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密室蒐集家 [日本の作家 あ行]

密室蒐集家 (文春文庫)

密室蒐集家 (文春文庫)

  • 作者: 大山 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2015/11/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
鍵のかかった教室から消え失せた射殺犯、警察監視下の家で発見された男女の死体、誰もいない部屋から落下する女。名探偵・密室蒐集家の鮮やかな論理が密室の扉を開く。これぞ本格ミステリの醍醐味!物理トリック、心理トリック、二度読み必至の大技……あの手この手で読者をだます本格ミステリ大賞受賞作。


第13回(2013年度)本格ミステリ大賞受賞作。
「柳の園 一九三七年」
「少年と少女の密室 一九五三年」
「死者はなぜ落ちる 一九六五年」
「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」
「佳也子の屋根に雪ふりつむ 二〇〇一年」
の5話収録の連作短編集です。
 
密室ミステリばかりを集めた贅沢な短編集なのですが、密室蒐集家という謎の人物が出てくるところがポイントですね。
タイトルに年代が書かれていますので、最初から最後までの間に七〇年ほどの時間が経っているのにもかかわらず、同じ人物という設定です(たぶん)。
外見はちっとも歳をとらない。
「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」でも、「彼の外見はどう見ても三十歳前後だ」(212ページ)と書かれています。
この密室蒐集家という非現実的な設定をとった趣向(の意図)がよくわかりませんでした。
時代背景がバラバラだから(時代を現代にしたら成立しない作品がありますので)、一人の名探偵ではこの作品の探偵役はつとまらないことは理解できますが......別の探偵を立てればよかったんじゃないかな? なんて思ってしまいました。
まさか、「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」で披露される密室講義=犯人が意図的に密室を作る理由に貢献するためじゃないでしょうね......いやいや、ありえますね(笑)。

冒頭の「柳の園 一九三七年」はオーソドックスな感じですね。
オーソドックスすぎて「柳の園 一九三七年」を読んだ段階でこの短編集どうかなぁ、と思った人がいらっしゃったとしても、ぜひ続けて読んでください。、
いろいろな密室のバリエーションが描かれています。

いちばん感心したのは、2作目の「少年と少女の密室 一九五三年」。
もう、作者・大山誠一郎の苦労が偲ばれて、不自然だ、とか、無理やりだ、とか責める気には全くなりませんでした。
こういう無茶な綱渡り、結構好きです。

無茶といえば、「理由(わけ)ありの密室 一九八五年」もかなりの無茶で、楽しめます。
上で密室蒐集家の外見の描写を引用した際にも触れたように、密室を作る理由に焦点をあてた作品で、その謎解きそのものはとても楽しく読んだのですが、最後に明かされるダイイングメッセージ(ネタバレにつき色を変えています)は、いくらなんでも無理すぎでしょう。
これまた、こういうの好きですけれども。

その2編にはさまれた「死者はなぜ落ちる 一九六五年」もかなりのものですね。
この犯人、頭よすぎです。いろんな意味で。

最後の「佳也子の屋根に雪ふりつむ 二〇〇一年」は、これらに比べるとおとなしい。
密室のトリックは前例あってもまあまあだと思うのですが、個人的には動機がちょっと......

密室ミステリばかりを集めた短編集なんて贅沢だし、密室もそれぞれバラエティに富んでいるし、本格ミステリ大賞受賞も納得という感じでした!



<蛇足>
「少年と少女の密室 一九五三年」に、新宿署が出て来ます。
舞台設定は一九五三年。
でも、新宿署ができたのは一九六九年で、それ以前は淀橋署と呼ばれていたようです(このあたりはWikipediaで確認しました)。
昔、佐野洋の「推理日記」で新宿署というのはなかった、というのを読んだ記憶があったので調べてみました。
物語の本筋とはまったく関係ありませんが、時代考証ミスですね......



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映画:スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け [映画]

スターウォーズ・スカイウォーカーの夜明け.jpg

ずいぶん久しぶりに映画を観ました。
昨年のお正月に日本に帰って観た「ボヘミアン・ラプソディ」(感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。

飛行機の中で何作か映画は観ているのですが、映画館は敷居が高いですね。
映画は言葉の壁が大きいです......字幕ほしい......

観たのは、言葉の壁が低そうな、「スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け」です。
それでもずいぶんわからないところだらけだったのですが......

