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’Cause You're My Boy [タイ・ドラマ]

タイのドラマ「’Cause You're My Boy」の感想です。



Theory of Love」の感想に書きましたように、「Our Skyy」を観る予習として、「Theory of Love」に続いて観ました。
いうまでもなく? ボーイズラブです。

MyDramaListによると、2018年6月から9月にかけて GMM One で放映されたようです。
YouTube に、GMM TV によりアップされています。
EP1 から EP12 まで、各エピソード45分くらいです。
YouTubeでは、各エピソード4分割されていまして、合計48本ですね。
こちらは日本語の字幕は部分的に用意されています。英語で観たほうが無難かもしれません。
YouTubeに行ってみていただければわかりますが、「อาตี๋ของผม」というのがタイ原語のタイトルのようです。
英語タイトルは、このブログのタイトルにも使った「’Cause You're My Boy」のほかに、「My Tee」というのも使われているようです。

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主演はこの2人。
どちらも「2gether」(感想ページはこちら)に出ていましたね。
向かって左がサラワットの弟役だった Thanatsaran Samthonglai。ニックネームは Frank。
「’Cause You're My Boy」では、主役の Tee です。学校のマーチングバンドのドラムメジャーをつとめるイケメン高校生という役どころ。
向かって右がサラワットの恋敵(?) の Dim先輩役だった Sattabut Laedeke、ニックネームは Drake。
「’Cause You're My Boy」では、主役の Mork です。憎めないやんちゃ坊主的な設定だと思われます。
視点は Tee よりも Mork の方が多いのでまさしく中心人物。

上の告知、内容と関係ないわけじゃないけど、そこかよとツッコミなるようなシロモノで、ちゃんと作れよ、と言いたくなります。告知、もう1パターンあるようなので掲げておきますが、こちらも、ふたりの表情がいかにもいけてない。

24Np2f.jpg

正直申し上げて、告知もダメだし、「’Cause You're My Boy」というドラマ自体も駄作です。
まず、脚本がどうしようもない。
興味深そうなエピソードや登場人物はいるのですが、それがちっとも有機的に結びつかない。
エピソードがただただ羅列されていくだけで、連関しない。プロットというものが存在しないかのよう。ストーリーもなんだかいい加減です。

さらに、申し訳ないのですが、主演二人が大根です。
まあ、若い俳優さんだし、その後の出演作(たとえば「2gether」)を観るとはるかに上手になっていらっしゃいますので、この二人に対してどうこうはありませんが、演技指導というか演出はもっとなんとかなったんじゃないかと思わずにはいられません。

EP1を観て投げ出した人続出なんじゃないかと心配してしまいます。
なんですが、最後まで観てしまいました。
なんというのか、親戚の田舎の子供が出ている学芸会の鑑賞気分というのか、駄作だというのはわかりきっているのに、観ていると、こう温かく見守っていこうという気になってしまいました(苦笑)。



この予告編、日本語字幕がなく英語字幕しかありませんが、これ観てもおもしろそうではないですよね(笑)。

Morkの父がやっている散髪屋さんに、Tee がやってくる。ひょんなことから Mork が Tee の髪を切り、悲惨な髪形に。翌日学校で二人は喧嘩となる。Tee はトイレ掃除の罰を受ける。Mork が Tee に嫌がらせ = Tee がデートしているときに、「頼まれていたゲイDVDだ」と言ってDVDを彼女の目の前で渡して誤解させる。Tee は Mork に埋め合わせをしろという。それは、彼女の気をひくためゲイカップルのふりをしろというものだった。

ここまででついていける方、いらっしゃいますでしょうか?
EP2の最初のところまでなんですが。このあとも、この調子でつながりのよくわからないエピソード続出です。
いったいどうして、Tee と Mork はお互いを好きになったのやら??
まあ、なんにぜよ、Tee と Mork 、うまくいってよかったね。

このドラマ、もう一組カップルが登場します。
Mork の弟 Morn とその友人 Gorn のカップルです。
2枚目の告知の下段に小さな顔写真が並んでいますが、その右から3人目が Morn 。その右が Gorn。
無邪気な弟ということで「精液」という単語も知らない純真な感じに設定されています。
演じているのは Phuwin Tangsakyuen。彼、「The Gifted Graduation」(感想ページはこちら)で、M5 The Gifted の Darin 役をやっていた俳優さんです。
ひょっとしたら、Morn という役どころが素に近いのかもしれませんが、非常にナチュラルな感じで、演技がうまいのではないかな、と思いました。
対する Gorn を演じているのは Trai Nimtawat,、ニックネームが Neo。
ちょっと屈折した感情を秘めた役どころですが、すんなり演じているように見受けられました。
この二人、実はこっそり(?)カップルとして「The Dark Blue Kiss」(感想ページはこちらこち)にゲスト出演しています。
この二人のパートはエピソードがとびとびで、かつ Tee & Mork パートと同様それぞれのエピソードのつながり、連関もでたらめという状況なので分かりにくくはなっているのですが、むしろ細かく描かれない分でたらめ度合いが薄まって(相互の脈略のなさに悩む必要が少なくなって)、Tee と Mork よりもすんなり納得できました。

