「興味があるなら見ておいたほうがいいぞ。キャレブ・デシャネル監督だ。」(235ページ)
なんだかおもしろそうな映画が紹介されています。気になります。

<蛇足6>
床にこぼしたり上履きについた~~(268ページ)

<蛇足7>
学校周辺の森や林を歩く姿は付近の住民から物議をかもした。(278ページ)
物議をかもす、の使いかたなんですが、「から物議をかもした」なのでしょうか??

<蛇足8>
「こういうときにスマートフォンがあれば、地図やナビゲーションの機能が使えるんですが」
「すまない。僕ももっていないんだ。あると便利だよね。もしかしたらいまどき迷子になるひとは、絶滅危惧種かもしれない」(422ページ)
こういう会話が交わされていますが、方向音痴な人は、地図があろうと、ナビゲーションがあろうと、ちゃんと道に迷いますよね。

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書物法廷 [日本の作家 あ行]


書物法廷 (講談社文庫)

書物法廷 (講談社文庫)

  • 作者: 赤城 毅
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/05/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
世界の米海軍基地を標的にした同時多発テロを未然に防ぎ、冷戦時代に行方不明となった水爆のありかを示す。一冊の書物が持つ恐るべき力を知り尽くし、いかなる困難な依頼をも達成してきた書物狩人(ル・シャスール)ユーイチ・ナカライ。だが、無敵を誇るル・シャスールの前に、ついに強大な宿敵が現れる。シリーズ第3弾!


「書物狩人」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら
「書物迷宮」 (講談社文庫)(ブログへのリンクはこちら
に続くシリーズ第3弾。しかし、前作の感想を書いたのが2015年7月ですから、もうあれから4年以上たつのですね...
主人公である、書物狩人というのは、「書物狩人」 のあらすじから引用すると、
「世に出れば世界を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を、合法非合法を問わずあらゆる手段を用いて入手する『書物狩人』」
ということになります。

この第3作は、
「クイナのいない浜辺」
「銀の川(ラ・プラタ)」
「奥津城に眠れ」
「笑うチャーチル」
の4話を収録しています。

冒頭の「クイナのいない浜辺」は、ル・シャスールがあまりにも神がかった洞察力を見せます。興醒め、と思う方もいるでしょうねぇ。
タイトルにもなっているクイナのいる浜辺の幸せな光景が印象的です。

「銀の川(ラ・プラタ)」は、かなり滅茶苦茶なストーリーですね。
いかに貴重なもの(本)とはいえ、それを手に入れるためだけにアルゼンチンの刑務所に入るなどということはちょっと理解を超えていますね。
手に入れた本も、ちょっとどうかな、と思う代物でしたが、ラストで手を打ってあって、なるほどな、と感心しました。

「奥津城に眠れ」で扱われるのはポオ。
シリーズとして興味深い点は以下のセリフに凝縮されていますね。
「たしかに、書物狩人が扱うのは、歴史を書き換えたり、国家や経済を揺るがすような秘密を隠した本……。けれども、わたくし個人にかぎっていえば、美意識で動くこともあります。」(257ページ)

「笑うチャーチル」は、コヴェントリー空襲の真相を秘めたチャーチルの書き込みつきの書物を扱っています。
シリーズとして、書物偽造師であるミスター・クラウンと対決姿勢が明確になったことがポイントでしょうか。

歴史が(虚実はともかく)、書物を通して滲み出してくるこのシリーズ、楽しいです。
この「書物法廷」 のあとも
「書物幻戯」 (講談社ノベルス)
「書物輪舞」 (講談社ノベルス)
「書物審問」 (講談社ノベルス)
「書物奏鳴」 (講談社ノベルス)
「書物紗幕」 (講談社ノベルス)
と快調に巻を重ねてはいるのですが、文庫化は止まってしまっているようですね。
楽しみにしているので、文庫化を順次よろしくお願いします。


<蛇足1>
つまらないのとでも言いたげに、あたりにネズミ鳴きの合唱があがる。(10ページ)
まず、ネズミ鳴き? ねず鳴きではないのかな? と思ったのですが、ネズミ鳴きとも言うんですね。
で、これ、浜辺に集っているクイナの鳴いているところの描写なのですが、ねず鳴き(ネズミ鳴き)というのはふさわしい表現ではないような気がしました。
ねず鳴き(ネズミ鳴き)といえば枕草子ですが、ネズミの鳴きまねをすることですよね。
クイナは鳴きまねをするわけではないのに......??

<蛇足2>
「書物狩人」「書物迷宮」がどうだったか覚えていないのですが、ル・シャスールが使う二人称が「あなたさま」というのにひっかかりました。
20ページに最初に出てきてから、出てくる二人称、ことごとく「あなたさま」。
正直、気に障りました......

