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いい加減な遺骸 [海外の作家 か行]


いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ)

いい加減な遺骸 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2015/02/28
  • メディア: 単行本

<カバー袖あらすじ>
米国の鬼才C・デイリー・キングが奏でる死の狂想曲 ABC三部作 第一弾 遂に始動!
孤島の音楽会で次々と謎の中毒死を遂げる招待客
マイケル・ロード警部が事件に挑む


論創海外ミステリ141。単行本です。
C・デイリー・キングといえばオベリスト三部作。
「海のオベリスト」 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)
「鉄路のオベリスト 鮎川哲也翻訳セレクション」 (論創海外ミステリ)
「空のオベリスト 世界探偵小説全集(21)」(国書刊行会)
全て読んでいるのですが、実は覚えていません......
「鉄路のオベリスト」 は、鮎川哲也訳ということで、カッパ・ノベルス版が出た際(amazon によると1983年らしい......)慌てて買った記憶があり、そんなにも飛びついたのにもかかわらず、覚えていない......
ちなみに、S・フチガミさんの(渕上痩平という表記はとられていません)HPによると(例によって勝手リンクを貼っています)、オベリストとは、「海のオベリスト」の英ヘリテイジ社版では「ほとんど全く価値のない人(a person who has little or no value)」、米クノップ社版では「疑いを抱く者(one who harbours suspicions)」となっているそうです。おもしろいですね。

この「いい加減な遺骸」は、このあと「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)「間に合わせの埋葬」 (論創海外ミステリ207)と続くABC三部作の第1作です。

探偵役はロード警部。オベリスト三部作に続いての登場で警視に出世しています。
「ポンズに言わせれば、ロードは船上では健闘したし、列車では大活躍をした。しかし、飛行機のときはそうはいいきれない。結果と事件の解決には何も問題はないように思えるが、どこか疑問がつきまとう。」(11ページ)
と微妙な(?) 紹介がされていますが......

読み終わってどうだったかというと、個人的にはとてもおもしろく読みましたし、ABC三部作残りの二作品を読みたいな、と思えました。さらに覚えていないオベリスト三部作も読み返していいかも、とも思いました。
けれど、この作品をほかの人にお勧めするか、というと残念ながらNoですね。

解説で森英俊が書いている表現を借りると「無害なはずのコーヒーを飲んだ者たちが次々と命を失っていく」というのが事件で、すごく魅力的なんですね。
でも、作中でさんざんどうやって殺したかわからない、と繰り返しておきながら、この毒をめぐる種明かしは、正直いんちきとしか言いようのないもので、実効性もない。
326ページや347ページの謎解きシーンでは、きっと唖然としますよ。
なので、お勧めは到底できない。
作者の苦し紛れの言い訳(としか思えないコメント)が巻末にくっついていますが、これまた笑うしかない程度のもので......ぜひご笑覧ください、って感じです。

でも、だからダメミス、くそミスか、となると、たしかにダメミスなんでしょうけれど、なんだか弁護したくなっちゃうんですよね。
というのも、演奏会などの退屈な部分もあるものの(失礼)、孤立した状況とか、法廷シーンとか、楽しませようという意欲がありますし、またロード警視にそれなりに肩入れしたから、というのもありますが、そのダメなトリックを前提にすると、しっかり犯人を論理的に指摘できるようになっているんですね。
遅すぎるといえば遅すぎるのですが、そのトリックを明かしたあとの326ページ以降で、たとえば読者への挑戦を挿入していたとしたら、作品の印象はずいぶん違ったと思うのです。
現実にはこれで人が死ぬことはないけれども、この作品世界ではこの前提で考えて推理してくださいね、という感じですね。

というわけで、かなりの曲者でしたが、個人的にはOK。
ABC三部作、読み進めていくつもりです!

最後に、この本日本語がとてもぎこちなくて、読みにくかったことを指摘しておきます。
屋敷の音響を説明するシーン(107ページ~)が象徴的で、技術的なことを言葉で説明するのはもともと大変なことだとは思っていますが、それにしてもひどい。
それ以外にも不思議な日本語があちこちに。
「わたしの部屋には暖炉があって、杉の薪が使われているだけでなく、燃えるととてもよい香りがするのだよ。」(113ページ)
「だけでなく」の使いかたがしっくりきませんでした。
薪として杉が使われていることで何か明らかな価値があるのでしょうか?
「これまでにわかったことを教えてもらいたいのだ。単なる好奇心ではない、個人的な興味がある。」(116ページ)
という文章も謎です。原語を確認したいですね。個人的な興味って、好奇心と言われちゃいますよね......
「むろん、ブラーの直前に来た者が置いていったのだ。彼が入る前に、ほかの誰も船室にはいらなかったということだ。」(121ページ)
誰も入らなかったのに、直前に来た者が置いていった、というのはちんぷんかんぷんですね......
「地球を半周すれば、この国の最後の議会選挙を見ることができます。あなたがたの恥知らずな公共事業の賄賂とともにね。」(126ページ)
意味がわかりません。話の筋に影響はないですが。
「たとえばパンテロスのような人間は、この状況をどう考えているのだろうか? 今はマリオンと楽し気におしゃべりしている。にもかかわらず、パンテロスはマリオンが犯人かもしれないことを知っている。もちろん、彼が犯人を知っていれば話が別だが、その場合は彼が犯人ということになる。」(244ページ)
というところもひどいですね。どうやったらこういう訳になるのか教えてほしいくらいです。
訳者の白須清美さんはこれまでにも訳書を読んだことがありますが、こんなにわかりにくい日本語を使う方でしたっけ? と不思議な感じがしました。


<蛇足1>
現場に残っていた魔法瓶の中のコーヒーを、警察官が飲んでいたというエピソードがあるのですが(58ページ)、いくらなんでもねぇ......しかも7杯分もあったのを全部飲んでいるんですよ!

<蛇足2>
ゆうべボートを調べたとき、船室の床に割れたカップが落ちていました。誰も片づけようとしなかったようです。むろん、中身はなく、分析はできません。(59ページ)
割れたカップといえども、ある程度は中身残ってそうですけどね......

<蛇足3>
「彼らは弁護側の証言を聞くことができず、彼らの前で証言する者は、自分が証言するどのような事柄についても自動的に刑事免責を受けることになる。」(337ページ)
ここでいう彼らというのは、大陪審の陪審員のことなのですが、大陪審での証言者は、刑事免責を受けられたというのは衝撃でした。
そのあとでも
「殺人に関する証言を行うことで、犯人は刑事免責を得るでしょう。」(360ページ)
という発言がロード警視から出ます。
こんなへんな制度だったのでしょうか?



原題:Careless Corpse
作者:C Daly King
刊行:1937年
訳者:白須清美





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