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絞首人の手伝い [海外の作家 た行]

絞首人の手伝い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

絞首人の手伝い (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/05/08
  • メディア: 新書

<裏表紙あらすじ>
嵐の孤島の悪夢の一夜。これぞ、不可能犯罪の極致
汝、オッドの呪いによりて朽ちはてよ--晩餐会の席上で始まった、つまらない口喧嘩にすぎないはずだった。だがクラーケン島の所有者フラント氏に向けて義弟のテスリン卿が呪いの言葉を吐きかけたとたん、異変は起きた。その場に昏倒したフラントは、なんとそのまま絶命してしまった! しかも怪異は続いた。フラントの死体は死後数時間もたたないうちにすっかり腐乱してしまったのだ……一族に伝わる呪い、水の精霊のたたり、襲いかかる怪物、そして密室の謎。不可能犯罪ミステリの醍醐味をたっぷりと詰めこんだ幻の本格ミステリ、ついに登場


ハヤカワ・ポケット・ミステリです。

ヘイク・タルボットといえば「魔の淵」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)ですよね。
1981年にエドワード・D・ホックがアンソロジー「密室大集合」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)を編むときに、17人のミステリ作家、評論家でアンケートを行った結果のオールタイム不可能犯罪ミステリ・ランキングで、ディクスン・カーの「三つの棺」 (ハヤカワ・ミステリ文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら)に次ぐ2位に輝いた作品です。選出にあたったのが、フレデリック・ダネイ、ハワード・ヘイクラフト、エドワード・D・ホック、リチャード・レビンソン&ウィリアム・リンク、フランシス・M・ネヴィンズJr.、ビル・プロンジーニ、ジュリアン・シモンズ、オットー・ペンズラーといった錚々たるメンバーなので、これは価値ある2位ですよね。
でもね、覚えていません......
「三つの棺」も新訳を読んでようやく凄さをしっかりと認識したくらいなので、「魔の淵」もいつか読み返さないといけないですね。

さて、この「絞首人の手伝い」 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)はデビュー作のようです。
帯には、
絶対不可能犯罪!
というステキな惹句が。

あらすじを読んでいただいてもわかると思いますが、カーかな? と思うくらい、怪奇趣味にあふれた作品で、ケレン味たっぷり。
日本では近年小島正樹がやりすぎコージーとして、やりすぎミステリを連発してくださっていますが、さすがにそこまでいかなくても、お腹一杯になるくらいの盛り込みぶりです。

まずもって舞台となる島の名がクラーケン島(!)。
「北欧の、古い怪物の伝説に由来しているのよ。島と同じぐらいの大きさをしていて、通る船、通る船を飲みこんでは、海中のねぐらまで運び、ゆっくり時間をかけて、船員たちの骨をもぐもぐ食べたとか」(25ページ)
近くには、<絞首人の入り江>と呼ばれる場所まである。
<オッド>と呼ばれる悪霊の呪いで死ぬ、死体が死後数時間で見分けのつかないくらい腐る、探偵役のローガンがウンディーネ(水の多いところに棲む自然界の精霊)に密室状態で襲われる......

いずれも豪胆に解決されます。
(実は、死体が腐る謎も、ウンディーネに襲われる密室も、疑問点があるのですが、ネタバレなので、最後に書いておきます)

こういう力技のミステリ、楽しいですよね。
個人的には、探偵役のローガンよりも、ボビーの活躍がお気に入りです。

ちなみにタイトルの<絞首人の手伝い>とは、早々に21ページに出てくるのですが、正確な意味合いは開かされないまま、どんどん物語が進んでいきます。
85ページには、探偵役のローガンがどんなものだろうと空想をめぐらすシーンまであります。
実際にはっきりとその意味が書かれるのはなんと240ページ!
ここで明かしても問題ないとは思いますが、念のため色を変えておきます。
それはだれかではなく--なにかなんです--つまり、潮流(カレント)なんですよ(240ページ)
「ここの海岸に沿って北に向かう海流があるんだ。」 「メキシコ湾流のミニチュア版みたいなものさ。メイクピースがいうには、それはときおり溺死体を<絞首台の入り江>と呼ばれる場所まで運んでいくそうだ。名前がそこから来てるのは明らかだよ」(241ページ)
ちなみに、<絞首人の手伝い>は、謎解きの場面でも大きくクローズアップされます。まあ、そうでなかったらタイトルにならないでしょうけれど。


訳者あとがきによると、タルボットの第三長編の原稿は出版を断られたあと散逸してしまったらしいです。ああ、もったいない。

<おまけ>
奥付が2008年5月のこの本、大きめの帯がつけられています。
当時ポケミスの象徴だった抽象画の表紙の上に、写真をあしらった帯がかかっていて表側は印象深かったのですが、裏側は帯が大きすぎ、あらすじが隠れてしまっていて、「しかも怪異は続」までしか見えません。ポケミスってビニールがかかっていて帯を外すのが大変なので、本屋さんで実物を手に取ってもあらすじを最後まで確認するのが大変です。というか、ビニールを外すのは気が引けてできません。
困るなぁ、これ。


<蛇足1>
「なんだかびびってしまうのよね」(24ページ)
なかなか斬新な訳だなぁ、と思いました。
びびるって、なかなか翻訳ものではみない表現ですよね。ひょっとしたら日本語の小説でもあまり見ないかも。
それなりに古い表現のようですが、もともと関西方面の方言らしいですし、小説で使うにはちょっとどうかな、と思えますね。
ちなみに、この表現平安時代からあった、という説があるそうですが、それは嘘らしいです。
四次元ことばブログの『「びびる」の嘘語源を正す 「平安時代から」はガセ』というページです。(いつもながらの勝手リンクです。すみません)

<蛇足2>
「思いきり拝聴させていただきますよ」(116ページ)
拝見や拝読で同じような表現をよく耳にしますが、日本語としては間違っているので、小説では避けてもらいたいですね。

<蛇足3>
「ミス・ガーウッドもその場に居合わせ、彼女の友人が誤って水銀の塩化物を摂取してしまって以来、どんな類の薬も服用できなくなってしまったといった」
「やつは、自分の薬は水銀の塩化物ではなく塩化第一水銀だといいましたよ」
「水銀の塩化物というのは塩化第一水銀にほかならないというだけけですよ。毒性のあるのは塩化第二水銀のほうです。」(123ページ)
ここの意味がわかりませんでした。訳のせいでしょうか? 原文が悪いのでしょうか?


原題:The Hangman's Handyman
作者:Hake Talbot
刊行:1942年
訳者:森英俊


ーー 以下、ネタバレです ーー

<ネタバレ>の疑問


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