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トワイライト博物館 [日本の作家 初野晴]


トワイライト博物館 (講談社文庫)

トワイライト博物館 (講談社文庫)

  • 作者: 初野 晴
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2013/12/13
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
大伯父が遺した博物館は、時間旅行の秘密の実験場だった。天涯孤独になった勇介は、過去を彷徨う大切な人の魂を救うため、危険な旅路に出る。パートナーは青い瞳の不思議な学芸員枇杷。「命綱」は固くつないだ手。この手が離れれば二度と現代には戻れない。過酷な旅が今、始まる。新感覚ミステリー長編!


初野晴というと、ハルチカ・シリーズという印象が強くなっているのでは、と思いますが、デビュー作で横溝正史賞受賞作である「水の時計」 (角川文庫)「漆黒の王子」 (角川文庫)(感想ページはこちら)、「1/2の騎士」(講談社文庫)(感想ページはこちら)といったシリーズ外の作品は、ハルチカ・シリーズとはまったく違ったテイストの作品群になっています。
この「トワイライト博物館」 (講談社文庫)も、現実世界とファンタジックな世界を結びつけて、ファンタジーとミステリーを融合させたような世界観、シリーズ外の系列になります。

主人公は養護施設で育った十四歳の少年・勇介。
大伯父に引き取られたものの、その大伯父が死んでしまい、大伯父が働いていた「暁埜(あかつきの)博物館」に関与することに。
そこで、タイムトラベル装置で過去=中世のイングランドに旅立ち、魔女狩りと対決することに。

なんだか古き良き冒険譚を読んでいるような趣です。
同時に、初野晴らしく、扱われている題材は非常に重いものです。

ファンタジーっぽい部分は、その種の作品を読み慣れていないせいか、少々物足りなく思いました(若干、予定調和的というと叱られるでしょう?)が、ファンタジーファンの方はどう受け止められるのでしょうね?
重い題材の部分は、救いのあるラストで読後感をよくしてくれています。なにより信じることの大切さが語られていますから。

この種の作風、非常に貴重なので、今後もこういったテイストの作品を書き続けてほしいです。


<蛇足>
この本、会社の福利厚生制度に乗っかって、日本から送ってもらおうとしたのですが、品切。
Amazonで検索しても品切。
日本にいるときによく使っていた、honto というHPでジュンク堂・丸善の在庫を検索したら、店頭在庫はあるようだったので、一時帰国の際に喜び勇んでその店舗へ行ったのですが見つからず(honto で在庫あり、となっていても、実際の店頭にないことはままあります)。
紀伊国屋、三省堂にもなかったのであきらめかけていたところ、立ち寄った東京駅前の八重洲ブックセンターで発見!!
よかったぁ。
電子書籍の導入を考えたほうがいいかなぁ? と思いますが、紙ベースの本に愛着があるんですよね......





タグ:初野晴
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幽霊船が消えるまで [日本の作家 柄刀一]


幽霊船が消えるまで―痛快本格推理 (祥伝社文庫―天才・竜之介がゆく!)

幽霊船が消えるまで―痛快本格推理 (祥伝社文庫―天才・竜之介がゆく!)

  • 作者: 柄刀 一
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2005/01/01
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
〈鳥の羽ばたき音とともに、女の幽霊が現われる——〉
旅を続ける天地龍之介(あまちりゅうのすけ)が乗り込んだ貨物船で、怪談話を聞かされた。震え上がる龍之介を笑っていた従兄弟の光章がその夜、奇怪な幽霊船を見て失神。気が付くと船内は宝石の盗難で大騒動に。しかも、現場には龍之介の指紋が! 絶体絶命の危機を、IQ190の天才、生活能力ゼロの名探偵龍之介はどう切り抜けるのか?


天才・龍之介がゆく!シリーズというのでしょうか? 
「殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫)
「殺意は砂糖の右側に―天才・龍之介がゆく!」
に続くシリーズ第3弾です。

<2024.1訂正>
出版順ですと、この「幽霊船が消えるまで―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫 つ 4-3)は、「殺意は砂糖の右側に―天才・龍之介がゆく!」に続く第2作で、「殺意は幽霊館から―天才・龍之介がゆく!」 (祥伝社文庫)が第3作のようです。失礼しました。


目次を見ると、1章、2章......となっていまして、長編の体裁なんですが、内容は短編集です。
「幽霊船が消えるまで」
「死が鍵盤を鳴らすまで」
「石の棺が閉じるまで」
「雨が殺意を流すまで」
「彼が詐欺(スウインドル)を終えるまで」
「木の葉が証拠を語るまで」
の6話収録、と言いたいところです。

柄刀一というと、物理トリックが得意な作家というイメージがありまして、この「幽霊船が消えるまで―天才・竜之介がゆく!」にも、物理トリックがふんだんに盛り込まれています。
物理トリックというと、とんでもなく難解なものがあったりして、読者はただただ「ああ、そうですか」というだけのものがあったりしますが、柄刀一の場合は、特殊な知識は必要がなく、読者の推理に支障のないように仕上がっているのが美点かと思います。

となるといいことづくめのようにも思えるんですが、なぜでしょうか? 実は印象が薄いんですよね。
こちらの記憶力、脳力の問題も大きいんですが、たぶん、短編ということも手伝ってか、推理パズルの延長のような雰囲気を醸してしまうから、かもしれないな、と作者にたいへん失礼なことを考えてしまいました。
「石の棺が閉じるまで」を読んでいただくと、その感じがよくわかるのでは、と思います。

シリーズはこのあと長編タイプのものもあるようなので、、この感じが続いてしまうのかどうか、確認してみたいです。






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チョールフォント荘の恐怖 [海外の作家 F・W・クロフツ]


チョールフォント荘の恐怖 (創元推理文庫)

チョールフォント荘の恐怖 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1977/02/18
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
十五歳の娘を抱え夫に先立たれたジュリアは、打算の再婚に踏み切った。愛はなくともチョールフォント荘の女主人として過ごす日々は、隣人との抜き差しならぬ恋によって一変する。折も折ジュリアの夫が殺され、家庭内の事情は警察の知るところとなった。殺害の動機または機会を持つ者は、ことごとく容疑圏外に去ったかに見えたが……。終局まで予断を許さぬフレンチ警部活躍譚。


創元推理文庫2017年の復刊フェアの1冊です。
「フレンチ警部最大の事件」 感想で挙げた、2010年以降の創元推理文庫の復刊フェアで対象となったクロフツ作品を、今年2020年分も含めてもう一度。

2020 「ホッグズ・バックの怪事件」
2019 「クロフツ短編集 1」 「クロフツ短編集 2」
2018 「フレンチ警部最大の事件」 (感想ページへのリンクはこちら
2017 「チョールフォント荘の恐怖」
2016 「二つの密室」
2015 「船から消えた男」 (感想ページへのリンクはこちら
2014 「フローテ公園の殺人」(感想ページへのリンクはこちら
2013 「殺人者はへまをする」
2012 「製材所の秘密」 (感想ページへのリンクはこちら
2011 「サウサンプトンの殺人」(感想ページへのリンクはこちら
2010 「フレンチ警部とチェインの謎」 (感想ページへのリンクはこちら

この「チョールフォント荘の恐怖」 は購入したものの日本に置いてきてしまってしばらく読めない、という状態でしたが、一時帰国の際の発掘本として読みました!