映画のHPから引用します。
「我々は全てを伝えた。はるかな歴史が君の中に…」

1977年に『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』が全米公開してから42年、すべての記録を塗り替え、映画史すらも変え続けている「スター・ウォーズ」。ハリウッドの偉大なる巨星ジョージ・ルーカスの手によって生み出されたこの壮大なサーガは、その映画史のみならずエンターテイメント史においても”伝説”という言葉がふさわしい唯一の存在となった。そして今、その伝説がついに一つのフィナーレを迎えようとしている。

監督を務めたのは、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』で見事にサーガを始動させ、新たなる伝説の担い手として時代の寵児となったハリウッド屈指のヒットメーカー、J.J.エイブラムス。彼の確かな手腕に加え、あふれんばかりの「スター・ウォーズ」愛にも大きな注目が集まった。 脚本は、『スター・ウォーズ エピソード5/帝国の逆襲』(80)、『スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還』(83)を手がけたローレンス・カスダン。音楽は、スカイウォーカー家のサーガ全編を担ってきたジョン・ウィリアムズ。

「我々は常に君と共に。誰ひとり消え去っていない…」

 今回、J.J.エイブラムス監督に託された使命は、スカイウォーカー家のサーガに幕を下ろすこと。ルーク、レイア、ダース・ベイダーことアナキン、そしてレイアとハン・ソロの息子カイロ・レン。善と悪が入り混じり、喜びと哀しみに彩られ、平和と戦争が織り成す怒涛の銀河宇宙の歴史に名を刻んだこの一族の物語に、ついにここでピリオドが打たれる。42年もの長い歳月をかけて語られてきたスカイウォーカー家の“家族の愛と喪失”の物語は、2019年12月20日、ついに幕を下ろす。

そのドラマの大きなカギとなるのは、かつて銀河に君臨していた祖父ダース・ベイダーに傾倒し、その遺志を受け継ぐべく、銀河の圧倒的支配者へと上り詰めた、スカイウォーカー家の一人でもあるカイロ・レン。そして、伝説のジェダイ、ルーク・スカイウォーカーの強い意志を引き継ぎ、類まれなフォースを覚醒させたレイ。
新たなるサーガを担う若者二人の運命が、この物語の行く末を担っている。二人の運命を左右し、このクライマックスの行く末を共に迎えるのは、R2-D2、C-3PO、BB-8ら忠実なドロイドと共に銀河の自由を求めて戦い続けるルークの双子の妹レイア将軍、天才パイロットのポー、元ストームトルーパーのフィンらレジスタンスの同志たちと、今回初めて登場するBB-8のキュートな相棒“D-O(ディー・オー)”。はるか彼方の銀河系で繰り広げられるスカイウォーカー家を中心とした壮大な<サーガ>の結末は、“光と闇”のフォースをめぐる最終決戦に託された――。


スターウォーズなんだから、あらすじもなにも必要なく、さっと観ればいいんですけどね。

いやあ、完結してよかったですね。
原点復帰というか、回顧というのか、非常にオーソドックスに、エピソード4~6(シリーズ第1作~第3作と言ったほうがわかりやすいでしょうか)に立ち返った映画、という感じがしました。
ハリソン・フォードもキャリー・フィッシャーも出て来ますしね。

ということで、めでたしめでたし、と終わればよいのですが、あえて気になったことを書いておくと、やはりラスボスですね。
これでよかったんでしょうか?

カイロ・レンとレイの対決も、なんだか予想通りでしたし。

また、フォースがあまりにも強い、万能感があるので、ちょっとおやおやと思ってしまいました。
この観点で、ライトセーバーの使い方とかに工夫はみられたとは思うんですが、それでもやはりねぇ。

とケチをつけるようなことを言ったものの、映画自体はとてもおもしろい!
セリフがあんまりわからなくても大丈夫! (たぶん)
スターウォーズのテーマ曲と、キラキラする映像で、世界に浸りきることができますし、戦闘シーンも迫力満点。
ハイテクとローテクの按分もいい。
ケチをつけたラスボスとの対決も、見ごたえあり。
これ以上言うのは贅沢というものかもしれません。

観終わって、このページを書くためにのぞいたシネマ・トゥデイによると、新作映画が始動したらしいですね。
完結したと思ったのに~。
でも、三部作という構成、形式には縛られないらしく、「スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け」でスカイウォーカー・サーガの幕が閉じたのを受けて、新しく、異なるものに移行していくと。でも「直近の3部作で生み出したキャラクターは捨てない。」 ???
どうなるかわかりませんが、観ちゃうんだろうなあ~。




原題:STAR WARS: THE RISE OF SKYWALKER
製作年:2019年
製作国:アメリカ



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玩具店の英雄 座間味くんの推理 [日本の作家 石持浅海]


玩具店の英雄~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

玩具店の英雄~座間味くんの推理~ (光文社文庫)

  • 作者: 石持 浅海
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2015/03/27
  • メディア: Kindle版

<カバー裏あらすじ>
津久井操は科学警察研究所の職員。実際に起きた事例をもとに、「警察は事件の発生を未然に防ぐことができるか」を研究している。難題を前に行き詰まった彼女に、大先輩の大迫警視正が紹介したのは、あの『月の扉』事件を解決した座間味くんだった。二人の警察官と酒と肴を前にして、座間味くんの超絶推理が繰り広げられ、事件の様相はまったく違うものになっていく!


