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花嫁は迷路をめぐる [日本の作家 赤川次郎]

花嫁は迷路をめぐる (ジョイ・ノベルス)

花嫁は迷路をめぐる (ジョイ・ノベルス)

  • 作者: 赤川 次郎
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2019/01/31
  • メディア: 新書


<カバー裏あらすじ>
上京者と消えた大金
騒動は迷路のように入り組んでいく!
母を亡くした片桐とも子は、姉の早苗を訪ねて上京する。土地勘がなく困っていると、女子大生・塚川亜由美に声をかけられて道案内してもらうことに。ようやく会えた早苗だったが、とも子を見てとても驚いた。姉妹の田舎の村役場に勤める林竜太から、とも子は火事で焼け死んだという手紙をもらっていたからだ。嘘をついた竜太も上京、同時に村役場から2000万円が盗まれ――!? 大人気シリーズ第32弾! 表題作ほか「花嫁たちのメロドラマ」収録

花嫁シリーズも32作目です。
毎年年末に新刊が出ていたシリーズだったのですが、前作「花嫁をガードせよ!」 (ジョイ・ノベルス)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)が2017年12月に出たあと、2018年12月ではなく2019年の1月にこの「花嫁は迷路をめぐる」 (ジョイ・ノベルス)が出ました。

表題作「花嫁は迷路をめぐる」と「花嫁たちのメロドラマ」の2話収録。
どちらも、ドタバタ喜劇(喜劇、と言ってしまっては登場人物たちが可哀そうかもしれませんが)絶好調という感じですね。

「花嫁は迷路をめぐる」はいかにも赤川次郎らしい作品でして、上京してモデルをしている姉、姉を頼って田舎から東京へ出る妹、その妹に思いを寄せて田舎の村役場を逃げ出し東京へいく男、その男のことが好きで東京までついていってしまう女。村役場を舞台に二千万円の横領事件があって、市長やその家族が絡む。市長はそっくりな替え玉を用意し......
安易といえば安易な展開を見せますが、短い中で多くの登場人物の思惑を捌くのはさすがですね。

「花嫁たちのメロドラマ」では、銃撃事件(という言い方は、実際に起こったことと比べると大袈裟ですが)が起こって、誰がやったのか明白でも逮捕もせず、差し当りは放っておくという処置を警察がとっていて唖然としますが、まあ、そういうノリのお話だということですね。
ラストもまあ、見事なまでの力の抜け具合ですし。

亜由美が、息子の嫁にと、ヤクザの女組長に見込まれるシーンがあるのですが、
「私には付き合っている男性が」と亜由美が断ろうとしても、あっさり
「別れていただけば済むことでしょ」と返してくるのが傑作でした。

とはいえ、亜由美の付き合っている男性である、谷山准教授、このところ出て来ませんね。
次あたりで大活躍してくれると嬉しいのですが。





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疾風ロンド [日本の作家 東野圭吾]

疾風ロンド (実業之日本社文庫)

疾風ロンド (実業之日本社文庫)

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 実業之日本社
  • 発売日: 2013/11/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ハラハラが止まらない! 書き下ろし長編ミステリー
強力な生物兵器を雪山に埋めた。雪が解け、気温が上昇すれば散乱する仕組みだ。場所を知りたければ3億円を支払え――そう脅迫してきた犯人が事故死してしまった。上司から生物兵器の回収を命じられた研究員は、息子と共に、とあるスキー場に向かった。頼みの綱は目印のテディベア。だが予想外の出来事が、次々と彼等を襲う。ラスト1頁まで気が抜けない娯楽快作。


オープニングはスキー関係なのですが、続いて大学の医科学研究所に舞台が移って、炭疽菌が盗まれて脅迫される、と。
その炭疽菌を隠した場所が、スキー場らしい。
脅迫犯が事故で死んでしまい、さて、なんとかして炭疽菌を見つけて回収しなければ。

この研究所のシーンが、えらく劇画調というか、戯画的というか、あまりにマンガチックなので、その後の展開も、本当なら炭疽菌を扱っているのですから、シリアスでサスペンスフルなはずなのに、なんだかマンガチックに感じてしまいました(と、こういう言い方をすると最近の漫画に失礼かもしれませんが)。

研究所の冴えない(失礼)研究員が、中学三年生の息子の助けを借りて捜索へ。
でも、スキーがうまく滑れなくて、結局、スキー場の監視員の手助けを借りることに......
息子は、スキー教室に来ていた地元の女子中学生と親しくなり......
一方で情報を嗅ぎつけて、炭疽菌を横取りして金にしようとする人もあらわれ......