永らく手に入らなった作品が手に入って読めるようになるので、復刊というのは大変ありがたい試みでぜひ続けてもらいたいのですが、ここしばらくのクロフツの復刊作品群については、新訳を検討してもらってもよいのかな、と思いました。
なんといっても、訳文が古い。
奥付をみると、初版は1977年。ざっと40年前ですか。読んでみると、40年以上の古さに感じられる翻訳です。
個人的には、二人称の選択がなんとも時代を感じるというか、違和感を抱きました。
恋人同士の男が女に向かって「あんた」。言わないですよね。
また、母親が娘に向かって「あんた」ということはシチュエーションや設定次第ではありうると思うのですが、本書の使われ方はちょっとなじめませんでした。
これ以外も古いんですよね、全体的に。
「サンマー・ハウス」って、最初なんのことかわかりませんでした。Summer House。今だと、サマーと表記しますね。
といいつつ、古いということはある意味趣きがあるということでもありますね。
たとえば
「かれらの話が傍え聴きされる惧れはまったくなかった。」(297ページ)
というところでは、思わずニヤリ。
長岡弘樹の「傍聞き」 (双葉文庫)(感想はこちら)を連想しましたので。

創元推理文庫でよくあることですが、見開きのところにあるあとがきが、上で引用したカバー裏のあらすじと違っていますので、そちらも引用します。
法律事務所を経営しているリチャード・エルトンは、郊外の見晴らしのよい高台に堂々たる邸宅を構えていた。ある晩、そのチョールフォント荘でのダンス・パーティ開催の直前、彼が後頭部を割られて死んでいるのが庭園で発見される。犯人は誰か? 動機は遺産相続か、怨恨か、三角関係のもつれか。それぞれの動機にあてはまる容疑者は、フレンチ警部の捜査の結果つぎつぎとシロとなってゆく。クロフツが、完全犯罪をめぐる本格推理小説の醍醐味を伝える重厚な謎解き編

内容ですが、しっかり構築された本格ものだな、と思いました。
カバー裏あらすじに「終局まで予断を許さぬ」とありますが、まさにその通り。
見開きのあらすじにある通り、容疑者がつぎつぎとシロになっていく展開に夢中になりました。
真相にたどり着くのが、最終章の一歩手前。
クロフツというと、延々と続くアリバイ崩し、というイメージの方も多いのではと思いますが、そうでない作品も数多く発表していますし、この「チョールフォント荘の恐怖」 はアリバイ崩しではないほうの代表例といってもよいのではないでしょうか?

おもしろかったのは、フレンチ警部が、若手警官(といっても肩書は部長刑事になっています)ロロの指導役をつとめること。
フレンチの捜査はいつも丁寧なんですが、指導役をつとめるからか、いつもよりも丁寧に捜査しているみたい。
このロロという部長刑事のキャラクターもなかなかよさそうなので、レギュラー登場人物にすればよかったのに、と思ったりもしました。まあ、このあと昇進してしまって、独り立ちしたということでしょうね。

タイトルは「チョールフォント荘の恐怖」 ですが、原題は”Fear Comes to Chalfont”。
日本語タイトルのイメージだと、チョールフォント荘で恐怖の連続、恐ろしい事件がいっぱい起こる、あるいは、なにかとても恐ろしいもの/ことがチョールフォント荘にある、という感じですが、違います。
事件をきっかけに、チョールフォント荘の人々が不安に陥ってしまうことを指しています。
スリラー、サスペンスを期待すると肩透かしになります。
小味な謎解きミステリの佳品だと思いました。


<蛇足>
「恋と戦争と探偵の仕事では何をしようとフェアなんだから」(245ページ)
フレンチ警部のセリフです。
そうなんだ......でも、なんとなくわかるような気がします。
ほかならぬフレンチ警部のセリフだというのが少々意外ではありましたが。若手の指導役をつとめているからでしょうか??



原題:Fear Comes to Chalfont
作者:Freeman Wills Crofts
刊行:1942年
訳者:田中西二郎





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メソポタミヤの殺人 [海外の作家 アガサ・クリスティー]


メソポタミヤの殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 12)

メソポタミヤの殺人〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 クリスティー文庫 12)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2020/07/16
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
考古学者と再婚したルイーズの元に死んだはずの先夫から脅迫状が舞い込んだ。さらにルイーズは寝室で奇怪な人物を見たと周囲に証言する。だが、それらは不可思議な殺人事件の序曲にすぎなかった……過去から襲いくる悪夢の正体をポアロは暴けるか? 幻想的な味わいをもつ中近東を舞台にした作品の最高傑作、新訳で登場。


今年はアガサ・クリスティー デビュー100周年、生誕130周年を記念した早川書房のクリスティー文庫の6ヶ月連続新訳刊行、
「予告殺人〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
「雲をつかむ死〔新訳版〕」 (クリスティー文庫)(感想ページはこちら
に続く第3弾です。

この作品は旧訳版ではなく創元推理文庫版で昔読んでいます。
創元推理文庫版のタイトルは「殺人は癖になる」 (創元推理文庫)
「殺人は癖になる」というのは第24章の章題でもありますし、
「わたしは仕事で多くのことを学んできました。そのなかでもっとも恐ろしいのは、殺人は癖になるということです」(207ページ)
という第17章のポワロのセリフでもあります。

この作品、結構印象に残っていまして、珍しいことに、犯人もトリックもしっかり覚えていました。

ただ、今回新訳で読み返してみて、犯人の設定に無理があるなぁ、と思ってしまいました。
どうでしょう? ありですか、これ? 
動機も正直今一つピンとこないというのか、よくわからないというのか......
またトリックも、一種の密室状況で、あざやかに解かれるものではありますが、ちょっと安直かなぁ、とーーたしか、トリックについては、初読のときも、既視感のあるトリックだなぁ、と思っていまひとつ感心しなかった記憶があります。