「月の扉」 (光文社文庫)
「心臓と左手―座間味くんの推理」 (光文社文庫)
に続く、座間味くんシリーズ第3弾で、第2弾に続いて短編集です。シリーズはこのあと
「パレードの明暗: 座間味くんの推理」 (光文社文庫)
が出ていますね。

このシリーズ、楽しく読んできたと思うのですが、例によって詳細は覚えていなくて......新鮮に読めました!
たぶん新キャラクターだと思うのですが、津久井操という科学警察研究所の職員が登場、彼女をめぐる物語的側面も少しだけあります。

趣向としては、座間味くんと大迫警視と操がごはんとお酒を楽しみながら、操が調べた事件の話で座間味くんが意外な指摘をする、という流れで、安楽椅子探偵(アームチェアディテクティブ)の趣向です。
7話収録ですが、それぞれの料理は
「傘の花」ー普通の居酒屋
「最強の盾」-おでん
「襲撃の準備」-餃子
「玩具店の英雄」-イタリアン
「住宅街の迷惑」-牡蠣の土手鍋
「警察官の選択」-アメリカ料理、地ビール
「警察の幸運」-火鍋
となっています。

冒頭の「傘の花」、ちょっと意外な着眼点からするすると真相にたどり着く座間味くんの推理の飛躍ぶりが楽しいですね。
「最強の盾」は、設定に無理がありましたが、それでもおもしろい目の付け処。ミステリファンだったらすぐにピンと来てしまうかもしれませんが。
「襲撃の準備」は、石持浅海ならではの歪んだ動機、犯罪(計画)が描かれます。
「玩具店の英雄」は石持浅海にしては常識的なアイデアですが、その分大人し目の作品に感じられました。
「住宅街の迷惑」は新興宗教団体を扱っているので、少々安直な仕上がりになっているように思いました。
「警察官の選択」は、これまた石持浅海ならでは、といいたくなる発想ですが、ちょっと不思議に思っていることがあります。ネタバレになりますので、色を変えておきますが、この事件の場合、交通事故死になって保険金が下りるのでしょうか? ずいぶん通常の交通事故とは様相の違う事件なんですが
「警察の幸運」の回りくどさは、石持浅海ならでは、なのですが、好もしく思えました。たぶん題材がそういう回りくどさに似合っているからですね。

いずれも一癖ある推理を座間味くんが名探偵として披露するわけですが、解説で円堂都司昭が指摘しているように、「読者からすると彼は正義感だけではない怪しさを持った人物に映る」のです。
推理を披露した後、締めくくりのように座間味くんが放つコメントがいいようなく黒いのに、ぞっとしたりします。
ひょっとしたらこのシリーズの完結編は、座間味くんの意外な正体が明かされて終わるのかな? なんてことまで考えました。


<蛇足1>
「セクハラですか。いや、パワハラかな?」
悪意のかけらもない口調だ。大迫さんもにやりと笑う。「わかるかね」
二人で笑った。どうやら男性は大迫さんと相当親しいようだ。ということは、彼は警察官ではないのだろう。たとえ冗談でも、警察官は上位者--それも警視正--に向かって、こんな科白を吐かない。(16ページ)
本当ですか? 警察官は確かにお堅い職業だとは思いますし、ヒエラルキーの厳しい職場とは聞いていますが、この程度の軽口もアウトなんでしょうか?

<蛇足2>
おでんの種でいちばんおいしいのは、やはり味の染みた大根だろう。橋で割って口に入れる。ほくほくの大根は、想像以上に美味だった。(64ページ)
内容には共感するのですが、うーん、大根の形容に「ほくほく」ですか......
少々違和感あり。辞書的には「あたたかくておいしいもの」に使うとなっているみたいですが、イメージ大根よりもっと水分の少ないもの、芋などに使う形容詞のような感じがします。
でも、ネットでチェックしてみると、「ほくほく」を大根に使っている例がそこそこありますね。







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いい加減な遺骸 [海外の作家 か行]


いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ)

いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
米国の鬼才C・デイリー・キングが奏でる死の狂想曲 ABC三部作 第一弾 遂に始動!
孤島の音楽会で次々と謎の中毒死を遂げる招待客
マイケル・ロード警部が事件に挑む


論創海外ミステリ141。単行本です。
C・デイリー・キングといえばオベリスト三部作。
「海のオベリスト」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
「鉄路のオベリスト 鮎川哲也翻訳セレクション」 (論創海外ミステリ)
「空のオベリスト 世界探偵小説全集(21)」(国書刊行会)
全て読んでいるのですが、実は覚えていません......
「鉄路のオベリスト」 は、鮎川哲也訳ということで、カッパ・ノベルス版が出た際(amazon によると1983年らしい......)慌てて買った記憶があり、そんなにも飛びついたのにもかかわらず、覚えていない......
ちなみに、S・フチガミさんの(渕上痩平という表記はとられていません)HPによると(例によって勝手リンクを貼っています)、オベリストとは、「海のオベリスト」の英ヘリテイジ社版では「ほとんど全く価値のない人(a person who has little or no value)」、米クノップ社版では「疑いを抱く者(one who harbours suspicions)」となっているそうです。おもしろいですね。

この「いい加減な遺骸」は、このあと「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)「間に合わせの埋葬」 (論創海外ミステリ207)と続くABC三部作の第1作です。

探偵役はロード警部。オベリスト三部作に続いての登場で警視に出世しています。
「ポンズに言わせれば、ロードは船上では健闘したし、列車では大活躍をした。しかし、飛行機のときはそうはいいきれない。結果と事件の解決には何も問題はないように思えるが、どこか疑問がつきまとう。」(11ページ)
と微妙な(?) 紹介がされていますが......