物語はテンポよく進み、写真から炭疽菌のある場所を突き止めるのもわりとあっさり。そんなに簡単にいくかな? と思いますが、全体がマンガチックに仕立て上げられているから、あまり気になりません(というか、気にするのもどうかなぁ、と思えてしまう)。

周りの人を巻き込みながら、炭疽菌捜しに(とはいえ、作り話をして、そんなに危ないものだとは伝えずに、なんですが)てんやわんやする様子は、なんだか、シャーロット・アームストロングの小説みたいです。たとえば「毒薬の小壜」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)とかね。

そうなんです。
現代風のガジェットがちりばめられて、スキー場という派手な舞台(派手、といっていいですよね?)ではありますが、要するところ、現代のお伽噺、なんですよね、きっと。
だからこそのこのラスト。
東野圭吾としては、やや書き飛ばした感がありますが、そのあたりも含めて狙い通りの作品なのではないでしょうか?
肩の凝らない娯楽作品として、さっとよめる作品です。





タグ:東野圭吾
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ドラマ:砂に書かれた三角形 [ドラマ 名探偵ポワロ]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

Poirot The Definitive Collection Series1-13 [DVD] [Import]

  • 出版社/メーカー: ITV Studios
  • 発売日: 2013/11/18
  • メディア: DVD



前回の名探偵ポワロ「砂に書かれた三角形」(原題:Triangle at Rhodes)を観ました。

原作が収録されているのは、こちら↓。
死人の鏡 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

死人の鏡 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/05/14
  • メディア: 文庫

「砂にかかれた三角形」という小説版のタイトルは漢字が開いてあるようです。

今回の事件の舞台はロードス島で、ポワロは休暇なのかな?
ヘイスティングスも、ミス・レモンも出てこなくて、ちょっと寂しい。
南の島っぽい雰囲気が感じられること、異国情緒もあることがポイントなのかと思いますが、登場人物たちの着る水着のデザインが、いまとなっては野暮ったく見えて笑えました。特に、男性。いわゆる海パン系じゃないんですね。上半身にも水着が及んでいる(と説明すればいいんでしょうか?)。

事件の方は登場人物が少ないので真相の見当がつきやすくはなっていますが、クリスティらしいもの、と言えるのではないでしょうか?
日本では理解しにくい動機ともいえるかとは思うのですが、根っこのところの事象は日本でも同じだし同じ動機の殺人事件も少なくともミステリでは数多く書かれていますので鑑賞や謎解きに支障はないですよね。
それにしてもタイトルの「砂に書かれた三角形」。
思わせぶりな感じがするのですが、ドラマでは冒頭にちらっと出てくるだけ。
象徴的なタイトルでありますが、ある意味ネタバレ?

いつも通りこのシリーズに関するとても素晴らしいサイトにリンクをはっておきます。
「名探偵ポワロ」データベース
本作品のページへのリンクはこちら



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閉ざされた庭で [海外の作家 た行]


閉ざされた庭で (論創海外ミステリ)

閉ざされた庭で (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2014/12/02
  • メディア: 単行本



論創海外ミステリ134。単行本です。
エリザベス・デイリーの本を読むのは初めてです。
帯によると「アガサ・クリスティーから一目置かれた女流作家」
らしいです。それが本当だとするとすごい。
・・・のですが、訳者あとがきによると、デイリーの作品の裏表紙に推薦文(プルーフ)を寄せたことから生まれてエピソードらしいです。なーんだ。

庭園で起こった射殺事件を扱っているのですが、庭園と屋敷の位置関係もわからないし、図面も地図もない。
ここからだと見つからないとか見つかる、とか、銃を撃てるとか撃てないとか議論されても、まったくピンと来ないし、少々困りました。不親切ですよね。(もっとも、それでも作者の頭の中ではきちんと図面が引かれていることが想像できるので、不安になったりはしませんでしたが)

分からないと言えば、殺人現場である庭園(バラ園)に置かれている像が、ざんざんけなされているのですが、これもピンと来ませんでしたね。
冒頭から「あんな趣味の悪いもの」(9ぺージ)呼ばわりです。
「どうやら人間、それも男性をかたどったもので、実寸より小ぶりに作ってある。丈の短いギリシャ風の衣装をまとっている。高さのない円形の土台の上に立っていて、風雪にさらされ、劣化が著しい」(10ページ)と説明される、木製のアポロ像ということなのですが、アポロ像がそんなに趣味の悪いもの、なのでしょうか?