興味深かったのは、ポワロ(個人的趣味で、ハヤカワの表記ポアロではなく、ポワロと書きます)の相棒がヘイスティングスではなく、看護婦のエイミー・レザランだからか、いつもより丁寧に途中で事件を語ることですね。
もちろん、肝心かなめなことは名探偵の常として内緒のままなんですが、ヘイスティングスに対するときと比べて、ずっと親切仕様になっているように思います。

新訳が出ると、あたらめて読み返すきっかけになって楽しいですね。
(↑ 未読本がたまりにたまっている状況で、再読なんかしている場合ではないんですけれども)


<蛇足1>
本書の邦題は「メソポタミの殺人」であって、メソポタミではないのですね。
一般的には、メソポタミと書きますし、原題も Murder in Mesopotamia で、英語のスペルから判断する限り、メソポタミの方に軍配が上がる気がしますが......

<蛇足2>
「ある作家の著作に、こんな一節がある。“初めから始めるがよい。そして最後に来る前で続けるのじゃ。そうしたら終わればよい”」(19ページ)
ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」 (リンクは大好きな「とびだししかけえほん」に張りました。すごいので一度ぜひご覧ください。)ですね。
どうして明記せずに、ぼかした書き方にしたのでしょうね? 

<蛇足3>
「それに、とても真面目で。考古学のこととかも、何も知らないのでと言って一所懸命学ぼうとしていた。」(253ページ)
いつも無駄を承知であげつらっている「一生懸命」ですが、ここはきちんと正しく「一所懸命」と書いてあります。
もはや正しく書かれていることの方が少なくなってきているように思われるので、新訳版でも正当な表記が守られていることにとてもうれしくなりました。

<蛇足4>
「あの事件のあと、ふたたび東洋を訪れることはなかった。」(394ページ)
語り手であったエイミー・レザランが事件後振り返って言う感想です。
メソポタミアは「東洋」なんですね。
ちょっと日本人の感覚とずれているのがおもしろいですね。
イギリス人の感覚と日本人の感覚がずれている例としては、アジア、があります。
日本人的には、アジアというとぱっと自分たちの国日本を中心にイメージしますが、イギリス人だと(おそらく)アジアと何も装飾をつけずにいうとインドあたりをイメージしているのではないかと思います。日本あたりは「極東(Far East)」ですね。
日本人が見慣れている世界地図と違って、イギリスでよくある世界地図は大西洋が真ん中に据えらえているため、日本はまさに Fa~~r East です(笑)。世界の果て、という感覚かもしれませんね。



原題:Murder in Mesopotamia
著者:Agatha Christie
刊行:1936年
訳者:田中義進






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Why R U? [タイ・ドラマ]

タイのドラマ「WHY R U?」の感想です。

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「Our Skyy」を観る予習は「Water Boyy」(感想ページはこちら)に続いて、ちょっとお休みモードです。

タイ・ドラマを観始めたとき、きっかけは友人のおすすめだったのですが、その当時 Twitter でとても注目していたのがありまして(いまはその Tweet 自体は消されてしまっているようです)、そこで4作品が紹介されていました。それは
「2gether」(感想ページはこちら
「SOTUS 」(感想ページはこちらこちら
「Love by chance」(感想ページはこちらこちら
そして、この「WHY R U?」でした。
本当は、他の3作品に続けて「WHY R U?」も観ればよかったんですが、すみません、主演の一人、「Love by chance」にも出ていた Saint 君の顔があんまり好きじゃなかったんで、後回しにしちゃっていました。ーー Saint 君、とても人気のある俳優さんなので、こんなこと言うとファンのかたに袋叩きにあいそうですが。

MyDramaListによると、2020年1月から4月にかけて GMM One で放映されたようです。
EP1 から EP13 まで、各エピソード1時間くらいです。
これを観たとき、YouTube にオフィシャル版が英語字幕付きでアップされていたはずなのですが、いま確認してみると、オフィシャル版は字幕が用意されていませんね。消されちゃったのかな?......タイ語は、わからない。
各エピソードを1本にまとめた、英語字幕付きバージョンも、ファンの方の手によってアップされているようですが、オフィシャル版じゃないので、リンクをはるのがためらわれます。(しかもいくつかエピソードが観れなくなっているようです)
そのかわり? LineTVで英語字幕版が観られるようです。
LineTVは、地域が限られるので(イギリスは営業地域に入っていません)、観れないことが多いのですが、この「Why R U?」は観れます。
Facebook に「#WHYRUtheseries LINE TV’s Official Links for international fans」というページがあり、そこにLineTVのリンクが掲げられています。
このブログの最後 ↓ にも、リンクを集めておきました。

主人公の妹が書いた、実在の人物をモデルにしたボーイズラブ小説の通りに、実際の人物がボーイズラブの恋に落ちていく、という、Shipper (人と人をくっつけたがる人、(想像の中で)くっつけて喜んでいる人。ドラマ「The shipper」の感想はこちら)にとっては夢のようなお話です(笑)。

eVRBKf.jpg

4組のカップルがいるかのようですが、同じカップルの写真を2つずつ組み合わせていますね。
下段左側、上段右側のカップルからご紹介しましょう。
下段の方で右側、上段の方で左側にいるのが、Saint君。
ここでの役どころは Tutor(チューター)。借金に悩む苦学生です。喫茶店のバイトに家庭教師のバイトなどでとにかくお金を稼がないと。
対する相手役が Fighter(ファイター)。お金持ちのぼんぼんです。
演じているのは Pruk Panich、ニックネームが Zee。
このふたり、すごーく仲が悪いところからスタートするんですが、いがみ合っているうちに、ファイターの方がチューターへの想いに気づいて、チューターに猛アタックするようになります。ちょっぴり(?) 金にものを言わせるあたり、リアルかもしれませんね。

続いて上段左側、下段右側のカップルです。
左側にいるのがSaifah(サイファー)。
ギターが得意な、よく持てる男(多分)。キスしまくり? 
とても背が高いですね。
演じているのは Karn Kritsanaphan、ニックネームが Jimmy。
最初観たとき、男前かなぁ? ハンサムと言い切れないような、と思っていたのですが、観ているうちになじんできました。
対するのが Zon(スペルからするとゾンですが、聞いている限りではソンと聞こえます)。
演じているのは Sittichok Pueakpoolpol、ニックネームが Tommy
SFが大好きな設定です。あんまりストーリーには活かされませんが。

で、ソンの妹がボーイズラブ作者でして、彼女の書いた小説の通りに、チューターとファイターが、サイファとソンがくっつくというわけです。
ソンは、妹が自分もモデルにしたボーイズラブ小説を書いていることを知って反発、書くのをやめろというけれど妹は聞かず、深みにはまっていく。
友人のチューターに相談しても、小説は小説、現実は現実と一蹴されてしまう。そりゃ、そうだ。
いけすかないやつだとお互い思っていただろうに(物語の最初の方は、サイファはソンをからかってばかりです)、どんどん気になってきて......