<蛇足3>
ポオのアナヴェル・リィを唱和するシーンが「奥津城に眠れ」185ページに出て来ます。
唱和のところでは「海のほとりの奥津城(おくつき)に」と、「おくつき」というルビが、その後の未亡人との会話では「水底を奥津城(セパルカア)に選びました」と「セパルカア」というルビが振ってあります。
使い分けの意図がわかりませんでしたが(殊に、我々は日本語で書かれた小説として読んでいますが、実際の会話は英語で行われているはずだということを考えると余計にわからない)、こういう小技は興味深いですね。

<蛇足4>
第4話「笑うチャーチル」にデイヴィッド・アーヴィングの名前が出て来ます。
この人、映画「否定と偏見」(ブログの感想ページへのリンクはこちら)で題材になっている人ですね!







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2020年になりました [折々の報告ほか]

2020年になり、例年のようにアクセス数の多いページを調べました。
1月1日の夜(ロンドン時間)でチェックした数値をもとにしています。
順位を書いてあるところのタイトルをクリックするとブログのページへ、ついている書影やそこについている書名をクリックすると amazon.co.jp の商品ページへ飛びます。

1位、2位は不動の、という感じですが、3位以下はいろいろと入れ替わりがあって興味深いですね。

1. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫


2. QJKJQ (講談社文庫)佐藤究

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ (講談社文庫)

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫


3. 魔性の馬 (小学館) ジョセフィン・テイ

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

魔性の馬 (クラシック・クライム・コレクション)

  • 作者: ジョセフィン テイ
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2003/03
  • メディア: 単行本


4. かばん屋の相続 (文春文庫) 池井戸潤

かばん屋の相続 (文春文庫)

かばん屋の相続 (文春文庫)

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 文庫


5. 体育館の殺人 (創元推理文庫) 青崎有吾

体育館の殺人 (創元推理文庫)

体育館の殺人 (創元推理文庫)

  • 作者: 青崎 有吾
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2015/03/12
  • メディア: 文庫


6. スクールボーイ閣下(ハヤカワ文庫NV)ジョン ル・カレ

スクールボーイ閣下〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)スクールボーイ閣下〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)
  • 作者: ジョン ル・カレ
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 1987/01/31
  • メディア: 文庫


7. ある少女にまつわる殺人の告白(宝島社文庫) 佐藤青南

ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 佐藤 青南
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫


8. ジグβは神ですか (講談社文庫) 森博嗣

ジグβは神ですか JIG β KNOWS HEAVEN (講談社文庫)

ジグβは神ですか JIG β KNOWS HEAVEN (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2015/10/15
  • メディア: 文庫



9. ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫) 三上延

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)

ビブリア古書堂の事件手帖4 ~栞子さんと二つの顔~ (メディアワークス文庫)

  • 作者: 三上 延
  • 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2013/02/22
  • メディア: 文庫


10. 生きてるうちに、さよならを (集英社文庫) 吉村達也

生きてるうちに、さよならを (集英社文庫)

生きてるうちに、さよならを (集英社文庫)

  • 作者: 吉村 達也
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/10
  • メディア: 文庫



1位の「生存者ゼロ」は引き続きすごいです。ほかとは圧倒的にアクセス数が違いますね。なんでだろ?


昨年1年間のアクセス数も挙げてみます。
こちらはさらに興味深いリストになりました。
新しくアップしたわけでもないのに、昔書いた記事のアクセスが上位に来る、というのはどういう背景なんだろう―なー、と。
6位、9位、10位は本当に謎ですね......
QJKJQ (講談社文庫)佐藤究ある少女にまつわる殺人の告白(宝島社文庫)佐藤青南は同数8位です。

1. 生存者ゼロ (宝島社文庫) 安生正

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

生存者ゼロ (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 安生 正
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2014/02/06
  • メディア: 文庫


2. 日本で免税の買い物

3. 海街diary 9 行ってくる(フラワーコミックス) 吉田秋生

海街diary 9 行ってくる (フラワーコミックス)

海街diary 9 行ってくる (フラワーコミックス)

  • 作者: 吉田 秋生
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/12/10
  • メディア: コミック


4. χの悲劇(講談社文庫)森博嗣

χの悲劇 The Tragedy of χ (講談社文庫)

χの悲劇 The Tragedy of χ (講談社文庫)

  • 作者: 森 博嗣
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2019/05/15
  • メディア: 文庫


5. 映画:切り裂き魔ゴーレム

6. アナモルフォシスの冥獣(コアマガジン)駕籠 真太郎

アナモルフォシスの冥獣

アナモルフォシスの冥獣

  • 作者: 駕籠 真太郎
  • 出版社/メーカー: コアマガジン
  • 発売日: 2010/11/18
  • メディア: コミック


7. 白の恐怖(光文社文庫)鮎川哲也

白の恐怖 (光文社文庫)

白の恐怖 (光文社文庫)

  • 作者: 鮎川 哲也
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2018/08/08
  • メディア: 文庫


8. QJKJQ (講談社文庫)佐藤究

QJKJQ (講談社文庫)

