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土蛍 猿若町捕物帳 [日本の作家 近藤史恵]

土蛍: 猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

土蛍: 猿若町捕物帳 (光文社時代小説文庫)

  • 作者: 近藤 史恵
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2016/03/11
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
南町奉行所の定町廻り同心・玉島千蔭は、猿若町の中村座から三階役者が首を吊ったと知らせを受ける。早速かけつけた千蔭は、骸があった場所でその死に不審を抱く。調べを進める千蔭の前に明らかになってきたのは、芝居の世界に横たわる漆黒の「闇」だった(表題作「土蛍」)。人気シリーズ、待望の第五弾は、珠玉の短編四編を収録。読者を唸らせる時代推理小説の大傑作。

「巴之丞鹿の子 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
「ほおずき地獄 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
「にわか大根 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
「寒椿ゆれる 猿若町捕物帳」 (光文社時代小説文庫)
に続くシリーズ第5弾。
「むじな菊」
「だんまり」
「土蛍」
「はずれくじ」
の4話収録です。

「むじな菊」は、するっと最後に下手人を玉島千蔭がつきとめるところがすごいですが、人情話というには怖い話だなぁ、と思いました。

「だんまり」は、賭博狂いの兄とそのために苦労する妹の話なのですが、ラストの妹のセリフ、客観的には、いいラストではあるのですが、ちょっと唐突感があって納得しにくい感じがしました。伏線を読み落としたでしょうか? パラパラと見た感じではそれらしいものはわかりませんでしたが。

「土蛍」は、梅が枝の身受け話という、ある意味シリーズ的には爆弾投下のエピソード。さて、さて、どうなりますことやら、という感じではあるのですが、芝居の世界、武家の世界そして遊女の世界というまったく異なった世界3つを切り結んで、納得のいく着地にたどり着きます。なるほど。
しかし、巴之丞が役者稼業について語るセリフ
「ときどき、あまりの業の深さに、ぞっとすることがあるのです。生きていくには充分すぎる金を手に入れ、女には好かれ、客には拍手喝采を浴びる。なのに、喉が渇いてならぬ気がするのです」
「そして、喉の渇きを覚えるものだけが、役者として大成できるのかもしれない、とも……」(230おページ)
というのが怖い。

「はずれくじ」は、切れ味するどい、と言いたいところですが、これはちょっとアウトでしょうねぇ。被害者のモノローグで始まるのですが、ちょっとあざとすぎる気がします。このシリーズのトーンに似合っていません。

ということで、シリーズの中ではちょっと落ちる出来かな、と思えましたが、近藤史恵のこと、しっかり楽しく読むことができました。
シリーズ次作が楽しみです。早く書いてくださいね。



<蛇足>
「大変申し訳ございません。まさかそんな恐ろしいことだとは……」(76ページ)
「まことに申し訳ございません……」(78ページ)
「滅相もございません!」(79ページ)
わずかな間に、3連発。さすがに気になりました。
「申し訳ございません」という表現、正しい表現だ、という方もいらっしゃるようですが、違和感は否定できません。
少なくとも、時代小説には似つかわしくない表現だと思います。
「滅相もございません」というのは初めて目にしましたが、こういう言い方もするんですねぇ。
「とんでもございません」というのも使ってもらえれば、制覇したということになったのかもしれませんね。



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