読み終わってどうだったかというと、個人的にはとてもおもしろく読みましたし、ABC三部作残りの二作品を読みたいな、と思えました。さらに覚えていないオベリスト三部作も読み返していいかも、とも思いました。
けれど、この作品をほかの人にお勧めするか、というと残念ながらNoですね。

解説で森英俊が書いている表現を借りると「無害なはずのコーヒーを飲んだ者たちが次々と命を失っていく」というのが事件で、すごく魅力的なんですね。
でも、作中でさんざんどうやって殺したかわからない、と繰り返しておきながら、この毒をめぐる種明かしは、正直いんちきとしか言いようのないもので、実効性もない。
326ページや347ページの謎解きシーンでは、きっと唖然としますよ。
なので、お勧めは到底できない。
作者の苦し紛れの言い訳(としか思えないコメント)が巻末にくっついていますが、これまた笑うしかない程度のもので......ぜひご笑覧ください、って感じです。

でも、だからダメミス、くそミスか、となると、たしかにダメミスなんでしょうけれど、なんだか弁護したくなっちゃうんですよね。
というのも、演奏会などの退屈な部分もあるものの(失礼)、孤立した状況とか、法廷シーンとか、楽しませようという意欲がありますし、またロード警視にそれなりに肩入れしたから、というのもありますが、そのダメなトリックを前提にすると、しっかり犯人を論理的に指摘できるようになっているんですね。
遅すぎるといえば遅すぎるのですが、そのトリックを明かしたあとの326ページ以降で、たとえば読者への挑戦を挿入していたとしたら、作品の印象はずいぶん違ったと思うのです。
現実にはこれで人が死ぬことはないけれども、この作品世界ではこの前提で考えて推理してくださいね、という感じですね。

というわけで、かなりの曲者でしたが、個人的にはOK。
ABC三部作、読み進めていくつもりです!

最後に、この本日本語がとてもぎこちなくて、読みにくかったことを指摘しておきます。
屋敷の音響を説明するシーン(107ページ~)が象徴的で、技術的なことを言葉で説明するのはもともと大変なことだとは思っていますが、それにしてもひどい。
それ以外にも不思議な日本語があちこちに。
「わたしの部屋には暖炉があって、杉の薪が使われているだけでなく、燃えるととてもよい香りがするのだよ。」(113ページ)
「だけでなく」の使いかたがしっくりきませんでした。
薪として杉が使われていることで何か明らかな価値があるのでしょうか?
「これまでにわかったことを教えてもらいたいのだ。単なる好奇心ではない、個人的な興味がある。」(116ページ)
という文章も謎です。原語を確認したいですね。個人的な興味って、好奇心と言われちゃいますよね......
「むろん、ブラーの直前に来た者が置いていったのだ。彼が入る前に、ほかの誰も船室にはいらなかったということだ。」(121ページ)
誰も入らなかったのに、直前に来た者が置いていった、というのはちんぷんかんぷんですね......
「地球を半周すれば、この国の最後の議会選挙を見ることができます。あなたがたの恥知らずな公共事業の賄賂とともにね。」(126ページ)
意味がわかりません。話の筋に影響はないですが。
「たとえばパンテロスのような人間は、この状況をどう考えているのだろうか? 今はマリオンと楽し気におしゃべりしている。にもかかわらず、パンテロスはマリオンが犯人かもしれないことを知っている。もちろん、彼が犯人を知っていれば話が別だが、その場合は彼が犯人ということになる。」(244ページ)
というところもひどいですね。どうやったらこういう訳になるのか教えてほしいくらいです。
訳者の白須清美さんはこれまでにも訳書を読んだことがありますが、こんなにわかりにくい日本語を使う方でしたっけ? と不思議な感じがしました。


<蛇足1>
現場に残っていた魔法瓶の中のコーヒーを、警察官が飲んでいたというエピソードがあるのですが(58ページ)、いくらなんでもねぇ......しかも7杯分もあったのを全部飲んでいるんですよ!

<蛇足2>
ゆうべボートを調べたとき、船室の床に割れたカップが落ちていました。誰も片づけようとしなかったようです。むろん、中身はなく、分析はできません。(59ページ)
割れたカップといえども、ある程度は中身残ってそうですけどね......

<蛇足3>
「彼らは弁護側の証言を聞くことができず、彼らの前で証言する者は、自分が証言するどのような事柄についても自動的に刑事免責を受けることになる。」(337ページ)
ここでいう彼らというのは、大陪審の陪審員のことなのですが、大陪審での証言者は、刑事免責を受けられたというのは衝撃でした。
そのあとでも
「殺人に関する証言を行うことで、犯人は刑事免責を得るでしょう。」(360ページ)
という発言がロード警視から出ます。
こんなへんな制度だったのでしょうか?