作品は、ミステリとしては非常にオーソドックスな謎解き物で、正直、地味でしたね。
退屈したりはしなかったものの(翻訳は読みにくくて問題があると思いましたが、ストーリー展開は読みやすかったですね)、取り立てていうほどのこともないような...(失礼)
いや、真相はかなりトリッキーではあるんですよね。
そう、それこそクリスティが書いてもおかしくないような感じです。(クリスティならもっとうまく書いているでしょうけれども)
だから、大騒ぎせずに、小味ながらウェルメイドなミステリとして楽しめばいいのでは?


<蛇足1>
噴水を作るにはもってこいの場所よ、林の泉からパイプを通したり、古い治水溝から水を引けばいいのだから。(9ページ)
変な日本語ですね。~たり、~たり、となっていないのを別にしても、おさまりがわるい文章だなあと思います。

<蛇足2>
自分ひとりで入ったと警察に主張し、さらには死因審問でも証言するおつもりですか?(80ページ)
明日の午後、死因尋問が始まるまでには動き出すだろう(211ページ)
普通ミステリでは検死審問というところを死因審問とするのはよいとして、審問なのか尋問なのか、一つの書物の中では統一すべきではないでしょうか?

<蛇足3>
わたしには--旧知の友を除き--アビィ以外に地縁はひとりもおりませんし(81ページ)
地縁? 文脈的に間違った用語だと思います。
知り合い程度の訳でよかったのではないでしょうか?

<蛇足4>
相続税を払えばそれぐらい残る。小切手帳を見ればすべてわかるよ(88ページ)
小切手帳というのは(利用者が記録をちゃんとつけているにしても)出金サイドだけを記録するものですから、入金額とか残高はわからないと思います。日本でいう通帳はないでしょうけれど、ここは誤訳ではなかろうかと。

<蛇足5>
エルスワース・モッソン…………州検事(巻頭の主要登場人物欄)
窓辺のカウチに座っているのが、リヴァータウン在住の州検事、エルスワース・モッソンだ。(85ページ)
この件についての権限がおありなら、モッソン判事にも。(110ページ)
ああ、モッソンですか。彼は州判事です。(173ページ)
一体、モッソンさんは、どういう人なのでしょうか? 

<蛇足6>
本当にバカな女。無口な人って、たいていバカよ。無口を装って、自分の愚かさを取り繕っているの。(228ページ)
なかなか大胆なセリフで笑ってしまいました。



原題:Any Shape of Form
作者:Elizabeth Daly
刊行:1945年
訳者:安達眞弓






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死香探偵 尊き死たちは気高く香る [日本の作家 喜多喜久]

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2018/01/23
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
特殊清掃員として働く桜庭潤平は、死者の放つ香りを他の匂いに変換する特殊体質になり困っていた。そんな時に出会ったのは、颯爽と白衣を翻し現場に現れたイケメン准教授・風間由人。分析フェチの彼に体質を見抜かれ、強引に助手にスカウトされた潤平は、未解決の殺人現場に連れ出されることになり!?


喜多喜久の本を読むのは久しぶりです。
「リケコイ。」 (集英社文庫)(感想ページへのリンクはこちら)以来となります。
お気に入りの作家なので、かつ、多作な作家さんなので、もっとくいくいと読みたいところだったのですが、「化学探偵Mr.キュリー6」 (中公文庫)を日本にうっかり(?) 置いてきてしまって、つまづいてしまいました。
そのくせ間抜けなことに、「化学探偵Mr.キュリー7」 (中公文庫)は持ってきているんですよ。でもねぇ、シリーズの順番を飛ばして読むのもなぁ、と思って。
「化学探偵Mr.キュリー5」 (中公文庫)の感想は書けていないは、「化学探偵Mr.キュリー6」 (中公文庫)は置いてきてしまうは、ダメダメです。
でも、このままだとどんどん喜多さんの未読本が溜まっていってしまうので、この「死香探偵 - 尊き死たちは気高く香る」 (中公文庫)を手に取ることに。
シリーズ続編「死香探偵-連なる死たちは狂おしく香る」 (中公文庫)がすでに刊行されているどころか、今月には第3弾の「死香探偵-哀しき死たちは儚く香る」 (中公文庫)も出版されるようですね。