この Teaser、日本語でいう予告編だと思いますが、ドラマのストーリーはあまり描かれていなくて、出てくる俳優さんたちの紹介をしているだけみたいです。
かろうじて、登場人物たちが実名でボーイズラブ小説に登場していることが触れられている程度。

おそらく、チューター&ファイター・ファンの方が、サイファ&ソン・ファンよりもずっと多いんだろうと思うのですが、それでも、物語としては、サイファ&ソンの方が圧倒的に面白かったですね。
冒頭で触れた Tweet にも書かれていたのですが、ボーイズラブとして立てられたフラグを、強く否定しているにもかかわらず、ソン自らじゃんじゃん折っていってしまう、というのがとてもおもしろい。ダメだとわかっているのに、ついやってしまう、違う違うと否定すればするほど、どんどん気になってきてしまう、このあたりが見どころになっています。

よくできたタイドラマに共通する特徴ですが、この「Why R U?」も、EP1で重要な登場人物と設定がすべて出されて、この後の物語をしっかりと印象づけてくれます。
ちなみに、EP1のラストからEP2のオープニングにかけて「TharnType」(感想ページへのリンクはこちらこちら)のTharn と Type がフィクションの中の人物として登場します。さらに、未だ感想を書いていない別のドラマのカップルも、同じくフィクションの中の人物として登場します。

もう、サイファ&ソンに絞って話しますが、この二人を結びつけるためのエピソードとして、Cute Boy Project というのが設定されています。
ミスター、あるいは、ミスコンテストって、タイの大学では一般的なんでしょうか? これだけいろんなドラマに出てくるんだから。
このドラマでは、サッカークラブ主催?のコンテストになっていまして、なんだか不思議です。
サッカーチーム・サイドからサイファが選ばれて、チーム外からソンが選ばれて、この二人が一組となって、曲を披露する、という流れです。

妹が書いているBL小説を意識しているからというのもありますが、ソンの反応は、わかりやすく、とてもおもしろいので、サイファでなくてもからかったら楽しいだろうなぁ、と思えます。
ストーリー展開上とても重要なのが、やはり、ソンの性格設定。
演じている俳優さんの雰囲気も大きく貢献していると思いますが、すごくいいやつ、というか、いい子なんですよね。いわゆる「かわいい」性格をしています。
強がって見せるところとか、パターン通りといえばパターン通りなんですが、いいです。

この二人のエピソードで印象的なものをいくつかピックアップしますと......
まず、Cute Boy Project のイベント宣伝用に、選出されたサイファとソンで写真を撮ることになるのですが、このシーンなかなか楽しい(EP4)。
仲良さそうな写真を取りたい主催者側に対して、嫌がるソンという布陣なのですが、思い余って「彼(サイファ)の膝に乗ったらいいですか?」と嫌味のつもりで言ったんでしょうけど、真に受けられて墓穴を掘る。
でも、EP4 は二人の関係の大きな転換点でして、いがみ合っていた(?) 関係から、真逆に進んでいく大きなきっかけとなっています。注目。

また、EP6で、なんだかんだ言いつつ、サイファを土曜日に誘いだす電話をソンがかけるシーン。要は、デートのお誘いなんですが(笑)。ここ、一番のお気に入り。

WHY R U THE SERIES EP_6 Engsub (No Cut)_Moment.jpg

この写真では伝わりきらないと思いますが、お互い、素っ気なく話そうとしつつ、でも実は、なんとか誘いたい、誘われてうれしい、デートしたいというのが、コミカルに表れています。
右側は、誘われてガッツポーズするサイファ。ガッツポーズかぁ。
なんか初々しくていいですよね。

WHY R U THE SERIES EP_6 Engsub (No Cut)_Moment_2.jpg

あとは、上の写真のシーン。これも EP6 です。
サイファとイヤホン共有して音楽を聴くソン、というシーンですが、サイファ、学校の外の階段で、なぜ毛布にくるまっている!? まったくわけがわからないけど、気に入ってます(笑)。

ちなみに、チューター&ファイターの方では、なんといっても、EP9 から EP10 にかけてのリゾート旅行ですね。ファイターが、まさに金持ちの面目躍如というのか、金にものをいわせて、贅沢なリゾートへ二人が出かけます。学生とは思えませんね(笑)。
ただ、このエピソード、しっかり二人のラブシーンがありますので、そういうのNGな人は飛ばしたほうがよいかも、ですーー全体的に、チューター&ファイターは、裸のシーン、ラブシーン、きわどいシーンが多いです。演じている Saint 君の出演作は、こういったシーンが多い気がしますね。それだけ、そういうシーンにファンの需要がある、ということなのでしょう。

一方で、サイファ&ソンは、エンディングにならないとそういうシーンは出てきません。これも、個人的にサイファ&ソンの方を安心して観ていた理由の一つです。
途中、そういう雰囲気になりそうな場面はあるのですが、いずれも巧妙に処理されています。

ことのついでに男目線で付け加えておくと、EP7 に朝元気になっちゃっているのを隠そうとするサイファ、見てしまって驚くソン、というシーンがあります。
これはこれで面白いんですが、うーん、どうでしょうね、男同士だったら、大きくテント張っているトランクスを見ても別になんとも思わないか(誰でもなることですし)、あるいは笑い飛ばして終わり、なんじゃないかな、という気がします。
驚いて慌てるソンは、ひょっとしたらこの段階ですでに恋人ということを意識しちゃっていたのかな?
(そういえば、「2gether」(感想ページはこちら)にも、サラワットのをタインが見ちゃうシーンがありましたね。「He is coming to me」(感想ページへのリンクはこちらこちら)にもあったような。こういうシーン、タイ・ドラマでは定番なのかな?)

