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名もなき星の哀歌 [日本の作家 や行]

名もなき星の哀歌

名もなき星の哀歌

  • 作者: 結城 真一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2019/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


<カバー裏側帯あらすじ>
裏稼業として人の記憶を取引する「店」で働く銀行員の良平と漫画家志望の健太。神出鬼没のシンガーソングライター・星名の素性を追うことになった悪友二人組は、彼女の過去を暴く過程で医者一家焼死事件との関わりと、星名のために命を絶ったある男の存在を知る。調査を進めるごとに浮かび上がる幾多の謎。代表曲「スターダスト・ナイト」の歌詞に秘められた願い、「店」で記憶移植が禁じられた理由、そして脅迫者の影--。謎が謎を呼び、それぞれの想いと記憶が交錯し絡み合うなか辿り着いた、美しくも残酷な真実とは?
大胆な発想と圧倒的な完成度が選考会で話題を呼んだ、
二度読み必至のノンストップ・エンターテインメント!


奥付が2019年1月の単行本です。
第5回新潮ミステリー大賞受賞作。
前回第4回は受賞作なしでしたので、第3回「夏をなくした少年たち」 (新潮文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。

新潮ミステリー大賞って、正直ぱっとしない作品ばかりが受賞しているなぁ、という印象だったのですが、この作品はおもしろかったですね。
ただ、突っ込みどころは満載なので、お勧めしにくいですが。

人の記憶を取引する「店」というのがポイントですよね。
特定の記憶を取り去ることができる、また特定の記憶を植え付けることもできる。
まず、このあまりに都合の良い設定を受け入れられるかどうかが評価の分かれ目でしょうか。

現実には到底あり得ない設定で、SFとしても無理が多い設定なので、(受け入れるのは)無理、という方も多いと思います。この設定のおかげで、現実的な物語ではなくファンシーな物語だとわかるので、細かいことを気にして突っ込むのもなぁ、と思えます。とはいえ、前述のとおり、突っ込みどころは満載で、もう、どこから突っ込めばいいのやら、という感じです。
記憶が簡単に出し入れできるので(それなりの手順は踏みますが、この程度で記憶が綺麗に出し入れできるなら簡単と言わざるを得ません)、正直、なんでもあり、の世界です。
なんでもあり、なので、そのなかでどのくらいおもしろい物語を展開してみせるか、が作者の腕の見せどころになると思いますが、かなり練られたプロットを楽しむことができました。
(記憶を出し入れできる、というのが設定ですので、偽りの記憶といえども、誰かが実際に経験した記憶に限られているわけですね。まったくゼロから新しい記憶を作り上げているわけではない。この違いに注目して物語を構築することもできるのかもしれませんね......)

個人的にはなによりボーイ・ミーツ・ガールの物語として楽しめたのがいちばんよかったですね。
良平と健太、そしてシンガーソングライターの星名に加えて、ツヨシの4名がいいですね。
どうして漫画家になりたいのか、という問いへの健太の答えが
「俺だけが知る物語の続きを世界が待ちわびている。もし、俺が死んだら永遠に物語の続きは闇の中なんだぜ。考えただけでもワクワクしてくるだろ?」(23ページ)
こういうキラキラした箇所があちこちにあります。
引き込まれました。
こういう話、好きです。
さらに個人的には、記憶が出し入れできるということで、ひょっとしてこういうお話なのかな、とうっすら想像していた方向に話が進んだので、自己満足できたことも好印象です......読者にこういう自己満足、あるいは、変な優越感を抱かせるのも作者の腕ですよねぇ・
強引で、力技ですが、物語もちゃんとたたまれています。



最後にこの作品に対する最大の不満を挙げておきますと、キーとなる歌、「スターダスト・ナイト」のイメージが伝わってこないこと、でしょうか。
『気付くと良平の頬を涙が伝っていた。何故だかまったくわからなかった。それでも、メロディが、歌詞が、声が、何もかもが愛おしかった。「ほしな」の歌に、ただひたすら心を奪われる自分がいた。』(33ページ)
この書き方は反則ですよね。
音を、音楽を文字で伝えるというのは至難の業であることは重々承知していますが、この物語は「スターダスト・ナイト」の良さ・魅力が読者に伝わってこないとかなり減点! とせざるを得ないと思います。

ということでいびつな物語だと思いますが、結構気に入りました。


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