原題:Careless Corpse
作者:C Daly King
刊行:1937年
訳者:白須清美





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名もなき星の哀歌 [日本の作家 や行]

名もなき星の哀歌

名もなき星の哀歌

  • 作者: 結城 真一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


<カバー裏側帯あらすじ>
裏稼業として人の記憶を取引する「店」で働く銀行員の良平と漫画家志望の健太。神出鬼没のシンガーソングライター・星名の素性を追うことになった悪友二人組は、彼女の過去を暴く過程で医者一家焼死事件との関わりと、星名のために命を絶ったある男の存在を知る。調査を進めるごとに浮かび上がる幾多の謎。代表曲「スターダスト・ナイト」の歌詞に秘められた願い、「店」で記憶移植が禁じられた理由、そして脅迫者の影--。謎が謎を呼び、それぞれの想いと記憶が交錯し絡み合うなか辿り着いた、美しくも残酷な真実とは?
大胆な発想と圧倒的な完成度が選考会で話題を呼んだ、
二度読み必至のノンストップ・エンターテインメント!


奥付が2019年1月の単行本です。
第5回新潮ミステリー大賞受賞作。
前回第4回は受賞作なしでしたので、第3回「夏をなくした少年たち」 (新潮文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。

新潮ミステリー大賞って、正直ぱっとしない作品ばかりが受賞しているなぁ、という印象だったのですが、この作品はおもしろかったですね。
ただ、突っ込みどころは満載なので、お勧めしにくいですが。

人の記憶を取引する「店」というのがポイントですよね。
特定の記憶を取り去ることができる、また特定の記憶を植え付けることもできる。
まず、このあまりに都合の良い設定を受け入れられるかどうかが評価の分かれ目でしょうか。

現実には到底あり得ない設定で、SFとしても無理が多い設定なので、(受け入れるのは)無理、という方も多いと思います。この設定のおかげで、現実的な物語ではなくファンシーな物語だとわかるので、細かいことを気にして突っ込むのもなぁ、と思えます。とはいえ、前述のとおり、突っ込みどころは満載で、もう、どこから突っ込めばいいのやら、という感じです。
記憶が簡単に出し入れできるので(それなりの手順は踏みますが、この程度で記憶が綺麗に出し入れできるなら簡単と言わざるを得ません)、正直、なんでもあり、の世界です。
なんでもあり、なので、そのなかでどのくらいおもしろい物語を展開してみせるか、が作者の腕の見せどころになると思いますが、かなり練られたプロットを楽しむことができました。
(記憶を出し入れできる、というのが設定ですので、偽りの記憶といえども、誰かが実際に経験した記憶に限られているわけですね。まったくゼロから新しい記憶を作り上げているわけではない。この違いに注目して物語を構築することもできるのかもしれませんね......)

個人的にはなによりボーイ・ミーツ・ガールの物語として楽しめたのがいちばんよかったですね。
良平と健太、そしてシンガーソングライターの星名に加えて、ツヨシの4名がいいですね。
どうして漫画家になりたいのか、という問いへの健太の答えが
「俺だけが知る物語の続きを世界が待ちわびている。もし、俺が死んだら永遠に物語の続きは闇の中なんだぜ。考えただけでもワクワクしてくるだろ?」(23ページ)
こういうキラキラした箇所があちこちにあります。
引き込まれました。
こういう話、好きです。
さらに個人的には、記憶が出し入れできるということで、ひょっとしてこういうお話なのかな、とうっすら想像していた方向に話が進んだので、自己満足できたことも好印象です......読者にこういう自己満足、あるいは、変な優越感を抱かせるのも作者の腕ですよねぇ・
強引で、力技ですが、物語もちゃんとたたまれています。



最後にこの作品に対する最大の不満を挙げておきますと、キーとなる歌、「スターダスト・ナイト」のイメージが伝わってこないこと、でしょうか。
『気付くと良平の頬を涙が伝っていた。何故だかまったくわからなかった。それでも、メロディが、歌詞が、声が、何もかもが愛おしかった。「ほしな」の歌に、ただひたすら心を奪われる自分がいた。』(33ページ)
この書き方は反則ですよね。
音を、音楽を文字で伝えるというのは至難の業であることは重々承知していますが、この物語は「スターダスト・ナイト」の良さ・魅力が読者に伝わってこないとかなり減点! とせざるを得ないと思います。

ということでいびつな物語だと思いますが、結構気に入りました。


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鼠、恋路の闇を照らす [日本の作家 赤川次郎]


鼠、恋路の闇を照らす

鼠、恋路の闇を照らす

  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2018/11/30
  • メディア: 単行本


<裏表紙あらすじ>
弱きを助け強きから「盗む」
その者、大泥棒、鼠小僧次郎吉。
壱、山登り中の〈鼠〉御一行。そこには三千両を抱え江戸から逃げる盗賊たちがいた。「鼠、ご来光を拝む」
弐、差出人を偽った恋文が江戸を騒がせる。評判の色男の不審な動きとの関係は!?「鼠、恋文を代筆する」
参、小さな兄妹を残し逢引する母親。彼女は浪人風の男から命を狙われていて。「鼠、隣の家の子守唄」
肆、放火犯による火事現場にて、屋根にいた〈鼠〉は火消しを手伝うことに。「鼠、空っ風に吹かれる」
伍、大店の娘を助けた徳山は御礼に歓待を受ける。彼の妻子には魔の手が忍び寄り。「鼠、恋路の闇を照らす」
陸、突然広之進を斬り付けた女。心中相手に裏切られた姉の仇討ちと言うのだが。「鼠、心中双子山の噂話」