このドラマ、この2組以外にも、いっぱい(3組? 4組?)結ばれるボーイズカップルが出てくるのですが、おまけ程度でして、断然、チューター&ファイター、サイファ&ソンの物語です。
個人的には、チューター&ファイターはちょっと生々しすぎて、サイファ&ソンの方の、軽い、そうですね、まるで中学生、高校生のようなタッチがよかったです。

せっかく4本のおすすめの中に入っていたのだから、もっと早く観ればよかったな、と思った作品でした。


最後に、<Line TVのリンク>
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EP.1 3/4 https://tv.line.me/embed/12033042
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EP.12 2/4 https://tv.line.me/embed/13416661
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EP.13 2/4 https://tv.line.me/embed/13524895
EP.13 3/4 https://tv.line.me/embed/13524864
EP.13 4/4 https://tv.line.me/embed/13524857

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人間の顔は食べづらい [日本の作家 さ行]


人間の顔は食べづらい (角川文庫)

人間の顔は食べづらい (角川文庫)

  • 作者: 白井 智之
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2017/08/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
「お客さんに届くのは『首なし死体』ってわけ」。安全な食料の確保のため、“食用クローン人間” が育てられている日本。クローン施設で働く和志は、育てた人間の首を切り落として発送する業務に就いていた。ある日、首なしで出荷したはずのクローン人間の商品ケースから、生首が発見される事件が起きて――。異形の世界で展開される、ロジカルな推理劇の行方は!?横溝賞史上最大の“問題作”、禁断の文庫化!


第34回(2014年)横溝正史ミステリ大賞候補作。
佳作でも優秀作でもなく、候補作で出版されるというのは稀ですよね。
横溝正史ミステリ&ホラー大賞のHPによると、第23回(2004年)の「夕暮れ密室」 (角川文庫)(感想ページはこちら)以来。それ以前には、「ヴィーナスの命題」 (角川文庫)しか例がないようです。
それくらい、選考委員の中に推す人がいて、独自性が認められた、ということですよね。

余談ですが、横溝正史賞→横溝正史ミステリ大賞→横溝正史ミステリ&ホラー大賞と名前が変遷していく賞って珍しいですよね......

あらすじだけでもお分かりいただける通り、特殊な世界を設定して、そのフィールドでミステリを展開するという作風です。
その特殊な世界というのが、食べるために自分のクローンを作らせる日本。
いやあ、強烈な世界を設定しましたですね。
そのおかげで、タイトルも相当強烈なものになっていますが......
食用のクローン、というだけでおぞましいですが、それを飼育するプラナリアセンターなどのおぞましさは凄まじい。読むのが嫌になる人もいるでしょうね。

ただ、この設定(食用クローン)、倫理面は仕方ないので置いておくとしても、突っ込みどころ満載でして......
成長促進剤を投与し、太らせるため食事(というか餌)を与え続ける。
成長促進剤の効果がどの程度なのかわからないのですが、「口を開くだけで顎の贅肉がぶよぶよと揺れる」(47ページ)ということでは、贅肉、つまり、脂肪がついている状態なわけで、決して肉=筋肉が多くなっているわけではないような気がします。
食べる、ということを考えると、脂肪ではなく、筋肉を増やさないといけないのではないかと思うのですが、この飼育方法でよいのでしょうか? 閉じ込めていてはだめで、健康的に適度な運動もさせてやらないと、食用としてはあまり意味がないのでは、と思います。
また、食用クローンには人権が認められず、教育も施さない(本当は自我=人格を形成させないのがベストでしょうね)、という設定になっていますが、その割にはクローンたち知能が発達しています。
人間は動物の中では成長がかなり遅いので、食用にするには時間、コストがかかりすぎると思います。これなら、無菌状態で牛とか豚を飼育する方を選びますよね。
どうも、強烈な世界設定を支えるだけの十分な検証をしないまま、作品世界を構築してしまっているように思えます。

また真相も、無理がありすぎて笑えるほど、です。
難点を挙げだしたらきりがない。
特に大きい難点は、プラナリアセンター爆破事件かと思います。この犯人なら、こんな事件絶対に起こさないと思います。動機に無理がある。
(奥歯に物が挟まったような言い方で恐縮ですが、大事の前の小事として軽視したとも思えないんですよね)

とまあ、欠点ばかりあげつらってしまいましたが、個人的にこの作品ダメかというとまったく逆です。
こういう作風の作品は、世界設定が謎解きに直結するように仕組まれていることが重要になってきますが、その点はしっかりできています。
個人的には、この設定だけで当然想定しなければいけないことを簡単に見逃してしまっていまして、真相でとても悔しい思いをしました。作中に堂々と触れられているというのに想定しなかった、というのはミステリ読者としてかなり至らない......反省。
この1点で、ぼくはこの作品、許せちゃいます。
こういう作品を褒めると、人格を疑われそうですけど。
倫理面は別にしても、世界設定にも、謎解きにも、人物設定にも、有り余るほどの無理がある作品で、正直、いかがなものか、と思わないでもないですが、それでも、許しちゃいます。
自分の、ミステリ読者としての未熟さを、再認識させてくれましたから。

この作品が候補作ながら世に出たのは、選考委員だった道尾秀介(解説を書いています)と有栖川有栖の強い推輓があったかららしいです。
この作品が読めて、道尾秀介と有栖川有栖に感謝します。よく、こんなの褒めましたね......

ちなみに、このときの受賞作が藤崎翔の「神様の裏の顔」 (角川文庫)(感想ページはこちら)。納得です(笑)。

<蛇足1>
「亡くなったのが現役政治家となれば、捜査上のミスは許されない。」(6ページ)
プロローグにある記載で、ちょっと嫌になりかけました。
うーん、被害者の属性により捜査上のミスが許されるということはないはずですよね。
政治家が非常に重要視される世界という設定になっていることを示すのだ、と理解して読み進めることにしました。

<蛇足2>
「今からさかのぼること七年目の秋、あらゆる哺乳類、鳥類、魚類に感染する新型コロナウイルスが流行を起こした。」(40ページ)
本書が出たのは2014年ですから、今のCOVID-19 騒ぎの前です。この段階で、コロナウイルスに注目されていたのですね。
今流行しているCOVID-19 を受けて、食人法ができたりしませんように......