このドラマでよかったと思ったのは脇役の俳優さんたち。
ベテラン勢はもちろんとして、特にいいなと思ったのが、Mork の友人役の二人。

一人は、AJ。「The Gifted」に出ていた双子のうち、「2gether」に出ていないほうです。
上の告知では、右から4番目に写真があります。
出番は多くなかったですが、印象に残りました。

そして一番いいなと思ったのが Thanawat Rattanakitpaisan。ニックネームが Khaotung。
「2gether」で、タインの友人フォンを演じていた俳優です。上の告知では一番右。
彼は素晴らしいですね。「2gether」も印象的な役どころでしたが、ナチュラルだし表情豊かだし、この「’Cause You are My Boy」は演技力があるなぁ、と思ってみていました。
いま、彼を主演に据えたボーイズラブドラマ「Tonhon Chonlatee」が放送されているようで、観てみようかなと思いました。

ということで、ドラマそのものの出来はいまいちですが、幸い、メインカップルの Tee と Mork は、「Our Skyy」にも組み込まれるくらいですから人気があったようですね。
よかった、よかった。
このような作品も最後まで楽しんで観てしまうようになったほど、ぼくもタイ・ドラマに浸っているということなのでしょう......


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Theory of Love [タイ・ドラマ]

タイのドラマ「Theory of Love」の感想です。



「Kiss」(感想ページはこちら
「Kiss me again」(感想ページはこちらこちら
「Dark Blue Kiss」(感想ページはこちらこちら
とKiss シリーズ(というのかな?)を観てきた次は、「Our Skyy」というのを観ようと思っていたのですが、この「Our Skyy」、GMM TVのいろいろなドラマの番外編 5つを集めたもの、という感じになっていまして、未だ観ていなかったドラマのカップルも出てきます。
「Kiss」 のピートとカオ、「SOTUS 」(感想ページはこちらこちら)のアーティットとコングホップ、この2組は観ているのですが、その他の3組のオリジナルドラマの方を観ていないので、先にそちらを観ようと。

ということで、「Theory of Love」。
ボーイズラブです。

MyDramaListによると、2019年6月から8月にかけて GMM 25 で放映されたようです。
YouTube に、GMM TV によりアップされています。
EP1 から EP12 まで、各エピソード50分くらいです。
YouTubeでは、各エピソード4分割されていまして、合計48本ですね。
こちらは日本語の字幕もいくつかのエピソードで用意されていたのですが、基本的には日本語字幕はありません。
YouTube ↑ のリンクは、GMM TVの Theory of Love のリストのページです。

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4人とも大学の映画学科(だと思います)の生徒で、4人でつるんでいる。人気者たち、という設定です。
メインをつとめるのは、椅子に座っている二人です。
向かって左が Third(サード)。脚本担当。
次に紹介するカイのことが好きで、そのことをずっと隠しながら、カイのことをサポートし続けてきています。
演じているのは Atthaphan Phunsawat、ニックネームは Gun。
「The Gifted」「The Gifted Graduation」(感想ページはこちら)で Punn(プン)役をやっていた俳優さんです。
右側は Khai(カイ)。音声担当。
プレイボーイ、遊び人という感じ。
演じているのは Jumpol Adulkittiporn、ニックネームは Off。
この二人、あわせて OffGun(オフガン) と呼ばれていまして、人気のカップルのようです。
「The Shipper」(感想ページはこちらなど)に、カップルとしてこっそり(?) ゲスト出演していたりします。
「Our Skyy」も彼らのエピソードです。

立っているのが Two(トゥー)。カメラ(撮影)担当。
演じているのは Nawat Phumphothingam、ニックネームは White。
今までご紹介した中では、「REMINDERS」(感想ページはこちら)に出ていましたね。

座っているのは Bone(ボーン)。編集担当。
演じているのは Chinnarat Siriphongchawalit、ニックネームは Mike。
「2gether」(感想ページはこちら)で、サラワットの友人 Man(マン)を演じていました。
このドラマではストレート恋愛担当になっています。

4人が映画学科で、映画製作をしている、ということもあって、古今の映画がいくつか出てきます(もっとふんだんにちりばめていたほうがよかったのに、と思ったのは余談)。
タイトルの「Theory of Love」は、直訳すれば、恋愛の理論、ですが、恋を勝ち取るためにどうすればよいか、の方法論的な感じです。日本で言われるパターンでいうと、恋愛の(必勝)方程式、みたいな感じ? (この文脈では、方程式の意味が本来の意味とは違いますが、こういう使われ方、よくしますよね)



この予告編、日本語字幕がついているので、観ていただくと雰囲気がつかめるかな、と思います。

サードからカイへの想いがどんどん募っていく。
思いを打ち明けようとしてみても、いろいろな理由からカイには届かない。
定番中の定番の展開を見せますが、面白いのは、サードが、このままでは二人に幸せな将来はない、とカイへの想いを振り切り、忘れようとしたときに、カイの方がサードの想いを知り(EP6あたりです)、自分の中のサードへの想いに気づく、という、立場逆転が訪れることです。

そこからは、チャラい恋愛のプロ(?)であるカイがサードをかき口説くという展開に。
ただ、いままで身勝手で遊びまわっていたツケからか、サードになかなか信用してもらえない。

ちょっとしたハプニングからサードに信じてもらえるようになったのに、身から出た錆で別のハプニングによって信用を(また)なくしてしまう。
仲間たちも見放すような状況に。
さて、どう巻き返すのか?