シリーズ第11弾で、単行本です。
第10巻「鼠、嘘つきは役人の始まり」 (角川文庫)は読んでいますが感想を書けずじまいですので、第9巻「鼠、地獄を巡る」 (角川文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来です。

盗賊ではあるものの〈鼠〉がいい人なのはいつも通り、と言いたいところですが、どんどんいい人度がアップしてきていまして、なんだかいつ稼いでいるのだろう? と思えるくらい。
帯に「懸命に生きる町人の幸せを守るため」と書いているのですが、あくまで泥棒が本業であって、人助けはおまけ、もちろん見て見ぬふりはできないにせよ、主客が転倒しないようにしておかないと困るんじゃないかなぁと心配になるくらい。

ミステリとしては(今どき、赤川次郎にミステリを期待している人は絶滅危惧種でしょうが)、もうちょっと盗みに比重を置いてもらいたいところですが、江戸の町人の世界というのは、赤川次郎にとって居心地のよい舞台のようなので、この調子でどんどん新作が書かれていくのでしょう。
それが証拠に(?) 赤川次郎の数あるシリーズの中でも破格の速さで巻数が積み上がっていますから。

<蛇足>
今回の6つの話、タイトルが徐々に長くなっていっています。偶然だとは思いますが。
どんどんこの傾向が続いて、行きつく先はラノベみたいにとても長ーいタイトルになったら、おもしろいのに......

<2020.2.18追記>
古い記述が残っていました。削除しました。
失礼しました。

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インソムニア [日本の作家 た行]

インソムニア

インソムニア

  • 作者: 寛之, 辻
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2020/02/03
  • メディア: 単行本

<裏表紙側帯あらすじ>
PKO部隊の陸上自衛官七名。一人は現地で死亡、一人は帰国後自殺。現地で起きたことについて、残された五名の証言はすべて食い違っていた―。


単行本です。
第22回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。

日本ミステリー文学大賞新人賞は、第21回の「沸点桜(ボイルドフラワー)」(光文社)を未読のまま日本に置いてきてしまったので、第20回の「木足の猿」 (光文社文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来となります。

PKOに派遣された自衛隊が舞台で、日本に帰ってきてから、自殺者が出て、現地で何が起こったかを探る......

PKO、自衛隊がらみというと、実際の国会で日誌がどうだ、大臣の答弁がどうだ、と騒がれていた(結果、防衛大臣が辞任したんでしたか?)ことを思い出しますが、この小説はPKOの実態を扱っています。制服組と背広組の対立や政治家との関係性なども描かれています。
そして、帯には選考委員のコメントが載っていて、いずれもいわゆる絶賛コメントになっています。

面白く読み終わりましたし、一気に読んだんですが、考えてみると、気になるところがいっぱいある、そんな作品でした。

まずPKOの実態。
なんだかこれまですでに報道などで既知の情報の組み合わせみたいです。
戦闘シーン(日本の法では戦闘と呼んではいけないそうですが)。
これまでの映画で見たものをなぞったみたいです。
自衛隊員の暮らしぶり(?)。
ここは良かったですね。
現地での生活も、日本での生活もすごく自衛隊の方々を身近に感じることができました。
日本の自衛隊をめぐる諸問題。
小説の中ではありますが、実例をもって問題点が示されるので、わかりやすかったですね。
自衛隊の置かれている難しい状況が、自衛隊の側から描かれていて、あらためて自衛隊の方々に敬意を感じました。

そして真相。
これ、何段重ねにもなっていて感心しました。
感心したんですが、それぞれの真相が(ミステリ的には)ありきたりに思えました。
女性自衛隊員が戦闘に加わっていて、敵兵に囲まれる、となって、大方の読者が想定する事態になっています。
また周囲から隔絶された山間部の村にたどり着いて、そこで村のしきたりに従った行動をして、となっていて、これまた大方の読者が想定する事態が起こっています。
軍隊が(自衛隊ですが、ここでは軍隊と呼んでおきます)母国に帰ってきて、後遺症に苛まされる、自殺者が出る、人に言えない......この前提で、現地で何があったのか、何が起こったのか、読者は(殊にミステリ読者は)ある種の予想を立てて読むと思うのですが、その範囲内です。
これは大きな欠点ではないかな、と。
また、タイトルにもなっているインソムニアのきっかけが何だったのか、科学的な説明がないのも気になります。仮説が示されるのですが作中で否定されていますし、結局うやむやになっていたような......そしてラストで超科学的な匂わせがある。これでいいんしょうか?
そしてこの種のミステリの場合、設定からして致し方ないのですが、証拠らしい証拠はなく、各人の証言のみが拠り処になってしまいます。つまり、恣意的にくるくると証言を変えることが可能で、物語の複雑さ、重層構造には貢献しても、作者に都合よく進めてるなぁ、という感想を読者に抱かせがちです。なにか小さい物でもよいので物的証拠があって、一旦なされた証言がその証拠を根拠に覆される、という風に流れていけばもっとよかったと思いました。