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絞首台の謎 [海外の作家 ジョン・ディクスン・カー]


絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

絞首台の謎【新訳版】 (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 2017/10/29
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
怪しげな人々が集うロンドンの会員制クラブを訪れた、パリの予審判事アンリ・バンコラン。そこに届く不気味な絞首台の模型に端を発して。霧深い街で次々と怪事件が起こる。死者を運転席に乗せて疾駆するリムジン、実在した絞首刑吏を名乗る人物からの殺人予告、そして地図にない幻〈破滅(ルイネーション)街〉――横溢する怪奇趣味と鮮烈な幕切れが忘れがたい余韻を残す、カー初期の長編推理。


「四つの凶器」 (創元推理文庫)感想で、
「絞首台の謎」は新訳を日本に置いてきてしまったので読めていません。旧訳では読んでいるんですけどね」
と書きましたが、一時帰国時に発掘しました。

読んだ順が変わってしまいましたが、バンコラン登場の第2作。
「夜歩く」 (創元推理文庫)(ブログの感想ページへのリンクはこちら
に続く作品で、「髑髏城」 (創元推理文庫)の前ということになりますね。
これでシリーズ制覇です。

創元推理文庫の旧訳版を読んでいるのですが(手元の記録によれば2004年に読んでいます)、まったく覚えていませんでした。
謎も、仕掛けも、犯人も......なにひとつ。
ここまですっかり忘れてしまっているとは。まあ、おかげで、初読のような楽しみ方をすることができたんですけどね(笑)。

死者が運転するリムジンとか、密室状況の部屋に忽然と現れる品々とか、不可能趣味、怪奇趣味溢れるかたちでカーは突っ走っています。
さらにバンコランの人と人とも思わないような態度が雰囲気を盛り上げていますよね。
正直、カーの作品の中では上出来とは言えませんが、バンコランの冷酷さが光っているので、そういう雰囲気に浸るにはうってつけの作品です。
最後に鼻歌なんて歌ってんじゃないよ、バンコラン。

伝説の絞首刑吏〈ジャック・ケッチ〉を名乗る脅迫者に付け狙われるエジプト人ニザーム・エル・ムルク。彼をとりまく秘書、従僕。知り合いのフランス女性コレット。
舞台となるプリムストーン・クラブに宿泊する元ロンドン警視庁副総監ジョンに、バンコランにジェフ。ジョンの友人ダリングズに医師のピルグリム。
非常に限定された登場人物で物語が展開し、10年前にフランスで起きた決闘騒ぎが由縁と推理をすすめていくのですが......

真相はそこそこ無理があるものになっていますが、それでも手がかりはあちらこちらに忍ばせてあり、デビューしてすぐの作品とはいえさすがカーというところ。最終章でバンコランが振り返って推理を開陳するところでは、なるほどー、と思うところ連発で、謎解きには満足できました。

最後に、巻頭にある登場人物一覧がおもしろかったですね。
リチャード・スマイル ニザームのお抱え運転手。運転席で首を切られ、ドライブを満喫
とか
シャロン・グレイ 妙齢の英国美人。災難やジェフと好相性
とか、ちょっとおふざけの利いた感じになっています。

万人向けの作品ではないとは思いましたが、カー好きなら、あるいは怪奇ミステリ好きなら、お手に取ってみてください。


<蛇足1>
「探偵は一度もしくじらない。それこそ、まさに私の求めるものだ。作家がなぜ探偵を凡人に仕立てたがるか理解に苦しむよ。こつこつと足で稼ぎ、しくじりかねないのに頑固一徹というーーばかばかしい! むろん、本物の頭脳明晰な人物造型の才に欠けるために代用品で押し切る魂胆なのだろうが……」(108~109ページ)
バンコランが読書中のミステリ小説に関連し、ジェフに語る内容です。
カーの本音?

<蛇足2>
「証拠だけをもとに話を進めますよ。まずは初心に戻って一から。」(116ページ)
タルボット警部の台詞です。
ここでいう初心は、一般的に誤用されている初心の意味合いですね。新人のころの(新鮮な)気持ち。
世阿弥の「初心」とは解釈が違いますが、広まっている使われ方なのでやむを得ないのでしょうね。

<蛇足3>
「おーーお廊下の奥です。ご案内をーー」(178ページ)
小間使いの台詞です。
お廊下!? 廊下につける接頭辞は「お」なのか......そもそも廊下に美化語をつけるのか、というのもありますが......




原題:The Lost Gallows
著者:John Dickson Carr
刊行:1931年
訳者:和爾桃子





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大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤 [日本の作家 や行]


大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 両国橋の御落胤 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 山本 巧次
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2016/05/10
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
江戸と現代で二重生活を営む元OLの関口優佳=おゆうは、小間物問屋の主人から、息子が実の子かどうか調べてほしいと相談を受ける。出生に関して、産婆のおこうから強請りまがいの手紙が届いたのだという。一方、同心の伝三郎も、さる大名の御落胤について調べる中で、おこうの行方を追っていた。だが、やがておこうの死体が発見され――。ふたつの時代を行き来しながら御落胤騒動の真相に迫る!


「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 (宝島社文庫)に続くシリーズ第2弾です。
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 (宝島社文庫)の感想を書けずじまいなのですが......

江戸を舞台にしているのですが、主人公であるおゆうは、現代のOLでタイムトンネルを経由して現代と江戸をいったりきたりしているという......
なんとも人を食った設定ですが、これがとてもおもしろい!
第13回「このミステリーがすごい!」大賞の隠し玉「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」 から始まったシリーズは好評のようで、次々と続刊が出ています。
この後
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 千両富くじ根津の夢」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 北斎に聞いてみろ」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう ドローン江戸を翔ぶ」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁掘のおゆう 北からの黒船」 (宝島社文庫)
「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう 妖刀は怪盗を招く」 (宝島社文庫)
と毎年出ているようですね。

本書の帯に
「チャーミングでユニーク。掟破りの小説だ」
という池上冬樹のコメントが載っていますが、まさにその通り。とてもチャーミングです。
掟破りというのは、おそらく、現代のOLを主人公にしているので、時代考証をさほど厳密にする必要がない、ということを指しているのでしょうね。
たとえば
『「あらま、源七親分。また留守している間に玄関番してくれてんですか」
「よお、おゆうさん。また勝手に入っちまって悪いな。しかし、武家屋敷じゃあるまいしこれを玄関と呼ぶかい」
 源七はわざとらしく周りを見回してニヤニヤした。そうだった。江戸時代では式台のある立派な入口しか玄関とは言わない。あらゆる家の表口を玄関と言うようになるのは明治以降だ。平成と江戸時代のこういう感覚の違いは、口に出すとき充分気を付けないといけない。』(194ページ)
なんてところがあって、ここは十分時代考証を意識した部分ではありますが、これ以外の場所で少々変なことがあっても、平成のOLが見たこと、感じたことですからね、という言い訳が成立するようにできています。