物語の前半、後半で中心となる視点人物が入れ替わるというおもしろい枠組みになっています(前半はサード、後半はカイ)。
前半でしっかりサードが描かれているので、視点がカイに移ってからもサードの心の動きは想像がつきやすくなっていて、一層物語が立体的に感じられました。
基本はサードがいいやつなので、カイの想いは届くのだろう、と思えるのですが、このあたりのバランスがおもしろいですね。

最後の信頼を勝ち得る場面で、「Theory of Love」がどう活かされるのか、活かされないのか、注目です。

おもしろく観ましたが、不満を書いておくと、前半サードの視点で描かれるカイがあまりにも身勝手というか、友達甲斐がない人物として描かれすぎだな、と。これでは、サードがカイのことを好きになったのが不思議です。カイの良さがわからない。一目惚れだった、ということなのかもしれませんが......
これは、後半との対比という意味でそうしたのかな、と推察していますが、身勝手な人物でも、ふと見せるやさしさとか気遣いなどが描かれていれば、もっともっと納得感があったと思います。

トゥー、ボーンもそれぞれ恋愛模様が描かれるのですが、トゥーのエピソードはもうちょっと積み重ねてもらわないと、Lynn(リン。女性です)への想いからボーイズラブへ振り替わるところがちょっと物足りないな、と思えました。
ちなみに、リンを演じているのは、Neen Suwanamas。「SOTUS 」でメイ役を演じていた女優さんです。
さらにちなみに、トゥーの相手役は Pirapat Watthanasetsiri、ニックネームは Earth。「Love by chance」(感想ページはこちらこちら)で、Techno先輩の仲間であるType を演じていた俳優さんです。「Kiss me Again」(感想ページはこちらこちら)では長姉サンスェイの相手役を演じていました。

ボーンは、いやあ、かっこいいです。本人にはつらかったかもしれませんが、男前エピソードですよね。彼のスピンアウトがあってもいいのでは、と思える出来栄えーーただ、ボーイズラブにはなりませんが......

GMM TVの常として、パイロット版の予告編があります。



わりと忠実にこのパイロット版そのままにドラマ化された感じがします。

おもしろいのは、このドラマの別の俳優さんたちによる予告編がYouTubeにあります。
それは、「The Gifted」「The Gifted Graduation」(感想ページはこちら)の主演 Nanon(ナノン)とChimon(シモン)によるVersionです。
これ、GMM TVではなくて、ファンがアップしているもののようで、また、使われている映像が「The Gifted」などほかのドラマから流用したものを組み合わせてあるので、ファンの方が勝手に作ったものですね。おもしろい。
[EngSub] ทฤษฎีจีบเธอ _ #ลักยิ้มกินพีช, #นนนชิม่อน で検索すると出てくると思います。
Nanon(ナノン)とChimon(シモン)だったら、どういうドラマになっていたのか、ちょっと興味があります。

ところで気になったのは、映画「FLIPPED」。
劇中で、サードが一番好きな映画として出てくるのですが、日本未公開のようですね。
作中人物の選択とはいえ、映画学科の学生がベスト1 に選出するような映画が日本未公開......
この映画も観てみたいです。


タグ:タイBL
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箱とキツネと、パイナップル [日本の作家 ま行]


箱とキツネと、パイナップル

箱とキツネと、パイナップル

  • 作者: 美涼, 村木
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2020/01/30
  • メディア: 単行本

<帯から>
大学を卒業したばかりの僕の新居は、一見普通のアパート・カスミ荘。でも、住人は揃って個性豊かだし、怪現象も続くし…。この土地はキツネに祟られているという噂まであるらしい。一体ここはどうなってるの!?
ようこそ、カスミ荘へ。楽しい隣人とたっぷりの不思議があなたを待っています。新潮ミステリー大賞優秀賞受賞作品。


単行本です。
新潮ミステリー大賞優秀賞受賞作。
作者の村木美涼さんは、「窓から見える最初のもの」(早川書房)(感想ページはこちら)で第7回アガサ・クリスティー賞を受賞しています。

帯に
「これって果たしてミステリ?
 選考委員、激論!
 ……でも、この雰囲気は捨てがたい。」
とありまして......ミステリ好きとしては不安になりますよね。
既読の「窓から見える最初のもの」もミステリ味はとても薄かったですし。
「窓から見える最初のもの」と比較すると、ミステリ味は濃くなっていますが、ギリギリかもしれませんね。

タイトルが、三題噺かな、と思えるような形になっていますが、章題といえる部分も
第一週 回覧板とバスケットシューズ
第二週 コンビニとハイヒール
第三週 立札と目玉焼き
第四週 桃と玄関チャイム
第五週 分電盤とジョギングと、パイナップル
となっていて、風変わりな組み合わせが続いています。
となると、意外な組み合わせが意外な結びつきを見せて驚かせてくれる、というのがミステリ的には普通なんですが、この作品の並べ方、結びつき方は、意外感がありません......