帯に「社会派と本格ミステリーを見事に融合した傑作!」という煽り文句が書かれているのですが、これ、本格ミステリーではないですね。
また、現実の問題を抉る狙いがある場合、超科学的な要素を導入してしまうと、ちぐはぐな印象を与えてしまいますね。
その点でも、せっかくの複層的な物語の構造がマイナスに作用しているのでは、と余計な心配をしてしまいます。

と、こう考えて気づきました。
日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作だからミステリーと思うのは仕方ないのですが、この作品の場合、ミステリーと思わずに読んだほうがよいのでは? と。
上にあげた気になる点は、すべてミステリーとして見るから気になる点、なんですよね。

面白かったですし、力のある作者ではないかと思いましたので、これからお読みになる方は、ミステリと思わずに読まれることをお勧めします! そうそうたるメンバー(綾辻行人、篠田節子、朱川湊人、若竹七海)が選考委員をされているミステリーの賞の受賞作なので、こういってしまうのは畏れ多いですが。





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黒いアリバイ [海外の作家 あ行]


黒いアリバイ (創元推理文庫)

黒いアリバイ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2020/02/02
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
女優の旅興行の宣伝のため連れてこられた黒豹が、衆人環視のなか逃げ出して姿をくらました。やがて、ずたずたに引き裂かれた娘の死骸がひとつ、またひとつ--。美しい犠牲者を求めて彷徨する黒い獣を追って警察は奔走するが、その行方は杳として知れない。だが本件の示すあまりに残虐な獣性に、ある疑惑が浮かび……。サスペンスの巨匠による《ブラック》ものを代表する傑作!


創元推理文庫の2018年の復刊フェアのうちの1冊です。
これ、かなり風変わりな作品でしたね。
発表当時はかなりセンセーショナルだったのではないでしょうか?
なにしろ黒豹に襲われて殺される、というのですから。

あらすじにも書かれていますが、興行の宣伝のために黒豹を街中に連れていく、などというのは正気の沙汰ではありませんが、舞台となっている南米の架空の都市シューダ・レアルの猥雑さには合っている、ということでしょうか?
思いついた女優のマネージャーであるマニングのバカッ、という感じが強いですね。
第一章で黒豹が逃げ、第二章から第五章まで順に被害者の視点で描かれます。
これが、非常にサスペンスフルですね。
ああ、この娘(女性)も無残に殺されてしまうんだなぁ、と思っても、読み進んでしまう。ヒリヒリします。

そして最終章では、反撃。
マニングは最初から女性惨殺が豹の仕業という見方に疑義を唱えている、という設定になっています。
「ぼくの意見はまったく正反対だ。人間でなくて、どんな動物が、こんなにとことんまでやりぬけるもんか。こんなむごいことができるのは、人間だけさ。どんなに悪虐非道の猛獣だって、ここまではやらない」(142ページ)
最後に殺された女性の友人が囮となって、マニングとともに追い詰めようとします。
ここもまたとてもサスペンスフルです。

出来がいい作品ですか? と問われると、No と答えないといけないのかな、と思える作品なのですが、それでも一気読みしました。

ところで、タイトルの「黒いアリバイ」のアリバイ、どういう意味なのか読み終わってもピンときません。
ミステリでよくいう現場不在証明という意味ではなさそうです。
言い訳、という意味もありますが、そちらでもしっくりきません。
第一章の章題が「アリバイ」、そして最終章の章題が「黒いアリバイ」。
意味がわかりません。




<蛇足>
「だけどサリイ、あなたっていつもあんなふうなのね。誰かにこれこれするなっていわれると、かえってしたくなるのね。」
「スチーム・ローラーのサリイってところかしら」(218ページ)
この部分意味がわかりませんでした。
スチーム・ローラー!?



原題:The Black Alibi
作者:William Irish
刊行:1942年
訳者:稲葉明雄




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ドラマ:4階の部屋 [ドラマ 名探偵ポワロ]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

  • 出版社/メーカー: ITV Studios
  • 発売日: 2013/11/18
  • メディア: DVD



前回の名探偵ポワロ「消えた廃坑」(原題:The Lost Mine)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)から少し時間があきましたが、「4階の部屋」を観ました。

原作が収録されているのは、こちら↓。
愛の探偵たち (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

愛の探偵たち (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/02/03
  • メディア: 文庫

「四階のフラット」というタイトルのようです。

今回の事件は、ポワロが住んでいるホワイトヘイブン・マンションで起こります。
ポワロが住んでいるのが6階(5th Floor)、その下の5階(4th Floor)に住んでいる女性の友人が死体発見者。
劇場から帰ってきたら鍵が見つからず、地下へ行って荷物用の小型エレベーター用の縦穴から部屋にはいろうとしたら間違えて4階(3rd Floor)の部屋に入ってしまい、そこで死体を発見する。