また、推理ものという観点でいうと、掟破りというのは、DNA鑑定とか指紋とか、こっそり現代の技術で捜査を進めるところもそうですね。大胆な捕り物帳だこと。
それをどうやって江戸の人の納得するかたちに落とし込んでいくか、というのが見どころになる、というなかなかおもしろい狙いが出てくる作品です。
今回もDNA鑑定とは違う方向へ進めていってしまう伝三郎はじめとする江戸の捜査陣にやきもきする、という展開に。
(そういえば、余計なことですが、指紋の取り扱いには、不手際があるような気がします。ついているはずの指紋がなかったりします。まあ、これは簡単に修正がきくミスかとは思いますが)

事件そのものは、大名の御落胤、お家騒動、赤ん坊のすり替え、と来たうえで、DNA鑑定で(読者とおゆうには)決着がついているので、なんとなく作者の狙いに見当がつくようになっていまして、黒幕?の正体含めてさほど意外感はないのですが、物語が転がっていく面白さを十分に堪能できるようになっています。
もうちょっと単純なプロットにしたほうが効果的な気がしなくもないですが、さっと読めて楽しい。
好調なシリーズを追いかけていきたいと思います。


<蛇足>
「江戸で指折りの小間物屋と言えば、せいぜい数軒です。」(121ページ)
間違っていないというか、まさにその通りなんですが、「指折り」が「せいぜい数軒」って、当たり前すぎて言わないだろうな、と思って笑ってしまいました。



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化学探偵Mr.キュリー6 [日本の作家 喜多喜久]


化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)

化学探偵Mr.キュリー6 (中公文庫)

  • 作者: 喜多 喜久
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2017/06/22
  • メディア: 文庫

<カバー裏あらすじ>
四宮大学にアメリカから留学生が来ることになった。彼女は十六歳で大学に入った化学の天才エリー。沖野の研究室で天然素材「トーリタキセルA」の全合成に挑むことになるが、天才コンビ沖野&エリーにしても最終段階で合成に失敗してしまう。原因を調べていくと、大学内でのきな臭い事情が絡んでいることが見えてきて? シリーズ初の長編登場。


シリーズ第6弾です。
このシリーズの感想は「化学探偵Mr.キュリー4」 (中公文庫)(感想ページはこちら)以来です。
「化学探偵Mr.キュリー5」 (中公文庫)はイギリス赴任前に日本で読んでいたのですが感想は書けずじまいです。
この「化学探偵Mr.キュリー6」 (中公文庫)は日本に間違えて置いて来てしまったので読むのは当分先だなと思っていたのですが、日本に一時帰国した際にピックアップして読みました。よかった。(12月のはじめから一時帰国しておりました)

このシリーズずっと短編集だったのですが、この第6作は長編です。

アメリカからの留学生エリーをめぐるエピソードではあるのですが、その彼女についてアメリカの研究室の教授キャンベルと沖野が交わす会話があります。
『なあ、ハルコヒ。君は「gifted」という概念を知ってるかい?』
 ギフテッドーー沖野は日本語の発音で呟いた。
『平たく言えば、天才のことだろう』
『そう。天から特別な資質を与えられた者……。俺は、エリーがそうなんじゃないかと感じている』(62ページ)
出ました、Gifted!! タイ・ドラマを思い出して、ちょっとニヤリとしてしまいました。

エリーは、アメリカに学会で来ていた二見雄介と出会い、感銘を受けて、化学を志し、16歳で飛び級で大学に入って、さらには日本へ半年間の留学へ。
留学先は、沖野(Mr. キュリー)、舞衣のいる四宮大学。
エリーは、二見がやっているトーリタキセルAの全合成を研究テーマに選ぶ。
エリーは天才という設定になっていて、トーリタキセルAの全合成について”違和感”を抱きつつ研究を進めます。
世話係となった舞衣は、四宮大学にいるという二見を探るが、二見は大学院を中退して四宮大学を去っていた。二見はトーリタキセルAの全合成に失敗していたという。

引用したカバー裏のあらすじはちょっと書きすぎ感がありますが......ま、いいか。

全合成といったら、喜多喜久のデビュー作「ラブ・ケミストリー」 (宝島社文庫 )(感想ページはこちら)ですね!
おかげで(?) 、この「化学探偵Mr.キュリー6」にも難なくついていけます。いや、喜多喜久の説明は平明でわかりやすいので、「ラブ・ケミストリー」 を読まずに「化学探偵Mr.キュリー6」を読んでもまったく問題ないでしょう。
なにがすごいといって、この全合成(とその失敗)がお話のメインなのに、完全素人でもある程度の予想がつくように書かれているのです!! すごいですよね。

そしてまた、中退してしまった二見についても
『会って話をするだけでは、二見にやる気を取り戻させるのは難しい。情熱を呼び起こす「何か」が必要だ。』(211ページ)
とあるように、やる気を取り戻させることがテーマになっていくのですが、こちらもきちんと解決の道筋をつけて決着します。
この2つは、全合成の研究にまつわることなので、関係していて当然との声もあろうかと思いますが、沖野自身の問題(それが何かはここでは明かさないことにします)とも絡んでいて、立体的に読者に提示されるのが素晴らしいですね。

シリーズはこのあとも順調に続いているようなので、しっかり追いかけていきたいです。


<蛇足1>
「化学的な視点からの考察が必要なトラブルが発生するたび、舞衣は化学の専門家である沖野に助言を求め、彼と共に事態の収拾に当たってきた。」(28ページ)
いや、化学的な視点からの考察が必要なトラブルって、それほどなかったような気がしますけどね(笑)。

<蛇足2>
「自分こそが正しいと信じ、周囲を力で屈服させていくーーそうやって研究の世界を生きてきたんだろう」(191ページ)
ああ、こういう人いるなぁ、と思いながら読んでいました。うちの会社にもいます......
こういう人の共通点でもう一つ、自分より強いものには決して逆らわない、というのも挙げておきたいですね。

<蛇足3>
喜怒哀楽がはっきりしているのに、なぜか心がこもっていないように感じられるのだ。演技中のミュージカル俳優と話をしているような違和感とでもいうのだろうか。真意が全く読み取れない。(290ページ)
ここを読んで、ああ、そうか、と思いました。
ミュージカルを見るときに感じる違和感って、これだったんだな、と。
ミュージカルの俳優さんたちって、大げさな感情表現をするので空々しくなることがままありますよね......