なにより不思議だなぁ、と思うのは、この作品、ミステリっぽく仕立てることもできるように思えるからです。
意外感も、演出することは可能な気がしてなりません。

変わった住人たちとの交流、怪しげな空き地をめぐるエピソード。
風変わりな日常が、徐々にねじれていく展開。

なのに、作者はミステリらしくする道を選んでいない。あえてミステリらしさを捨てているのかもしれません。

特筆すべきはやはり、温かい雰囲気が醸されていること。
登場人物たちにまた逢いたいな、と思えました。

もう少しミステリに寄った作品を書いてもらえるとうれしいな。
なんといっても、新潮ミステリー大賞、アガサ・クリスティー賞作家なのですから。


<蛇足>
「窓を開けると雑草ばかりというのも考えものだが、窓を開けるとお稲荷様というのは、もっと考えものだろう。」(173ページ)
そうなんでしょうか? あまりお稲荷様に悪いイメージはないのですが......









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亡者の金 [海外の作家 は行]


亡者の金 (論創海外ミステリ)

亡者の金 (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/12/22
  • メディア: 単行本

論創社HPの内容紹介から>
かつて英国読書界を風靡し、アメリカ大統領にも絶賛された往年の人気作家、約半世紀ぶりの邦訳書。
大金を遺して死んだ怪しげな下宿人。
狡猾な策士に翻弄される青年が命を賭けた謎解きに挑む! 


論創ミステリ、単行本です。
J・S・フレッチャーの本を読むのは「ミドル・テンプルの殺人」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)に次いで2冊目ですが、翻訳されたのはこの「亡者の金」 (論創海外ミステリ)の方が先でした。

結論を先に言ってしまうと、面白かったです。
本格ミステリとしてどうか、と言われると弱い作品ですが、サスペンスにあふれていますし、主人公が冒険に乗り出すところも楽しく読めます。
いわゆる”通俗的”な作品としてとても楽しかったです。

すごくあっさりと犯人の見当がつき、そのまま進んでいくのが難点、ということだと思いますが、一方で、そのおかげでサスペンスが高まってきますので、一概にダメといえないのでは、と考えています。
主人公の頭が悪いことも(悪いと言ってしまってはいけないかもしれませんね。訳者あとがきで書かれているように、お人好し程度の表現がいいのかな?)気になるといえば気になるのですが、サスペンスものとして特に際立って頭が悪いわけでもないですし、主人公が隠し事をするのも常套的ながら手堅い感じがします。
主人公のする選択・行動に「おいおい、それはないだろ」と何度もツッコミを入れたくなりますが、この種のサスペンスの正攻法と言えば正攻法ですし。
繰り返しになりますが、”通俗的”な作品として、いいなと思えます。

田舎を舞台にした、のどかな田園ミステリ(って言い方があるのかどうか知りませんが....)といった趣きの出だしから、想定外に物語が拡がっていくところも高ポイントだと思いました。
ちょっと冒険小説っぽい部分(あくまで「っぽい」ってだけですが)があるのも、意外と好印象です。

J・S・フレッチャー、いいですね。
もっともっと訳してもらえるととてもうれしいです。



原題:Dead Men's Money
作者:J. S. Fletcher
刊行:1920年
訳者:水野恵




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厚かましいアリバイ [海外の作家 か行]


厚かましいアリバイ (論創海外ミステリ)

厚かましいアリバイ (論創海外ミステリ)

  • 出版社/メーカー: 論創社
  • 発売日: 2020/12/21
  • メディア: 単行本



論創海外ミステリ169。単行本です。
C・デイリー・キングのABC三部作のうち、「いい加減な遺骸」 (論創海外ミステリ)(感想ページはこちら)に続く第2作です。
このあと「間に合わせの埋葬」 (論創海外ミステリ)が第3作です。

前作「いい加減な遺骸」は、ちょっと見過ごせないほどの大きな欠点があるものの、なぜか嫌いにはなれないという、ある意味愛すべき作品だったように思ったのですが、さて、今度の「厚かましいアリバイ」 (論創海外ミステリ)はどうでしょうか?

あらすじがどこにもないのですが、帯に
「洪水で孤立した村
 館で起きる密室殺人
 容疑者全員には完璧なアリバイがあった」
と書かれています。

解説では、森英俊が
「密室にアリバイ崩し、ダイイング・メッセージ」に奇妙な凶器、邸の見取り図に関係者のアリバイ一覧表、複数の仮説に誤った推理という、パズラー・ファンにはたまらない御馳走がいくつも盛り込まれており、読むものを最後まで飽きさせない」
と書いているように、盛沢山です。
(ところで、解説で「タラントとその相棒であるポンズ博士」と書いてあるのですが、ロードとポンズ博士の間違いではなかろうかと思います)

ただ、今回もトリックはちょっと問題あり、でしたね。
当時のアメリカの事情が(こちらには)わからないから、というのも理由のひとつかとは思うのですが、294ページからの解決シーンでもちょっとピンとこない。伏線として書かれたとおぼしき部分(231ページ~)を読んでもよくわからない......これに関しては大胆な示唆となるダイイングメッセージが残されているので感心するところだと思うのですが、正直感心できなくて困ってしまいました。もったいない。リアルタイムでアメリカに住んでいたら、感心できたのだろうな、と思えます。

ほかのトリックも、まず平凡というか、さほど思い切ったものはないのですが、全体を通してみると、引用した森英俊の解説にもあるように、ミステリファンをくすぐる趣向盛沢山で、かつ、細かいけれども細かい点でいろいろと考えられていることがわかるようになっていまして、満足できました。