主人公は特異体質の持ち主、桜庭潤平。
死臭を別の匂い、しかも食べ物の匂いとして感じてしまう。そしてその食べ物が(匂いが気になって)食べられなくなってしまう、という難儀な体質の持ち主です。

「交じり合う死は、高貴な和の香り」
「君に捧げる死は、甘いお菓子の香り」
「毒に冒された死は、黙して香らず」
「裁きがもたらす死は、香ばしき香り」
の4話収録です。

死臭(物語中で、『死臭』というのは耳障りだとして、嫌な臭いではないのだから、リスペクトを込めて、『死香』と言え、と風間准教授に潤平は説教されてしまいますが)として潤平が知覚するのは、マスクメロン、ココナッツミルク、カツオダシ、マツタケ、バニラ、アップルパイ、ベーコン、ウィスキーなどなど、です。これらのものが食べられなくなるのは困りものですねぇ。

この特異体質を解明してもらえる、と潤平は風間に期待していますが、まあ、そんなことはないでしょうねぇ。体よく、自分の研究に利用してお終いじゃないかなぁ。
事件の方も、この特異体質を捜査に活かせているか、というと......

第1話「交じり合う死は、高貴な和の香り」では、死臭を嗅ぎ分ける潤平の能力から、ミステリでおなじみのあのテーマが浮かび上がってきます。
第2話の「君に捧げる死は、甘いお菓子の香り」では、物証に残った死臭の強弱をヒントに、解決が導かれます。
第3話の「毒に冒された死は、黙して香らず」は、ある意味潤平が嗅ぐ死香の裏をかいたような話になっているのですが、いちばん香り、匂いに寄り添った作品かもしれません。でも、(ネタバレにつき伏字)活性炭ってそんなに効果あるんでしょうか?
事件の謎よりも、恋心が散ってしまう潤平が可哀そうだったりして。
最後の第4話「裁きがもたらす死は、芳ばしき香り」では、残された死香を手がかりに、連続通り魔を突き止めることになります。

それぞれ、死香の取り扱い方が違っている、バラエティに富んでいるところはさすがですね。
ただ、死香は事件の捜査に確かにある程度は役に立っているのですが、効果的かというとまだそこまでには至っていないようです。だいたい証拠能力ないですしね。
だからこそ、第2話を受けた潤平の熱意が第4話で花咲くという構図が用意されているのでしょう。

シリーズの今後、どういう手を見せてくれるのか、期待します!


<蛇足1>
厳密な管理がされているとは思うが、大学関係者なら、青酸カリを入手することは不可能ではない。その気づきに、微かに胸が疼く。(205ページ)
出たな、「気づき」。
結構広まっている表現ですが、嫌な表現だなぁ、といつも思います。
「学び」とか「気づき」とか使う人って、自意識過剰というか、自己意識が高い人が多い気がしてさらに嫌なんですよね......

<蛇足2>
この本には、目次と各話の扉にあたるところにイラストが使われているのですが(こういうのも口絵というのでしょうか?)、その絵とカバーのイラストのタッチが違うみたぃなんですよね。
カバーイラストはミキワカコさんということなんですが、タッチを変えて描かれているのか、それとも違う人が描いているのか、気になりました。




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アルバトロスは羽ばたかない [日本の作家 な行]

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

アルバトロスは羽ばたかない (創元推理文庫)

  • 作者: 七河 迦南
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/11/30
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
さまざまな理由で家庭では暮らせない子どもたちのための養護施設・七海学園。勤めて三年目の保育士・北沢春菜は慌ただしくも生き生きと職務に励んでいた。そんな日々の中、初冬のある日に学園の少年少女が通う高校の文化祭で起きた校舎屋上からの転落事件が暗い影を落とす。事故か、自殺か、それとも──? 鮎川哲也賞受賞作『七つの海を照らす星』に続く、清新な本格ミステリ。



鮎川哲也賞を受賞した「七つの海を照らす星」 (創元推理文庫)に続いて七海学園を舞台にした作品です。
「2011本格ミステリ・ベスト10」第5位で、
「このミステリーがすごい! 2011年版」第9位です。