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ナイン・テイラーズ [海外の作家 さ行]

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

ナイン・テイラーズ (創元推理文庫)

  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1998/02/25
  • メディア: 文庫

<カバー裏表紙あらすじ>
年の瀬、ピーター卿は沼沢地方の雪深い小村に迷い込んだ。蔓延する流感に転座鳴鐘の人員を欠いた村の急場を救うため、久々に鐘綱を握った一夜。豊かな時間を胸に出立する折には、再訪することなど考えてもいなかった。だが春がめぐる頃、教区教会の墓地に見知らぬ死骸が埋葬されていたことを告げる便りが舞い込む……。堅牢無比な物語に探偵小説の醍醐味が横溢する、不朽の名編!


今月(2020年12月)に最初に読んだ本です。
セイヤーズの作品としては、前作「殺人は広告する」 (創元推理文庫)感想を書いたのが2017年9月なので3年ちょっと経ちます。
ようやく読みました伝説の作品! という感慨でいっぱいです。
というのもこの作品、重厚だ、文学的だ、退屈だ、ときわめてとっつきにくそうな評判だったからです。
奥付を見ると1999年1月(初版は1998年2月)。セイヤーズの作品をゆっくりと刊行順に読んできたから、というのもありますが、実にのんびり積読にしていたものです。怖かったし(笑)。

確かに、重厚で読むのにも時間がかかりましたが、退屈はしませんでしたし、読みにくいとも思いませんでした。=訳者である浅羽莢子さんのお力によるところが大なのだとは思います。
もっとも、463ページに及ぶ大部な作品で、ゆったり進むことにはご留意、ではありますが。

たまたま居合わせたウィムジイ卿が、鐘を撞く次第となる、というだけで90ページ近く費やされますから。巻の一となっている第一部がまるごとこれです。
この部分、鳴鍾術に関する蘊蓄がたっぷりつめこまれていまして、一応謎ときに資するような形にはなっていますが、まあ正直どうでもいい蘊蓄(失礼)なので蘊蓄部分は飛ばし読みしても一向に差し支えありません。

そう、タイトルのナイン・テイラーズというのは、Tailors であっても仕立て屋さんではなく、
九告鐘=死者を送る鐘。男用は九回、女用は六回鳴らされる。一説によれば、テイラーは告げるものの訛ったもの
と37ページに書かれています。
鐘のお話です。

第二部にあたる巻の二で死体が発見され、ウィムジイ卿が村を再訪することになるのですが、ここからの展開が意外と(失礼)おもしろいんです。
墓に忍ばされていた正体不明の死体。
村で以前発生した宝石(エメラルド)盗難事件がどう絡むのか、どう絡まないのか。

今の感覚からすると極めておっとり、ゆったりと進む捜査のテンポが不思議と趣き深い。
もともとウィムジー卿って、神のごとき名探偵、という感じでもないし、行き当たりばったりのような捜査がこの作品のテンポにはピッタリです。
田舎の警察と、行き当たりばったりの貴族探偵。なかなかいい組み合わせではないですか。

そしてこの作品は、トリック(殺害方法)が高名で、そのトリックを読む前から知ってしまっていまして残念ながら驚きが減ってしまったーーというか驚きはなかったのですが、確かにとても印象深いです。
ロープで縛られていたと思しき死体なのですが、
「致命傷、毒物、絞殺、疾病ーーいずれも痕跡すら認められていません。心臓も健康、腸も餓死したのではないことを示していますーーそれどころか栄養状態は良好で、死の数時間前には食事をしていました」(254ページ)
という状況で、どうやって被害者を死に至らしめたのか?
この解決が示されるのは、本当に最後の最後、最終章、しかも最終頁近くになってから、なんですよね(その直前の章で暗示されていますが)。さらっと明かされる。
かなり鮮やかです。
トリックを知らずに読んでいたら、強烈な印象を残したんではないでしょうか。

そしてその殺害方法に思いをはせるとき、蘊蓄たっぷりで飛ばし読みしていた(飛ばし読みしたのはぼくだけかもしれませんが)第一部のイメージががらっと変わる。
(鐘にまつわる蘊蓄が山ほど盛り込まれているものの)ウィムジイ卿のお気楽な性格を物語るエピソードだな、とぼんやり思っていた部分が、違う色彩を放つ。
いいではないですか、こういうの。

とここでふと思ったのですが、この作品、確かに分厚いし、蘊蓄盛だくさんだし、ゆったり進むし、重厚といいたくなる気持ちはよくわかるものの、そういう読み方をする作品ではないのでは?
ウィムジイ卿のおちゃらけた性格もそうですし、インパクトあるトリックもある意味バカミスと呼べてしまえそうなものだし。
真面目な顔して読むのではなく、「なんだこりゃ、バカみたいだなぁ、アハハ」という感じで読むべき作品なのかも、なんて。

違うかな?
この作品の最後の洪水シーンの取り扱いなどからすると、ぼくの単なる勘違い、勝手すぎる解釈である可能性も大なのですが......

このあと、シリーズは
「学寮祭の夜」 (創元推理文庫)
「忙しい蜜月旅行」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
の2冊になりました。
これからも、ゆーっくり読んでいきます。

まったくの余談になりますが、このシリーズでは、パンターがウィムジイ卿に呼びかける二人称が「御前」なのですが、実はずっと、これなんと読むのだろう、と思っていました。
ごぜん? おんまえ? おまえ、はさすがにないでしょうけれど。
静御前とかいますので、ごぜん、だろうなとは思っていたのですが。
この作品で、パンター以外の登場人物が
「御前さま」
と呼びかけています。(302ページなど)
いままでの作品でも出てきていたのを見逃していたのかもしれませんが、さま、と後に続くのでこれはやはり「ごぜん」でしょうね。
<2023.8.25追記>
麻耶雄嵩の「貴族探偵対女探偵」 (集英社文庫)に、御前に”ごぜん”とルビが振ってありました!


<蛇足1>
「教会を逆時計回りに一周するのは不吉だと知っていたので」(59ページ)
知りませんでした。
今後気をつけるようにします。

<蛇足2>
「よりによって日曜に、梯子を教会に持ち込むわけにはいかんからな。この辺りは今も、第四の戒律(『出エジプト記二〇章。安息日を守ることに関するもの』)に敏感でしてな。」(339ページ)
梯子、日曜はダメなんですね。
ただ、梯子が特にだめだからなのか、仕事に近いことをすることが一般的に安息日にはだめだからなのか、信心深くないのでわかりません......

<蛇足3>
「法は妻が夫に不利な証言をすることを認めていない」(384ページ)
妻が夫に有利な証言をしても疑わしいと思われますし、不利な証言をすることを強要されないということも知ってしましたが、そもそも不利な証言をしてはいけないという制度だったのですね......



原題:The Nine Tailors
作者:Dorothy L. Sayers
刊行:1934年
訳者:浅羽莢子






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