最後に、前作「いい加減な遺骸」の日本語がとてもぎこちなくて、読みにくかったことを指摘しましたが、訳者は変わっているものの本書「厚かましいアリバイ」も読みにくかったです。
「証拠は既知の情報から論理的な消去を重ねて出てくる。」(220ページ)
どういうことでしょう? なんとなくわかる気がするのですが、この部分、ロードとポンズ博士が意見を交わすとても興味深いところで、間違いなく明確、論理的に解釈できるはずなのに、消化不良に陥ってしまいました。

シリーズ最終作「間に合わせの埋葬」も楽しみです。




原題:Arrogant Alibi
作者:C Daly King
刊行:1938年
訳者:福森典子




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日本で免税の買い物2 (2020年末) [イギリス・ロンドンの話題]

日本に一時帰国していたことを昨日報告しましたが、前回の一時帰国に続いて日本で免税で買い物をしたことを記録しておきます。
前回の一時帰国(2019年1月)で「日本で免税の買い物」と題して記事をアップしましたが、その第2弾です。

001069965.png

制度は変わっていないので、前回の記事をご参照ください。
今回も、日本入国の際、関空で入国スタンプを押してもらって準備万端(笑)。

今回実際に免税で買い物をしたのは、
マツモトキヨシ(食品、コンタクト用品、医薬品など)、
伊勢丹(衣料品)
ドン・キホーテ(食品、雑貨など)
丸善@日本橋(書籍)
の4ヶ店。

免税のパターンとしては、
①レジの段階で免税金額で買い物をするタイプ:マツモトキヨシ、ドン・キホーテ、丸善
②普通に会計したあと、免税カウンターで返金手続きをするタイプ:伊勢丹
伊勢丹は免税手数料がかかり、現金で返金されました。(カードに戻し入れするタイプも取り扱っているようです)
また伊勢丹は電子化しているということで、パスポートに記録票を添付することなく免税の手続きが進みました。(でも、パスポートは確認されますので、買い物に際しパスポートを持っていくことは必須です)

マツモトキヨシとドン・キホーテでは、消耗品も免税にしましたので、パッキングされます。
ドン・キホーテでは、嵩ばるものを買いましたので、スーツケース等に入れやすいように、パッキングを親切に2つに分けてくれました。助かりました。
ありがとう、ドン・キホーテ京都アバンティ店の係りの人。

前回、新宿紀伊国屋を利用した、本の購入は、今回、丸善を利用。
丸善、ジュンク堂も免税やっていました。前回の時点では気づかなかったのですが......当時ネットで調べたはずで、免税関連は見つけられなかったのですが。やっていたのかな?
利用した丸善日本橋店では、書籍売り場ではなく、1階の物品売り場での会計でした。
文庫本ばっかりの細かい買い物で恐縮でしたが、とても親切でした。よかったぁ。

出国時(今回は@関空)の物品チェックは、今回もありませんでした。
今回も税関の人、親切でした。最近はみなさんそうなのでしょうか?
ホチキスやテープでパスポートにとめられているレシートなどを今回も丁寧にとってくれました。ありがとう!

今回、楽天市場や Amazon でも大量に買い物をしました。
特に、楽天の方は、買い回りでポイントアップというタイミングにぶつかり、10店以上で買い物をしましたので、10%相当以上のポイント付与となりました。
ひょっとしたら免税で買ったものも、こちらのポイントアップを活用した方がお得だったのかもしれませんね......
とはいえ、免税はその場で減額されるのに対し、ポイント付与では後日そのポイントを使用しなければいけないですし、ポイントの大半は期間限定ポイントとなり自由度が低いので、免税店で免税手続きをした方がよいという考え方もありますね。
前回触れた家電系もそうですが、免税にするか、ポイントにするか、は自分に合わせて慎重に検討しないといけませんね。




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一時帰国していました [イギリス・ロンドンの話題]

11月末から先週まで、一時帰国で日本に帰っていました。
COVID-19 下の一時帰国ということで、記念に? 書いておこうと思います。
(このブログはその間、以前に書き溜めていたものを予約投稿でアップしておりました)
日本に帰るのは、前回の一時帰国2018年末&2019年初 以来でしたので、ほぼ2年ぶりの帰国でした。

まず、フライトの選定が大変でした。
「水際対策の抜本的強化について(新型コロナウイルス感染症)」というお触れが日本政府から出ていまして(厚生省のHPにリンクをはっています)、日本入国の際は、空港に着いたあと、公共交通機関が使用できません(要請、なので無視することも可能かとは思いますが......そこは、ねぇ?)。
ぼくの実家は関西でして、羽田・成田を利用してしまうと、そこからの足が困ります。
とすると関空を利用ということになるのですが(関空までは自宅から迎えに来てもらいました)、現在、ロンドンから関空への直行便がありません。
どこかで乗り継ぎをしないといけないということになります。

一方で、当地イギリスの規制の関係で、ヨーロッパ各地や中東などの乗り継ぎを利用すると、イギリスにもどってきた際に2週間の自己隔離が必要です。こちらは日本と違い強制です。
なので、韓国、香港、シンガポール等(イギリスから見て)安全と思われている地域での乗り換えを検討することとなります。
そこで選んだのがシンガポール。