荷物用のエレベーター用の縦穴から簡単に住居に侵入できてしまう、という造りはどうなのか、とも思いましたが、当時はそうだったのでしょうか?
劇場からの帰りということで、かなり着飾った印象があるのに、縦穴を登らされたとはかわいそうです。しかも、地下から4階までということは、5階分も登ったわけですよね。
女友達にいいところを見せようとしたのかもしれませんが、ご苦労なことです。しかも死体まで発見して。

一夜の出来事、といった感じでストーリーが進んでいきまして、朝にはポアロが解決してしまうというスピーディーさ。
するすると解ける面白さはありましたが、その手順とか手がかりなどはちょっと乱暴な感じがしました。

劇場にはポアロもヘイスティングスと行っていて、上演されていたのはミステリー劇。
途中で自信満々で犯人を書き記していたのに、解決編ではまったく違う真相で、ポアロが、ちゃんとデータが与えられていないと怒り狂うのがおかしかったですね。

ちなみに、いつもこのドラマシリーズに出てくるポアロのフラット、ホワイトヘイブン・マンションですが、実在の建物Florin Court(フローリン・コート)を使っているらしいです。
バービカンのあたりにあるということだったので、観に行ってきました。
Chaterhouse Square(チャーターハウス・スクエア)という広場に面しています。
DSC_0079.JPG

ドラマにも出てくる角度ですが、フローリン・コートから見た風景です ↓ 。
DSC_0083.JPG

チャーターハウスというのは、いまは無料で入れる博物館+チャペルになっていますが、14世紀にさかのぼる由緒ある建物で、エリザベス女王(1世の方です)のゆかりでもあるようです。


いつも通りこのシリーズに関するとても素晴らしいサイトにリンクをはっておきます。
「名探偵ポワロ」データベース
本作品のページへのリンクはこちら





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幽霊解放区 [日本の作家 赤川次郎]


幽霊解放区

幽霊解放区

  • 作者: 次郎, 赤川
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/02/02
  • メディア: 新書


<カバー袖あらすじ>
「宇野さん、夕子さん、またお世話になってしまって」と、沙知子が言った。「とんでもない」と、私は言った。「もっと早く真実が知れたら良かったですがね」

宇野と夕子が、食事をしていたレストランに、死んだはずの男から「予約」の電話が入った。この男は、少女が遺体で発見された際に、店の主人の証言によって、逮捕され、現場検証の直後にトラックにはねられ即死していた。「死者からの予約」はホンモノなのか!?
大好評“幽霊”シリーズ第27弾。


幽霊シリーズの2019年1月に出た新刊(第27弾)ですが、ひとつ前の第26弾「幽霊協奏曲」 (文春文庫)は感想を書かずじまいでして、この前に感想を書いたのは、第25弾「幽霊審査員」 (文春文庫)(感想ページへのリンクはこちら)ですね。

この「幽霊解放区」には
「ふさがれた窓」
「忘れな草を私に」
「悪夢の来た道」
「悪魔の美しさ」
「行列に消えて」
「手から手へ、今」
「幽霊解放区」
の7話が収録されています。

もう赤川次郎に指摘しても仕方がないことかもしれませんが、悪者のすることがちょっとありえないレベルになってしまっていて興醒めですね。
顕著なのが表題作「幽霊解放区」。
一軒家が火に包まれ、放火が疑われている、というのに、
「町の誰かが、土木業者に依頼して、ブルドーザーで、焼け跡を片付けてしまったんですよ。」(266ページ)
「町の人は、その跡地にアッという間に公演を作ってしまったんですよ」(267ページ)
いくらなんでも、これはないですね。焼け跡を警察や消防が調べる前にこんなこと、到底ありえない。
現在の警察・消防機構が機能しているなら、絶対起こり得ない。
また、たとえ起こったとしても、「町の誰かが」なんてレベルでとどまることなく、司直の捜査はきっちり及ぶはずです。
さらに、私有地であったでしょうに、どうやって公園を作ったのか......
悪者の非道さを強調するためなのでしょうが、無理筋も極まれり。
こんなことが行われるくらい、閉鎖的な町、あるいは村であることを説得させられるような設定、描写もありません。
幽霊シリーズでは、初期作に、こういうありえないことが起こる田舎の事件が描かれていましたが、そちらはそれなりの説得力があったように思っています。
これでは、明らかな作家としての後退現象でしょう。
特に捜査や真相追及が主眼のミステリでこれは困ります。

それと、もう昔の本のことはすっかり忘れてしまっているので、勘違いかもしれませんが、宇野警部のキャラクター、変わってきていませんか!?
「忘れな草を私に」や「行列に消えて」では、若手の警察官や刑事を怒鳴りつけたりしているんですよね。強面キャラだったかなぁ、とちょっと不思議に感じました。

幽霊シリーズは、デビュー作でもありますし、今一度、デビューのころの志に立ち返って、大切に書いていってほしいなぁ、と思いました。




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