正直、「七つの海を照らす星」、読んでいますが、あまり覚えていないんですよね。ということは、可もなく不可もなく、という読後感だったのでは、と推察できます(自分のことなのに推察というのは変ですが)。
短編がつながって、最後に長編になる、という形の作品に飽きていた、ということもあったのでしょう。
このタイプの作品は、一時期、澤木喬「いざ言問はむ都鳥」 (創元推理文庫)や若竹七海「ぼくのミステリな日常」 (創元推理文庫)あたりをスタートに、東京創元社からかなり出ており、鮎川哲也賞でも加納朋子「ななつのこ」 (創元推理文庫)がこのパターンでしたね。長編を対象とした賞にこのタイプは今一つ感があるなぁ、と思ったことを思い出しました。
最初のころは新鮮だったのですが、作例が積み重なってくると、またか、と思っちゃうんですよね。
そして「七つの海を照らす星」は鮎川哲也賞受賞作で東京創元社から出版されている......

ということで普通だったら、「アルバトロスは羽ばたかない」 (創元推理文庫)は手に取らないんですが、評判がよいので、つい。

屋上から墜落するシーンがプロローグです。
その後、冬の章となり、高校の屋上からの墜落事件を追求しようとするわたしの視点に切り替わります。
冬の章は、断章というのでしょうか、少しずつ細切れになっていまして、その間に、春の章、夏の章、初秋の章、晩秋の章、という4つの章が挟まれます。
それぞれ過去を遡って、いわゆる日常の謎系の謎解きが繰り広げられます。
これらの物語の中に、冬の章で描かれる墜落事件の真相を突き止める手がかりが潜んでいる、という構図ですね。

墜落事件とは穏やかではない(=日常の謎からはみ出た謎)ですが、春の章を読んだときには、なんだ、またこの手の日常の謎なのか、と思ってしまいました。
伏線はとてもきれいにひかれているものの、またこういうパターンのやつか、と思ったわけです。

夏の章の謎は、衆人環視のスタジアムからサッカーチームがまるごと消え失せる、というなかなか大きな謎で、おやっと思ったものの、トリックに難あり、で惜しい。
ネタバレなので色を変えておきますが、「勿論前もって人数分の城青学園のユニフォームは別に用意されていた。」(150ページ)とあっさり書かれていますが、中学生たちがサッカーチーム人数分のユニフォームを用意するのはそんなに簡単ではないと思いますし、小学生ならともかく、中学生だと男女の差はかなり歴然としてくるので11人も揃うとすぐに見抜かれてしまうはずです。

初秋の章が扱う、夏休みの終わりに入所してきた中一の少女が、前の学校のお別れのときにもらった寄せ書きをめぐる謎は、いかにも日常の謎っぽい謎であることに加えて、あまりにもありきたりな解決すぎて拍子抜けしてしまいますが、意外とこういうの個人的に好きだったりして。

晩秋の章では、自分の子供に会わせろと押しかけてきた困った父親の話で、ドタバタ騒ぎはそれなりに読ませてもらえましたが、作者が仕掛けたサプライズは残念ながら不発。かなりの読者は見抜いてしまったのではないでしょうか?

と、4つのストーリーは、楽しめたものの、まあまあ、という感じで、これで年間ベスト10に入るなんて、なんだかなぁ、と思いつつ、さてさて、冬の章の謎解きはどんな感じなのかな? と残りの章を読む進めました。

ところが、ところが。
372ページから373ページまで読み進んだところで、ん? となりました。
確かに、なんとなく違和感を感じつつ読んでいたことは読んでいたのですが、その違和感もすっきり解消します。
うわぁ。
ベスト10に入れる気持ちがわかります。

となると、傑作だ! と普通だったらなるところなんですが......
違和感はすっきり消えてなくなったのですが、読後感はすっきりとは到底いきませんでした。
正直申し上げて、この真相、仕掛け、嫌いです。
作者が勝ち誇っている様子が浮かんで嫌だ、というのもあるのですが(←これは負け惜しみですね)、物語世界としてこの形は受け入れたくない、ということです。
それだけ、話の中に入り込んでしまったということで、作者の腕が確かということではあるのですが、よくもまあ、こんなに嫌な真相を用意したものです。
ああ、嫌だ、嫌だ。
解説で千街晶之が「残酷ではあるけれども、後味は悪くない」と書いていますが、いえいえ、無茶苦茶後味悪いですよ、これ。
ラストも、一見希望があるように見えるけれども、「わたし」のひとりよがりな希望にすぎず、読者は置いてけぼりですよ。