シンガポールのチャンギ空港での乗り換えは、シンガポールのCOVID-19対策が厳しいこともあって厳格でした。
まず、飛行機から降りるのはトランジット客が先で、係員に誘導されまとめて空港での隔離スペースへ移動し、そこで待機です。

DSC_0200.JPG
防御服?を来た人のあたりに、柵が設けてありますが、その柵よりこちら側にしか居ることはできません。
なので、乗り継ぎ時間が何時間あろうと、ショッピング等はできません。オンラインで注文し、この隔離場所へ届けてもらうということはできるようですが......
フライトの搭乗時間が近くなると、フライトごとに案内があり、これまた係員に誘導されまとまってゲートへ移動。関空行きのフライトでは、他の乗客よりも先に乗り込みました。
ちなみに、トイレも隔離エリアのものしか使用させてもらえませんので、ゲートへ移動後ゲート近辺のトイレを使うことはできません。
行きも帰りも、トイレに行きたいと係員に頼んだりクレームしたりする人がいましたが、それくらい予想してちゃんと事前に済ませておけよ、と個人的には思っていました。

日本に入国した際も、優先的に降機し、係員に誘導されて検査場へ。唾液採取の上検査です。
シンガポールは検査除外対象ですが、イギリスからということで検査します。
(フライトがシンガポールからということで、検査対象者の数も少なかったですね。11名が検査を受けました。)
唾液採取の場所に、梅干しとレモンの絵が掲げてあったのは笑えました。
陽性になってしまうと、指定場所での隔離。
陰性だと自宅等自分で手配するところで2週間隔離となります。陰性なんだから隔離いらないよね、と言いたいところですが、潜伏期間もありますし、やむを得ないのでしょうね。

30分ほど待ったところで無事陰性となりまして、自宅隔離とあいなりました。
2週間の間、(隔離場所所在地管轄の)保健所と連絡を取ることになります。
僕の場合は、メールで毎日、体温と異常の有無を報告しました。

その後、2週間の喪が明けてから、通常の活動開始です。
新幹線で東京にも行きました。
とても驚いたのは、街に人が多いこと。
昔(COVID-19 前)に比べたらそれでも少なくはなっているのですが、電車なども普通に満員電車状態です。
最近、近くに知らない人が来る、いるという状況を経験していなかったので、日本では本当にびっくりしました。ソーシャル・ディスタンス、日本では無理ですね。
エスカレーターやエレベーターも、普通に乗っていますよね。距離を空けたり、制限したりはあまりしていないように思いました。
一方で、街中でのマスク着用率の高さはさすがだな、と。

日本滞在中、日本では感染者数が急増しているとかで大騒ぎで、かつ、Go Toキャンペーンの停止など騒がれていましたが、そして油断は禁物なのだとは思いましたが、こちらの感覚からすると桁違いの少なさなので、まだまだそこまで大騒ぎすることもないのでは、と思いました。
いや、本当に、あの人込み具合で、この感染者数の少なさ。すごいことです。
それに、気にすべきは感染者数ではなく、重病者・死亡者数なのでは、とも。
また、Go Toキャンペーン停止の決断が遅い、停止するなら計画的に、という声も上がっていたようですが、こちらではロックダウンにせよ、隔離にせよ、数日前のアナウンスでも普通なので、日本のやり方で十分なのでは、と思ってしまいました。
なんとなく、批判している人たちは、批判するためだけに批判しているような気がしてしまいます。

一方で、その程度の感染者数で、医療崩壊とか病院のベッド数が足りないとか言っているのは、かなり違和感がありました。
以前から本当に必要な人のみが入院しているのか? そこから医療体制そのものを見直すべきなのでは、という気がします。
通常のインフルエンザの感染者が例年より少ないという話も聞きますし、「医療崩壊」という視点からは、どこか何かが間違っているのでは、と思ってしまいました。

帰りも再び関空発シンガポール乗り換えで、ロンドンに戻ってきました。
ちなみに、フライトはがらがらです。

DSC_0175.JPG

この写真は、行きのロンドン→シンガポール分ですが、どの4区間も似たようなものでした。
がらがらでも、飛行機の中はずーっとマスク着用しなければなりません。苦痛だ......(この種のルールは航空会社によって違うようですが、マスク着用はどこも共通かなと思われます)

ロンドンは、日本滞在中にロックダウン解除となっていましたが、一方で12月21日から 規制のTier4 とかいって、ロックダウン同等の厳しい規制となってしまいました。
変種COVID-19とかで厳戒態勢。ヨーロッパの他の国もイギリスからの入国を禁止する措置に踏み切っています。
この後、年末年始に日本へ帰る予定を立てている人たち、大丈夫かな?