QJKJQ (講談社文庫)

  • 作者: 佐藤 究
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/09/14
  • メディア: 文庫


8. ある少女にまつわる殺人の告白(宝島社文庫) 佐藤青南

ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

ある少女にまつわる殺人の告白 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 佐藤 青南
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2012/05/10
  • メディア: 文庫


10. 大富豪同心 八巻卯之吉放蕩記(双葉文庫)幡大介

大富豪同心 八巻卯之吉放蕩記 (双葉文庫)

大富豪同心 八巻卯之吉放蕩記 (双葉文庫)

  • 作者: 幡大介
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2010/01/07
  • メディア: 文庫



ちなみに、いちばんたくさんnice!をいただいたのは、前回の
盲目の理髪師 (創元推理文庫) ジョン・ディクスン・カー
から
海街diary 9 行ってくる(フラワーコミックス) 吉田秋生

海街diary 9 行ってくる (フラワーコミックス)

海街diary 9 行ってくる (フラワーコミックス)

  • 作者: 吉田 秋生
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2018/12/10
  • メディア: コミック

にかわりました。


いつもありがとうございます!
これからもよたよたと続けていきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。



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節約は災いのもと [海外の作家 は行]


節約は災いのもと (創元推理文庫)

節約は災いのもと (創元推理文庫)

  • 作者: エミリー・ブライトウェル
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2016/11/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
テムズ川に浮いた射殺死体は、許欺師の疑いがあるアメリカ人のものだった。またも難事件を押しつけられたウィザースプーン警部補は、被害者の会社の大株主に捜査の的を絞る。もちろん、家政婦のジェフリーズ夫人たちも、こっそり行動を始めていた。今回の目的はふたつ。殺人事件の解決と、警部補が導入した極端な“家計費節約計画”の撤回である! 使用人探偵団シリーズ第4弾。


あけましておめでとうございます。
2020年になりましたね。
本の感想は未だ12月分をよたよたと、なんですが......

「家政婦は名探偵」 (創元推理文庫)
「消えたメイドと空家の死体」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
「幽霊はお見通し」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続くシリーズ第4弾です。

ウィザースプーン警部補のぼんくらぶり、絶好調です。
いくらなんでもここまでぼんくらだと、スコットランドヤードの刑事は到底つとまるまい、と思えるくらいに。
「考えてみれば、わたしは殺人事件の捜査にはかなりの手腕を発揮していたではないか。どうやって解決したのかが自分でもよくわからないことなど、どうでもいいのかもしれない」(125ページ)
なんて、ウィザースプーン警部補が考えるシーンがありますが、もう開き直ったというか、あくまでつける薬がないというのか......

前作「幽霊はお見通し」 では、さらに前作「消えたメイドと空家の死体」 のあと事件がなくて退屈していた探偵団の面々でしたが、今回は「幽霊はお見通し」 からほどなく、ウィザースプーン警部補に新たな事件が襲い掛かります。

ミステリ的には、投資詐欺をやっていた被害者ということで、ジェフリーズ夫人たち探偵団が捜査しにくいジャンルの事件であることがポイントでしょうか。ウィザースプーン警部補の手に余ることは当然として......
そのためか、ちょっとストーリー展開がもたついた印象があります。

一方で、探偵団の面々の過去が少しずつ明らかになってくるところが新しいポイントなのでしょう。
ウィザースプーン警部補が持ち出す倹約令で、探偵団、特に料理人であるグッジ夫人が困ってしまう、というのも物語に彩りを添えてはいますが、ちょっとやりすぎですかね。ウィザースプーン警部補に倹約令が愚にもつかないと思い知らせるために(!) わざとまずい料理を作るグッジ夫人のせいで、ウィザースプーン警部補が外でご飯を食べたがる、というのは笑えましたけどね。

前作「幽霊はお見通し」 から登場した、アメリカ人のルティに仕える執事であるハチェットもレギュラーメンバーとして定着しそうですし、シリーズの今後に期待、というところなのですが、邦訳はこのあと途絶えているようですね......


<蛇足1>
「ロッティが逃げた日は、自分が来客に対応しなきゃならないっていうんで、バンシーみたいにわめいていたよ。」(183ページ)
バンシー?
死を予見し泣く女性の姿をした妖精で、スコットランドやアイルランドの伝承に登場するらしいです。

<蛇足2>
ウィザースプーンは硬い馬巣織りの長椅子の上で体をもぞもぞと動かし(185ページ)
馬巣織り、というのがわからなかったですね。
馬巣織とはホースヘアクロス、毛芯(けじん)ともいう。経糸に綿糸、時によって梳毛糸、麻糸を使い、緯糸に馬の尻尾の毛を使った織物で、平織、綾織、朱子織のものがある。」と解説してもらっても今一つピンとこない......

原題:Mrs. Jeffries Takes Stock
作者:Emily Brightwell
刊行:1994年
訳者:田辺千幸








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