負け惜しみついでに......
読み返してみると、作者はかなり気を配って書かれていることがわかります。
真相に至って、あれっ、と思ったところ(物語早々の12ページ2行目とか、161ページ5行目とか)をチェックしても、もう震えたくなるくらい素晴らしい書き方。
真相を示唆する(といって言い過ぎなら、暗示する)ポイントもちゃんとあります。
なんですが、この作品、アンフェアだと思います。

以下、ネタバレの懸念が強いので、気になる方は飛ばしてください
まず、いきなりプロローグがアンフェアです。肝心なセリフが--ダッシュにしてしまって書かないのは、地の文ではアウトでしょう。
そのあとの行あきもフェア感を損ねています。
プロローグ末尾の「そのやわらかな身体」にある「その」も危なっかしいですね。
前段だけでやめてしまったほうがよかったのでは?

そして、春から晩秋の章は、四つの小さな事件の顛末を書き綴ったノート(344ページ)ということになっていて、そのノートは他人に読ませようとしたものではないはずのものであるにもかかわらず、書き方がまるで小説を書いているかのよう。
「仕事の合間にそんなことをふと考えるわたし、北沢春菜は二十五歳。七海~長いので略します~の保育士だ。」(19ページ)
なんて、自分のためのノートに書く人がいるとは思えません。
この部分がノートであることを極力読者に気づかれないようにする必要があったのだろうと思いますが、フェアにいくには、正々堂々とノートであることを晒し、かつノートの文体が第三者を意識したものになっている理由も(作中には出てこないので、なにか考え出して)早い段階で明かすべきだったと思います。

ちなみに、タイトルのいわれは、アルバトロスは滑空するので羽ばたかない、飛ぶために崖から身を投げて、そして羽ばたくことなく遠くまで行く、ということから来ています。
が、最後に、重い身体を宙に浮かせて飛び立つためには凄い助走と浮く力が必要だから、地上や、水面では、バタバタやって走ってる。つまり、羽ばたいている、というオチ(?)がつけてあります。

ネタバレの懸念はここまで

ということで、作者の技巧、腕前には感心したものの、好きになれない作品でした。残念です。


<蛇足>
一所懸命面倒みたって恩を仇で返されるのが関の山。(194ページ)
高校生のセリフですが、ちゃんと一懸命になっていて、好印象です。
小説だったら、このように、ちゃんとした日本語で書いてもらいたいです。




タグ:七河迦南
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さらばスペインの日日 [日本の作家 逢坂剛]

さらばスペインの日日(上) (講談社文庫)さらばスペインの日日(下) (講談社文庫)

さらばスペインの日日(上) (講談社文庫)
さらばスペインの日日(下) (講談社文庫)

  • 作者: 逢坂 剛
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2016/09/15
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
ドイツに続く日本の無条件降伏で第二次世界大戦が終結。密命を帯びスペインに潜行していた陸軍情報将校の北都昭平は戦犯指定の危機にさらされる。一方、英国情報部員ヴァジニアは、MI6の遣り手情報部員の二重スパイ疑惑の真相に迫るが、罠に陥り拘束される羽目に。著者渾身のイベリア・シリーズ完結篇。<上巻>
偽造パスポートで帰国を決意した北都。イギリスの警察網をくぐり抜け、マドリード経由で小さな船の四等船室に潜り込み、祖国を目指す。東京で待ち受けていたのは、GHQら占領軍の取り調べ、ベルリンで運命を共にした記者の尾形、それに……。第二次大戦のヨーロッパを描いた著者のライフワーク、ついに完結! <下巻>


「イベリアの雷鳴」 (講談社文庫)
「遠ざかる祖国」(上) (下) (講談社文庫)
「燃える蜃気楼」(上) (下) (講談社文庫)
「暗い国境線」 (上) (下) (講談社文庫)
「鎖された海峡」 (講談社文庫)
「暗殺者の森」(上) (下) (講談社文庫)
に続くイベリア・シリーズ第7弾にして完結編です。
2013年に出たもので、2016年に文庫化され、今頃読んでいます。