しばらくは厳しい状況が続くのでしょうね。


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憂国のモリアーティ 10 [コミック 三好輝]


憂国のモリアーティ 10 (ジャンプコミックス)

憂国のモリアーティ 10 (ジャンプコミックス)

  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2019/11/01
  • メディア: コミック

<カバー裏あらすじ>
白馬の騎士を待つ残酷な“選択”とは──
命の危険を顧みず、人々の平等のために戦うホワイトリー議員。
ウィリアムは同じ志を持つ者として、その覚悟を確かめるべく、貴族院を窮地に追い込む“証拠”をホワイトリーに託す。
爆破殺人未遂事件以降、その身辺に危機が迫る中、“証拠”という力を得たホワイトリーが選ぶ行動とは…!?
清廉なる志の先に待つのは、天使か悪魔か──


シリーズ第10巻。
表紙は、ハドソン夫人。
巻末のおまけまんがで、コミックの表紙を誰がつとめるかが扱われていて笑ってしまいました。


#36、37、38 ロンドンの騎士 第二幕、第三幕、第四幕(The White Knight of London Act 2, Act 3, Act 4)
#39 闇に閉ざされた街(The Dark Night of London)
を収録。

「ロンドンの騎士」は、「憂国のモリアーティ 9」 (ジャンプコミックス)に続いて、白馬の騎士たる、平等実現を目指すホワイトリー議員をめぐる物語です。
ホワイトリー議員、かなり現代的な人物に描かれていまして、この「憂国のモリアーティ」時代背景であるヴィクトリア時代というよりもむしろ、今現在生きている人物のような考え方をしています。
その意味で、モリアーティたちと同類なわけですね。
そのホワイトリー議員に、ミルヴァートンの魔の手が迫る。

ミルヴァートン、かなり象徴的な人物で、今後も大きくモリアーティの前に立ちはだかることでしょう。
「悪魔は何故人を誘惑し悪に手を染めさせようとするのか
 答えは簡単だ
 彼らにとっては善き行いをする者に悪事を働かせることこそが最高の娯楽だからだ」
「私は悪そのもの…
 人を堕落させ悪事に手を染めさせることが何よりの愉悦…!」
なんという嫌な奴。

追い詰められてしまったホワイトリー議員のとる行動(ネタバレになるので書かずにおきます)は理解できるのですが、ホワイトリー議員なら別の行動をしたんじゃないかな、と思えてなりません。
さておき、それで窮地に陥ったホワイトリー議員に対して、モリアーティたちがとる対策が、これまた苛烈ですけれども、こちらはモリアーティたちがやりそうなことです。

そして「闇に閉ざされた街」に続きます。
モリアーティたちのとった対策に対して、ミルヴァートンの反応、そして、シャーロック・ホームズの反応となります。
ホームズが構図を正確に見抜いていることが判明しますね。
作中で、ホームズの兄マイクロフトが指摘しているように、今後のモリアーティの活動にはかなりの難路が想定されますし、物語の着地をどこに持っていくのか、とても興味深くなってきました。
そして最後に爆弾投下。
ワトソンがメアリーと結婚することが、ハドソン夫人とホームズに告げられます。
こっちの展開も興味深そうですよね。



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御手洗潔と進々堂珈琲 [日本の作家 島田荘司]


御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)

御手洗潔と進々堂珈琲 (新潮文庫nex)

  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2015/01/28
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
京都の喫茶店「進々堂」で若き御手洗潔が語る物語(ミステリー)。
進々堂。京都大学の裏に佇む老舗珈琲店に、世界一周の旅を終えた若き御手洗潔は、日々顔を出していた。彼の話を聞くため、予備校生のサトルは足繁く店に通う――。西域と京都を結ぶ幻の桜。戦禍の空に消えた殺意。チンザノ・コークハイに秘められた記憶。名探偵となる前夜、京大生時代の御手洗が語る悲哀と郷愁に満ちた四つの物語。『進々堂世界一周 追憶のカシュガル』改題。


「進々堂ブレンド 1974」
「シェフィールドの奇跡」
「戻り橋と悲願花」
「追憶のカシュガル」
の4編収録の短編集です。

冒頭の「進々堂ブレンド 1974」は導入編。
ヴィックスの喉スプレーをきっかけに、予備校生のサトルの高校時代の思い出が語られます。
進々堂は、京大の北門近くに昔からある、昔ながらの喫茶店で、何度か行ったことありますね。今もあるのでしょうか?

そのあとは京大生時代の御手洗潔が、さらに振り返って自分が見聞した物語を予備校生に語って聞かせる、というフォーマットになっている異色の短編集です。

「シェフィールドの奇跡」は、脳性麻痺で学校ではいじめられっ子だったイギリスの少年が、周りの抵抗を受けながらも、重量挙げに活路を見出す話。

「戻り橋と悲願花」は、第二次世界大戦で皇民化教育を受け、日本へ渡ってつらい体験をした韓国人の話。風船爆弾で運ばれて(伏字にしておきます)ロサンゼルスで咲き誇る曼殊沙華の群生のイメージが鮮烈です。

「追憶のカシュガル」は、シルクロードの西域のウイグル族の街カシュガルで出会った、きれいなブリティッシュ・イングリッシュを話す嫌われ者の白いひげの老人の戦争のころの昔話。
「東洋文明と西洋文明の交差点」「南からのイギリス、北からのロシア、戦争と平和、友情と猜疑心が交錯する場所」と御手洗潔が説明するカシュガルの様子を垣間見ることができます。
印象的だったのは、冒頭の桜のエピソードでした。
昔の日本では、桜よりも梅が人気があった、花といえば梅だったというのは知識として知っていたのですが、ソメイヨシノの特異性については、ぼーっとしていました。
「どの木も葉っぱが全然なくて、すべての枝、木全体が白い花でびっしり埋まっている。真っ白だぜ。どの木もどの木もみんなそうだ。ぜんぶ同じ。」
「サクランボが生らない」(215ページ)
「こんなにすごい数の花があるのに、実が生ることはまれなんだ」「この木は子孫を残せない」(216ページ)
確かに......
駒込の染井村にできたたった一本の桜(ソメイヨシノ)を、接木で増やしていった......(216ページ~)
「これらは全部コピーなんだよ」
「こういうのをクローンというんだ」
「江戸の染井むの植木職人がたまたま探り当てた、たった一本の狂い咲きの桜だよ。それが人間の手で何十万本にも増やされて、人の手で日本全国に広がり、大増殖した、これが桜の持つ秘密だ」(220ページ)
なんだか、桜を見る目が変わってしまいそうです......