「暗い国境線」 から感想をこのブログに書いていましたが、「暗殺者の森」の感想は書けずじまいです。

第二次世界大戦の戦況も終わって、いわゆる終戦処理が始まります。
日本が負けてしまっても、昭平たちの生活は、比較的穏やかなようです(昭平の国籍が日本ではなく、スペインとペルーになっているから、ということもありますが)。
ヴァージニアは、イギリスに戻って、キム・フィルビーと対決しようとします。
これが波紋を呼んで、次から次へと...... いつもながらの起伏にとんだストーリーを楽しむことができました。
キム・フィルビーは実在の人物なので、ヴァージニアとキム・フィルビーの対決の帰結は史実の制約を受けてしまうわけですが、ヴァージニアにはもうひとふんばりしてほしかったなぁ、なんて贅沢な希望を抱いてしまいました。

ヨーロッパにいる日本人たちが日本へ引き上げていく場面があるのですが、ちょっとぐっときます。
百人近くのスペイン・ポルトガル組に加えて、バチカンから二十人、イタリア組二十八人、スウェーデン組など七十五名、ヴィシー・フランスから六十九名。総勢二百八十人を超える日本人で船プルス・ウルトラ号はあふれ返ることになった(下巻218ページ~。スペイン以外の人たちが合流するのは244~245ページ)、と。
マニラで筑紫丸に乗り換え、浦賀へ。
当時ヨーロッパにいた日本人は三百人にも満たなかったのですね。あまりにも多くの国を敵に回していたということでしょう。いかに無謀な戦いだったかは、この点からもわかりますね。

この大河ストーリーのラストが日本とはねぇ......
敗戦すれば引き上げるはずで、まあ、これが自然なんでしょうが、思い至りませんでした。

下巻にある「作者自身によるエピローグ」で、シリーズの裏話、後日談が語られていますが、これだけ長大な物語を支えた話と いうことで、とても興味深いです。
「太平洋戦争を描いた小説は数多いが、同時期にヨーロッパで日本人がどう戦ったか、あるいは戦わなかったか、その顛末を描いた小説は一つもない」(371ページ)
こういう発見から、ここまでの物語が作り上げられるのですね。作家のイマジネーションの豊かさを印象付けられます。
こういった物語の種、芽はあちこちにあるのでしょうね、きっと。

昭平とヴァージニアの物語にも一つの区切りが訪れたわけですが、このあとの物語も気になります。

ところで、シリーズ完結の今になって、という感じですが、今更ながら、昭平という名前が気になりました。
昭平って、何年生まれなのでしょうか?
「昭」の字、昭和という元号ができるまで日本で(ほとんど?)使われていなかった文字だという認識だからです。
はやく生まれたとして昭和元年生まれ。それでも終戦の時点で二十歳です。
イベリア・シリーズでの昭平の設定とは合わないですよね......
もっとも、昭平はスパイということですから、偽名だとすれば問題ないのですが。(それでも年齢からして不自然な名前をスパイがつけるというのはまずいのではと思ってしまいますが)

<蛇足1>
クリスマスは、家で家族そろって祝う習慣があるため、休業するレストランも少なくない。しかし、大晦日は男も女も盛装して町へ繰り出すので、ほとんどのレストランが営業する。(下巻196ページ)
クリスマスは、キリスト教国はいずこもそうなんでしょうね。
とはいえ「休業するレストランも少なくない」程度ではなく「ほとんどのレストランが休業する」という感じだと思います。

<蛇足2>
「あの船名のローマ字は、ヘボン式の表記だな。書き換えた跡があるから、前は日本式で書かれていたんだろう。」(26ページ)
終戦でローマ字の表記方法も換えさせられたのですね......



シリーズが完結したので、書影をまとめておきます。
この「さらばスペインの日日」のカバー裏側の帯には
「第二次世界大戦時代のスペインを主要舞台に、愛と諜報と戦いを壮大かつ緻密に描き切るエスピオナージ(スパイ)巨編!」と紹介されています。
イベリアの雷鳴 (講談社文庫)
イベリアの雷鳴 (講談社文庫)

遠ざかる祖国(上) (下) (講談社文庫)
遠ざかる祖国(上) (講談社文庫)遠ざかる祖国(下) (講談社文庫)

燃える蜃気楼(上)(下) (講談社文庫)
燃える蜃気楼(上) (講談社文庫)燃える蜃気楼(下) (講談社文庫)