いずれの話も、ミステリというよりは、物語、お話といった趣で、だからこそ逆に御手洗潔ファンにはたまらないかもしれません。


<蛇足>
「追憶のカシュガル」で、ソメイヨシノについて何度か「狂い咲き」という表現がとられています。
異様な花の量を指して言っているものと思われますが、一般的に「狂い咲き」というのは、季節外れに咲く場合を指すので、通常とは違う使い方をあえてしているのでしょうね。おもしろいです。




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変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦 [日本の作家 樋口有介]


変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦 (祥伝社文庫)

変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦 (祥伝社文庫)

  • 作者: 樋口有介
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2019/11/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
元奥州白河藩士の倅・真木倩一郎は、朝顔を育てる優男の風貌とは裏腹に江戸随一の剣客。ある日幼馴染みの天野善次郎が新藩主・松平定信の命で来訪、倩一郎に前藩主のご落胤の噂があるという。定信からは帰参を乞われる中、船宿〈たき川〉の女将で、江戸の目明かしの総元締・米造の娘、お葉を助けたことで運命が一変。倩一郎は幕府も揺るがす暗闘に巻き込まれていく……。


ここから十一月に読んだ本の感想です。

「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 (祥伝社文庫)の新刊案内をみたとき、うわっ、久しぶりのシリーズ続刊だ!と勢い込んで注文しました。
届いた文庫本の巻末を見ると
「本作品は平成十九年八月、筑摩書房から刊行された『船宿たき川捕物暦』を、著者が改稿・修正したものです」
と書いてあって、あれれ、と思いました。
「変わり朝顔」などとタイトルに加わっているので、完全な新刊かと思ったら、改稿・改題だったんですね。
「船宿たき川捕物暦」だったら単行本で買って読んでいます。あーあ、買ってしまって少々勇み足、なんですが、改稿されているということですし、樋口有介の作品ですし、惜しいとは思いません。
面白かった記憶はあるものの、内容はすっかり忘れてしまっていますし、とても楽しく読みました。
(樋口有介の作品なら、なんでもOKなんですけどね)

捕り物帳自体あまり読んできていませんので、新鮮です。
「目明しとは要するに、ミミズという意味でございましてな」
「ミミズとは『目、見えず』から生まれた語とやら。このミミズを清国の文字で書きますと虫に丘、そしてまた虫に引、つづけて蚯蚓と書きます。丘は岡でございますから、岡っ引きとは蚯蚓という意味合い。目明しを地面の下でうごめく『目、見えず』と皮肉りまして、誰やらが手前どもの稼業を蔑んで云いはじめたものが、世間に広まったのでございましょう」(107ページ)
とか
「あっしの家では女房が線香屋、ほかの目明しも瀬戸物屋だの駄菓子屋だのを看板にしておりやすが、そんなものはみんな、建前でござんす。茶碗や駄菓子を売る片手間にお上の御用なんぞ、勤まるはずもござんせん」
「云ってみりゃ歌舞伎役者が成田屋だの音羽屋だの、お上向けに小間物や絵増資を商っているのと同じこと」(136ページ)
とかいうセリフも、しっかり勉強になります。
(時代小説ファン、捕り物帳ファンの方には常識なのかもしれませんが)

帯に
「溢れる江戸情緒
   ×
 巧みな仕掛け
   ×
 魅惑的な語り口」
と、すっきりまとめられている通りです。

特に仕掛け、というか、プロットが複雑なことはポイントとしてぜひ挙げておきたいです。
捕り物帳のイメージは短編なので、もっと単純なプロットが多いと思っており、一方この「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 は長編なので、それなりに複雑なプロットが必要になるのは当然なのですが、長編としても複雑なプロットを内包していますのでそんな印象を強く受けました。

さらに付言しておくと、「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 で物語は着地を見るのですが、もっと広がりを見せようなエンディングになっており、むしろこの「変わり朝顔 船宿たき川捕り物暦」 は、より広大なストーリーのプロローグなのでは、と思わせるかたちになっています。

続刊である「初めての梅 船宿たき川捕物暦」が出ていますので、楽しみです!

あとがきで
「本作を筑摩書房から単行本で出版したのが二〇〇四年ですから、もう十五年前。マニアックな読者でないかぎり樋口有介が捕り物帳を書いていることすら知らないはずで、今回の復刊は作家冥利に尽きます。」
と書いておられますが、これで晴れて「マニアックな読者」と認定してもらえました。
これからも、ついていきますよ、樋口さん。よろしくお願いします。


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