暗い国境線 (上) (下) (講談社文庫)
暗い国境線 上 (講談社文庫)暗い国境線 下 (講談社文庫)

鎖された海峡 (講談社文庫)
鎖された海峡 (講談社文庫)

暗殺者の森(上) (下) (講談社文庫)
暗殺者の森(上) (講談社文庫)暗殺者の森(下) (講談社文庫)

さらばスペインの日日(上)(下) (講談社文庫)
さらばスペインの日日(上) (講談社文庫)さらばスペインの日日(下) (講談社文庫)



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グレイストーンズ屋敷殺人事件 [海外の作家 は行]


グレイストーンズ屋敷殺人事件 (論創海外ミステリ)

グレイストーンズ屋敷殺人事件 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/03/01
  • メディア: 単行本

<裏表紙あらすじ>
1937年初夏の晩ロンドン郊外の屋敷で資産家の遺体が発見された 凶器は鈍器。
ヘイヤーの本格長編ミステリ待望の邦訳!
スコットランドヤードのヘミングウェイ巡査部長とハナサイド警視が事件を追う!


論創海外ミステリ138。単行本です。
ジョージェット・ヘイヤーの本は、「マシューズ家の毒」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)以来ですね。
ハナサイド警視とヘミングウェイ部長刑事が登場する作品として第4作のようです。
「紳士と月夜の晒し台」 (創元推理文庫)(ブログ感想ページへのリンクはこちら
「マシューズ家の毒」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
のあと、「They Found Him Dead」という作品が、この「グレイストーンズ屋敷殺人事件」 (論創海外ミステリ)の間に挟まっているようです。


事件は、あらすじ(? 帯から無理やり引用しましたが、あらすじとは言えませんね、これでは......) にも触れられている資産家殺しだけです。
現場にはいろんな人物が出入りしており、容疑者が絞られているようなのに、なかなか犯人の正体がつかめません。
数分間での殺人事件。
また、現場で見つからなかった凶器が何なのか、どうやって犯人は(見つからずに)持ち出したのか、という謎が据えられています。
邦題は「グレイストーンズ屋敷殺人事件」となっていますが、原題は「A Blunt Instrument」。すなわち、鈍器。
ここに力入れていますよ、という作者の宣言でもありますね。
結構切れ味するどいです。

ミステリで、Blunt Instrument といったらエラリー・クイーンのあれ(念のためタイトルは伏せておきます。amazon にリンクを貼っています)ですが、作者は意識していたのでしょうか? あれの方が発表年が古いので(1932年)、ミステリ・プロパーの作家なら絶対に意識していたと言えそうですが、ジョージェット・ヘイヤーはリージェンシー・ロマンスが本業(?) なので、どうだったのでしょうね? 少し気になります。

ということで、「紳士と月夜の晒し台」「マシューズ家の毒」対比、ミステリとしての建付けは大幅に進歩しています。

同時に、ジョージェット・ヘイヤーといえば、奇矯な登場人物たちなのですが、今回も登場人物がいろいろと楽しい作品になっています。
隠しごとばかりで一筋縄ではいかない登場人物たちというのは、ミステリにはうってつけではありますが、ジョージェット・ヘイヤーの場合はさらにひねくれた感じ(笑)。
なかでも被害者の甥にあたるネヴィル・フレッチャーが最高ですね(最悪?)。
愚かな行動から疑われてしまう隣人一家とのやり取りは、このシリーズの醍醐味といってしまってもよいかも。
嫌味、皮肉、韜晦、自嘲......
そしてもう一人とっても印象深いのが、聖書から引用しまくる巡査のグラス。
グラスのセリフ、ほとんど全部が聖書の引用と言ってもいいくらいのすさまじさ。
ネヴィルがグラスに対抗しようと効果的な聖書の文言を探してぶつけるシーンなんかも出て来ます。
シリーズ通して出てきているヘミングウェイ巡査部長は、グラスと組まされてぼやくこと、ぼやくこと(笑)。
こんなにもふんだんに聖書の引用が出てくるなんて、それくらい作家にとって聖書は身近なものなのでしょうね......自家薬籠中とはこのこと?

このあとジョージェット・ヘイヤーの翻訳は出ていないようですね。
個人的に好きなので、また訳してほしいです。


原題:A Blunt Instrument
作者:Georgette Heyer
刊行:1938年
訳者:中島なすか





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